其の四〇 潜入当夜
<>(^・.・^)<おはよう世界
「ぅ………ぁ」
頭の奥が痛む。
記憶の彼方から飛んできたような、無理矢理くっつけられたような光景を見せられて、精神的な疲弊が凄まじい。
自分の視点が固定されていた男も、その男に対して語り掛けていた女も、俺の記憶の中には居ない、思い出そうとしても、そもそも情報が記録されていない。
故に、ただ単に疲れを感じさせられ、気味の悪いものを見せられた気分だ。
………
「っ!」
「うわっ!?」
「………おうっ」
自分が謎の少女を追いかけていたことを思い出し、半開きだった瞳を全部使って状況を確認しようとし、上半身を起こす。
起こしたことで気が付いた、どうやら俺は横になっていたようだ。
近くからした声の出所を探れば、見知った女性が二人。
団扇をもって此方を仰ぐシンミと、スポーツドリンクのペットボトルを持つトイが其処にはいた。
二人の姿を捉えた時点で、更に自分がソファの上だという事にも思考が追い付く。
何処かに痛みが残ったまま、次第に冴えてきた頭であの少女の行方を問うた。
「彼奴は!?」
「あの強盗犯ー? あのまま逃げてったらしいけど」
「………それ、より。意識、戻って、よかっ、た」
そうか、結局逃げられたか。
しかしあの様子だと愉快犯の可能性が高いだろう、組織的に誘拐を行うような集団が、あのように自分から素性を明かす人材を雇っている意味がない。
つまり『GNOME』の一員ではない、と結論付けていいだろう。
周りを見渡すと、無機質な壁に囲まれた部屋の中にいた。
恐らくは緊急で倒れた人物を運ぶ医務室或いは休憩所だろう、金属ポールで作られた絆創膏や消毒液を乗せる棚がソファの近くに屹立していた。
「お、起きたかー?」
「あれ、その声………」
二人のどちらでもない声、しかし片方には似ている声がどこからか聞こえてくる。
よ、と漏らす声が聞こえ、ソファ後ろにあった窓に手が掛けられた。
「おう、トロン少年大丈夫か?」
「あ、サミハさん」
「一回戦りあったんだ、サミハでいーぜ」
振り返るとそこには燃えるような赤と黒の髪を携えたサミハの姿が。
来ていたのは知っていたが、居場所が割れてしまったか。
シンミにとって不味くないか、と横目で辺りを探すが、既にその姿は見えなくなっていた。
「ん、どーした?」
「あ、いやその、どうしてここに?」
「んだよ、アタシが一人で買い物来ちゃいけねーってのかー」
窓枠に片腕でしがみ付きながら、器用にもう片方の手で俺の頭を小突く。
「いや、そういう訳じゃないんだが。何でこの休憩室に?」
「あー、少年あんときうなされてたし覚えてねーのか」
「うなされて?」
「………ん。そう」
何時の間にかシンミと同じくいなくなっていたトイが扉の向こうから現れる。
そういえば、サミハがこのアウトレットパークにサミハが来ているのを知らせたのはトイだ、ならば既に会っていてもおかしくはないか。
トイの存在とシンミの存在が結びついていなければ、トイがこの場でサミハに姿を見せても問題ない、と言うわけか。
「おー、看病助かったぜトイ。アタシはそーゆーのからっきしだからよぉ」
「………う、ん。サミハさん、こそ、連れて、来てくれ、て、ありが、とう」
「おう、少年くらい軽いもんよ」
むん、と俺を小突いていた方の腕で力こぶを作ってアピールするサミハ。
事情を聞くと、騒ぎを聞きつけたサミハが俺と同様に下手人を追跡したところ、先に犯人らしき幼い女の子と向き合っていた俺が飛び掛かるも跳ね返されて気絶。
あと一息で屋根から落ちてしまいそうだった俺を間一髪で助け上げ、安全な場所まで運んでから再び追いかけようと試みたが、その時には既に女の子の姿は忽然と消えていたのだとか。
その後追いかけようもなかったために俺を預ける場所を探していたところ、一般人の避難を助けていたトイに遭遇し、二人で俺をここまで運んできてくれたようだ。
「そうだったのか、ありがとう。本当に感謝する」
「いーってことよ。それより少年、一個聞いてもいーか?」
「何だ?」
「彼奴、強かったか?」
聞きたい質問の内容が想像と違っていて、思わず唖然とする。
ソファ近くに立つトイにとっては慣れたものなのか、呆れたようにため息をつき肩を竦ませていた。
「えーっと、まぁ強くはあった、か?」
「んだよー、はっきりしねーな」
それから俺は、屋根の上でトットーに出会った際の一部始終を語って聞かせた。
言動の方向性、謎の能力、そして何よりも小生意気なあの性格。
見た目も相まって、世間や大人を舐め腐っているのがまるわかりだ、いや妖怪の年齢を見た目で判断するのは早計だが。
現に俺も年齢としては中学生だが、先日伺った奏の高校では俺よりも背の高い男子生徒はあまりいなかった。
そういう点から、トットーも見た目が幼いだけで本当は二十を超えている、という可能性も無きにしも非ずか。
………属性過多では?
「ほほーなるほどなるほど、よーするに身体能力はそれなり、能力は理不尽、性格は終わってる、と」
「歯に衣着せぬとそうなるな」
「………そんなに、な、の?」
サミハが瞳を閉じて頷き恐らくは相手を想像している様子なのに対して、トイは表情からして若干引いているのがわかる。
うん、気持ちは正直分からないでもない、調子が悪くなくても長時間向き合っていたら頭痛がしていただろう。
「まー粗方わかった。倒し甲斐ありそーなヤツじゃねーの」
「それは心強い、のか?」
「………バトル、狂い」
トイの的確な酷評が刺さる気配もなく、サミハはニタリ、と口角を挙げている。
この様子だと、犯人を捕まえたいという正義感よりも、強い相手と戦いたいという好奇心が強く働いて下手人を探したのかもしれない。
なんというか危ういな。
「それはそれとして、いちおー先輩として聞かなきゃなんねーことがあったんだったわ」
「聞かなきゃいけないこと?」
「おう。少年、免許、持ってっか?」
「あ」
そうだ、先日奏の文化祭の手伝いの為に取得を考慮したところだった。
考慮した、ということは裏返せばまだ持っていないという事。
そうなると、追跡及び拿捕目的で俺が妖術を使ったことがバレてしまったら、何かしらの罰則が待ち受けているだろう。
状況が状況故に後悔はしていないが、俺は綿貫グループの令嬢である綿貫奏の契約妖怪だ、下手なことで評判を落としでもしたら申し訳がないし、グループ全体の威信にかかわる。
日程の調整が出来次第取得へ向かうべきだろうが、今回は持っていない為、無免許妖術と言う事実が消えることはない。
やっべ。
「んじゃま、今回はぜーんぶアタシがやったってことにするわ。妖力の痕で怪しまれるかもだけど、そこは少年がアタシに妖力供給したってことにすりゃあなんとかなんだろ」
「あ、ありがとう」
「………じゃ、帰ろ」
「おう」
そうして身支度を済ませ、窓越しにサミハに別れの挨拶を済ませた。
とその時。
「あ、お姉ちゃん帰ったー………ぁ」
「ん? んー? シンミちゃん、だよな?」
「───」
「いや黙ってても分かるって。そのカッコ………可愛いなぁ!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
「あっ、ちょ」
サミハの声が聞こえなくなったところからいなくなったと判断したのか、陰に隠していた荷物を取りにシンミが帰ってくる。
一瞬で青くなったシンミの顔色が見る見るうちに赤くなっていき、サミハの一言で限界を迎えたのか走り去っていった。
「………ってことがあったんだ」
「ふぅん。苦労してるのね」
「感想がソレか?」
帰宅後、俺は奏にも同じ話をした後、夜に奏が寝静まった後に家を出た。
そして《宝石団》のアジトに向かった後、今日の作戦を聞き、いきなり美術館の傍で潜伏している。
傍に潜伏と言っても下手に物陰にいては逆に怪しまれる、そのためこういった場合には近くのコンビニやファミレス、時間帯によってはカフェに居座ることが多いのだとか。
今はファミレスに居るのだが、いきなり自分には想像の付かなかった手法を知られて、作戦に協力した成果を感じている。
「ところで、今日の呑み会はこの流れで合ってるんだよな?」
「えぇ。仮装を忘れないようにね」
勿論俺はお酒は飲まないしそもそも飲めない。
呑み会とは今回の作戦の偽名、一般に聞かれて更に遅い時間帯に耳に入ってもおかしくない単語を使う必要があるため考案されたものだとか。
同じ理由で仮装は変装のこと、素顔を晒しながら警備がいっぱいの美術館に飛び込むほどの馬鹿はいない。
「それにしても………その盗人、最近噂の彼奴かしら」
「噂、っていうと」
「ほら、ニュースの」
「あぁ………そういえば」
確かに先日、ニュースで自称怪盗から予告状が届いたとか言っていた。
「話を聞くところ、盗んだモノは後で返却するらしいのよね。どうも盗みそのものに魅力を感じているような」
「それ、今回も同じみたいだ、知り合いからその後の話を聞いた」
「なら、可能性はかなり高いわね。今日出くわすかもしれない、と覚えておきましょう」
「また彼奴と出会うかもしれないのか………」
考えたくないな………
そうこうしているうちに時間は進み、やがて作戦行動が始まる時間がやってくる。
今回は俺とアメジストさんが潜入、エメラルドが遠隔サポート、ルビーが万が一の時の用心棒、ボスが司令塔。
故にこの場には俺とアメジストさんの二人しかおらず、懐中時計を確認したアメジストさんと俺が目線を合わせて頷くだけで現場のコミュニケーションは終了。
通信機越しに本日初の連絡が入り、テーブルを立ってお会計。
着ているシャツの襟を正し、気合を注入。
「………行くか」
<>(^・.・^)<明日以降も連日投稿予定!
<>(^・.・^)<明日は16時過ぎ頃に〜!




