其の四 《原始怪異》
<>(^・.・^)<あけましておめでとうございます
<>(^・.・^)<今年もよろしくお願いします
<>(^・.・^)<ってな訳でお年玉更新だ、受け取れぃ!
「ですから――――――トロン君、今までの僕の話、分かりましたか?」
「今までの………………」
視線を泳がせる俺の様子を不審がったのか、一旦話を切って派手僧が言った。
正直に言えば、すべてを理解しているとは言えない。
だけども、大事なことだけは聞いていた積もりだ。
「要するに、人間と妖怪の体のつくりは殆ど同じだ、ってことだろ。なのに、この世のものと思えない組成式のモノが見つかって学会は大慌て………………って所じゃないのか?」
「はい。そのとおりです。因みに、界穴樹の葉を採取する際、明らかに界穴樹自体からの妨害を受けたため、彼らも意思を持つと判断されています。それが単なる防衛本能なのか、一定以上の思考をした上での判断なのかは、いまいち判然としませんが、取り敢えずトロン君は良くできました――――――あ、ご褒美に、この扇子のブランド紹介しましょうか?」
「あー、まぁ、うん。それより続きを頼む。もっと色々と聞きたい」
「先程までは話はあまり聞いていない様に見えていましたが………………まぁいいでしょう。続けます」
なんとか切り抜けたようだ。
ほっとして背もたれに大きくもたれると、ギィ、という心地よい音がした。
………………放っておけばこのまま眠ってしまいそうだったので、意識的に無理矢理にでも覚醒する。
「――――――そのように、我々人類とその仲間たちが知り得なかった組成を持つモノが見つかり、研究者たちは勇立ちました。この新しいモノに名前をつければ、自分は妖怪研究史に多大なる貢献をしたことになりますからね」
「要するに、手柄の奪い合い、ってことだろう」
「耳が痛い………………そのとおりなのですが。ともあれ我々は、そのような摩訶不思議なモノ達を総称して《原始怪異》と呼ぶようになった、そういう話です」
「なるほどなぁ………………」
派手僧の話が一段落したのを見計らい、大きく伸びをした。
白い目で見られているのは分かったが、あえて無視する。
さらなる誤魔化しのため、そして純粋な疑問のために、別の話題を口にする。
「今までの話で、《原始怪異》の成り立ちについては良く分かった。だが、こいつ始め、そういう奴らの特徴は聞けてないぞ?」
「ええ、その説明は今から。順を追ってお話するのが筋でしょうし」
失礼、と一言口にしてから派手僧はテーブル上の湯呑に手を伸ばす。
喋りぱなしで相当のどが渇いていたのか、それとも単純にお茶が美味しいせいか、派手僧はサングラスを曇らせながらそのことを気にもせずに飲んでいる。
美味そうに飲んでいるなぁ、と思っていると、派手僧の隣のシンミも似たようなことを考えているらしかった。
自分の淹れた茶が美味そうに飲まれるのは嬉しいのだろう、むふー、と言うのが正しい感じで腕を組んでいた。
まぁ確かに美味いけどね、うん。
「さて………………《原始怪異》と呼ばれる存在ですが。解析例が少ないのであくまでも憶測の域を出ませんが、それでもよければ語ります」
「問題ない」
情報がないのは仕方が無い。
そういうものだと思って受け入れる他にない。
「そうですか。では、遠慮なく。《原始怪異》と呼ばれる存在は、とある制約を負っているようです」
「制約………………」
「《原始怪異》は、皆動けないのです。正確にいえば、自力では動けない、という所でしょうか」
派手僧は、まぁ特徴と言うには、今までの傾向というだけですけどね、と付け加える。
それだけでも、十分に大事な情報だ。
「自力じゃ動けない………………」
呟いて、手に持った透鳳凰を見やる。
手で優しく触ってみると、何処か喜んでいるような、そんな感じがした。
今までの話を聞く限り、《原始怪異》にはきちんとした意思がある。
だったら、透鳳凰が感情を伝えてきても、それもまぁ不思議ではないのかもしれない。
マ、是非もないよネ!
「ええ。今のところは、ですが。その制約に何か意味があるのか、と問われれば、それは多くの研究者が目下鋭意調査中、としかお答えできませんが」
「そりゃまぁ仕方ないだろう。今のところの発見例、かなり少ないんだろう?
幾つくらいあるんだ?」
「今のところ………………六つ、ですね。ここ近辺だけでは、ですが」
右手を広げ、左手の人差し指を立てながら派手僧が示した。
「この近辺だけでは、ってどういうことだ?」
「実は、《原始怪異》自体が発見されたのがかなり最近でして。最初の発見例である界穴樹の解析が終了したのが五年前。調査開始が十年前ですから」
「時間かかるんだなぁ」
「何しろ、人類未踏の技術を用いないと解析はままなりませんし、個体ごとに構成元素もバラバラらしいです。学会の解析担当に知り合いがいるのですが、辛すぎるとぼやいていましたよ」
「それはまた………………」
例えるのなら、攻略本のないゲームを目隠し耳栓状態で完全コンプリートをしろ、というのと同じくらいなのだそうだ。
一歩間違えればただの妖力の塊に変化してしまうとかで、《原始怪異》としての形を保つのは至難の業だという。
完全に個人的な意見だけど、それはまるで、生き物というよりも、世界そのもののような気がする。
頬に手を当てて考えてみるも、そもそも俺には前提としての知識が欠けているから、どうしようもないことに気が付き、止めた。
「そこから考えられることとしては――――――いえ、止めておきますか」
「なんでだ。そこでやめるなよ、気になるだろう」
「そうは言いますけれど。これはあくまで僕の個人的見解ですので。僕が語った内容が、今後のトロン君の偏見を生む可能性もありますから、あまり滅多なことは言えないのです」
「理屈は分かるし、言いたいことも分かるけどもさ」
「あー、やめときトロ君ー。こーなった師匠はー、なかなか面倒だよー?」
「シンミさん………………面倒、って、あまりにもあんまりでは?」
「えー? でもめんどーだぜー?」
「そうなのか。よく分かった。お前が面倒な人間なんだということは」
「ちょっとトロン君!? あくまで僕は、正しいと思っている僕の意見を変えたくないってだけで、他の時はそんなことは微塵も――――――」
「ほらー、ししょー、そーゆーとこやぞー?」
「似非関西弁は怒られるので止めましょうね、シンミさん」
「ねー?」
「ああ。よくわかった」
「二人とも――――――」
ああ、成程。
確かに面倒だな、俺と同じで。
シンミに対して全く同じ突っ込みをした記憶があったりなかったりする俺からしたら、やっぱりそこは気になるよな、となるけども。
妙な親近感が湧いてきたが、もうちょっと話を掘り下げる。
「――――――で。透鳳凰そのものの特徴は、何かないのか?」
「ああ、それについてですが。実は僕もよく分かっていないのですよ。なにしろソレは刀の形をしていて、散々持ち運ばれた挙句に記録が一切残っていないんです。名だたる剣豪はみなソレを使っていたとか、実は妖刀ムラマサとはそれのことだとか、あることないことが伝承として残っている程度でして」
「成程」
「ただ、観測から明らかになった事実が一つ。どうやらソレ、周囲の生物から手当たり次第に妖力を奪っているらしいのです」
「妖力を、奪う………………?」
「ええ。感じませんか?」
「――――――ちょっと待ってろ」
今後この透鳳凰と一緒にやっていく身からしたら、何も考えてなかった、とは口が裂けても言えない。
ビズから教わった、自分の妖力把握をして、外部に流れ出ていく妖力に注意を向けてみる。
………………え、何も感じない。
まじかよおい、俺の感覚がおかしいのか? でも、透鳳凰抜きに歩いてるときは、確かに何かが入ったり出たりしてる感覚はあった。
――――――しょうがない、あたかも今は感じられない、みたいな言い方をしなければ。
「――――――何も感じなくなったんだが?」
「え、嘘。そんな訳が――――――――――――――――――ありますね」
「だろ?」
「えぇ………………?」
「不審がるなよ」
「不審がりますよ、これは。僕も研究者の端くれ、特に現地調査を多くしているだけあって、妖力の動きの探知には自信があります。だからこそ、トロン君の証言が正しいと判るのですよ」
「成程なぁ。だけど、今までの観測ではそういう現象があったんだろ?」
「はい。ソレは確かに手当たり次第に妖力を取っていっていました。節操なし、とでも言うべきでしょうか。その癖抜き手は選ぶとか、最早何と言っていいのか分からないくらいのわけわからなさですよ、ええ、本当に」
「――――――ねー、ししょー、ちょおーっとばかり呪詛混じってない?」
シンミの問いかけに、どす黒く染まっていたサングラスの向こう側を、ガワだけきれいにする。
先程から、感情がよく目に現れている。
もしかして、サングラスはそれを隠すための小道具、だったりするのだろうか?
心なしか、周囲の空気もピリピリしてきて、膝の上の透鳳凰も、今にも抜けそうな程張り詰めた雰囲気を纏っている。
――――――気のせいか、此奴から怒りのニュアンスが伝わってくる。
「いえ、そんなことはありませんよ。僕はただ事実を述べたまでで――――――いえ、止めておきます。こんなところで敵を作るのは得策とは言えませんからね」
サングラスの向こうの眼がウィンクをした。
当然俺は気が付いたが、あえてそれ以上のアクションはしなかった。
だって、派手僧がそういう風にしたかったんだろうからな。
「まぁでも、どうやらトロン君の言っていることに間違いはないようですし。ソレが食指を動かさなくなったのは事実でしょう――――――これは報告案件ですね。学会へ報告しなければ、僕の立場的に危うい」
「へぇ。そんなにお前、弱い立場なのか?」
「というか、少々無理を言ってこうさせてもらっているので、何か重大な発見があった時に報告しないと、その時点で僕のやってきたことは無に帰すわけです」
「それはまたなんとも危うい」
「分かってますよ。僕としては、資料の為に学会に入っただけなので、もう用はないのですけど。契約書にどうやら悪辣なことが書いてあったようで。トロン君は気を付けてくださいね」
「えぇ………………」
それを言われたところで、俺にどうしろと。
ただただ怖い話を聞いたなあ、というだけだ。
みんなも、詐欺には気を付けような。
「いやぁ、お恥ずかしい――――――」
「――――――」
そこから先、派手僧は何か言っていた。
「――――――――――――」
シンミも相槌を打っていたような気がするし、そうでないような気もする。
「――――――――――――――――――」
申し訳ないが、正直あまり聞いていなかった。
「――――――――――――――――――――――――」
何故か?
「――――――――――――――――――――――――――――――」
決まっている。
《トロ、いますぐかえってきて――――――!》
奏からの、緊急の連絡があったからだ。
「すまない、今日はもう帰る、お邪魔したッ」
「――――――え、ちょっとトロ君ー!?」
「――――――トロン君、面白い人ですね………………」
椅子から跳ね上がるように立ち上がり、部屋を後にした。
そのままの勢いで建物を出て、《高風》の妖術まで動員してスピードをなんとしても上げる。
奏のそばにいて守る、なんて約束しておきながら、もうこんな――――――!
「ハァッ、ヅ、アァ」
クソ、クソ、クソッ!
間に、合え――――――――――――――――――ッッッ!!!
[***]
「行ってしまいましたね」
「まー、トロ君はトロ君で頑固だしー。この前の一件で、奏ちゃんに関してはもっと過敏になってるみたいだねー」
「なるほど。守る者があるのは良いことではありますが………………まぁトロン君に対してする心配ではないですね」
「トロ君、地味に強くなってるからねー。私達や【戦神両翼】とか、あの怪盗団の面子に比べるのはかわいそうだけどねー」
「おや。話題の怪盗団のことですか? そこまで実力者が集まっているとは………………」
「こないだ、探偵事務所に依頼来てさー。金持ちのボンボンの護衛しろ、って言われたんだけどねー、そん時ー、トイちゃんは交戦したらしいよー?」
「なんと。彼女でも取り逃がした、と?」
「うーんー、そーみたいだねー。凍らせたはいいけどー、バリバリ破って逃げたんだってー」
「《超氷》持ちの彼女の氷を、抜けた? ………………これはいよいよ接触せざるを得ませんか………………」
「? ししょー何か言ったー? 飲み終わったんならー、新しいの淹れてこようかー?」
「あぁ、お願いしま――――――いえ、止めておきましょう。たった今用事が出来た所です」
「あ、そー? じゃあ片付けちゃうねー………………あ、今度の訓練、いつー?」
「そうですね………………では、明日で。トロン君に言い忘れていたこともありましたので、明日呼んで頂けると助かります」
「うぃーっすー。あ、でも明日は多分ー、トロ君あの子連れてくるかなぁ………………」
「? なんです?」
「………………いや、こっちの話ー」
<>(^・.・^)<テンポを重視した結果入れられませんでしたが
<>(^・.・^)<契約した妖怪と主人は、妖怪同士の結びのような連絡手段を持ちます
<>(^・.・^)<解説は追々本編でやるかな?
<>(^・.・^)<あ、その内、用語集とかに《原始怪異》、透鳳凰、界穴樹あたりを追加します
<>(^・.・^)<うん、まぁその内………ね?