18.実物は知らない
これか……。
まあ、たしかに腰ほどの高さから上向きに伸びた枝がある。
それを指差しながらカエデの方を見る。
「処す?」
「え、ヤダよ。刀が汚れる」
いっそ切り落としえしまえば良いのに。
そう思ったけれど、カエデに拒否られた。
街から数えて175本目の木。
ちゃんと覚えたのでもうこの目印が無くても来れる。
「まあいいや。で、この反対を入って行けば良いのか。
シロ、わかる?」
「ワン?」
わからないか。
じゃ、この前は本当に匂いを辿っていたのかな?
カエデを先頭に草むらの中へ。
刀を振り回し、道を切り開いていくカエデ。
「新しい刀、使わないの?」
「試し斬りは実戦で!」
と、嬉しそうに答える彼女。
なんだろう。
あんな刀マニアだったかな。そこそこ長い付き合いだけど知らなかった。
ひょっとして私は与えてはいけないおもちゃを買い与えてしまったのではないか?
見慣れぬ幼馴染の背に一抹の不安がよぎる。
ま、良いか。
「あった!」
「良し。行こう」
私達は再び洞窟へと踏み込んでいく。
「松明無くて平気?」
「平気平気!」
と、得物を買ったばかりのコテツに持ち替えたカエデが嬉しそうに言う。
「暗視と気配察知でシロと同条件。
いや、このコテツが異形の匂いを嗅ぎ分けてくれる」
ヤバイ。
確実に変な方向に行ってる。
あの刀、妖刀とかじゃないよね?
若干瞳孔が開き気味の幼馴染にドン引きしつつ、セクハラ鍛冶屋から借りた【職人用ピッケル】を握りしめる。
すると、洞窟に壁面や天井に今まで無かった変化が。
「……なんか、光ってる気がする」
あれが採掘ポイントか。
「じゃアタシとシロは周囲を警戒してるから」
「うん。任せた」
「任された!」
「ワン!」
洞窟の壁で淡い光を放つ一箇所。
私は手にしたピッケルの先をそのポイントへと打ち付けた。
甲高い金属音と共に岩肌が削れ落ちる。
その奥から見える光は一層強く。
二度三度とピッケルを打ち付けると、ポロリと岩肌から小さな塊が数個こぼれ落ち、光が消滅。
「……取れた!」
成果は?
【小さな鉱石】 × 2
鑑定してみる。
【鉄鉱石】 × 2
うん。安そう。
数歩移動し、もう一つの採掘ポイントを叩く。
【小さな鉱石】が一つ。
鑑定は後にしよう。
移動しようと振り返る。
下からすくい上げた刀でスライムを両断し、下方に向かって刀を払る、所謂 『血振り』の仕草をした後にゆっくりと鞘へとしまっていくカエデ。
ノリノリだ。
「どんどん行くよ!」
「おう!」
彼女に声をかけ、次の採掘ポイントを探す。
◆
一時間で取れた鉱石、二十個ほど。
飽きてきたのでカエデと交代してもらおうと思ったけれど、彼女は彼女で新しい刀に夢中。
シロがここ掘れワンワン的にすんごい穴場とか見つけてくれないかな。
尻尾を下げ懸命に警戒中のワンコにそんな期待を抱く。
無理か。
これ時間かかるなぁ。
もっと、効率よくやらないと……。
そうか。
「速度向上」
ピッケルを渡しつつ、補助魔法を掛ける。
「切れたらまた掛けるから」
「あざー。ちなみに何個掘った?」
「百ちょい」
「じゃ、アタシが二百で交代かな。
あ、銀色の奴でたら教えて」
「りょ」
銀色の奴と言うのはやたらと素早いスライム。
一昨日、あっさりと逃げられたのだ。
「コウモリも居るから気をつけて」
「りょ」
鉱石掘りに夢中で気付かなかったな。
私は銃を手にシロの側に立つ。
コウモリか。
「ワン!」
シロが小さく吠える。
天井から飛んでくる小さな物体。
まさに、そのコウモリ。
狙いをつけ……早い!
「速度向上」
魔法をかけつつ、飛び回るコウモリの動きを観察。
狙いをつけ、引き金を引く。
二度。ダブルタップと言うらしい。
これで、当たったときのダメージも命中率も向上が見込める。
六発のうち二発を消費してしまうのは痛いけれど。
コウモリは、光弾に弾かれ地に落ちる前に粒子になり消えていった。
◆
「……カエデ。出たよ」
約束通り、銀色のスライム、スライムメルクリウスの出現をカエデに伝える。
「……ここで会ったが百年目」
ピッケルを私へ渡しながらそんなセリフを口にする幼馴染。
「速度向上」
頑張れの意味を込め、彼女にバフをかけつつ位置を入れ替わる。
「待て!」
素早く逃げ出したそいつを追いかけカエデも走り出す。
逃げられるだろうなと思いながら、私は壁を叩く。
そろそろ折返しの折返しか。……長いなぁ……。
<レベルアップしました>
<レベルアップしました>
<レベルアップしました>
<レベルアップしました>
<レベルアップしました>
「何事!?」
突然、連続してレベルアップの通知が。
「獲ったどー!!」
直後、カエデの歓喜の叫びが洞窟内へ木霊する。
そして、暗がりの中から嬉しそうなカエデが走って戻って来た。
「やっつけた!
さすがはコテツ!」
「イエーイ!」
満面の笑みの幼馴染をハイタッチで迎える。
「超レベル上がったんだけど!」
仮想ウインドウを開き、改めて確認する。
「レベル8。シロは7」
「アタシは一気に11!」
「なに!?」
やっぱシロと二人分だからその分私の方が多く経験値必要なのか。
「スキルも上がってる」
召喚術と銃技に視力強化、魔力強化と識別がレベル2になっている。
シロも噛み付き、体当たり、気配察知がそれぞれ2に。更に新しく自己治癒なるスキルが増えている。自分のHPを回復できるのか。
「……採掘ポイントが増えた」
仮想ウインドウを閉じ、その変化に気づく。
さっきまでは何も無かった所に採掘ポイントが出来ている。
「そうなの?」
「うん。
こことか」
と、私はそのポイントを指差しながらカエデにピッケルを渡す。
「……ごめん。わかんない」
「あ、そう?
視力強化のせいか」
「じゃ、ヨシノが掘った方が効率的なわけだ」
はっ!
しまった!
墓穴を掘った!!
しかし、いずれにせよ早く終わらせたい。
「経験値稼ぎはアタシがやるから!」
て言ってもほとんどシロと遊んでるだけじゃん。




