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セカンドガールの私が学園のプリンスをざまぁします!  作者: 白波美夜
第四章 闇魔法との対峙編

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そんなの、私じゃない

目が覚めたとき、天井が白かった。


(どこ、ここ?)


リディアは、視線を動かした。

白いカーテン、白いシーツ。窓から差し込む光が、やけに眩しい。

体は重く、腕を動かそうとすると、じんわりと倦怠感が広がる。魔力を使い果たした後の独特の感覚が全身を支配していた。


(また倒れちゃったか)


少しずつ、記憶が鮮明になる。

カトリーナと戦い、レオナルドと戦った。

ルークが途中で庇って、気づけば……自分は闇に支配されていた。それでも、みんなのおかげで、レオナルドを倒した。

グッと右手を握りしめると、レオナルドを殴った感触が残っている気がした。


「……リディア、さん?」


声がした。

リディアが顔を向けると、ベッドの傍の椅子に、セレナが座っている。目の下に薄いくまがあり、それでも、ほっとしたように笑っていた。


「よかった。ずっと起きなくて、心配しました」

「……ずっと?」

「ほぼ丸一日、寝てたんですよ」


リディアは目を瞬かせた。部屋を見回すと、窓際ではクランが、胡乱げな目でリディアをみている。


「……お嬢に心配かけてんじゃねぇ」

「 ……クランは、私の心配をもう少ししてくれてもいいんじゃない?」


クランがリディアから目を逸らすと、セレナが楽しそうに笑い、リディアの耳元で「クラン、すごく心配してましたよ」と囁いた。それに気づいたクランは、眉を動かしながらも、何も言わない。


部屋に暖かい空気が満ちるが、それを拒むように、ノック音が聞こえる。

アレン・ルーミンハルトの訪問だった。

部屋に、一瞬の緊張が走る。


「目覚めたんだね、リディアちゃん」


その声を聞いた瞬間、リディアの体から、少しだけ力が抜けた。


「……アレンさん」

「よく寝てたね。さすがにちょっと心配したよ」


リディアは苦笑して、それからアレンを見た。

アレンは、どこか探るようにリディアを見つめている。その目は兄のようでもありーー役人の目にも見えた。


「……さて、と。今更だけど、自己紹介をしとこうか。俺はアレン・ルーミンハルト。魔法局の人間で、この国で起こった闇魔法関連の事件は、すべて俺が調査することになている」


部屋の空気が、途端にピリつく。

リディアは、何を聞かれるのか、もうわかっていた。


「……リディアちゃん、闇魔法を使ったね」


セレナが息を呑む中、リディアは静かに頷いた。

アレンの声色は、責めているわけではなかった。ただ、淡々と事実を確認していく。


「……はい」

「どうやって使ったの?」

「……正直、よくわからないんです。ルークが私を庇って、背中が真っ赤に染まって…….。私のせいだ、違う、私は悪くないーー全部レオナルドのせいで……、そんなことを考えていたら、気づいたら手元に魔法陣がイメージできました。そこからは、もう止まらなかった。ルークが、そんな私を止めてくれた……止めてくれなかったら、自分でも、どうなってたかわからない」

「……そう。今も闇魔法を出せる?」


リディアは、右手に集中した。

あのときのようなイメージは湧かない。それでも、今までの自分とは何かが違うことは、なんとなく感じられた。

アレンも、それを感じ取ったのか、肩をすくめる。


「リディアちゃん、知っていると思うけど、この国で闇魔法は禁忌なんだ。正確には、闇魔法による精神操作だけで、リディアちゃんの使った、闇魔法による物理攻撃はギリセーフ。ただ、それは理論上の話だ」

「どういう、ことですか?」

「はっきり言って、リディアちゃんは魔法局にとって危険なんだよ。使うのが難しい時間魔法を自在に操り、闇魔法を使える片鱗を見せたーー平民の学生がそんなことできるなんて……。しかも君は自由奔放な性格だ、今後、この国の危険分子になる可能性も否定できない……適当な理由をつけて、処分の対象になってもおかしくない」


セレナとクランは、それを予想していたかのように硬く目を閉じる。

リディは、呼吸が止まるのを感じた。


「処分…..って……?」

「魔法局での研究対象になるか、幽閉されるかーー。魔法を使えないように、封印されるかもね。まあ、いいことは一つもないような扱いだよ」

「……そんなの、リディアさんがあんまりです!!」

「わかっているよ、セレナ。だから、魔法局の正式な調査前に、俺がここに来たんだ」


アレンとリディアの目が交錯する。


「俺ならーールーミンハルト家なら、リディアちゃんを守れる」

「え……?」

「リディアちゃん、俺かルークと、婚約しないか?」


ーーーーーー


「じゃ、考えといてねー!」と軽やかに言い残して、アレンはリディアの部屋をあとにした。軽い物言いをしていたが、アレンが忙しい合間を縫って、わざわざ言いにきた意味を、リディアなりに理解していた。

セレナは、困ったように苦笑している。


「……びっくりしましたね」

「うん」


リディアはベッドに背を預けた。天井を見ながら、アレンの言葉を反芻する。


ーー処分

ーーアレンかルークと、婚約


頭を振って、気持ちを振り返るように、リディアはセレナの方を向いた。


「そういえば……ルークとカトリーナは?」

「リディアさんがレオナルドさんを倒した後、すぐにアレンさんが来たんです。レオナルドさんを拘束してーーその後、レオナルドさんに操られていた人たちを保護していました。今は、カトリーナさん含め、みなさん治療を受けているそうです」

「……カトリーナ、大丈夫そうだった?」

「気丈には振る舞っていましたが…..どうでしょうね」

「……そっか。そう、だよね……ルークは?」

「ルークさんも無事です。あのあと、怪我と魔力切れの影響で倒れましたが、この病院に、同じく入院してますよ」

「……よかった」


リディアは息を吐いた。

部屋に、しばらく沈黙が落ちた。

窓の外では、風が木の枝を揺らしていた。平和を象徴するかのような、鳥の鳴き声が聞こえる。


「……リディアさん」


セレナが、静かに口を開いた。


「アレンさんの話……婚約のこと」

「うん」


セレナは少し間を置いた。膝の上で手を重ねて、言葉を選ぶように続けた。


「私は……私はリディアさんと一緒に、無事に卒業したいです。お別れなんて、したくない」


リディアは、セレナを見た。

セレナは笑っていた。いつもの穏やかな笑顔だったが、その目は真剣だった。言葉の裏にある意味は、はっきりと伝わってきた。

気まずくてクランを見ると、クランも真剣な顔でリディアとセレナをみている。


「……何よ」

「別に…..ただ、俺は今でこそ、いい立場に立っているが、元はお嬢に拾われた身だ……経験上言わせて貰えば、もらえる立場があるんなら、つべこべ言わず貰っといたほうが身のためだぜ」


言い方は違うが、2人が何を言いたいか、リディアにもわかった。

リディアは、天井を見た。

処分。幽閉。魔法の封印。アレンが言ったことが、頭の中で繰り返された。

そんな未来が来ることを思えばーー怖かった。


「……そう、だね」


リディアは、静かに言った。

セレナは、気まずそうにリディアから目を逸らす。

セレナは、リディアがルークを慕っているのを知っている。2人の関係がうまくいけばいいと思っていたが、それは、こんな政略のような形ではない。2人が互いに思いを告げても、この状況では、互いの本心も、きっと伝わらなくなってしまうだろう。それが、セレナにはやりきれなかった。


リディアは、再び外をみていた。

その瞳は、決意したような、覚悟を固めたような目だった。それがどちらの覚悟なのか、セレナには読み取れなかった。


「私、ルークと話してくるよ」


リディアがベッドから抜けるのを、セレナとクランは静かに見守ることしか、できなかった。


ーーーーーー


ルークの病室の前で、リディアは足を止めた。

扉の向こうから、怒鳴り声が聞こえる。


「なんで婚約なんて話になるんだ!」

「仕方ないだろう、それがリディアちゃんのためだ」

「だからって……勝手に決めるな!」


ルークとアレンの声が、交互に聞こえてくる。リディアは、扉の前で動けなくなった。


「じゃあ、ルークはリディアちゃんを守る方法、他に思いつくの?」

「それ、は……何か、探せば…..」

「そんな時間がどこにあるんだ?わかってるだろ?リディアちゃんが目覚めたと知ったら、連中はすぐに彼女を取調室に拘束するぞ」

「……っ」


しばらく、沈黙があった。


「……なら、兄さんがリディアと婚約したらいい」

「お前、マジで言ってるの?」

「だって、あいつを守るための婚約なんだろ……」


ルークの声は低く、どこか投げやりだった。

でもその奥に、何か訴えかけるものがあるように感じた。

リディアは、その言葉を扉越しに聞いていた。


(……どう、して)


ショックだった。自分の告白への、ルークの答えはそれなんだ。

そう思うと悲しくてーー勝手に話を進める2人に、腹がたった。

リディアはノックもせず、扉を開ける。

アレンとルークが振り返った。アレンはしたり顔で、ルークの目が、わずかに見開いた。

ルークはベッドに腰掛けており、服で隠れていない至る所に包帯が巻かれていた。

リディアは2人をみて、一呼吸おいた。


「2人とも、何勝手に盛り上がってんの」

「リディア、これは……」

「そもそも私、2人のどっちとも婚約なんてしないから」

「……は?」


部屋が、静まり返った。

ルークは何度か口を開き、閉じた。アレンは、ルークの気持ちを代弁するように、リディアに問いかける。


「さっきも言ったけど、今の君は危険な立場だ。後ろ盾があった方がいい、貴族になれば、困らないよ」

「……処分される、なんて言われたら確かに怖いです。でも、だからって、アレンさんやルークに守られるのはーー違う。そんなの、私じゃない」


一瞬の静寂。

その後、アレンの笑い声が聞こえる。


「っはは!リディアちゃん、こんなときでもブレないんだ!?すごいね、頑固だね、才能だね!?その頭は石でできてるの!?いやー、その思考回路、研究したいわ」

「……アレンさん、私真面目に」

「わかってるよ」


アレンは目尻を拭って、リディアを愛おしげに見つめる。


「そういう君だから、俺も助けたいと思ってるんだ」

「え?」

「……さーて。だったら、お兄さんがどうにかしてあげよう、期待しててね」


アレンはリディアの頭を撫でると、「じゃーねー。あとは若いお二人で、いろいろ話したら?」と言って部屋を出て行ってしまった。

あっけに取られながらも、ルークを見れば、ルークは厳しい瞳でリディアを見つめている。


「……話したいことが、ある」

「うん」


リディアが頷くと、ルークは一度、口を開いた。

でも、言葉は出てこなかった。

しばらくの間、沈黙だけが部屋に満ちた。

アレンは、リディアがルークの部屋の前で聞き耳立てていたのも当然わかった上で、ルークと会話続けています。


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