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Devil’s patchwork ~其の妖狐が神を討ち滅ぼすまで~  作者: 國色匹
第二章 成長と願いと
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其の三五 水晶石

<>(^・.・^)<明日も更新アルヨ!

「少年、すまないがそこは俺の椅子だ、向こうにズレてくれ」

「あ、はい」

「もう、それくらいいいじゃない」

「はッハ、イージャねェカ。よっぽどジャねー限リ、拘りあって悪いコタァねーヨ」


 後ろに立ったままのルビーさんが、先程身内で話していたところからするとゆっくりとした口調で語り掛ける。

 俺に気を使ってくれているのかとも思ったが、態々立ち退き要求をするあたり別にそういうわけでもないのかもしれない。

 でも文句を言う必要性も感じないため、言う通りに椅子から立ち上がる。

 注意力が散漫だったのか今気が付いたが、俺が促された椅子は他の四つとデザインが異なっている。

 まるで直近に新しく買い足したかのようだ。


「よいしょ………」

「すまないな。普段と違うことをすると気分が落ち着かない性質でな」

「いえ、それは俺も分からないでもないので」


 誰しもツーティンと言うものがある。

 自分の場合は朝起きて尻尾を手くしで溶かすのがソレだ。

 少し前から奏が気を利かせて、尻尾に塗る用のオイルを調達してきてくれたので、我ながら手触りがそれなりに良い。

 ルビーざんが湯呑に一口だけ口をつけ、テーブルに置いた。


「それで、今は何を話していたんだ?」

「あぁ、貴方が潜入調査に向いていない話よ」

「まあ、そうだな。それに関しては申し開きのしようもない」

「え、そうなんですか?」

「あー、ルビー殿は気性が荒い、というかキレると怖いタイプでござるからねー」

「何だ? 貴様俺に文句があるのか?」

「こういう所でござるな! あとさっきキレなかったのに何で拙者の時はキレるんでござるかぁ!?」


 ギリ、と拳を震わせるルビーさん。

 よく見ると、その瞳はやや朱に染まっている。

 ………どこかで、というか全力を出したあの鬼の男の瞳と同じ色をしている。


「あの………ルビーさんは人間ですか?」

「少年失礼だな。俺は人間だ」

「ルビーはナ、術使いだが鬼の能力を使えんダ」

「な、成程………? 術使いってそんなのもアリなのか?」

「アリも何も、俺がそうなんだからそうなんだろう。別の世界から来たとのことだ、受け入れ難いかもしれないが、あまり頭が固いと損をするぞ」

「拙者もソレでござるな! 拙者らは自分で自分の限界を測っているでござるが、そもそも何でこんなん(こんな能力)がくっついたのか分からんのでござるよ」

「私も右に同じよ」

「成程なぁ………」


 妖怪だけに注目しがちで術使いにあまり出逢ったことがなかったから、そのバリエーションに面食らってしまった。

 しかしルビーさんの指摘の通り、受け入れ難きを受け入れねば、この世界ではやっていけないだろう。

 今日の昼の試合でも、あらゆる可能性を考慮しなければならないと痛感させられたばかりだ。


「ト、ゆーワケダ。ウチにャ、そこそこ潜入出来テ、そこそこ器用デ、そこそこ戦えル、そーゆーメンバーがいねーンダ」

「話は分かった。で、俺がそれを引き受けるメリットは何だ?」

「色々あるガ………大きく分けると経験、知識、体験カ」

「何だそれ、一個目と二個目はどう違うんだ?」


 経験と知識と体験か。

 二字熟語が三つ並んでいるあたり、週刊少年跳躍みを感じる。

 例の天狗とヒザマの姉妹が好きそうなフレーズだった。


「経験、というのは作戦行動の経験を積むことが出来る点ね。トロン君は探偵事務所に所属しているけれど、今まで暗躍したことはある?」

「浮気調査とかをしたことはありますけど。深夜に能動的に動く、というのはない、ですね」

「でしょうね、探偵事務所が世を忍んで動く必要なんてほとんどないもの」


 確かに、経験と言う言葉がしっくりくる。

 それに、探偵事務所で公の場で計画を遂行し、此方で夜の闇を駆ける、という経験にはなるだろう。

 どちらも今後奏を守るために必要になりそうな要素だ。


「知識、に関しては色々あるでござろうが、一番は術使いへの理解でござるかなー。今日だって狐殿、拙者らの術を半信半疑だったでござるしね」

「……それは、まあ」


 身近には術使いがあまりいない。

 兜さんから奏が術使いだと教えられているが、本人へ詳細を尋ねたことはない。

 母親事情もそうだが、考えてみれば俺は奏についてまだまだ知らないことが多い。

 それはそれとして、現時点で術を目の前で見たことがあるのは一之助さんだけ、術使いへの理解は十分とは言えないだろう。

 敵は妖怪だけとは限らない、そんな中で術使いが三人もいる組織で彼らの傍らで過ごす権利がぶら下げられている。

 この機を逃す手はない、と言い切ってもいいだろう。


「体験は経験と似ているな。しかしここでボスが言う体験があれば、敵方の動向も掴みやすくなることだろう」

「なるほど、確かに蛇の道は蛇、というわけか」

「そういうわけだな」


 自分が隠密行動に慣れれば、決行するタイミング、通ってくるルート、設定するターゲット等々、手に取るように分かるかも知れない。

 計画を事前に知れなければ未然に防ぐのは難しいかもしれないが、一度気付いてさえしまえばその後の対処はスムーズになるはずだ。

 奏が誘拐されてしまった際も、俺が実力と体験を兼ね備えていれば、もっと安全かつ迅速に救出できていた筈。

 実体験もあり、このメリットに相応の魅力は感じられる。

 顎に手を当てて、暫く考える俺だったが、そう長くないうちに意を決して口を開いた。


「分かった。加入は了解する。ただし作戦の参加は俺の意思で決めさせてくれ。夜に奏と離れるのは嫌だ」

「オウ、それくらいなら問題ネェサ。寧ろそうでなくちゃナァ」

「契約妖怪としては見上げた心意気ね。勿論誉め言葉よ」

「いい信念だ。折れなければいずれもっと強くなる」

「あれ? ラブコメの波動を感じているの、拙者だけでござるか?」


 約一名よくわからないことを言っていたが、自分の出した条件は受け入れられ、所属が決定した。

 違法ではあるかもしれないが人の道を踏み外してはおらず、自分の成長の糧にもなるのであれば断る理由は殆どなかった。

 差し出されたビズの手を握り返す。


「あ、これからはボス、って呼んだ方がいいのか?」

「アー、その辺はまァ好きにシロ。此奴らにも別に強制してるワケじャねェ」

「本当はボスにもダイヤモンド、っていうコードネームがあるのだけれどね。呼びやすいから私はボスと呼んでいるわ」

「拙者もまぁ基本はボスでござるなぁ、何となくでござるが」

「俺は戦闘中に呼ぶ際に短い方が都合がいいからボスと呼ぶ。少年もそれを意識するなら余り長い名前で呼ぶのはおすすめしない」

「了解、じゃあボスで」

「───じャアまァ、それでいイ」


 井川さんと一之助さんの呼び分けが正直面倒だからというのもあり、ビズと響きが近いボスと呼ぶことにした。

 気を抜くとビズと呼んでしまいそうで少し怖さはある。

 あと見知った相手をボスと呼ぶのはまだ茶化している感じが出るが、いきなりダイヤモンドとかいうコードネームで呼ぶ気にはなれなかった。

 ………何となく恥ずかしい。


「ジャ、オマエのコードネームも決めネェとナ」

「そうか」

「希望とかあるカ?」

「特にない」

「………ジャ、オマエは今日から水晶石(クリスタル)ダ。宜しく頼むゼ」

「あぁ、宜しく頼む」


 というわけで、俺は今日からクリスタルだ。

 最近〈妖技場〉のリングネームもあったし、別名が付けられる期間なのかもしれない、いやその期間何なんだよ。

 音もなくビズが湯呑を掲げ、他の三人も自分の湯呑を持ち上げて前に突き出した。

 どういう意味か図りかねたが、恐らく乾杯に近い何かだろう。

 遅れて俺も倣い、湯呑故仕方ないが鈍い音が鳴る。


「ア、一応言っテおくガ、オマエが此処に来てからオレの妖術は使っテネェゾ。冷静さを欠いた状態で無理矢理勧誘するのは趣味ジャネェからナ」

「いや、其処に関しては心配してなかったんだが、お前の妖術ってそんな使い方も出来るのか?」

「ボスの妖術はかなり何でもありというか、感情と銘打ってはいるけれど心の動きに関することなら大抵左右できるのよ」

「拙者らが喧嘩しても致命的なことにならないのは、半分くらいはボスの御陰でござるな!」

「喧嘩………? そんな事実は無いだろう?」

「お主にとっては一方的故喧嘩と認識すらされていないのでござるね!?」


 定期的に訪れる、アメジストさんのコメントに付随して発言したエメラルドが、ルビーさんの反応に突っ込むこの件。

 俺は嫌いじゃないし、ビズも肩を揺らして笑っている。

 誇張ではなく、探偵事務所とはまた違った意味で居心地の良い職場の雰囲気が漂っている。

 ふと、注意すべき話題がいったん終了したことから気分が弛緩したのか、それともビズが意図的に緩めたのかは分からないが、一つ気が付いた。

 今自分が座っている、他のものとは趣向の異なる椅子なのだが、これに何らかの妖力の痕跡がある。

 それも以前感じたことのあるモノだ。


「………なぁ。この椅子、誰が座ってるんだ?」

「ソイツは今は居ねェ。海外に出張して貰っテッからナ」

「ふぅん、そうか」


 何となく、本当に何となく、だが。

 尻尾の毛が立ち、骨身の奥深くが疼いた気がした。

<>(^・.・^)<明日の同じ時間にまた来てみてね〜

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