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召喚ノススメ  作者: EDA
召喚ノススメ Ⅰ
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プロローグ

~はじめに~


当作品は今まで「Ⅰ」から「Ⅵ」までの6編を別作品として投稿していましたが、作品一覧のページが煩雑な感じになってきてしまったため、ひとつにまとめてしまうことにしました。

なお、現在は「Ⅵ」の途中でいったんお休みをいただき、更新がストップしている状態です。いずれ先を書き進める意志はありますが更新再開の期日は定まっていませんので、何卒ご了承をお願いいたします。

「磯月! ものすっごいモノを手に入れたよっ!」


 月曜日の朝。教室の中に飛びこんでくるなり、宇都見章太は喜色満面でそう絶叫した。


 クラスメートたちはクスクスと笑い、俺は深々と溜息をつく。


 二年生に進級して、はや三ヶ月。そろそろ宇都見の奇行もクラスの風物詩として定着してきたようだ。


 ふだんは植物のように無害でおとなしい宇都見が、ときたま発作にでも見舞われたように大爆発する。


 で、そのたんびに俺が巻き込まれることになるのだ、コンチクショウめ。


 ぼっちゃん刈りに、銀ぶちメガネ。かのネコ型ロボットの相棒がまっすぐ高校生に成長したらこんな感じかな、というサエないルックスに、細っこい手足と、のびない身長。


 顔立ち自体はけっこう可愛らしいのに、これじゃあせいぜいショタ好きのお姉さまぐらいにしか相手にされないだろう。


 そして、そんな物好きがいたとしても、ものの数分も喋ればゲンナリして、足早に立ち去ってしまうに違いない。


 無害で善良そうな外見からは想像もつかないぐらい、こいつは頭のネジが数本ふっとんでしまっているのだ。


「でっけェ声で騒ぐなよ。宇都見、どうしてお前は週明けの朝っぱらから、そんなに元気いっぱいなんだ?」


 机に頬づえをついたまま俺が応じると、宇都見は自分の席に通学バッグを放り捨て、にやにやと笑いながらにじり寄ってくる。


 気色悪いこと、この上ない。


「だって、すごいんだよ? 本当は金曜日に速攻で連絡したかったんだけど、きちんと準備が整ってからにしようと思いなおして、今日までガマンしてたんだ! まだ完璧ではないんだけど、放課後までには仕上げてみせるから!」


「あのなぁ……いいから落ち着けって。話が全然見えねェよ」


「話を聞いたら、磯月だってそんなクールにはかまえてはいられないよ! 本っ当に、ものすっごいんだから!」


 駄目だ。今回はいつも以上にメーターを振りきってしまっている。


 ふだんは内気なハムスターのようにおとなしいやつなのに、いったんスイッチが入るともう歯止めがきかないのだ。


 誰かバケツに水でも汲んできて、こいつの頭にぶっかけてはくれないだろうか。


 寝不足なのか何なのか、メガネの奥の目が据わっていて、ちょっとおっかない。


「わかったよ。今回は何だ? UFOか? UMAか? 超古代文明の遺跡発掘? それともワームホールでも発見したか?」


「そんなんじゃないよ! 今回は……幻獣召喚のアイテムを手に入れたんだ!」


 ささやき声でがなりたてる、というお得意のスキルを発揮して、宇都見のやつは俺の耳もとでそうのたまわった。


 えーと。

 ゲンジューショーカンって何だ?


「知らないの? 霊的な存在を現実世界に呼びだして使役する、西洋儀式魔術の秘法だよ! もっとも繁栄をきわめたのは十九世紀のイギリスで、そもそもは黄金の夜明け団と呼ばれる秘密の魔術結社が……」


「ウンチクはいい。そんなごたいそうなシロモノを、いったいどうやって手に入れたってんだよ。またあのあやしげな骨董屋か?」


「ううん。ネットのオークション!」


 数秒間の沈黙ののち、俺はもう一度深々と溜息をついてみせた。


「あのな……いいかげんに学習しろよ! わけのわからないガラクタにホイホイ大金をつぎこみやがって! 今までお前がドブに捨ててきた金をかき集めたら、きっと何十万人もの飢えた子どもたちを救えると思うぞ?」


「そんなことしたって何にも面白くないじゃない。ボクのこづかいを何に使おうとボクの勝手でしょ?」


 腕を組んで、唇をとがらせる。


 可愛い女の子ならともかく、野郎にすねられても憎たらしいだけだ。


「……でね、それは幻獣召喚の秘法が記された石版なんだけど。何せアラビア文字で書かれてるもんだから、解読に時間がかかっちゃってさぁ。それでもこの土日で九割がたは解読できたから、放課後までには終わらせてみせるよ! そういうわけで、今晩は予定を空けといてね?」


「あ、おい、宇都見……」


 俺の呼び声もむなしく、宇都見は自分の席に舞い戻り、さっそくぶあついアラビア語の辞書とあわただしく格闘しはじめた。


 俺はがっくりと肩を落とし、三度目の溜息をリノリウムの床に垂れ流す。


「磯月、お前もいいかげん面倒見がいいなぁ。あんなオカルト馬鹿、ほうっておけばいいじゃねぇか」


 前の席のクラスメートが、同情にたえない、といった目つきで語りかけてくる。

 そっとしておいてくれ。俺だって、そんな感慨はこの数年間で数百回は繰り返してきているのだから。


 稀代の変人、宇都見章太とは、小学生の頃からの腐れ縁だった。


 今ほどふてぶてしくもなく、純真で、人見知りをするタチだった俺は、団体行動というやつが死ぬほど苦手で、その結果として、同じようにクラスで孤立していた宇都見のやつと仲良くなってしまったのだ。不覚にも。


 初めて顔をあわせたのは、たしか小学三年生のクラス替えのとき。


 あの頃は、宇都見の奇行もそんなには気にならず、二人で心霊スポットを練り歩いたり、UFO関連の本を読みあさったり、時には遠出をしてカッパやツチノコを探したり、と無邪気に楽しく過ごしていた。ような気がする。


 それが、いつからだろう……俺は人並みにそういったあやしげなお遊びからは卒業し、じょじょに他のクラスメートたちとも打ち解けられるようになったのだが。


 宇都見のやつは、変わらなかった。

 いや、むしろ悪化していった。

 中学生になる頃には、もう立派な変人だった。


 それはそうだろう。思春期まっさかりのクラスメートに囲まれながら、たった一人でやれUFOだ、やれ心霊現象だ、と騒いでいれば、誰にも相手になどされなくなる。


 だから、宇都見の他に友人を得られたのちも、俺は幼い頃からのよしみで、渋々その子どもじみた遊戯につきあってやっていたのだが。まさかこいつが同じ高校を進学先に選ぶなどとは予想だにしておらず、なおかつ二年連続で同じクラスになってしまうとは……これはもう、痛恨のキワミと言うしかなかった。


 結果。俺は明るく健全なスクールライフをそれなりに満喫しつつも、月イチか隔週ぐらいのペースで宇都見の持ちこんでくるわけのわからないオカルト話に巻き込まれる、という図式が完成したのであった。


 以上、説明終わり。


(本当に、こいつの頭の中はどうなってるんだ? いっぺんマサカリでぶち割って、ナニがつまってるのか確認してみたいもんだ)


 背中を丸め、メガネの奥の目をランランと光らせながら、アラビア語の辞書をめくり、時おりノートに何かを書きつけている。


 その小さな背中にむけられる好奇に満ちた視線や小馬鹿にした笑い声など、ひとつも届いてはいないのだろう。


 一心不乱で無我夢中、一所懸命の猪突猛進、だ。


 その集中力と情熱をもっとまともな方向に発揮できれば、きっとその分野で大成功するだろうにな、と少し気の毒になる。


(それにしたって、もう十七歳の高校二年生なんだ。ちょっとは他に興味のもてるもんを見つけだせないもんかなぁ)


 なまじ実家が裕福で、毎月たんまりとこづかいがもらえる身の上なもんだから、年を重ねるごとに活動がエスカレートしている気がする。


 この前などは、あやしげな骨董屋から「人魚のミイラ」などという薄気味悪いモノを購入し、あげくの果てには「見比べたい」との理由だけで、同じようなミイラを奉納している和歌山の何とかいう寺にまで連れていかれる羽目になった。


 UFO、UMA、心霊現象、怪奇現象、超能力、海に沈んだ超文明の古代都市、悪魔崇拝の邪教の教典……とまあ、要するにオカルトがかっていれば、何でもいいのだ。


 金も時間も労力も惜しまない。それでこれだけハズレをつかまされていれば、いいかげんこの世の中にそうそう不可思議なことなど起きたりはしない、と思いいたっても良さそうなものなのだが。病膏肓に入る、というか、馬鹿につける薬はない、というか。こいつのオカルト馬鹿はいつになっても衰退の陰りすら見えなかった。


(ゲンジューショーカンだか何だか知らねェけど、そんなもんがネットでほいほい買えるようだったら、とっくにこの世の中はメチャクチャになってるだろうがよ)


 そう結論づけて、俺は一時限目の授業の準備に取りかかることにした。


 約一ヶ月ぶりの面倒事が、あまり派手な騒ぎにならぬようにと、心の中で手を合わせながら。


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