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魔人キコウ録  作者: 长太龙
第二篇 欧州篇

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大百四頁 親玉

 クウヤの大振りはロックウェルが避けるのに十分な隙を与えていた。

 しかしロックウェルは動かなかった。動けなかったのだ。

 平常心を保っていればこうはならなかったであろう。

 しかし自ら作った結界フィールドがバリバリと音を立てて崩れていく様を見て、彼は大いに驚き、自分自身に失望してしまったのだった。


 男。クリストファー・ロックウェル。

 彼の自認能力。


 「知識」


 知識が多ければ多いほど自身のパフォーマンスが向上する、というものだ。

 しかしこの認識こそがこの戦いの大きな敗因だったことを彼は知らない。

 彼の本来の能力。一言で表すならば


 「自信」


 彼は知識を得ることで強くなっていたのではない。

 知識を得ることで「自信」がつき、それによって強くなっていたのだ。

 

 このギミックを見抜けなかったこと。根拠のない「多分そうだろう」という思い込みが明暗を分けてしまったのだ。


 もちろんここにいる全員が彼の本当の能力を知らない。

 では、なぜここに記せているのか。


 彼は大米合衆国・ボリビア州にてクウヤらとの交戦前、白衣の二人組と接触していた。アダン・エストレとマルコである。

 アダン(エ)が背負っていた能力者判別機により、彼が能力者であると知った。

 アダン(エ)が貴重な研究対象を逃すはずがなかった。

 軽いインタビューと細胞の提供を済ませる。

 提供されたロックウェルの細胞はアタッシュケースに入れられ、研究所に持ち帰ることになった。

 持ち帰りさえすれば、研究に使われるのは当然である。故にデータとして残っているのである。

 本人の自覚症状と合わせれば大体の能力が推測可能だ。

 彼らがこの情報を知るのはかなり後の話である。


 クウヤの剣はロックウェルの胸部にクリーンヒットした。

 

「ぐぉ……」


 鉄剣による一撃は重い。使用者が剣の能力者ともなれば尚更だ。

 ロックウェルは四、五メートルほど吹っ飛んだ。

 

 これによりクウヤは知の暴力(クイズ)受験会場テストセンターの効果が切れていることを確認することができた。

 しかしスカーレッドによる剣の弱体化がなければロックウェルはどうなっていたか分からない。

 最悪の結果も容易に想定できた。


 吹き飛ばされた後、彼が再びクウヤに向かってくることはなかった。

 激戦に終止符が打たれた瞬間だった。


「おわった〜!」


 クウヤはその場に背中から倒れ込んだ。

 アスファルトの道ではなかったため頭受け身も小ダメージで済んだ。


「クウヤ!大丈夫?」


 スカーレッドの声がした。

 彼女だけではなく仲間たちは皆寄ってきていた。


「たてるか?」


 アダンが聞いた。


「うん。だけど……ちょいつかれた」


 他人の結界の中を、範囲に気をつけながら逃げ回っていた。

 疲れないはずがなかった。

 倒れたまま喋る。


「アイツ、どうなってる?」


「伸びてるよ。最後の一撃かなり効いたんじゃない?」 


 ロッドが状況を伝えた。


「クウヤ!奴が起きるまでここにいて話聞いた方がいいんじゃねぇか?」


 ビゼーが提案する。


「だな。かんぜんにオレのかちだし。アイツもひっさつわざつかったからぜん力だよな?もうオレのことおいかけないよな?」


「それは知らねぇ」


「ちょっ……」


 クウヤの表情が焦っていた。

 

「じゃあ、ここで休憩するの?逃げないように見張り役つけないとだね!」


 クリスティナが言う。


「交代で見張りましょうか」


 スカーレッドが案を出した。


「俺何もしてないから見とくよ」


「いいの?タロット君?」


 そんなやりとりをしているとミクリが小さい声で言った。


「今起こせるよ?」


「えっ?」


「ホントか?ミクリ?」


 アダンが問う。


 ミクリはゆっくり大きく頷いた。


「いつ起きるか分からない人を見張るより、強引に起こしたほうがいいか……」


 ロッドがゆっくりと言った。


 皆の賛成が得られたミクリは杖を構えた。


「石澤流治癒魔導其ノ弐 傷創恢復」


 見た目には分からないが、ロックウェルの表面的な傷を治しているらしい。

 その後別の魔導も使用した。


「石澤流睡眠補助魔導其ノ肆 強制起床」


 次の瞬間、ロックウェルは目をかっぴらいて、体を起こした。


「思ったより強引だ……」


 ロッドが感想を漏らした。


 パンダのように座るロックウェルにビゼーは近付いた。


「アンタの負けだろ。俺たちに事情を話せ」


 ロックウェルは睨みつけるように一度ビゼーを見た後、目を逸らして言った。


「言うわけねぇだろ」


「言うとお前が危険なのか?」


「……」


 黙り込んでしまった。

 

「ミクリ!強制的に吐かせることってできるか?」


 ビゼーが振り返って尋ねた。


「できるけど……」


 やりたくない様子だ。

 ミクリの気持ちを察した彼は自白を待つことにした。

 その直後だった。


「あら?また失敗したの?」


 若い女の声が聞こえた。


 ロックウェルはすぐにその方を見る。

 一行も彼が見る方を見た。

 そこには二十代くらいの背の高い女が立っていた。

 踵の高い靴を履いているわけではないのに、ロッドと同じくらいはありそうだ。

 その女はミクリと似たような格好をしていた。丈の長い黒のワンピースに黒のローブを羽織っている。

 とても真夏とは思えないコーディネートだった。


「み、美魅了みりょう様!どうしてここに?」


「口を慎め!ウスノロ!軽々しく私の名前を呼ぶな!」


「すみません……」


「誰が勝手に喋っていいと言った?」


「……」


「何か言え!反省もできないの?」


「申し訳ありませんでした……」


「ったく……」


 女はかなり不機嫌であった。

 ロックウェルに対しかなり当たりが厳しい。というより否定できないほどの理不尽である。

 ミリョウと呼ばれた女はロックウェルに一方的に言葉をぶつけた。


「何度チャンスをあげれば成果が出るの?何年待てばいいの?散々待った。我慢した方でしょ。お母様だったらこんなには待ってくれない。況んやお婆様をや。使えない男は要らないの。今ここで消えなさい!」


「お、お待ちを。私に次を!もう一度だけ。もう一度だけチャンスをいただけませんか?その暁には必ず……」


「勝手に喋るなって言わなかった?はあ……約束も守れない。ルールも守れない。これだから男は……だいたい分家の時点で大分怪しかったのよねー。私たちと同じ教育を受けてないんだから。だから私は嫌だったのに!もう存在理由がないから。サヨナラ」


「お待ちを!」


 ミリョウは杖を構えた。


「石澤流処刑魔道其ノ参! 鉄の処女(アイアンメイデン)!」


 そう唱えるとどこからともなく鉄の人形が現れた。

 人間の女性のような形をしている。

 その人形は開閉できるように扉がついており、人一人であれば余裕で入れそうである。

 しかし扉には鋭利な棘が全体に施されていた。

 その棘は扉だけでなく人形の内部にも全体的に付いている。

 それなりに広い空間があるので何かを収めるのだろうが、それにしては物騒な代物だ。


固定ビンデン


 男の体が拘束される。

 同時に男は悲鳴を上げた。駄々をこねる子供のようにもがいている。


挿入シュヴァンガーシャフト


 男の体が棘人形の方へ引き摺られていく。

 助けてくれと何度も叫んでいた。


閉門シュリーセン


 男が人形に身を入れると勢いよく扉が閉まった。

 男の声は扉が閉じた瞬間に聞こえなくなってしまった。


 一同はここでようやく察した。

 遅かったのか早かったのかは分からない。

 ただ目の前でとんでもないことが行われているにも関わらず、指を咥えて見ていただけだったことを後悔した。

 ビゼーがミクリの方を見ると目を覆い、寒空の下に放されたかのように細かく震えていた。


(石澤流魔導ってことはミクリは何が起きるか分かってたってことか。恐怖で声が出なかったんだな……)


「やりすぎだろ」


 ビゼーはミリョウに言った。


「はっ?何もできない男を私がどうしようと私の勝手でしょ?それと口の聞き方に気をつけなさい!私と対等に会話できると思うな。クズが!」


 言葉を向けられたビゼーは、彼女から感じる嫌悪感に圧倒された。

 なんとか言い返そうとするが、直前でミクリに裾を掴まれた。

 何もしないでと顔が訴えていた。


 ミリョウは顔を穏やかにして言った。


「あら?ミクリさん。こんなところにいらしたの?」


「はい……」


 ミクリは言葉を絞り出した。


「まさか男共ちくしょうと行動してらっしゃるの?」


「……」


「そんなはずありませんよね?()()()()()()()()()()ともあろうお方なのだから!ね?ミクリさん?」


 顔は笑っていた。しかし言い方が奇妙だ。

 妙に口をゆっくり動かしていた。

 何か含みがある。


「まあいいわ。私が本家のことに口を出すのは控えたほうがいいですわね。美百合みゆり様に叱責されてしまいかねません。ではミクリさん?ご機嫌よう!」


 一度去ろうとして、ミリョウはクウヤの方を振り返ってみた。


「お前は必ず……」


 そう言うと、杖を一度振った。

 同時に彼女は姿を消したのだった。

 

 彼女が消えると鉄の人形も消えた。

 それがあった場所には真っ赤に染まった服を身につけた大男が小さくなって倒れていた。

次回 次家

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