表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚ノススメ  作者: EDA
第二章
41/141

刺客②

「とりあえず、一番近い交番からパトカーを回してくれるそうです。……八雲さんは、どこにいるのかなぁ?」


 通話を終えた宇都見のほうに、浦島氏が力なく目線をむける。


「その八雲って人も僕みたいに監禁されてるとしたら、二階のトイレかもしれないですね。僕がこんなところにつながれてるのは、おそらく部屋を汚さないように、っていうのと、飲み水に困らないように、っていう、彼らなりの配慮なんでしょうから」


「……見下げ果てたゲス野郎ですね」


 もうこれ以上、じっとしてなどはいられなかった。俺は立ち上がり、階段はどこだと暗い回廊の左右に視線を飛ばしまくる。


「浦島さん。ボクたちはちょっと屋敷の中を探ってきます。もうすぐ警察も来てくれるはずですから、あと少しだけ辛抱していてください」


「ありがとう。キミたちも無茶はしないように。……相手はどうも、まっとうな連中じゃないみたいですから」


 浦島氏はすごく心配そうな目つきをしていたが、俺たちを止める気力などは残っていないようだった。


 どのみち、止まる気もないが。


「階段は、そっちの通路の突き当りですよ」


 俺はうなずき、早足で歩きだす。と、あわてて追いついてきた宇都見が、小声で言った。


「磯月。警察が来ちゃう前に、口裏だけは合わせておこうよ」


「……口裏?」


「とりあえず、ボクと八雲さんはもともと知り合いで、謎の二人組に拉致される姿をたまたま見かけて、ここに踏みこんだっていう設定にしておこう。ボクも八雲さんもオカルト・マニアだから、もともと知り合いでも不自然ではないでしょ。で、磯月はボクに頼まれて一緒についてきただけで、浦島さんとも八雲さんとも初対面、ってことにしてさ。……それで、後のことはボクが適当にごまかしてみせるから」


「適当って、どうする気だ? トラメやラケルタのことはどうするつもりだよ?」


 いくぶん八つ当たり気味に荒っぽく応じると、宇都見は困ったように眉を下げる。


「もちろんあの二人のことはトップシークレットあつかいで。できればあの二人にも警察の前には姿を現さないように、あらかじめ伝えておきたいところだけど……うーん、さすがにそんな余裕はないかなぁ」


「それがわかってて、どうして警察なんかを呼んだんだ?」


 俺の怒声に、宇都見はいっそう悲しそうな顔をつくる。


「磯月やトラメさんたちに迷惑なことをしたっていう自覚はしてるよ。でも、ごめん、ボクも怖くなっちゃってさ……だって、住所録が奪われて、八雲さんが襲われたってことは、たぶん、次はボクの番でしょ? この浦島さんの屋敷を拠点にって考えたら、石版を落札した七人のうち、一番近所に住んでるのは八雲さんで、その次がボクなんだから」


「……」


「ボク自身は、別にいいんだ。磯月のそばにいれば、きっとトラメさんたちが守ってくれるだろうし、トラメさんたちで守りきれないなら、警察なんかには何もできないと思う」


「だったら、どうして……」


「うん。だけど、たとえばボクが磯月の家に緊急避難したりしたら、そのときはボクの家族が、浦島さんと同じ目に合っちゃいそうじゃない?」


 ようやくたどりついた階段の一段目に足をかけた状態で、俺は、宇都見は振り返った。


 宇都見は、ものすごく申し訳なさそうな目で俺を見ている。


「うちの家族にはトラメさんたちのことなんて話せないし、話したって信用してくれないだろうし。だったら、警察に守ってもらうしかないかなって……今日この場で決着がつけばいいけど、もし今この屋敷にその魔術師とかいう連中がいなかったら、それも無理だし……」


「……わかったよ」


 どうやら俺も頭に血が昇ってしまっていたらしい。自分の都合しか考えていなかったのは、宇都見じゃなく、俺のほうだった。


「それに、トラメさんたちは、磯月たちの言葉ひとつで現し世と隠り世を行ったり来たりできるんでしょ? それだったら、最悪、トラメさんたちが警察に見つかるような羽目になっちゃっても、ドロンと消えてもらえばいいのかな、って。都合のいい話で申し訳ないけど……」


「だから、わかったって。お前のオフクロさんまで危険な目に合わせるわけにはいかねェからな」


 もしかしたら、こうしている間にも、その魔術師とかいうふざけた二人組は、宇都見の家にむかっているのかもしれないのだ。


 宇都見が心配になるのも当たり前すぎる。心配しないほうが馬鹿だ。


 つまり、俺が馬鹿なのだ。


(チクショウめ……こいつはある意味、前回よりもタチの悪い相手かもしれねェな)


 そんなことを考えながら、俺は階段に照明を灯した。


 あれだけ大騒ぎをして、おまけに警察まで呼んでしまったのだから、今さら身を隠したって意味はないだろう。


 これで俺たちの侵入や警察の介入に気づいたゲスどもが逃げだしたところで、八雲を連れていれば、ラケルタが察知してくれるはずだ。今だったら、ラケルタがそいつらを石にしちまっても、俺は文句を言う気にはなれないだろう、たぶん。


「ん……?」


 階段を昇りきると、突き当たりの扉から、また光がもれていた。


 あの部屋は、たしか……


「……ねえ、あそこって、この前、浦島さんがギルタブルルに襲われた部屋じゃなかったっけ?」


 やっぱりそうか。俺の記憶に間違いはなかった。


 しかし、だとすると……


「あの部屋って、今トラメさんたちがいる場所からも見える位置にあったよねぇ」


 俺の心中を、宇都見のやつが代弁してくれる。


 そうなのだ。かつて俺たちはあの部屋の窓から、雑木林にひそむギルタブルルの影を目視した。ということは、さっき俺たちがいた場所から、この部屋の窓も見えていたはずだが……


 しかし、そのときに、明かりの灯っている窓などは、なかった。


 つまり、この数分以内の間に、あの部屋の明かりが灯された、ということだ。


「……露骨に誘ってやがるわけだな」


 いい度胸だ。俺は、呼吸を整える。


「宇都見。やばくなったら、すぐ退散だぞ? ……その前に、一発ぐらいはこの手でぶん殴ってやりたいけどな」


「幻獣をひっぱたける磯月だったら、それも夢じゃないかもね」


 宇都見は笑い、うなずいた。この状況で笑っていられるとは、こいつもこいつでなかなか大した神経だ。危機管理能力が欠落しているだけかもしれないが。


「……行くぜ」


 しかし、相手も二人組と聞いていたので、ずらりと並んだ左右のドアからその片割れが襲いかかってくるかもしれない。


 俺たちは、はやる気持ちをなだめつつ、最大限に用心をしながら、足を進めた。


 そして、ついにその突き当たりにまでたどりつき。


 一気に、ドアを引き開けた。


「……まちかねたぞ、じゃきょうとども」


 おかしなイントネーションの声が響く。


 それと同時に、黒い何かが俺の鼻先に襲いかかってきた。


「うわっ!」


 ドアを開けたのが宇都見だったら、たぶん一発で撃沈していただろう。かろうじて身をかがめることに成功した俺の頭の上を、黒い何かが物凄い勢いで通過していく。


「八雲さん!」


 宇都見が大きな声をあげる。


 八雲は、確かにそこにいた。


 しかし、俺がそれを認識するには、数秒の猶予が必要だった。


 なんと、八雲は、こともあろうに、ラケルタにも負けない見事なゴスロリの装束を身にまとっていたのだ。


 不必要にヒラヒラのついたフリルだらけのドレス姿で、八雲は、そこにいた。


 ラケルタとおそろいのヘッドドレスをつけ。


 青白い顔に、ばっちりとメイクをほどこし。


 まるでふだんとは別人みたいに豪奢な姿で、八雲は……椅子に、縛りつけられていた。


「手前……いったい、何者だ!」


 ほとんど無意識のうちに、俺は、怒声をあげていた。


 無残に拘束された八雲のかたわらで、そいつは、無表情に黒い鞭を振りかざした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ