プロローグ
アンティークなベッドの上、清潔そうなシーツと毛布にくるまれて、トラメは昏々と眠り続けていた。
黄色い瞳を、まぶたに隠し。
大言ばかりを吐く口を閉ざし。
まるで赤ん坊みたいに無垢な表情で……。
とても安らかな寝顔だ。
しかし、どれだけ見つめていても、その身体は毛筋ひとつ動かない。
トラメは、呼吸をしていなかったし。
トラメの心臓は、停止していたし。
トラメの身体は、氷のように冷たかった。
トラメは、生きていないのだ。
死んではいない、という。
しかし、生きてもいない。
トラメの時間は、あの瞬間から完全に停まってしまっていた。
長い睫毛が、白い頬に影を落としている。
くせのある金褐色の髪が、ふわりとシーツにひろがっている。
今にもその目がぱちりと開いて、不機嫌そうに俺の顔をにらみつけてきそうなのに……しかし、そんな奇跡は起こらない。
どれだけ見つめても、どれだけ時間が過ぎ去っても。トラメは、目覚めようとしなかった。
トラメの魂は、封印されてしまったのだ。
たった一本の、小さな短剣による魔術によって。
俺は、小さく息をつき、壁にかかった時計を見やる。
もうすぐ日付が変わりそうだ。
昨晩の凶行……八雲美羽の裏切りによってトラメの魂が封印されてしまってから、早くも二十四時間もの時が過ぎ去っていこうとしていた。