36.検証の度に死ぬ
全員が半裸になったら道中おぼつかないという事で、カエデとクロちゃんは完全武装で私と市松の半裸コンビを守る。
武器が無いので完全にお荷物。
私は知らなかったけれど、冒険者ギルドには『倉庫』の機能があって有料でアイテムを預ける事が出来る。一つ、千円。高い。
市松の防具はそこに預けてある。
「あのさ、剣二人であのスライムに勝てるの?」
「ボスクラスのリポップは一日一回。
今日はもう出ない筈よ」
「ふーん。
じゃ明日は?」
「心配ご無用。
あの遺跡の正しい出入り口を見つけたわ」
「正しい出入り口?」
「そう。
でも、まずい事に街に近い。
それは、誰かに見つかる可能性が高いという事。
だから、帰りだけ使う事にしたの」
「へー。
あ、ストップ。
採掘ポイント」
掘らねば。
「ちょっと!
そんな事してる時間はないよの」
「クロ!
出た! 銀色だ! ちょっと狩ってくる!」
「え? は? ちょ、そっちは……んん、もう!
何なのよ!
銀色って何よ!?」
制止を聞かず、シロを引き連れ洞窟の中へと勝手に消えていったカエデ。
「まあまあ。
お茶飲む?」
「あ、わたくし淹れますわ」
「よろ!」
メニューを操作し、料理キットとレジャーシートを出す。
そして、私は壁に向かう。
あ、あっちにもある。
「もう! 時間は限られてるのに!」
「まあまあ。
お茶をどうぞ」
「……ありがとう」
市松が立ち上がってクロちゃんにティーカップを差し出す。
それを受け取ろうと手を伸ばした時だった。
「きゃ!」
「はあ?」
<レベルアップしました>
<レベルアップしました>
<レベルアップしました>
二人の悲鳴とインフォが重なる。
カエデが仕留めたな。
「あ、ごめんなさい」
「いえ、わたくしこそ」
どうやらカップを受け取り損ね落としてしまったようだ。
「今のは、何だったのです?」
「連続でレベルアップの通知があったけれど」
「んー、スライムメリクリウスって経験値いっぱいくれる奴をカエデが倒したんだよ」
「そんなのが……道理で」
因みに今ので私がレベル12。シロが11。
クロちゃんが13。抜かれた。
市松が10。抜かれそう。
カエデが18。
私だけレベルの上がりが遅いのはきっとシロと経験値を分け合ってるからだね。
「スライム素材だけでなく、経験値まで……。
ここは他に知られたくないわね」
「クロちゃん。
間違ってる」
「何よ。狩場の独占は確かに推奨される事ではないけれど、積極的に公言する必要も無いわ」
「違う違う」
私は今しがた掘り出した白く輝く鉱石をクロちゃんに見せる。
鑑定済み。
「【魔晶石】。売値50,000」
私の言葉にクロちゃんと市松が目を丸くする。
「つまり、ここは一度で三度美味しい。
誰かに教えるなんて、ないよね?」
しかも、これで銃が直せるはず。
ま、後回しだけど。
◆
「本当だ。
ボスは居ない。
穴もそのまま」
「便利で良いな」
「そうとばかりは言ってられないわ。
ここに他人が来たら下の遺跡がバレバレだもの」
「何かで蓋する?」
「ゴザでも敷くか?」
「で、上から砂かけてカモフラージュして」
「それ、普通に落とし穴よね?」
そうかも。
「ま、あんまり神経質になりすぎてもしょうがないし。
隠そうとすると逆に怪しくなるじゃん?」
過ぎたるは及ばざるが如し。
妙案も無いので放っておこう。
「さ、行って行って」
騎士と侍が、はいはいとばかりに穴へ飛び込んで行く。
明日はクロちゃんを穴掘り係に任命しようかな。
それとも市松?
◆
「では、参ります」
小部屋で市松が先に台座に触れる。
「……駄目だね」
市松は転移しない。
「アクセサリー、一つでも駄目みたいですわね」
彼女は手首にはめて居た細いブレスレットを外し、握りつぶす。
なるほど。
それを試してたのか。
「では、参ります」
再び台座に触れる市松。
その瞬間、景色が切り替わった。
「退避!」
「えっ!?」
警告の声と共に私は動く。
敵は、状況を理解出来ず硬直した市松を標的にしたようだ。
振り下ろされる斧の一撃で粒子と化す市松。
代わりに私は束の間の命を得る。
走りながら周囲を観察。
武器、もしくは武器として使えそうなものは……無い。
しっかりと観察する余裕が今までなかったけれど、ここは何一つ無い荒野だ。
武器もなしに一体どうやって戦う?
少しでも情報を。
だが、逃げる私を背後から衝撃が襲う。
腰からお腹へと抜けていった違和感。
前方へ飛び去っていく斧を見た直後、景色が切り替わった。
「おかえりなさいませ」
「ただいま」
「なかなかに衝撃的な映像でしたわ」
「ん?」
「ヨシノさん、真っ二つになっておりましたわ」
そう言いながら、右手で腰の辺りを真横に切るような仕草。
「見てたの?」
「ええ。何も出来ずですが、全滅するまで転送されない様ですわ」
へー。
「しかし、これは思った以上に困難ですわね。
武器を持たず、あれに勝てるのでしょうか?」
「勝てると思うんだよね」
でなければ、あそこへ飛ばされる意味もないし。
「魔法かな?」
「魔法も、装備の補助がないと威力が出ないのです。
アクセサリー装備すら無理なので、余程レベルが高くないと難しいのではないでしょうか」
「ふむ」
「そう言えば、銃。
十五万ほどでしたよね?
明日、お支払いしますので」
「ん、あ、良いよ。
別に。
さっき手に入れた鉱石で直せるし」
「そう言うわけにはまいりません」
「良いの良いの。
それより何か食べに行こう」
二人が戻るまで大体一時間程。
私たちのデスペナもそれくらい。
のんびり待つ他ないのだ。




