21.着地はよく見るあの体勢
「無茶しすぎだ」
「いやー怖かった。
カエデも飛んでみなよ」
「アンタの顔見て絶対にやらないと心に刻んだよ」
決死の大ジャンプ。
そのおかげでスライムキングを倒すことが出来た。
代償で得た状態異常の毒が解消するまでHPを回復しつつ小休止。
毒消しは、もうない。
「でさ、これ、どう思う?」
私は足下、地面の一点を指差す。
そこは光弾が着弾し、小さなクレーターの様になった場所。
浅くえぐられたその中心点にあったのは、規則正しく並んだ煉瓦積みの様な石畳。
「ここが地に埋もれた遺跡とかなのかもね」
「カエデさ、これ、床だと思ってるでしょ?」
「違うの?」
「私は、これ、天井だと思う」
「はい?」
「正確には、屋根かな。
この下を通路が走ってる。
その先には、きっとお宝が!」
「何言ってんの?」
「可能性の話。はい」
私はピッケルを取り出しカエデに渡す。
「え?」
察しの悪い幼馴染。
「はい」
「いや、どういう事?」
「掘って」
「何でアタシが?」
「力仕事はカエデの領分。
それに私、病人だし」
「……あとでお茶入れてよ」
「もっちろん!」
カエデが一心不乱にピッケルを地面に打ち付ける音が響く。
「何が悲しくて、こんな肉体労働を?」
「おや? それはさっきまで依頼で鉱石採掘をしていた私に対する当てつけかな?」
「ヨシノのは依頼じゃん」
肉体労働である事に違いはないではないか。
文句を言いながらも手は止めないカエデ。
そろそろお茶でも入れて帰り仕度を始めようかと考え出した時だった。
「ヨシノ!」
「ん?」
カエデが手を止め地面を覗き込んでいる。
「何かあった?」
「何もない。 何もないんだよ!」
「は?」
興奮気味に叫ぶカエデ。
何言ってんだろう。
単純労働で壊れた?
だとしたら、その責任の一端は私にある。
ごめん。幼馴染よ。
このゲームで稼いだら私が君を養ってあげるよ。
「どうしたのさ?」
「本当だったよ! さっすが!」
四つん這いになった彼女の顔の下、煉瓦一個分すっぽりと穴が開いている。
……マジで!?
下に何かあるとか冗談半分だったんだけど。
「何があるの?」
私は広げかけた料理キットを仕舞い、その
穴を覗き込むカエデの元へと走る。
「下に真っ暗な空間が広がってる!」
それで何もないと言ったのか。
「私にも見せて!」
そう言ってカエデの隣にしゃがんだ瞬間。
「ん!?」
「え゛っ!!」
突然、床が抜けた。
◆
落下。
本日二度目の落下。
まあ、一度目は自分で飛び降りスライムの抱擁で受け止められた訳で。
では二回目は?
なんと、カエデが受け止めてくれた。
「いてててて」
いきなり床が抜け、カエデ諸共落下した。
満足に受け身を取る事すら出来なかったけれど……。
カエデは無事かな。
埃混じり土煙が舞う中、辺りを見回すがその姿はなく。どこ行った?
トントンと、太ももを叩く手。
「ああ! ゴメン!!」
幼馴染は、私の下にいた。
立ち上がり、彼女の顔の上から目線でお尻をどかす。
我ながら、どうやったらこんな体勢で着地するのだろうと思う。
「ワザと?」
「んなわけないじゃん」
謎の力だよ。
「人工物だな」
「場所的に地下遺跡。
てことは、お墓?」
石積みの壁と床。右と左に伸びる通路。
天井は私達が落ちて来た穴がぽっかりと空いている。
「……なるほど。
流石だな」
いや、適当に言ったんだけど。
何故かカエデは感心しながら刀を抜く。
「……マジ?」
通路の先からモンスターが。
剣を振り上げたその姿、どう見ても骸骨。
「帰るつもりだったんだけどなぁ」
シロも居ないし。
余計な事しなきゃ良かった。
ボヤきながら私はその骸骨へ向け二度引き金を引く。
「……逃げよっか?」
「了解!」
私の光弾を受け倒れた骸骨を踏み潰し、乗り越え迫って来る骸骨の大群。
通路を塞ぐその数に撤退を決めた私達は揃って走り出す。
迫る骸骨の反対へと。
「道はこっちで合ってる?」
「知るわけないじゃーん!」
走りながら、後ろへ向け光弾を放つ。
あちらさんからの返事は大量の矢。
「ひー」
「前からも来たぞ!」
「くそう!」
でも、後ろよりはまだ少ない。
「当たれ!」
走りながら放った光弾が一体の頭蓋骨を吹き飛ばす。
カエデが行く手を遮る骸骨を刀で斬り捨て道を開く。
「矢が、うざい!」
後ろから飛び来る無数の矢。
それが体に刺さり、HPを削って行く。
私も、前を走るカエデにも。
ていうか、後頭部に矢が突き刺さっている姿がギャグでしかない。
「交代。
前、行って」
「カエデは?」
「少し足止め」
道が拓け、前の敵が居なくなったタイミングでカエデが足を止める。
「無理しないでよ」
「大丈夫!」
私はその横をすり抜け走る。
通路の先には扉が一つ。
それがゆっくりと開いて行く。
残り百メートル程。
だけれど、私を行く手を遮る様に床に黒いシミが広がって行く。
そこからせり上がり、形を成して行く骸骨二つ。
「邪魔ぁ!」
一体を光弾で貫く。
それで弾切れ。
手早く銃をバトントワリングよろしく片手で半回転。
銃身を持ち、腰までせり上がった骸骨の頭蓋骨へ銃床を打ち付ける。全力で。
バキっと言う異音が手元で聞こえた。スコーンと心地よく飛んで行く頭蓋骨。
折れ曲がった銃身に嫌な予感がしたが、足を止めず通路の先の扉を潜り抜けた。
 




