29.仲間割れ
眼下に居るのは四人のプレイヤー。
斧を背負ったスキンヘッドで大柄の男性。ゴツい。
剣を腰に刺した短髪の男性。チャラそう。
ゆったりとした服を着たメガネをかけた女性。年上かな。
そして、黒髪白銀鎧の女性。知り合い疑惑のある人。
「だから! タンクなんだからタンクらしくしろって言ってんだよ!
半端な攻撃力なんていらねえつーの!」
と、怒鳴り声を上げる短髪男子。
その怒りの矛先は黒髪女子の様。
「複数のロールこなすのはゲームデザイン的に必須。
どうしてそれを理解しようとしないのかしら?」
対する女性は淡々とした口調で反論する。
「俺は別にそのスタンスを否定するつもりはない。
だがな、大規模レイドが前提の時点で複数ロールが不利なのはわかるだろ?」
スキンヘッドの男性が、落ち着いた声で諭す様に言う。
「その前提から間違ってるという話です。
大規模レイドなんてナンセンス。
少数での攻略が唯一正しい道よ」
再び黒髪女子の反論。
どうやら男性二人と黒髪女子の対立という構図の様。
もうひとりの女性は、少し距離をおいて間に立ちどちらにも付かずという感じ。
「それが無理なのは既に試しただろうが。
そうこうしているうちに、いつの間にか情報が広がっている。
それもよくわかっただろ?」
「それは、情報を漏らした何者かが存在しているからよ」
「そんな奴、いるわけねぇだろ!?」
「あら? 居るわよねえ?」
「はぁ!?」
始めて口を挟んだ眼鏡の人。
うーん。
どうやら、さっきの懸賞金討伐の話?
スキンヘッドの人が他に情報を流し、短髪の人だけはそれを知らなかった。
そう言う感じかな。
「そうだな。俺が流した。意図してな」
「お、おい! ちょっと待てよ! どう言う事だよ!?」
「結果、大規模レイドを結成し懸賞金を得ることが出来た。偉業だ」
「結果、報酬は雀の涙」
「お、おい! ふざけんなよ! こっちは仕事辞めてコレに掛けてんだぞ!?」
話の流れが変わった?
今度はスキンヘッドの人へ矛先が向いたか?
「将来に向けた布石だよ。
どの道、早晩露見してた情報だ。
今回中心的役割をした俺達は、今後ゲーム内でイニシアチブを取る事が出来る!
そうだろ? リーダー!」
スキンヘッドの人が短髪の人の肩を叩きながら笑い声を上げる。
あの短髪男子がリーダーなんだ。意外。
「そ、そうだよな!
投資だよ! 投資!!」
嬉しそうに同意する短髪リーダー。
だが、次の一言でその笑顔が凍りつく。
「くだらない」
それを言ったのは黒髪女子。
はっきり言うなぁ。
ここからだと位置的に後頭部しか見えないけど、きっと冷めた目をしてるんだろうな。
「なん……だと?」
「くだらないって言ったのよ。
聞こえなかったかしら?」
「何がくだらねぇっていうんだよ!?」
「主導権とか、そもそも他に対して優位性を持とうとすることが。
これは、如何に他人を出し抜き最大の利益を得るか。
そう云うゲーム」
「それは、もちろん俺達も含まれる、と」
「……必要であれば」
「なら、話は終わりだな。
パーティは解消。
こっちは人生賭けてんだ。
お前みたいなのに足を引っ張られたくねー」
「……くだらない」
「ああん!?」
「貴方が人生を掛けてるとか、仕事を辞めたとか、そんな情報、何の意味も無いって言ったのよ!」
「てんめぇ!!」
少し声を荒げた黒髪の人。
対して、絶叫し腰の剣へ手をかけ抜こうとする短髪リーダー。
「フリーズ!!」
そんな四人の争いに割って入る一人の声。
その声の主へと一斉に四人の視線が集まる。
……私だ!
私の手の銃の銃口は短髪リーダーへ向けられている。
「盗み聞きとは、いい趣味じゃない?」
眼鏡さんの手に短銃。
銃口が向く先はもちろん私。
「そっちが後からやって来て井戸端会議を始めたんだけど?」
「それは何のつもりかしら?
強盗?」
「友人を助ける為」
「あらー。
そう言う事?」
意味深な視線を黒髪の方へ送る眼鏡。
「私は何も知らない」
「とりあえず、降りてらっしゃいよ。
落ち着いて話も出来ないでしょう?」
「そちらのリーダーさんが、その剣を納めたらね」
「仕舞え。
余計な揉め事は御免だ」
スキンヘッドに言われ半ばまで鞘から抜いた剣を仕舞うリーダー。
カエデの居合なら私が止める間もなく斬り殺されてたな。黒髪さん。
そんな風に思いながら、私は枝の上から身を躍らせる。




