30.痴女、大地に立つ
「は?」
樹上から舞い降りた天使を見て目が点になるリーダー。
「は……ハハッハハハハッハハハハアッ」
そして、森の中へ木霊する馬鹿笑い。
横目に振り返った黒髪の人の冷めた視線。
スキンヘッドと眼鏡の奇異の視線。
全部が痛い。
「ハッハッハアー……あー、腹痛ェ。
痴女じゃねーか!」
「痴女じゃない!」
セクハラだろ?
今の。通報すんぞ?
「何だよ、この頭のおかしいネカマは。
愉快なお友達をもってんだなぁ?」
「……知らない」
ん?
今、私をネカマと言ったか?
「なるほどなぁ。
コレが、テメエのやり方か。
こうやって、出し抜こうってわけだ。
おかしなお友達を使って」
下から見上げる様な姿勢で、ご丁寧に頭の横で指をくるくると回すジェスチャーまでつけて煽るリーダー。
私の所為で、なんかごめん。黒髪さん。
「まあ、何にせよ結論は変わらない。これ以上、お前とは組めない」
「そうね」
ウザい短髪を無視して静かに会話のやり取りをするスキンヘッドと黒髪さん。
というか、間にあんなのがいてよく真顔でそのやり取りできるね?
「ついでに私も抜けるわね」
と、眼鏡の人。
「そうか。
理由だけ聞いておこうか」
「んー。
ちょっと、派手に動きすぎよね。
イニシアチブを握るってのは悪くないと思うけど、物資の買い占めは悪手だったと思うわ。
余計な敵を作りすぎ」
「もともとそれを発案したのはお前じゃなかったか?」
「そうだったかしら?」
ニヤリと笑う眼鏡と、それすら折り込み済だった様なスキンヘッド。
「お、おい」
三対一だと思っていた状況が不意に五分五分となり、途端に不安になったのか、リーダーが露骨に不満を顔に出しながらオラオラの動きを止める。
「心配すんな。
多かれ少なかれこう言う事はある。
折り込みだ」
「だよな!」
その一言で安心したのか、途端に踏ん反り返るリーダー。
アイツ、嫌いだわぁ。
「まあ、そう言う訳だ。
互いに言いたい事もあるだろうがここは痛み分けにしておこう。
次に会うときは敵同士。そんな風にならない事を祈ってるぜ」
そう、捨て台詞を残しスキンヘッドとリーダーは去って行く。
「ちょっと待て」
私はその背中へ声をかける。
「ネカマじゃねーわ!」
これだけは言っておきたかった。
結果、今日一の見下し顔をいただいた訳で。
「クロちゃん。
私はどちらかと言えば貴女の味方だから。
困ったら相談してね」
と、眼鏡が黒髪さんに言って去っていく。
そして、残ったのは、私と黒髪さん。
「……どなたですか?」
「こっちの台詞よ!」
ですよね。
◆
行き先は同じなのである。
無言のまま、二人、私と黒髪さんは街へと戻って行く。
この人は、私の知り合いなんだよなぁ。きっと。
しかも、多分近しい所に居る。
何か、特徴的な台詞を言っていた気がするの。
うーん……。
◆
『くだらない』
紛糾していたクラスはその一言で、一瞬にして静まり返る。
事の発端は、クラスの男子一名がクラスの女子全員を格付けしていて、その事が露見してしまった事。
それによれば、私は『土下座すればヤレる』だった。
そんなに安くねーわ。死ね。
因みに映えある総合トップは西七辻さん。
カエデの評価は『最終的には三本下がってる旦那を立てる。だけど夜の主導権は握りたがる』だった。死んで。
そんなクソどうでも良い男子の勝手なタグ付けをガチ泣きで半狂乱になりながら糾弾する女子グループ。
割と収集がつかなくなりそうな雰囲気が漂い出した時に放たれた学級委員長の一言。
彼女の評価は『ザ・ツンデレ』だったな。
結局その男子は、クラスの女子全員から一言罵倒を浴び、それに反論してはいけないと言う刑に処された。
「ハゲろ」
私は全力で感情を殺した声でそいつに言ってやった。
◆
「いいんちょ?」
無言で前を歩く黒髪さん。
でも、私の一言に僅かに肩が震えた。
「風雪さん!?」
「……なんなの!?」
振り返る彼女。
その顔に、如実に戸惑いが見える。
「私、晴海。同じクラスの」
「……そう。偶然ね」
「うん。偶然だね」
再び前を向き、歩き始める彼女。
「なんで、いきなり口を挟んで来たのかしら?」
「なんでって……知ってる人がピンチだと思ったら……勝手に体が動いてた」
「……余計なお世話よ」
……すいません。
「……嘘。
助かったわ。……嬉しかった」
デレた!?
『ザ・ツンデレ』が!
デレた!!
顔、顔見せて!!
こっち、向いて!!




