Episode of Devils ~妖怪達の話~《Toron, SPRING》
<>(^・.・^)<さて過去編(?)だよ
瞳の奥がじりじりと痛み、額のあたりがむずむずする。
全身を刺激で包まれているかのような、あるいは神経を移し替えられているかのような感覚、不思議と悪くない。
やがて開いているのか閉じているのかすら分からなかった視界に光が差し、一気に暗闇から放り出された。
「っ、う………」
「お? 起きた?」
ざわざわと人の声が鼓膜をこじ開けていく中、前の方から此方に向けた声が聞こえる。
誰だ、という疑問は湧かないが、不思議と直前まで自分が何をしていたのか思い出せない。
「時雨クン~、新学期始まってから数か月経ったからって気抜き過ぎじゃない?」
「───布留」
痛む顔と肩を持ち上げ、此方を覗き込んでいた布留の目を見つめ返す。
俺は時雨新、そして此奴は中学に入学以来一年間、なんだかんだで付き合いの長い五月雨布留。
通学路が偶々同じだった、というだけで絡んできたうえに、学校でもかなり話しかけてきたため、同性異性問わず他の友達が少なくなってしまった。
二年生になってからクラスが違えば、また少し違う結果になるかと思ったのだが………結局は同じクラスなのだった。
「あー………何か知らんうちに寝てたっぽい」
「ふ~ん………なんかあったんー? 悩み事でもあって疲れてるなら、話、聞くぜぃー?」
「取り敢えず気持ちは有難く受け取っとく」
机に腰を下ろしながら、握りこぶしから親指だけ立てて自分を指す布留。
あー………というか段々と記憶が戻ってきた、頭の中が鮮明になってきている。
「いや、原因何かって言えば昨日のお前の長電話じゃね? 何時間も通話してきやがって」
「あー、そういえばそうだったね! 昨日は『刀論』の新作発表があってさー、熱が、高ぶっちゃってね………!」
今度は片目を閉じて拳をこめかみ辺りに置き、舌を出す。
これは所謂てへぺろ、というやつだ、俺も流石に妹や布留本人から聞いている。
顔は整っている方だとは思うが、いざ目の前でやる奴がいるとちょっと、ね。
「今度はなんだったか、無双ゲームになるって?」
「そうそう! なーんだちゃんと聞いてんじゃーん! それに無理矢理切っても良かったのに電話続けてたってことはぁ、時雨クンも実は聞きたかったんじゃな~いの~?」
「うぜぇ」
心底鬱陶しい。
向こうからしたら俺は何でもない友達の一人なのかもしれないが、俺は布留以外に休日に遊びに行けるような友人がいない。
何回も切ろうか迷ったけど、そんな掛け替えのない友人を失ったら俺は今後どうやっていけばいいんだ、って保身が働いて、結局切れなかった。
でも、理由はどうあれ俺が切らなかった、という事実は変わらないので言い返すこともできない、歯がゆ。
苦い顔を浮かべる俺を見つつも、布留は自分の思いのたけを存分に語り出す。
「いやぁー、ついに我らが『刀論』が無双ゲームに進出するなんてねぇーっ! ずっと前から追いかけてきて、シナリオ中心のRPGとかノベルゲームはいっぱい触ってきたんだけど、遂に、遂にだよ!? 今までありそうでなかった無双ゲームっていうジャンルを見せてくれるんだよ! キャラの動きは今までもちょっとずつ見られたけど、やっぱりCGでぬるんぬるん動くキャラが見られるって思うともう心の臓が───」
そこまで熱を放出したところで、布留の座っている机に本来座っているべき女子がやってきた。
布留は前の席替えで俺から離れた位置に行ってしまったから、休み時間にはかなりの頻度で俺の席に来るけど、こうやって元々座ってる女子とかち合うのは初めてか。
申し訳なさそうに、胸の前で手を合わせて体ごと傾けながら問う。
「あのー、五月雨さん、ごめんね、そこ私の席なんだけど、ちょっと用事あるからどいてくれないかな?」
「あ、す、ぃませ」
突如布留は人が変わったように背筋を丸め、俺の前の席から隣の席に移動した。
声も弱弱しく、俺の前で話す時とは打って変わって消極的な雰囲気が漂っている。
「ほんとごめんね五月雨さん、隣のクラスの子が教科書貸してほしいって」
「ぁ………すか」
「………? ねぇ時雨君、私何か怒らせちゃったかな?」
「うーん、そういうわけじゃないと思うけど」
「そう?」
借りてきた猫と化した布留の様子を訝しんだ女子が俺に聞くが、俺も正直わけわからない。
変貌が激しすぎて同一人物とは思えないほどだ、顔には出ていないかもしれないが、この女子よりも俺の方が驚いてると思う。
机の中から社会の教科書を取り出して教室の扉から出ていった女子。
それにしても忘れ物をするなんて、新学期になってから数か月経ったから油断していたのだろうか。
隣の席に移動して縮こまっている布留に、そっと声をかけてみる。
「………なぁ布留」
「ぅ………もう行った?」
「あの女子ならもう出てったぞ」
ぷはぁ、と音を鳴らしながら布留が机に突っ伏した。
そこも自分の席ではないと知ってはいるだろうけど、それでも緊張が解けた様子。
未だに先程までの借りてきた猫状態の布留が違和感をもって頭に残り続ける。
片肘を付いて半身だけ布留に向き、顔を覗き込むようにして聞いてみた。
「お前、あんなんだった?」
「あ………いや、その」
しどろもどろになりながら、上体を起こして頭の後ろを掻く。
「───実は小学校からあんなんでさ。初めて会う人と喋るの、緊張しちゃうんよね」
「にしても、だろ」
「昔、さ。色々あって」
言葉に詰まった。
今まで一年近く見てきたはずの布留の新しい顔を見られた気分だ。
でも、全然嬉しくない。
だって、布留の表情から嫌な記憶が蘇ったのを察してしまったから。
親しき仲にも礼儀あり、悪いことをしたと思ったら謝るべきだ。
「………悪い」
「うぇ、あぁいや気にしないでよ! 時雨クン悪くないよ!?」
「だったらいいんだが………俺の時だと態度が違い過ぎないか?」
う、に濁点を付けたような音を喉から布留が漏らす。
先程までやや青ざめていた表情が、少しづつ、本当に少しづつ朱に染まった、ような気がした。
顔を覆う掌の指の隙間から、ゆっくりと声が届く。
「それはー………その………時雨クンの前だったら自然体でいいかなー、みたいな………ね?」
「いや、ね? じゃないが」
「いや割と本気だよ?」
此方まで何故か顔が熱くなり、バレないようにさっと顔を逸らした。
未知の顔を覗いたせいか、胸の奥がざわついて仕方ない。
それからどちらも何も喋らなくなり、昼休みの教室の喧騒だけが二人の間を満たしていく。
どれくらいの時間が経ったか分からないけど、布留の方からその間隔を乗り越えてきた。
「あ、そういえば時雨クン、今度遊び行かないかい?」
「いいけど、何処に?」
「あそこのショッピングモール!」
顔を向けると、布留が何かを指で指しているのが分かった。
視線で追った先には、見知ったショッピングモールが。
「あそこか?」
「そ! 『刀論』のコラボキャンペーンやるんだって! 多分新作ゲームのPRも兼ねてるんじゃないかなぁ?」
「あー、あそこ広めのイベントホールとかあるし、時々アニメとコラボしてるもんな」
「『刀論』はアニメ原作じゃ………まいっか、ようはそこに行きたいんよ!」
「はいはい………」
また普段通りの振り回しが始まった、と半分呆れ、半分はそれでこそ、という念を抱きながら了承した。
とそこで思う。
学生が男子と女子の二人で出かける、ってそれ、所謂………
「っ」
「え? どした? 熱でもある?」
「いや、ちょっ、そういうわけじゃ」
今までは何とも思わなかった、ただの友達としか感じていなかった。
それが急になんだ、さっきの布留の様子を見てから何かおかしい。
恐らく変になっている俺を誤魔化したくて顔を逸らすけど、布留は心配からか顔を寄せて来る。
「───へぇ」
「………え?」
一瞬の瞬きの後、教室の中には俺と布留以外誰も居なくなっているのが、途端に静かになったことによって自然と分かる。
もう昼休みの終わり、移動教室かと思うけど、今日はそもそも移動教室はないし時間もまだそこまでじゃない。
挙げた顔にくっついた目が捉えたのは、そんな教室と、窓越しの橙と青が混じり合った空の色。
「結局、わたしのほうは見ないんだ」
「え、あ」
唖然とする俺を尻目に、布留の口が動いて声を出している。
いや、口が、ない。
「布、留?」
「名前は覚えてるのにね。キミの関心ってソレどまりだもんね」
先程までははっきりしていた筈の顔が、黒い靄に覆われて碌に分からない。
テレビに走るノイズのような、受け取るはずの信号を失ったプレーヤーの画面のような、砂嵐みたいな靄。
………いや、そもそも此奴の顔、最初からあったっけ?
「顔、顔が」
「キミには見えてなかったんでしょう? だから、ああなっちゃったのに」
横に座っていた布留のはずの誰かが、何時の間にか目の前に立っていた布留のような何かが、手を伸ばして俺の頬を挟み込んだ。
眼前を覆いつくす得体のしれない何かに、声にならない空気が口から走り出した。
「え、う」
「ほら。キミ、ちゃんと見てなかったんだよ」
<>(^・.・^)<タイトルから察するかもですが
<>(^・.・^)<こういう雰囲気の話、あと何回かやります
<>(^・.・^)<今章ではこれっきりだけどね!
<>(^・.・^)<最近伸び方が週一投稿前とは比べ物にならなくなってきててうれしみ
<>(^・.・^)<よろしければブクマ、感想などよろしくです!




