其の三六 二人だけのお祝い
<>(^・.・^)<昨日も投稿してるよん
それから、俺は最初の作戦の日時を聞かされて、参加可能かどうか確認された。
現状はその日は特に予定もないために、取り合えず行けたら行く、とだけ返答した。
ビズをはじめ『宝石団』の面々は複雑そうな顔をしていたが、何か不味い言葉だったのだろうか。
行ける可能性が高いが一方で行けない可能性も僅かながらある、という意味で言ったのだが。
その点も詳しく話したら納得してもらえたようで、作戦の細かい段取りは後日説明する、ということで一端解散となった。
出口まで案内されたのち、背後に立っていた筈のアメジストさんの気配が消失した。
と思った束の間、再び気配が戻る。
「あの、今のは?」
「あぁ、一旦気配を消してから、君を対象に含めたのよ。術使いは外界に影響は及ぼせないけれど、密着していれば話は別になるわ」
「えっ」
密着、ということは殆ど身体が触れる位置にアメジストさんがいるわけで。
路地の裏、建物の壁に囲まれた状況で大人の女性に密着されている元中学生の狐少年。
客観的に見ればそういった類の漫画の導入に見えてもおかしくはない気がする。
いや自分は読んだことはないが。
それはそれとして、何故態々そんなことを、と考えたけれど、これもまた当たり前の話。
秘密組織である『宝石団』のそのアジトが、新入りの帰路でバレてしまっては目も当てられない。
「じゃあ道案内、宜しくお願いします」
「わかったわ。まずはそこの角を右に」
そうして俺はアメジストさんのラジコンとなり、無事に脱出できましたとさ。
通りに出た時も一目はなく、そのまま綿貫家に帰還した。
「お? おかえりぃ」
「ただいま。思ったより遅くなって申し訳ない」
「んーん。むしろ、いまご飯できたとこ。おなかすいてるよね?」
「あぁ。セーブしてきたからな」
「………ふぅん」
奏の暮らす家の玄関を開け、靴を脱いでいるうちにぱたんこぱたんことスリッパを鳴らしながら奏が駆け寄ってきた。
学校帰りで纏っている制服の上に着ているエプロンは、今日〈妖技場〉の帰りに寄った買い物で手に入れたもの。
二人で選んだもので、狐の顔や木の葉がデザインされた可愛らしい仕上がりになっている。
「エプロンよく似合ってるな」
「でしょ? さすがはわたしとトロのセンスだね」
サービス精神旺盛に、その場でひらりと一回転してくれる奏。
遠心力でエプロンと制服のスカートの裾がふわりと揺れ、微笑を浮かべるその姿に思わず視線を奪われてしまった。
一旦今日あったことは奏には内緒にしておこう。
奏のことだから察して聞いてくる可能性もあるが、奏の優しく思いやりのある性格を鑑みるに、敢えて聞いてこないことも考えられる。
心配をかけてはならない、極力何事もないように過ごさねば。
「おぉ………随分沢山作ってくれたんだな」
「へへ」
リビングの扉を開けると、テーブルの上にはかなりの種類の料理が並べられていた。
ミネストローネにコンソメスープ、ポテトサラダに炊き立てのご飯等々が所狭しと並べられているが、どれも二人で夜と次の日の朝を通して食べきれるであろう量である。
一品当たりの量を減らしてまで多くの数を揃えることに注力してくれたのだろう、そういった心遣いが嬉しい。
「どれもこれも美味しそうだ………早速食べてもいいか?」
「まって。まずは手洗いから」
服の裾をくいくいと引っ張られ、流し台まで向かった。
そこで気が付いたのだが、よく見ると既にキッチンに調理器具は並んでおらず、流し台に漬けてある用具もない上、水切り台に乗っているものもない。
となると既に調理は完了している、という話になるわけだが、にしては奏の服装が変だ。
「あれ、もう料理終わったんだよな?」
「そうだよ? もしかしてたりなかった?」
「いや、ごめんそうじゃなくて。調理し終わったのに、なんでエプロンつけてるんだ?」
後ろにくっついていた奏に問うが、返事は帰ってこない。
むしろ顔を背中に押し付けられているような気配さえする。
………あ。
「ありがとう、エプロン凄く似合ってた」
「………ま、まーそうゆうこと」
一言だけ答えて、奏はててて、と離れていった。
エプロンを脱いで畳んで置き、一足先にテーブルに辿り着き、食器がないことに気が付いて食器棚へと向かう。
その一連の様子を見て石鹸で手を洗いながら、俺は微笑ましい気分になっていた。
流石に鈍い自分でもわかる、奏は俺に見せるためにエプロンを付けたままでいてくれたのだ。
どの料理もまだ温かそうで湯気が立っているから作ってからまだ時間は経っていないだろうが、洗い物まで済ませたのにエプロンを着用し続ける理由が存在しない。
………なんというかこの上なく嬉しい。
「さて、じゃあ早速」
「いただきます」
「頂きます」
手を洗って席に着き、奏が持ってきてくれていた箸にナイフにスプーンにフォークを手に取って食べ進める。
しかし、奏も随分レパートリーを増やしたものだ。
これなら自分が教える必要もあまりないだろう。
そういったことを考えながら、また料理に舌鼓を打ちながら、奏ととりとめもない話をしながら時間は過ぎていった。
「御馳走様でした」
「ごちそうさまでした」
「ふう………結構食べたな」
「でも明日の朝あたためて食べられるくらいはのこってるね」
「明日の朝も食べられるのか。楽しみだ」
両手を合わせて食事への感謝を唱え、二人で使った食器を流し台へ持っていく。
テーブルへと視線を向けると、まんべんなく手を付けられながらも、三分の一程度料理が残っていた。
明日もこの美味しい料理を食べられるのか、と思うと今からお腹がすいて来るような気さえする。
残った料理をタッパーに移したり皿にラップを掛けたりして、冷蔵庫へと仕舞う。
「あれ? これは?」
「おいわいのケーキ。手作りじゃなくてごめんね」
「何言ってる、その気持ちが嬉しいよ」
冷蔵庫の中には小さく白い箱が置いてあった。
奏の言葉によればケーキ、正直甘いものはかなり好みなので嬉しい。
冷蔵庫を閉じると、その間奏が洗い物をしてくれていたので、自分は布巾を取って食器を拭いていく。
二人で話しながら分担して進めるとすぐに作業は終わり、奏はコーヒーを淹れ始めてくれたので、俺はケーキを冷蔵庫から出して皿に乗せ、フォークを取り出した。
フルーツの乗ったショートケーキが二つ綺麗に並んでいる。
「なあ。もしかしてこのケーキを買ったお菓子屋って」
「うちの傘下だ、ってまえにおとうさんが言ってたよ?」
「相変わらず凄いな」
コーヒー粉の入ったフィルターに、背伸びしてお湯を注ぐ奏に問うと、想定通りの答えが返ってきた。
戦闘用スーツの時も思うが、やはり綿貫グループは何かがおかしい。
箱に載っているロゴを見て再確認させられている間に、マグカップにコーヒーを入れた奏がキッチンから出てきた。
「じゃあ、頂こうか」
「ん」
二人で向かい合う形になりながら、ケーキにフォークを入れた。
殆ど抵抗もなく滑り込んでいき、取ったスポンジは口の中で溶けるようだ。
いずれ自分でもこういったケーキを奏に振る舞いたいものだ。
俺が甘味に浸っていると、同じように幸せそうな顔をした奏が声をかけてきた。
「あ。トロ、コンテストのリハーサル、来週のどようびだって」
「来週のどようび………了解」
土曜日の昼間には、特にこれと言って予定は入っていない筈。
《宝石団》の仕事一発目はその日の夜にあるが、今からその時の言い訳をどうしようか悩む。
いっそ話すべきか、いやそれで奏に迷惑が掛かるのは………
気分がやや落ち込み、心なしかケーキの味が少し薄くなった気がした。
自分の機嫌を取るために話題を逸らすことにした。
「そうだ奏、奏の明日の予定は?」
「………つるちゃんたちにあそぼう、って誘われてるから、あそびに行ってくる」
「そうか、俺も出かけるから明日の昼間は一緒には居られなさそうだな」
今、奏の表情が若干曇った気がした。
「奏? どうした?」
「………なんでも、ないよ」
「………やっぱり、俺があの二人と出掛けるの、嫌だったか?」
明日の予定の話になって機嫌が悪くなるとなると、それくらいしか原因が思い浮かばない。
今日の〈妖技場〉の帰りに二人で買い物には行ったのだが、それ以前にシンミとトイと約束を交わしていたのは事実。
一番大切にすべき、守るべき相手を蔑ろにしていた、と責められても申し開きのしようもない。
奏はゆっくりと、言葉を選びながらぽつり、ぽつりと紡ぐ。
「べつに、嫌じゃないよ。トロはもう、わたしのだもん」
「うん、そこは安心してほしい。俺は奏のだ」
「でも、なんか、なんか………もやもやする」
自分でもよく分からない感情に困惑している様子だ。
………事情は異なるかもしれないが、俺も似た経験があるからよくわかる。
気絶したときに見る夢、あの後はどうにも現実味が薄く感じられるし、周囲の者に対してなんとなく疎外感を覚える。
そういった時、他の人の接し方云々よりも、自分を見つめることの方が大切だ、という経験もある。
俺があまり口を出すべきじゃないだろう。
「でも………っじゃあ、いっこ、約束」
「約束? 何だ、言ってくれ」
「明日───」
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