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「五点着地!!」

 ~~~綾女あやめ~~~




 スカイサーフィンの際パラシュートが開かず、しかし着地して生存した、という記録がある。

 私はそれにならおうと思っていた。

 バカげた話ではあるけれど、実際問題それしかなかったから。


 姿勢制御で速度を落とし、柔軟な斜面を選んで降下する。

 着地法で落下ダメージを分散し、生還する。 


 そう覚悟を固めている時だった。


「そうだその調子! こっちにきっちり、落ちてこおおおおおおおーい!」


 信じられないものを見た。

 信じられない言葉を聞いた。


 あの坊ちゃまが、猛スピードで落下する私を追いかけて来た。

 あの坊ちゃまが、これ以上ないタイミングで飛翔して来た。


 阿修羅6000のマスターシステムとリンクした人工知能のサポート有りとは言え、以前の坊ちゃまからは考えられない行動力だ。


 異世界に来たことが良かったのだろうか?

 他人の援護を得られない状況が背中を押したのだろうか?

 可愛い子には旅をさせよと?


 ともあれ──

 ともかく──


はい(ダー)! 坊ちゃま! スラスターとパラシュートのタイミング! 誤らないでくださいよ!?」


 どれだけの声量であれ、こんな状況で出した人の声が向こうに聞こえるわけもない。

 だがこの状況を作り出した人工知能になら出来るはずだ。

 こちらの唇の動きを呼んで解析するぐらいのことはやってのけるはずだ。

 そう信じて、口を大きく動かした。


「今から十秒後ですよ!? いいですか!? 一、二、三……!」


 カウントダウンを始める私に、坊ちゃまは拡声器越しに「わかった! 三、四、五……!」と唱和してきた。

 

『六、七、八……!』

 

 八で私はレディ・ハーケンを足下から外し、背に負った鞘に納めた。

 九で阿修羅6000は両手両足を広げた。


 十は無かった。

 代わりに猛烈な勢いで、阿修羅6000のバックパックが開いた。

 納められていたパラシュートが展張てんちょうし、私の全身を打った。


 張り詰めたリップストップ生地に顔を打たれ、一瞬気が遠くなりかけたが我慢した。

 両手両足を突っ張り、全力でしがみ付いた。


 この高度でパラシュートが開いたところで、満足な浮揚力は期待できない。

 だが減速を目的としてのものなら効果は抜群だ。


 はたして、機体はみるみるうちに速度を落としていく。


「やったか!?」

「まだです! スラスターを全力で!」


 この距離なら声も聞こえるだろうか、私は気を抜きかけた坊ちゃまを叱咤しったした。


「ほら! 前方に木がありますよ! 右へ体を回して!」

「わ、わかった!」


 水中作業での姿勢制御用に使われるスラスターが、シューシューと激しい音を立てて噴き出した。

 そのつど阿修羅6000の機体は右へ傾いていく。

 両手足の動きやパラシュートの角度と合わせて、絶妙に機体を旋回させていく。

 巻くように降下し、地面へと迫る。


 そして── 


『…………っ』

 

 最初に感じたのは衝撃だった。

 ガツンと重い衝撃が阿修羅6000に伝わり、リップストップ生地を通して私の身体に襲い掛かってきた。


 一発目は耐えた。

 二発、三発……阿修羅6000がつんのめるように転げた最後の衝撃に耐えられず、空中に投げ出された。


「……綾女!」


 坊ちゃまの悲鳴を後ろに聞きながら、私は飛翔した。

  

 これから行うのは着地法。

 いわゆる五点着地と呼ばれる方法だ。


 軍隊の空挺部隊などの訓練項目にも入っている方法で、上手くダメージを分散出来ればビル三階ぐらいの高さからならば怪我なしで着地出来るようになる。


 今現在の高さはせいぜい七メートルといったところだろうか。

 問題は速度だ。

 阿修羅6000のおかげで速度はかなり減速した。

 だがまだ、時速にして五十キロは出ているはずだ。


 高さ七メートル。

 時速五十キロで、辺りは起伏に富んだ森の中。

 そんな過酷な条件は、おそらくどんな空挺部隊ですらも想定していまい。


「……上等です!」


 両足を揃えて力を抜き、軽く膝を曲げた状態でつま先から地面に着地した。

 着地と同時に膝を揃えて右に突き出した。

 逆方向に上半身を捻り、両手を握って後頭部に当て、肘を締めた。


 脛の外側、腿の外側、背中の順に接地した。

 最後は肩、ぐるり回転するようなイメージで接地した。

 

 言葉にすると長いが、実際には一瞬の出来事だった。

 ぐるぐると目まぐるしく景色が変わり、衝撃が体の外側を回るように抜けていった。


 そして──

 そして私は──


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