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召喚ノススメ  作者: EDA
召喚ノススメ Ⅱ ~灰色の神子と精霊殺し~
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プロローグ

 俺は、何もかもを失ってしまった。


 トラメも、八雲も、ラケルタも……

 一ヶ月前に得たばかりのそいつらを、俺は、たった一晩で失ってしまったのだ。


 冷たく、動かなくなってしまったトラメの身体を、俺は、もう一度、抱きすくめる。


 あの、いつも人を小馬鹿にしていたような黄色い目は、力なくまぶたの裏側に隠され。

 悪態ばかりついていた口は、ゆるやかに閉ざされて、もう動かない。

 その白い面は、まるで赤ん坊の寝顔みたいに、幼く、そして、安らかにさえ見えた。


「愚かだな。……どんなに嘆き悲しんでも、失われた生命はもう戻らん」


 冷淡な女の声音が、俺の心を刺した。

 まるでお得意の毒針みたいに、その言葉は、俺の弱った心を蝕む。


「そしてまた、使役していた幻獣を失ったからといって、そこまで嘆き悲しむ人間も珍しい。……そんなにそいつが、大事な存在だったのか?」


「……悪いかよ?」


 殺されたって、かまいはしない。

 俺は、どうしても震えの止まらない声で、怒鳴り返してやった。


「こいつが大事で、悪いのかよ? 人間だの幻獣だの、そんなの関係ねェ! こいつは……」


 俺にとって、かけがえのない存在だったのだ。

 失ってしまった今だからこそ、俺にはそれが、痛いほどよくわかる。


 どれほどいがみあいばかりだったとしても、たとえこの先、本当の意味ではわかりあうことなどできなかったとしても……


 トラメは、かけがえのない存在だったのだ。


「べつだん、悪いなどとは言っていない。ただ珍しいと言っただけだ。いきりたつな、イソツキミナトよ」


 赤い髪と赤い目をもつ黒衣の人間ならざる女は、たいして関心もなさそうにそう言い捨てた。


 その、女吸血鬼みたいに不吉な姿を、俺は、憎悪をこめてにらみすえてやる。


「お前は、どうして生きてやがる……お前は、一ヶ月前に、トラメたちに退治されたはずじゃなかったのか? 百年の眠りとやらはどうしたんだよ?」


「さて……何のことだか、わからんな」


 赤い唇を吊りあげて、女はふてぶてしく笑う。


 俺は、懐に隠し持っていた純銀の短剣を抜き放った。


 こんなちっぽけな武器で、本当に幻獣を傷つけることなどできるのか……そんなことは、わからない。


 だけど、この女が敵ならば、俺が闘うしか、ないのだ。


 トラメは。


 トラメはもう、闘うことができなくなってしまったのだから。



 女……ギルタブルルは、炎のような髪とマントのような黒衣を夜の風になびかせながら、ただ傲然と笑い続けるばかりだった。

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