其の三七 ビフォア・ショッピング
<>(^・.・^)<場面転換〜!
「最初にはっきりしとかない?」
「………何?」
「トイちゃん、トロ君のことどう思ってるの?」
「………その、話、前に、も、しな、かった?」
「したけどさ? あんときは結局うやむやだったしー」
「………その話、なら、先に約束、してた、シンミちゃん、の方、が」
「あたしはトロン君のいい師匠でありたい、ってだけ。トイちゃんもそう?」
「………私、もそう。サミハ、さん、も、師匠、になった、から。頑張ら、ない、と」
「あー、その気持ちは分かるかも。お姉───いやサミハ、実力だけはあるしねー」
「………ん。それに、師匠、けっこう、楽しい」
「それも分かるなー。トロン君吸収力高いから、教えてて楽しいよねー」
「………そう、スポンジ、みたい」
「あれ? もしかしてトイちゃんテンション上がってる?」
「………シンミちゃん、こそ。むりやり、余裕、ぶってる、の、バレバレ」
「「………ふふふ………」」
白九尾:トロン
本日は快晴、次第に暑くなってきて夏の訪れを感じるこの頃にしては、心地よい風が肌をなぞる。
体感気温は丁度良く、出歩くのに持ってこいだ。
「………」
目印になる円形の花壇の傍に立ち、円の中心にある時計に目をやる。
約束の時間まで残り十分程度、少し早く着き過ぎただろうか。
周りを歩く家族連れやカップルを眺めた後、俺は今日来ているアウトレットパークのパンフレットに目を通していた。
此処は〈妖技場〉最寄り駅のその少し先、恐らく都市計画的に歩いて行ける距離に娯楽施設を揃えたのだろう。
アウトレットはアパレルや雑貨店、古着屋に家電メーカーのアンテナショップ等々様々な種類の店からなり、リッチからリーズナブルまでご飯を食べる場所もある。
今日は午前中から昼を跨いで午後の早い時間に解散、を大体の時間割にしているので、ご飯を食べられるのは有難かった。
所で、俺が今日何故ここに来ているのかと言うと。
「あー、トロン君もういるじゃーん」
「………ごめん、ね。待っ、た?」
「あぁいや、さっき来たところだ」
俺が来た方向と同じ方から、待ち合わせしていた人物が現れた。
方や風の力を操る天狗、シンミ。
方や氷の力を宿す雪女、トイ。
師匠二人への日頃の恩返しと単なる親睦会を兼ね、今日は二人の買い物に付き合わせてもらう運びとなった。
「いやー、前日の夜になっていきなり三人で、って言われたときはちょっとびっくりしたよー」
「………二人とも、今日は、仕事、なかった、からよかった、けど」
「すまん。奏からの頼みで。無理言って悪かった」
昨日の夜の奏からの頼み。
それは明日のおでかけは三人で、ということ。
そういう関係ではないと分かっていながらも、自分以外の人と一対一で出かけるのはあまり気に入らないのだろう。
何度も言うが奏を不安にさせたり不機嫌にさせたりはしたくない、結んだ相手との念で無理を言って、二人には一緒に来てもらうことにしたのだ。
あくまで俺が着いて行かせてもらう側、本来彼女らがもてなされる側だというのに突然の申し出を快く受け入れてくれたのには感謝だ。
そうした思いがあるから、俺は謝りつつ頭を下げる。
「いやいやいいってー。考えてみれば、別々だったらトロン君をあんまりにも長く付き合わせちゃっただろうしー?」
「………うん。気に、しない、で」
「そうか、ありがとう」
この二人ならこの時こう言ってくれるだろう、という確信はあったものの、やはり直接耳で聞くと安心する。
胸を撫で下ろす俺の肩をシンミが叩く。
「ねーねートロン君、今日のあたし、どうよ?」
「どう、っていうか………普段と全然違うな」
普段は巫女服を見ることが多く、探偵事務所にお邪魔する時も機能性を重視した格好をしていることが多い。
しかし今日は、彼女の全身をワンピースが包んでいた。
色合いは淡く、普段のややマニッシュで濃い色とは違っており、俺はシンミが私服で全身のラインが出ない服を着ている印象がない。
その為、第一印象としては「普段と違う」、が前面に出てきた。
勿論悪い意味ではない。
「………私、は?」
「トイも普段と違うな。新鮮な感じがする」
今度はシンミの隣に立つトイが問うてきた。
これまたシンミとは対照的に、普段身に付けているワンピースとは全く異なる衣装を纏っている。
端麗な身体がくっきりと分かる細身のデニムパンツ、丈が短めのシャツに加えレザーのジャケットを羽織っている。
此方の意外性はシンミよりも更に顕著で、訓練の時ですらワンピースを着用しているトイがこのような恰好なのは、新鮮ではあるが何か落ち着かない。
「う~ん、それって褒め言葉?」
「………私、なんか、落ち着か、ない」
「勿論褒めてる。いつもと全然違うからちょっと驚いただけで………あぁ、そうか交換してるのか」
考えてみれば、お互いの私服が全然傾向が違う、というのはトイも言っていた気がする。
ならば、身長や体型に大差がない彼女らは服装の交換が可能、ということになる。
各々のハンドバッグは色合いもデザインも普段の服装とシナジーがあるように考えられるので、ネックレスやイヤリングなどの小物も同様に自分自身のモノなのだろう。
俺の漏らした一言で、シンミとトイが揃って違った反応を返した。
「いやぁ、偶にはこーゆーのもいいのかなー、ってさ? トロン君驚かせたかったしー? 褒めてくれてるならいいや、あたしの知らなかった一面、知っちゃったねぇ?」
途端に饒舌になったシンミが身振り手振りを大げさにして此方に言葉を投げて来る。
いつも通りの飄々とした風を装った顔つきだが、口角は普段よりも上がっているように思えた。
「………」
一方でトイはと言うと、何も言わずお腹のあたりを抑えて斜め下を向いてしまった。
被っている帽子の角度のせいで表情はうかがえない。
「………えっと。じゃあ行こうか。先ずは何処から行く?」
何だか妙な雰囲気になってしまった、ここは早めに出発して仕切り直そう。
俺の言葉に二人も我を取り戻したのか、肩にかけた鞄のベルトを掛け直し、俺の持つパンフレットを覗き込む。
色々と話し合った結果、最初はトイの靴を探しに行く運びとなった。
元から好きなブランドの出店があるようで、意気揚々と歩くその後姿は、普段通り落ち着いていながらも弾んで居るように見える。
気付けば先程まで恥ずかしがっていた素振りもなく、動き回るのに適した格好を寧ろ楽しんでいるようだ。
「ちょ、ちょっとトイちゃん待ってよ~」
「あ~、その服動き辛そうだもんな」
「そうなんだよ~、脚全然動かせないし~!」
「ちょっ、おいやめろ」
「………それくらい、で、丁度、いい、かも、ね」
走るトイに中々追いつけないシンミが、自分のワンピースの裾を持ち上げて抗議する。
道行く人の視線が一斉に集まるのを感じるので慌てて制止するが、よく考えれば此奴いつもは巫女服着ていないか?
機動性に関して言えば、巫女服とワンピースって一体何がどう違うんだ?
後ろを振り返りながらのトイの台詞に、付き合いの長さと抱いている心配やら何やらが見え隠れした気がする。
「………早、く、こっち!」
「トイちゃん楽しんでるね………偶にはあーゆーカッコ、すればいいのにー」
「間違いなく新鮮味は感じてるだろうな。気恥ずかしさを快適さと興奮が上回った感じか」
「………二人、とも!」
子供のようにはしゃぐトイを見た後俺とシンミは顔を見合わせて、そうして駆けだした。
エスカレーターで登ったり分岐を曲がったりすると、待ち合わせ場所からそう大して遠くない位置にそのお店はあった。
ショーウィンドゥの中には流行の品と思しきアイテムが所狭しと並べられており、店側の意欲を感じる。
………今度〈妖技場〉の収入が入ったら、この中から奏用の靴を見繕おうか。
「いらっしゃいませぇ~」
アパレルショップ特有の間延びした店員の挨拶が響く。
店内にはこれまた服飾系によくある、BPM高めのビートを刻むようなBGMが流れている。
なんとなくこういう場所に苦手意識があるのはなぜだろうか、と考えるとともに頭の端に鋭い痛みが生じた。
「………?」
「ん? トロン君どうかした~?」
「………ねっ、ちゅう、しょう?」
片手でこめかみのあたりを抑え眉間に皴を寄せる俺を見て、二人が話しかけてくれる。
何でもない、と一言だけ返し、二人には店内を先に散策してもらうことにした。
確かに今日は日差しはそれなりにあるが、出かける前に水分補給はしてきたし熱中症の線は薄いだろう。
………二人に恩返しを込めて今日は何事もなく過ごそうと思っていたのに、頭痛及び気絶に怯えながらショッピングをしなければならないとは。
嫌な予感がほんのりと漂う中、俺も一歩踏み出して店内の物色を始めた。
<>(^・.・^)<次回以降はシンミ、トイのヒロイン回
<>(^・.・^)<そしてその後………




