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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
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其の四五 拗れ/捻れ

<>(^・.・^)<今年最後!!!

 率直に言って、その日の【ベストパートナーコンテスト】のリハーサルの出来は酷いものだった。

 コンビネーションを競い合う大会なのに、意思の疎通が出来るか否かを通り越して顔を見ようとしない。

 奏が此方を見ているか否かは分からないが、少なくとも俺が奏を見るときは全くと言っていいほど視線が合わず、ふとした瞬間に目と目が合ってもすぐにふい、と顔を逸らされてしまう。

 そしてその度につるちゃんの言葉を思い出し、この調子で果たして自分なりの誠意を証明できるのか、と頭を悩ませるのであった。

 コンテストは、互いの情報をどれだけ知っているか、互いのジェスチャーが何を伝えようとしているのか、そして当日まで秘密、と三つの部門で競い合いその合計で最終結果を決める。

 現状互いの情報を知っているかの部門は喧嘩の原因故に即座に反応できず、ジェスチャーゲームは顔も見ようとしないのに優位に立てるわけがない。

 最後の種目が何なのかは分からないけれど、このままだと三分の二を落とす可能性が高い。

 許されないかもしれないけれど、少なくともこの二つの種目が形になる程度には、俺は全力でやりたいと表明しないと。


「………なぁ」


 リハーサルの帰り道、そのまま下校時刻になったので奏と共に綿貫邸に舞い戻る。

 共に、とは言えど俺の数歩先を奏が歩く、というものだったのだが。

 信号待ちの度に近くに寄るが、調整でもしているのかすぐに赤信号から青信号へと変わってしまい、声を掛けるタイミングを見失っていた。

 しかしそれでは今までと変わらない。


「なに」

「俺さ、正直奏にこのコンテストに誘ってもらって嬉しかった」

「なに、きゅうに」


 奏の言葉はそっけなくて、取りつく島を与えないようにしているのかもしれない。

 しかしそこを無理やりにでも突破しなければ、先には進めないしこの先奏と一緒にやっていくには無理がある。


「だから、正直コンテストは勝ちたい。他の参加者も手ごわいと思ったけど、俺と奏ならきっと」

「───それは、わかったけど。けっきょく、アレは何だったの?」

「アレ、は、その。あの時は本当にごめん、家に着いたら言うよ。ここだと話し辛い」


 《宝石団》の皆には奏に話す許可は取っているが、それ以外の者に言いふらしていいわけはない。

 こんな市街地ど真ん中で必要悪の存在や目的を話す、というのは組織への裏切りに近い。

 謝りの言葉も入れた、事情をきちんと話すと約束もした。

 俺に今出来ることは全部やった、後は奏が応えてくれるか否か。

 前を歩いていた奏がぴたりと足を止める。


「あのときは、わたしもごめんなさい。ちょっと上手く行かないことあって、いらついてて」

「そうだったのか………」


 それに気付いてあげられたなら。

 当時は俺も任務にあたっていたから腰を据えて話す、というのは難しかったのだが、今なら大丈夫だ。


「でも、どうしていまは言えないの? 言えるならいまでもいいでしょ」

「それは、奏の為、というか」

「───ふぅん。じゃあわたしがあの時なにしてたかいえないのも、トロのため」

「………そっか」


 完全に和解した、と言うわけにはいかなかったが、恐らく俺なりの誠意を伝えることはできただろう。

 此方としても今は言えない以上、奏に同じことを引き合いに出されたら食い下がるなんてことはできない。

 しかし奏の様子は寧ろ逆で、何処か気に入らない部分があるように見受けられる。


「………なんで」

「なんで、ってどういうことだ?」

「なんでそう………さぁ!」


 止まって拳を握りしめていた奏が、此方をくるりと振り返る。

 その目は怒りを表していながら、涙を浮かべていた。

 予想だにしていなかった表情に面食らう俺を差し置いて、奏は口々に言葉を紡ぎ出す。


「トロはさ、わたしのこと嫌いなの? きょうみないの?」

「いや、そんなこと」

「だったら何で()()()()()()の!? トロがそんなんだから、わたしもトロのこと聞くのこわいよ………っ!」


 俺の目を見ているのか、それとも俺を通して何かに怒っているのかは、涙で瞳が潤んでいてわからない。

 ありきたりな表現で苔が生えそうだが、心を押し止めるダムが決壊したかの如く、勢いよく言の葉が吹き寄せてくる。


「知ってる、こんなのワガママだってしってる。でも! トロ、自分のお世話になってるひとの紹介もしてくれなかった! この前なんか、明らかにかくしごとしてたのに、わたし、わたし聞けなくて………っ!」

「奏」

「───もういい。ごめんね、ひとりにさせて」


 袖で涙を拭い、鼻水をティッシュでかんで、奏はそう言い残して去っていく。

 本来家は同じ方向にあるはずなのに、もう二度と会えないような、そんな雰囲気すら漂わせる後ろ姿。

 ハンカチをポケットから掴んで差し出しかけた手は行き先を失い、不格好な布切れが嗤うように風に揺れていた。




 結局その後、奏と顔を合わせることはなく。

 自宅に戻ったときには奏は既に自室へ引っ込んでいて、俺も井川さんに手伝いを頼まれたり兜さんに捕まったりで、二人で暮らしている家に帰宅した頃には奏は一人で食事を終えていた。

 ご丁寧に洗い物までしてあるが、俺の分の料理は用意されていない。

 これは今までにはなかった傾向だ、ここ一週間ほど、口を交わすことはあまりなかったが互いに互いの分の食事は拵えた。

 故に、今の奏の状態は通常よりもかなり異なっていると考えてよい。


「………どうしたんだ」


 俺が喧嘩の原因だと思っていたモノはどうやらそうではなかったらしい。

 というのも、あの言い方だと俺が奏に隠し事をしていたことそのものより、奏に対して興味を持っていない様に見える、という主張だったからだ。

 そんなことはない、とあの場で否定したかったのだが、気迫に気圧されて口を挟む間もなく奏は歩みを再開した。


「いただきます」


 取り敢えず出来合いのもので簡単に食事を用意して、食べる。

 茶碗に箸が当たる音、自分の咀嚼音、みそ汁を啜る際のずずず、という音。

 広いリビングにそれだけが反響しているのにいたたまれなくて、見る気もないのにテレビをつけた。

 言葉を発するか否かに関係なく、共に食事をとることの贅沢さが身に染みるようだ。


「ごちそうさまでした」


 食べ終わると同時にリモコンの電源ボタンを押し込み机に投げ捨てる。

 そうして食器を流し台へと持っていき、スポンジに洗剤を染み込ませた。

 無心で擦れば擦るほど泡が立つが、やりすぎると周りへ飛び散り結局大変なことになる。

 ………人間関係も同じものだろう、知りたいと思う相手程、深く踏み込んだ後に失った時のショックはデカいもの、と相場が決まっている。

 なら、守りたいという俺のエゴを突き通すために奏を知る必要がないのか、と言われれば首を縦には振れないけれど。

 ともかく、緊急事態を除き、誰もが納得する未来を掴む力を得てからでないと、そういった傲慢は許されないと思っていた。

 掴みたいものを掴み取るだけの力がなければ、どうして理想を語れよう、どうして将来を願えよう。

 ………ここまで述懐を行えば嫌でも自ずと気付いてしまった。

 俺の陰鬱な思考の側面の生まれる原因は、此処にある。


「とはいえ、何をどうしたら」


 気が付いたら風呂に入っていて、気が付いたら口から言葉が漏れる。

 あのブラシは、先日毛が長くて手入れが大変だろうと奏がプレゼントしてくれたもの。

 それどころかこの風呂自体も、いや家も、そもそも生きる目的だって全部奏がくれたんだ。

 だから、恩を返すことはあってもソレが仇であっては絶対にならない。


「………」


 湯船に顔を付け、暫くしたら一気に持ち上げる。

 そうすると、頭に血が巡り、更に素早く頭が冷める………というのは思い込みだけど。

 天井を眺め、明日の【ベストパートナーコンテスト】のことを考えた。

 沈み始めた気分を誤魔化すようにドライヤーで髪と体毛を乾かし、寝床に就く。


「───あ、気分はどうです~?」

「………本当、寝る直前か目覚めた後に来るな」


 シラの声。

 微睡の中でいつも耳に入ってくるものだから、何故か強烈に記憶に残っている、一種の睡眠学習みたいなものか。

 正直気疲れと訓練での身体の疲れで今すぐにでも眠りの國へ誘われそうだ。


「で、今回は何だ?」

「なぁ~んかそっけなくないですぅ~? 折角シラちゃんが助けてあげようってのにぃ」

「………それを早く言ってくれ」


 この状況だ、奏との仲を戻すためには猫の手も、いや座敷童の手も借りたい。

 がば、と上半身を起こして周囲を見渡し、声の出所がどこか見定める。

 最初に聞いたように、恐らくぬいぐるみ群のあたりから響いているだろう。


「お、反応いいですね。壱ポイントあげます」

「何に使うんだ」

「癒し?」

「御託はいいから早くしてくれ、流石に眠い」


 ………眠気で頭が揺れる。


「あー、じゃ簡潔に。奏ちゃんの怒りポイントですが」

「それ、それを教えてくれ」

「その積極性を発揮しないことですよ」

「いや、それは分かってる」

「ほんとです?」


 一瞬の間を取った後、シラが再び切り出す。

 いつかのように、落ち着いた声色で。


「大切な人と離れるのは確かに怖いことかもしれません。失った後のことを考えると差し伸べかけた手を引っ込めてしまうのもよくあることでしょう」

「そう、だから俺は」

「でもそれは貴方のエゴ。目の前の相手の心から逃げていい理由にはなりません」


 心の臓を貫かれた気分がした。


「それは───」

「守りたいと思うなら、その気持ちまで包み込む甲斐性を見せることですね。あぁ、でも本当に何でもかんでも守ろうとしちゃだめですよ? 誰だって、何もできないと思われるのは嫌なものです」

「難しい注文だな」

「できるでしょう?」

「………やってやる、と言いたいところだけど。奏次第だ」


 ふふ、という微笑が耳を撫でた。


「それでこそ。今自分ならできる、と言ったら結局貴方はエゴの塊でしたよ」

「あぁ………ところでお前、何者なんだ?」

「え? かわいいかわいいシラちゃんですよ?」

「………もうそれでいいよ」


 何故俺の手助けをする、とか何故奏の気持ちを見透かしている、とか言いたいことはいっぱいあるのだが。

 シラの助言を聞き届けてから、眠りに落ちた。

<>(^・.・^)<来年もよろしくお願いいたします!!!

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