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召喚ノススメ  作者: EDA
第二章 海と魔術(前)
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海へ

「やっほー! お待たせ! さあ出発だよ!」


 翌日の朝七時、約束通りに、七星はやってきた。


 またこの前みたいに馬鹿でかいハイヤーでお出迎えかと思いきや、今回は何と貸切のマイクロバスだった。


 総勢八名だというのに、その五倍は乗車できそうなサイズだ。その窓から半身を乗りだした七星が、俺たち三人にぶんぶんと手を振ってくる。


「さ、乗って乗って! ミナトくんたちが最後なんだから! ……あれあれ? ずいぶん大荷物だね! 手ぶらでいいって言ったのに!」


「泊まりがけなんだから、着替えぐらいは必要だろうがよ」


 三人ぶんの荷物をナギのトランク・ケースに詰めこんできたのだ。横文字ででかでかと「ラッキースター」とペイントされたバスの脇腹にそいつを収納してから、俺はナギやトラメとともに、バスのステップから車内にあがりこんだ。


「そんなの、むこうで買ってあげたのに! まあいいや。さあ、ずずいと奥へ! コレはうちの系列会社のバスだから、なんにも遠慮はいらないよぉ!」


 と、さりげなく俺のほうに寄ってきて、七星がそっと耳打ちしてくる。


「きちんと結界も張ってきたから、外部はもちろん運転手の耳も気にしなくて大丈夫! いたれりつくせりでしょお?」


「まったく、ぬかりのないやつだな。……よお、宇都見」


「やあ、磯月」


 幻獣娘たちとは別の次元で何事にも動じない我が悪友が、ふだん通りにふにゃりと笑いかけてくる。


 その隣りに腰かけていた娘がいくぶんあわてた様子で立ち上がり、ぺこりと頭を下げてくる姿を見て、俺は思わず目を丸くしてしまった。


「あれ……お前、八雲か?」


「お、おはようございます。あの、この間は、どうもありがとうございました」


 胸のあたりまでのばしていた黒髪が、肩のあたりでバッサリと切りそろえられている。


 おまけにメガネをかけておらず、ちょっと小洒落た白のワンピースなどを着ていて、八雲は、何だか別人みたいだった。


「もなみの下で働くからには、身だしなみにも気を使ってもらわなきゃいけないからね! どう? なかなか似合ってるでしょ?」


 似合っている。


 本当は黒のほうがさらに似合いそうだが、夏だし、このほうが無難だろう。


 嫌味でないていどにフリルのついたノースリーブのワンピースで、すらりとのびた腕が、やけにまぶしい。


「ゴスロリ・ドレスもいいけどねぇ、あれじゃああまりにも目立ちすぎるから! ふだんはもっと活動的な服を着てもらうけど、今日はバカンスだし、まあこんなもんでしょ」


 かく言う七星は、いつも通りのハンチングに吊りズボンである。


 八雲はむきだしの上腕や短くなった髪を落ち着かなげにいじくりながら、何だか赤い顔をしていた。


「うわ、美人さんの本領発揮だね! ……お兄ちゃん、やっぱりウハウハじゃん」


 と、すかさずナギが首をつっこんできて、八雲をさらに赤くさせる。


「うるせェな。八雲が美人なのは俺のせいじゃないだろ」


 俺が適当に返事をすると、今度は逆側から七星が「うぬ!」とおかしな声をあげてきた。


 何なんだよ、お前らは。


「ちょいと聞き捨てならないねぇ。ミナトくん、そんなさらりともなみの嫉妬心をかきたてないでくれる? ミワちゃんはもなみの手下になったんだから、パワハラもセクハラも思いのままなんだよ! ミワちゃんがもなみの理不尽な嫉妬の炎に灼き殺されちゃったら、かわいそうでしょお?」


「そう思うなら、お前が自制しろ!」


「それができないから、ミナトくんに警告してるんじゃん!」


 そんな阿呆なやりとりに、八雲はおろおろと視線をさまよわせている。


 お前がすべてをゆだねた大将様はこういう御仁なんだ。今さら後悔したって遅いぞ、八雲。


「……手下になったってどういうこと? あなたたち、オカルト・サークルの仲間じゃなかったの?」


 ナギがいぶかしそうに口をはさみ、七星はくるりとそちらを振り返る。


「おお、我が宿敵の妹ちゃん! 今日もとっても愛くるしいね! ……あのね、ミワちゃんは学校を辞めて、うちの系列会社の社員になったの。どうしても実家を出たいっていうから、もなみのコネで居住施設もばっちりの会社に入社させてあげたのさぁ」


 ……という名目で、八雲の身柄をあずかったわけか。


 俺はあらためて八雲のほうを見やり、それに気づいた八雲がにこりと弱々しいながらも迷いのない顔で微笑んだ。


「ま、つもる話は道中で! ざっと三時間の長旅なんだから、すみやかに出発いたしましょう! いざ、出陣!」


 バスが、ゆるやかに発進しはじめる。


 座席は三人がけだったので、俺とナギとトラメが並んで腰を降ろそうとすると、七星がまたわめきだした。


「ちょっと! そんなヒネリのない座り方をしてたら、全然親睦が深まらないでしょお? 三人は一緒に暮らしてるんだから、それぞれバラけて他の人と座りなさい!」


 そんなことを言ったって、すでに八雲はラケルタおよび宇都見と仲良く並んでいるし、七星はアクラブの隣りに座っていたのだろう。


 これがもっとも無難な席順だということは、火を見るより明らかだ。


「ひのふのみの……うん、全部で八人だね! よし! あみだくじを作って、四つのペアに別れよう! 最初の一時間はそのペアの相手としか喋っちゃダメなの! うふふ。面白そう!」


 いや、待て待て。俺やお前などは誰と当たってもそんなに困ることはなさそうだが、ほとんどの相手と交流のないナギや、ほとんどの相手に関心のないトラメなどはどうするのだ。ナギとアクラブがペアになったりしたら、目も当てられないぞ、本当に。


 一同を代表して、俺は猛烈に反対意見を申し述べた。


 んが、七星のやつは鼻歌まじりにあみだくじを作りはじめ、馬耳東風の四文字熟語を見事なまでに体現してくれやがった。


「はい、決定! もなみはトラメちゃんとだぁ! どうぞよろしく、トラメちゃん!」


 俺の相手は、ラケルタだった。


 おそらく最上級にコミュニケーションし難いアクラブは、気の毒な八雲が受け持つことになり。


 良かったのか悪かったのか、ナギの相手は、旧知の仲たる宇都見と相成った。


「あはは……よろしくね、ナギちゃん」


「……」


 ナギの顔が四日前と同じぐらいの不機嫌な形相に変貌したことは、言うまでもない。


 これから一時間、罵言を吐き続けることになるナギと、それを浴び続けることになる宇都見。より不幸なのはどっちなんだろうな、まったく。


「……ほんとに、とんでもない女だな」


 広い車内の四隅に、それぞれのペアが配置されることになった。


 右部後方に陣取ることになった俺は、腰を降ろしながらラケルタに苦笑をさしむける。


「あんな女と行動をともにするんじゃ、お前たちも苦労が尽きないだろ。本当に後悔してないのか、ラケルタ?」


「……ウチとミワが生きのびるには、ベストの選択だったと思う。後悔してないかって言われたらムズカしいトコだけどネ」


 答えながら、ラケルタは心配そうに左部前方をうかがっている。


 そこに陣取っているのは、もちろん八雲とアクラブだ。


 確かに八雲には気の毒だが、今となっては同じ七星ファミリーの一員なんだから、そこまで心配することはないだろう。


「あれ、ラケルタ、その右手……たった三日会わないうちに、もう治ったのかよ?」


「ううん。これは、ニセモノだヨ。モナミが用意してくれたの。ウチはただでさえ目立つ格好をしてるから、ちょっとでも目立たないようにってサ」


 と、ラケルタは黒いレースの手袋をはめた右手を少し持ち上げる。


 へえ、義手とは思えない精巧さだ。……というか、そんなゴージャスなドレスを魔力で生み出せるんだから、義手だって自分で作れるだろうに。


「作れないヨ。このドレスも、またミワからのプレゼント。ウチはまだ全然力が回復してないんだヨ、ミナト。……正直に言って、ちょっとした契約をかなえる力さえ残ってないと思う。もしもミワが何か契約の言葉を口にしたら、ウチの現し身はコッパミジンに吹き飛んじゃうだろうネ」


「……そうなのか」


「うん。だからウチらは、誰かに守ってもらうしかないのサ。少なくとも、ウチの力が完全に回復するまではネ。あのモナミっていう人間と知り合えたのは、ホントにラッキーだったと思う」


 舌が治って会話に不自由はなさそうだが、確かにラケルタは相変わらずはかなげな雰囲気をまとわりつかせていた。


 なまじ優美な容姿をしているもんだから、何だか本当にゴシック世界のお姫様みたいだ。


 そんなビジュアルであるにも関わらず、口が悪くて好戦的、というのがこいつの特性であるはずなので、そんな憂いげな姿を見せつけられてしまうと、どうにも気分が落ち着かない。


「……だけどサ、それもこれも、最初にミナトとトラメがミワを許してくれたからだよネ。ホントに感謝してるヨ、ミナト。アンタたちがミワとウチにしてくれたことを、ウチは、絶対に忘れない」


「やめろよ、らしくねェなぁ。それに、お礼だのおわびだのってのはもうたくさんだって、この前もゲーセンで言っただろ? お前らが無事でいて、きちんとこっち側に戻ってきてくれたんだから、俺には何の不満もねぇよ」


 俺がそう答えると、ラケルタは夜の湖みたいに静かな藍色の瞳をむけてきた。


「ミナト。アンタは、不思議な人間だネ。アンタはトラメがものすごく大事なのに、そんなトラメを危ない目に合わせたミワを、あんな風に許してくれた。ウチには、とうていマネできないヨ。ウチがミナトの立場だったら、たぶん、裏切った相手をその場で八つ裂きにしてたと思う」


「おいおい。いくら二人きりだって、あんまりこっぱずかしいことや物騒なことを言うな」


「だって、そうでショ? 最初はトラメのことなんてどうでもいいのかなって感じだったのに、いつのまにか、こんなに仲良くなってるんだモン。トラメの封印が解けたときなんて、ウチは言葉も出ないぐらい驚いちゃったヨ」


「やめろったら! あのときの俺は、その、ちょっとばっかり血迷ってたんだよ。誰かにあやつられてたのかもしれない。できればあんな光景はお前の記憶から抹消してくれ!」


「……ヘンなの。アンタもトラメも、ホントにアマノジャクだネッ!」


 いくぶん以前の小生意気さを取り戻して、ラケルタがクククと笑う。


「だけどネ、ミナト。ウチらと契約者は、魂の根っこで結び合わされてるんダ。人間の側にはそれを感じ取る力がまったくないみたいだけど、ウチらには、わかる。契約者の魂がどんな色をしているか、その本質がどんなもんなのか、ウチらには外見を目で見るのと同じぐらいの確かさで、その内面を視ることができるんだヨ」


「……悪口や不満もつつぬけだ、とか言うつもりじゃねェだろうなぁ?」


「そんなチッポケな話じゃないヨ! でも……だからこそ、ウチはミワが大好きなんダ。ミワが、魂の奥底からウチの存在を受け容れて、大事に想ってくれてることがわかるから」


 と、ラケルタはいかにも誇らしげに言って、笑った。


「だから、ミナトがホントはトラメの存在をどんな風に感じ、想ってるか、ウチには想像することしかできないけど、トラメにはちゃんと感じ取れてる。ま、アイツもヘンクツだから、きっとそんなコトは口に出したりしないだろうけどネ」


 口に出さなくて幸いだ。実際問題、無意識下で俺がトラメのことをどんな風に感じてるかなんて、俺自身にもわからないんだからな。


 あいつがいつまでたってもぶっきらぼうで無愛想なのは、その不可思議な感知能力とやらで俺という人間のしょうもなさをしっかり感じ取ってるからかもしれないぜ、本当に。


「ま、そんなのは二人の問題だからいいけどサ。ウチはとにかく、ミナトとトラメに感謝してるから、二人と敵対するような関係にはなりたくないんダ。……それに、トラメとは誓約を交わしたからネ。もうちょい復活しないと何の役にも立てないけど、いつかウチは、トラメのために、生命を張るヨ」


 ああ。そんな話もあったっけな。


 それを真似して、俺も恩人たる七星に、いつか困ったことがあったら俺が生命を張ってやる、と約束をしたのだ。


 だけど、今となっては、そんな約束などどうでもいい。


 俺と七星は、恥ずかしながらオトモダチになってしまったのだから。そんな誓約があろうとなかろうと、俺はいつだって七星の窮地を救ってやる所存だ。……俺個人の力なんて、魔術師や幻獣の前では子猫同然ぐらいの役にしか立たないんだろうけどな。


 それに、ラケルタも。俺たちと敵対したくない、という、その言葉だけで俺には十分だ。


 いまいち性根の知れない幻獣たちの中で、やっぱりこいつだけは群をぬいて人間ぽい思考回路や感性を有している、と俺は思わずにはいられなかった。


「ま、重苦しい話はそれぐらいでいいだろ。今この車内でこんな真面目くさった会話をしているのは俺たちだけだと思うぜ、ラケルタ?」


 一列だけ前にずれてあまり姿の見えない左部後方からは、「トラメちゃんも海嫌いなの? ちぇーっ! せっかく可愛い水着を用意したのに!」というわめき声が聞こえてくる。


 トラメの水着姿?……いやぁ、まったく想像つかんな。


 かつて七星に着させられていたワンピースは意外なぐらい似合っていたが、トラメの女らしい姿なんて気分が落ち着かないから、是非とも自粛していただきたい。


 ナギのやつも最初はえらく可愛らしいルームウェアを選ぼうとしていたが、俺が断固として反対したために、今の甚平姿になったのだぞ、実のところは。


 そういえば、あの夜以降は一度としてトラメを隠り世に帰していないため、全裸姿に悩まされることもなくなった……と余計な方向にまで考えが進みそうになったので、俺は雑念を振り払い、隣りのラケルタに集中することにした。


「そういえば、トラメのやつは海が嫌いだって話なんだけど、ラケルタ、お前は平気なのか?」


「うん? さあ? 現し世の海なんて遠くから眺めたことしかないケド。ウチの属性は『水』だから、海とか湖は故郷みたいなモンなんだヨ」


「属性?」


「うん。隠り世の住人ってのは、、地、水、火、風の四つのうちから、二つの属性を備えもってるのサ。もともと隠り世にはその四種類の精霊しかいなかったんだけど、やがて血が交わり、今みたいに混沌とした世界になった、って昔話が伝わってるんだヨ。コカトリスの『苗床』は水の精霊王ウンディーネ、『種子』は風の精霊王ネヌファ。で、属性は『苗床』の血を強く受け継ぐから、ウチの属性は『水』になるってわけ」


「なるほど。それじゃあグーロのルーツは『水』じゃない、ってわけだな」


「海がキライならそうなんだろうねェ。治癒の術が得意なのは、たいてい『地』か『風』だヨ……」


 言いながら、ラケルタは小さくあくびをかみ殺した。


 隠り世の住人でもあくびをするのか、と感心していると、ラケルタが申し訳なさそうに俺を見つめてくる。


「ゴメン、ミナト、眠たくなってきちゃった。最近なんだか、ムショーに眠くてサ……」


「ああ、トラメのやつもずいぶん眠るようになっちまったよ。二人とも無茶をしたから、身体が休息を求めてるんだろ。むこうで元気に遊べるように、ゆっくり休んどきな」


「ミナトは、ホントに優しいネ。……ね、こんなコトを聞かされてもミナトはちっとも嬉しくないんだろうケド、ミワはさ、あのとき、自分とウチの安全だけを考えて、魔術結社なんかに入団したわけじゃないんだヨ……」


「ん、何だよ? 別にもういいんだぜ、そんなことは」


「ううん。やっぱりミナトには話しておく。……ミワはね、あのアルミラージの主人に脅されたんダ。このままミナトがトラメを引き渡さないようだったら、力づくで粛清することになる。ただし、ミワがその手でトラメを始末するなら、ミナトは危険な存在じゃなくなるから、今後の安全を保証してやる、ってサ。……ミワは、自分と、ウチと、それからミナトを守るために、トラメひとりを裏切ったんだヨ」


 俺は、即座に言葉を返すことができなかった。


 まぶたを閉ざし、ぐったりと座席にもたれかかりながら、ラケルタは少し悲しそうに笑っている。


「そんなコトしたってミナトが喜ぶワケないじゃないかッてウチもメチャクチャ怒ったんだけどネ。ミナトに恨まれたってイイ。それでミナトが助かるならって……バカだよネ。バカだし、弱いし、ぶきっちょすぎるんだヨ。だから、ウチは、ミワを守ってあげたいんダ……ミワがもう二度とバカなマネをして、自分や他人を苦しめないように……」


 そこでついに力つき、ラケルタはまるで失神するように眠りへと落ちてしまった。


 そんな心配は無用だぜ、と、俺は心中でラケルタに呼びかけてやる。


 俺はもう八雲のことを恨んだりはしていない。お前と、おまけに七星までもがそばにいるのだから、八雲はもう二度と馬鹿な真似をしないで済むだろう。


 そのためだったら、俺だっていくらでも協力してやるさ。どんなに馬鹿でも、弱くても、やっぱり八雲だって俺たちの仲間なんだからな。


 そのまま約束の一時間が過ぎるまで、ラケルタは昏々と眠り続けた。


 残りの二時間のうち、もう一時間はまたペアを組みなおしてのトーク・タイムに強制参加させられたが、最後の一時間だけは各自に自由が与えられた。


 ちなみに二回目の組み合わせは、俺と八雲、ラケルタとアクラブ、トラメと宇都見……そして天敵たるナギと七星、という結果に成り果てて、やっぱりこいつは得よりも損の多すぎるお遊びだな、という結論を得ることになった。


 ラケルタは眠り、アクラブは無言。トラメと宇都見は相変わらずの一方通行。ナギと七星は車内中に響きわたる大声で舌戦を繰り広げ。俺は、八雲と、静かに語った。


「もなみさんの用意してくれた代理人の方が両親を説得してくれて、何とか家を出ることができました。もなみさんが管理しているダミー会社に入社して、そこで寮生活を送っている、っていう体裁なんですけど、実際は、もなみさんの隠れ家で魔術の勉強をしています」


 そう語る八雲は、今まで見た中で一番すがすがしげな顔をしていた。


 髪が短く、メガネを外した八雲は、本当に別人みたいだった。だけどそれは悪い変化ではない、と思うことができたので、俺もひとまずは安心だった。


 そうこうしているうちにも、マイクロバスは高速道路を走りぬけ、一路、海へと突き進んでいく。


 バスが目的地に到着したのは、七星が最初に宣言した通り、きっちり三時間が経過してからだった。


「うわぁ、海だぁ!」


 窓から水平線が顔をのぞかせるや、七星やナギがはしゃぎきったような声をあげる。


 ひさかたぶりに見る海は、青く、ひたすらに広大だった。


 トラメはひとり、決して窓の外を見ようとはしなかった。

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