隣に君がいないと
勇気を出して郁真が学校へ行きます。
隣に彼女がいない...それだけで...
ゆっくり体を休ませながら読んでくださいね。
では、どうぞ。
それからしばらくは機械的に家と学校を往復していた。胃に食事という栄養を放り込み、脳に授業という名の情報を詰め込み、ただ起きて寝るだけの生活だった。
詩紀がいないだけでこんなにも駄目になる自分に我ながら心底驚いた。頭の中は授業を受けながらも彼女の身を案じることでいっぱいで、登校するときも気づけば彼女の家の前に立っていて、彼女の両親を困らせている。一日における全ての行動に「詩紀」がいた。 早く詩紀に会いたい、その一心だけでこの生活を「消化」していた。学校に行くのも時間を進めるただの作業。彼女と再び会う日までの過程に過ぎない。
だからこそ、今日も今日とて学校では2人分のノートを書くのだ。詩紀に勉強をまた教えるために。
それから何日が経っただろうか。曜日という概念さえ忘れ去り、僕がいつも通り学校に向かっていたときだった。
突然後ろから軽い衝撃を受けた。何だと思って振り返ると、そこにはニヤニヤと薄汚い笑みで僕を見る集団がいた。
僕の横を通り抜け、去っていくその集団に僕は見覚えがあった。いや、正確には...嫌と言うほど見覚えがある、だろうか。
僕は思わず眉をしかめてしまう。
彼らはクラスのカースト上位に位置するグループで、クラスを支配していると言ってもいいだろう。グループに所属している多くが、大企業の社長だったり、政治家だったりと要人を親に持っている。
そのことも相まって、クラスの大半は彼らに逆らうことはできない。
クラスの中で僕と詩紀だけが彼らに屈することなく、至って普通に生活していた。
思い通りに動かない僕達に、彼らが定期的に嫌がらせをしてくることを除けば。
僕と詩紀は特に他に親しい仲の友人がいないので、お互いさえいればいいと思い、彼らにひざまずくことはなかった。
彼らの傲岸不遜な態度に腹を立て、不満を溜める人も多いだろう。それでも、彼らにいい顔をしておかないと僕達のように何かされるかもしれない、その恐怖がこのクラスを統率していた。
僕達二人は何度も担任に相談しているが、担任はめんどくさがっているのか、要人の子供ということで口出ししにくいのかまともに取り合ってくれない。
だから僕達は二人だけで彼らに抗っていた。目をつけられるきっかけになったのは...あの時だろうか。
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「おい、お前なんか購買行って買ってこいよ」
僕も初めは耳を疑った。それは高校生活が始まってまだ一ヶ月もたってない頃のことだった。
昼休み、僕が詩紀と一緒に談笑しながら、昼ご飯を食べていたときだった。
声の方へ僕が顔を向けると足を組んで机にのせ、くっと顎を上げたリーダー的な男子がいた。彼の名前は衣斐李仁という。
周りにも彼と同じように、見ているだけで不快になる笑みを浮かべた男女が集まっている。
「ねえ、無視していいよ」
隣に座っていた詩紀が僕に小声でそう耳打ちした。僕も初めからそのつもりだったので、すぐに笑顔で詩紀との会話を再開した。
詩紀も何もなかったという風に振る舞っていると、背後から「は?」という声が聞こえた。
「なあ、聞こえなかったの?さっさと買ってこいって言ってんだけど」
「それでさ、昨日テレビでやってたアレ見た?」
「見た見た。めっちゃ可愛かったよね〜」
「おい!耳ねえのか!?」
聞こえないふりで無視を続けていると、今度はガタン!と椅子を立つ音が聞こえた。
すると、向かい合わせに机をくっつけた僕達の間に、バン!と手が叩きつけられた。
それでも、僕達二人は一瞥もくれてやることなく、会話を続ける。
「なっ、こいつら...!」
そんな僕達に李仁は肩をぷるぷると震わせ、自分の席へ帰っていった。
すかさず、僕は詩紀の目をじっと見つめた。僕達ほどの付き合いになれば表面上は他愛のない会話を続けつつも、目だけで会話することができる。
(あいつ、諦めた?)
(いや、まだ。ペットボトルを手に取ったから、多分郁真にかけるつもりだよ)
(オッケー。タイミングだけ合図して)
(わかった)
(ありがとう)
彼らの席は僕のちょうど背後で僕からは見えない。なので、向かいに座る詩紀に状況を伝えてもらうのだ。
耳をすませばコツコツと足音がこちらに再び近づいてくるのがわかる。...止まった。カチリと音がする。恐らくペットボトルの蓋を開けたのだろう。
そして、詩紀が片目を閉じてウインクをした。合図、今だ!
僕は机の物入れから下敷きを取り出し、自分の頭にそれをかざした。
次の瞬間、手に重みを感じた。少し後ろに傾けるようにしたので、背中側に重みが逃げていく感触がする。
背後から「うおっ!」と驚いたような声が聞こえてくる。
「こうやって下敷きを頭に擦ると髪の毛が立つってホントかな?」
「言われてみれば私もやったことないな〜」
「ん〜...立ってる?」
「あれ?あんまり立ってないかも」
「お、お、お...お前!何してくれるんだ!」
白々しく僕達がそんな会話をしていると、頭上で怒声が響いた。
「うるさいなぁ、こいつ...自業自得のくせに」という思いをぐっと飲み込んで、僕は単純に大声に驚いたと言った顔で振り返った。そこには顔を真っ赤にして、額に青筋を浮かべた李仁がいた。
「え?うわ、どうしたの?制服濡れちゃってるじゃん」
「大丈夫よ、郁真。彼、自分でジュースを制服にこぼしてたんだから」
「このっ...こンの〜...!ふっ、ふざけんなよ!」
「落ち着きなよ。制服に飲み物こぼしたぐらいで、大げさだなぁ」
「お、お前らぁ!」
激昂した李仁が拳を振り上げる。僕の左頬を狙った右フック...単純だな。
僕は顔の横に手のひらをたて、李仁の拳を受け流した。拳を...僕のすぐ横の壁にぶつけるように。
ガアン!
「いってええええ!」
「ああ、大丈夫?どうしたの、いきなり壁を思いっきり殴ったりして...」
「こっ...この野郎...!舐めてんじゃねえぞ!」
「舐めるだなんてとんでもない。ただ心配してるだけだよ。ほら、制服も濡れてるし、着替えてきたら?ついでに保健室で手を見てもらってきなよ」
「くそがっ!」
最後に悪態をついて李仁は去っていった。
完全に逆恨みなのだが、李仁とその取り巻きには目をつけられてしまった。
それからというもの、僕達は彼らに陰湿な嫌がらせをされるようになった。
登校して靴を履き替えようとすれば、中に画鋲が入っていたり。椅子の座面に画鋲が置かれていたり。
「靴の中と椅子の座面に画鋲...こんなわかりやすい嫌がらせ今時あるんだね...」
「まあこんなことだろうと思って警戒してたから良かったけど...危ないよね」
僕達がいかにもめんどくさいという顔で画鋲を片付けていると、李仁たちがにやつきながら視界の端をうろつく。
入れ物ごと投げつけてやろうかと物騒なことを考える頭を振って、歯がゆい思いを抱えながらも僕は目の前の画鋲をつまむことに集中した。
トイレに入れば上からバケツの水をひっくり返された。
教室を出たときから、下手くそな尾行をしてきていたのでなにかしてくるだろうと思っていた。
個室の端のほうに待機していると、ちょうど個室の中心、便器があるところに水が降り注いだ。
ギャハハハ!と下品な笑い声がドアを一枚隔てた向こうからいくつも聞こえてくる。
ガチャ...パタン
ドアを開閉する音が聞こえる。恐らくトイレから出ていったのだろう。
残念ながら彼らの目標は達成できていないと思うが。僕は彼らが去ったのを確認した後、用を足してから教室へ戻った。
「ははっ、戻ってきた...ぜ?」
「おい、どういうことだよ!」
僕の姿を見た瞬間、指を指して嘲笑おうとしたのだろうが、一滴足りとも水をかぶっていない僕に目を見開いていた。僕は詩紀と目配せをした。
(ナイス!)
(そう簡単には濡れてやらないよってね)
ある日、学校に来れば机にあらゆる罵詈雑言が油性ペンで書き込まれていた。
「「......」」
「ギャハハ!見ろよあいつらの顔!」
「めっちゃ絶望してるぜ!ちょっと悪口書いたぐらいであんなになるなんてな!」
((...バカなのかな?))
僕達二人は朝登校してきて、自分の机を見てしばし動きを止めた。そして、荷物もおかずに無言でそのまま教室を出た。
「おい!あいつら教室出ていったぞ!」
「このまま学校来ないんじゃねえの?」
「俺に逆らうからこうなるんだぜ!」
扉を閉じても廊下まで響く笑い声に耳を抑えながらも、僕達はある部屋へ向かった。
本当にあいつらバカだな。だって...
「これは何事だ!」
「「「ひいぃっ!」」」
わざわざいじめの証拠を残してくれるなんて。
「校長先生〜私達の上靴とか椅子に画鋲をまかれたりもしたんですよ」
「なにっ!」
「しかも、トイレに入ったらバケツの水を上からひっくり返されたりもしましたね」
「な、なんだとぉ...!お前達!なぜこんなことをする!?」
「そ、それは...」
「はっきり言わんか!反省しとるのかお前たちは!親御さんに電話させてもらうからな!」
「!校長先生、それは!」
「や、やめてください!」
校長先生に怒られてしゅんとしている李仁たちを見て、僕たちは二人でクスクスと笑っていた。
あの言い方、親の七光りに頼っていただけで、溺愛されているというようなことはないらしい。
叱られて顔を俯けながらも、横目でこちらを恨みがましげな目で睨んでくる李仁に口パクで「どんまい」と言ってやった。
「こっの...!」
「衣斐!聞いているのか!」
「はっ、はい!」
それからいじめはしばらく鳴りを潜めた。時々ちょっかいを掛けられる程度で、特に気にする必要もないほどだった。それだったのに...
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「はあ...」
前までならなにか言い返したのかもしれない。「なにか言うことはないんですか?」ぐらい言ってやったかもしれない。でも...言えなかった。
「詩紀...」
落ち込みそうになる自分に、両頬を叩いて喝をいれる。
悩み、不安を振り切るように首をブンブン横に振り、僕は重い足を動かして学校へ向かった。
このお話はどうでしたか?今回は回想シーンが主となりました。
私の話になるので、興味がない方はもう閉じていただいて構いませんよ。はい、で本題なんですけど。私主人公とかがいじめられるのあんまり好きじゃないんです。見てるともやもやするし、「やりかえせよ!」とか「絶対何かしてくるって!」って歯がゆい思いをしちゃうので。全く見ないというわけではないですが。ざまあ系とか面白いですしね。というわけで、今回はそんな思いをそのまま書きました。二人で協力して抗うのいいですね。これには作者もニッコリです。
はい、長くなりましたが、最後までお付き合いいただいた方はありがとうございました。きっと今日いいことありますよ。
次回もよろしくお願いします。感想などもお待ちしています!では。




