第六十九頁 対話
一七三二四年三月二十四日(金)
大米合衆国・ブラジル州 ブラジリア 某ホテル
この日の午前中の出来事である。
ビゼーとアダン(バ)がエントランスで会話していた。
ア(バ):「クウヤ、まだおきないのか?」
ビ:「体に風穴開けられてるからな。致命傷はないっつったって重症であることに変わりはねぇ」
ア(バ):「このままいっしょーおきないってことはねーよな?いくらなんでも」
ビ:「俺に聞かれても知らねぇよ!医者じゃねぇんだから。まぁクウヤ次第じゃねぇか?ここまで来たら」
ア(バ):「そっか……つーかさ、クウヤがねてるあいだ、ミクリ、メチャメチャべんきょーしてるよな?」
ビ:「そうだな。今も一生懸命やってるしな」
ア(バ):「よく飽きないよな」
ビ:「好きなんだろ?勉強が。それにしても能力の特訓もして、勉強もして。偉いよな。お前も勉強したらどうだ?」
ア(バ):「おれはがんばったし」
ビ:「ひらがな覚えただけじゃねぇか!」
ア(バ):「ははは……きゅーけーだよ!きゅーけー!」
ビ:「ずっと休憩してるだろ……」
ア(バ):「ん?」
ビ:「はっ?」
——ピリリリリリリリ……ピリリリリリリリ……
突然、ビゼーの携帯端末が着信音を奏でた。
ビ:「——!病院からだ!」
応答のボタンを押し、電話に出る。
ビ:「もしもし……はい……はい……今行きます」
電話を切った。
ア(バ):「なんだって?」
ビ:「目覚めたってよ。噂をすれば何とやらだな」
ア(バ):「おきたならもっとよろこべよ!ぜんぜんそんなテンションじゃなかったよな?」
ミクリの勉強の邪魔をしないために二人で病院に行くことにした。
一七三二四年三月二十四日(金)
大米合衆国・ブラジル州 ブラジリア 丘の下の病院
二人がクウヤの病室に入るとクウヤの他にもう一人いた。
その人物は振り返って二人に話しかけた。
「おう!お前らか。久しぶりだな」
「あれ?ジャックさん?」
アダン(バ)が名前を呼ぶと、ジャックは二人に対して、人差し指を折り曲げてチョコチョコ動かした。
「こっち来い」
クウヤの目は確かに開いていた。
しかし目玉以外が動いていない。
「しゃべれねぇのか?」
ビゼーが問うと、クウヤはビゼーの方に目玉だけを動かした。
目で訴えている。
「一週間以上眠ってたんだ。人間の体はそんな強靭じゃねぇよ。それにあのバケモンの人外な生気をモロに食らってんだ。よく一週間で目覚めたって褒めてやるべきだ。コイツの回復力も相当だぞ。あぁ、回復力っつうと誤解を生むなぁ。なんだ?生気のじゃなくて体の方の、な?」
ジャックはツラツラと喋り進めた。
「ジャックさん!」
ビゼーはジャックの目を見て呼んだ。
「なんだ?」
「ジャックさんは能力のことをどこまで知ってるんですか?ジャックさんはご自分の能力を使いこなしてますよね?初めて会った時もホテルから消えるようにいなくなったし。俺たちがどんなところから呼んでもありえないくらい到着が早い。それにこの前も俺の前にクウヤを抱えて突然現れた。クウヤも聞いてるし、能力について知ってることがあるなら聞かせてもらえませんか?」
「それ、俺にメリットはあるか?」
ジャックはビゼーの要求に素直に応じなかった。
「殆どないでしょうね。でもあなたは俺たちが強くなることを望んでる。いつか言ってた『成長を見せろ』って能力のことなんじゃないですか?だとしたら俺らに情報を共有することは都合がいいはずです」
「なぜそう思う?」
「具体的なことは分かりませんが、あなたは俺たちに何かをさせようとしている。その何かに能力者の力が必要なんですよね?俺たちに会った瞬間、なんらかの方法で俺たちが能力者だと分かったなら、同時に俺たちが能力初心者であることも分かったはずです。能力者なんて滅多に見つからない。俺があなただったら目の前に現れた能力者はとりあえずキープする。で、しばらくの間様子を見ます。貴重な人材をみすみす逃すわけにはいかないから。だから自分が危険な目にあってでもクウヤを助けた。本当はミロクさんみたいな強い能力者の協力が欲しいけどミロクさんは話聞いてくれなそうですもんね。どうですか?」
ビゼーの論理にジャックが両手を上げた。
「たいしたもんだ……ふぅ〜……まだ全てを話すことはできねぇが、お前の観察力に免じて俺の能力について教えてやるよ。そうだなぁ……一言で言えば高速移動だ。好きな場所に高速で移動できる。これでお前の疑問は解決か?」
ビゼーは納得いかない顔をしていた。
「なんだよ?その顔は……」
ジャックの問いにビゼーは質問で返した。
「それじゃあこの前のことを説明できないでしょう?俺が待ってた場所にあなたはクウヤを連れて突然現れたように見えた。高速移動だったら移動や停止のモーションがあるはずです」
(ったく、鋭いなぁ……)
ジャックは答えた。
「確かにそうだな。あれは応用技だ。高速で移動して急停止って体にめちゃくちゃ負担がかかるんだよ。そこで俺は工夫した。所謂残像ってやつ。止まってるように見せんだよ。移動速度が自在なんでな。残像もお茶の子さいさいよぉ!生気はちーっとだけ消費しちまうが、その後停止するだけだかんな。戦ってるわけでもねぇし、生気の心配はしなくていい。体にも優しいから一石二鳥だ」
「そういうことですか……ありがとうございます」
「お前も早く自分の能力の詳細が分かるといいな」
「そうですね。頑張ります」
ビゼーはジャックの説明に納得した。
「能力の一般論は連れの奴に聞いた方が詳しいんじゃねぇの?俺から話せることもねぇしな。んじゃあ俺帰るわ。クウヤ、ちゃんと飯食ってさっさと元気になれよ!またな〜」
クウヤはジャックの背中を追う。
「はい、ありがとうございます」
「また〜!」
ビゼーとアダン(バ)は別れの挨拶をした。
「いや〜、クウヤおきてよかったー!」
アダン(バ)は心から喜んだ。目の前の事実をしっかりと噛み締めている。
「本当に心配ばっかりかけやがって。喋れるようになったらロッドたちも連れてまた来るよ。ジャックさんも言ってた通り、ちゃんと食って回復しろよ!その後で説教だ」
クウヤは目を閉じた。
「寝たふりか?」
「おこられるのはヤだもんなー」
クウヤは目を閉じ続ける。
「ったく!じゃあ俺たちも帰る。ちゃんと休めよ」
「またなー」
二人は病室を出た。
一七三二四年三月二十七日(月)
大米合衆国・ブラジル州 ブラジリア 丘の下の病院
病院からクウヤが喋ったという連絡を受け、ビゼー、ロッド、ミクリ、アダン(バ)の四人は病院へ向かった。
「クウヤ〜、元気か?」
アダン(バ)は大きな声で呼びかけた。
「シーーッ!ここ病院!」
ロッドは小さな声で注意した。
アダン(バ)は自らの諸手で自らの口を塞いだ。
「なんとか……元気だよ……体、あんまうごかねーけど……」
掠れた声でアダン(バ)の問いかけに答えた。
「あれ?アダンは?」
クウヤは問う。
「おれ?」
「それいいって!何回も聞いた」
アダン(バ)のボケ(なのかどうかは不明)をビゼーは軽くいなす。
「喋れるまでに三日かかったんだね。大変だったでしょ?」
ロッドが聞いた。
「オレは声出してるつもりだったんだけどさ……みんなにはきこえてなかったみたいで……」
「そうなんだ……また話せてよかったよ!」
ロッドの言葉にミクリも「うん!」と元気よく同調した。
「再会を祝すのは後にして事情聴取だな」
ビゼーが言った。
「そうだね」
ロッドも気持ちを切り替える。
「なんで黙って行った?」
ビゼーはクウヤに詰め寄る。
「……おまえたちにめいわくかけたくないって思ったから」
「迷惑をかけたくなかったら復讐を止めろ!勝手に行って、死にかけて帰ってくる方がよっぽど迷惑だ。」
「それは……」
クウヤは口を噤んだ。
「ビゼーの言う通りだよ。単独行動なんて感心できないし。クウヤは俺たちの行動も背負ってるんだから」
「ごめん……」
ビゼーとロッドの言うことは正しい。
それはクウヤも分かっている。
「次訳分かんねぇことするならロッドとミクリがぶっ飛ばすってよ」
「俺?」
「私?」
二人してビゼーの言葉に驚いた。
「俺にはこいつをシバく力はねぇからな」
「あはは……まあ実際やるかは置いといて、勝手な行動は控えてほしいね」
クウヤは黙ったまま、無表情を貫いた。
「クウヤ。ケンカってやらなきゃいけないのか?」
アダン(バ)が悲しそうな顔をして尋ねる。
「ケンカじゃねぇよ。あれはふくしゅうだ」
クウヤは不貞腐れた声で言った。
「だからそれを止めろって言ってんだ!」
ビゼーは感情的になる。
「ダメだ!アイツは父ちゃんと母ちゃんを……オレのことも……だから今のうちにじごくに行かさなきゃいけないんだ!」
クウヤも感情を剥き出しにした。
「その復讐は親父さんとお袋さんが頼んだのか?」
「そうじゃないけど……でもオレはやるってきめたんだ!」
クウヤとビゼーは互いに互いを睨んだ。
数秒目を合わせ続けた後、ビゼーは反転した。
「ここで喋ってても何も変わんねぇ。次は全力で止めるからな」
クウヤはこれに対して何も言わなかった。
ビゼーは病室を後にした。
「クウヤ。考え直してほしい。姉弟で殺し合いなんて……絶対駄目だよ……」
こう言い残してロッドも病室を後にした。
二人を追うようにミクリとアダン(バ)も外に出た。
四人が出て行った後、独りの病室でクウヤは頭を抱えた。
どうしたらいいのか。
感情と理性の狭間に閉じ込められ、行き場を失ってしまった。
静寂の病床でクウヤは最善策を模索した。
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