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セカンドガールの私が学園のプリンスをざまぁします!  作者: 白波美夜
第三章 教会と女神編

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あなたは私の特別。

やっと少し恋愛っぽくなってきました...!

風が鳴いた。竹の葉が掠れ合い、遠くから、何かを運んでいるような音がする。

ルークは、アレンが立ち去った場所でのんびりと1人座っていた。さっきまでの会話が、胸の奥で繰り返され、今までリディアと過ごした時間が、鮮やかに蘇る。

自覚してしまえば、もう後戻りはできない。


「……リディア」


その名前を口にした瞬間ーー

さわ、と葉音が変わり、足音が聞こえる。振り返ると、そこにはリディアがいた。


「……やっと、見つけた!」


乱れた髪を風にゆだね、簡素な服は少し汗で肌に張り付いている。だが、そんなこと気にせず、リディアはルークを見て、喜びの色をその瞳に移していた。

ルークは、言葉が出ず、ただリディアを見つめ返した。どうしてここに、このタイミングで……?

やっと自分の気持ちを認めたばかりのその相手が、何の前触れもなく現れたことに、ルークは戸惑っていた。


※※※※※※


リディアは、やっと見つけたルークの姿にホッと息をついた。

誰もいない静かな高台。竹に囲まれたこの場所は、ひどく落ち着く。

ルークはこちらを見たまま、何も言わない。いつもなら「俺に会いたくなった?」と茶化してくるが、それもなくて少しだけ不安になる。だけど、少し安心した。先ほど、少し喧嘩のようになってしまった時から、ルークの雰囲気が和らいでいたから。


「まだ病み上がりだから1時間しかルーク捜しちゃダメってカトリーナたちに言われれて……すごい必死で探したんだよ。見つかってよかった」


リディアがルークの隣に腰を下ろし、ルークの顔を覗き込むと、ルークはリディアから距離をとるように顔を逸らしながらも「……ごめん」と謝ってくれた。その声は、やけに静かに響く。


「いや、謝ってほしい訳じゃなくて……むしろ謝らないといけないのは私の方だし……」

「謝るって、何を?」


ルークの驚いたような顔に、リディアは言葉が詰まった。ルークを探しながら、話したいことを整理していた。だけど、まだ頭がゴチャゴチャして、うまく伝えられる気がしない。それでも、ルークには、自分の思ったことを正直に伝えたかった。


「さっきは、傷つけてごめん。ルークのこと、再会したときに気づかなくてごめん。昔、『魔法使いさん』のことばっかりでごめん……私にとっては、ルーク……ううん。『ルー』は初めてできた魔法使いの友達で、とっても嬉しかった。でも、私は『ルー』を傷つけてたんだね」


リディアはルークの様子を伺うように、そっとその顔を覗き込んだが、ルークは戸惑った顔をしていた。


「別にお前は、何も悪くないだろ」

「だけどルーク、さっき傷ついた顔してた」


その言葉に、今度はルークが黙る。そして、意を決したように、ポツリポツリと自分の生い立ちを話し始めた。

才能のなかった幼少期。天才の兄と比べられ、貴族であることも魔法使いになることも煩わしく、やけになっていたこと。リディアと出会って、魔法に興味を持てるようになったこと。


「だから……まぁなんだ。お前には感謝してるんだよ。ありがとうな、あの頃の俺に、いろんなこと気づかせてくれて」


それは、リディアにとって初めて聞く話ばかりだった。

魔力が少ない、というのは本人から聞いていたし、自分で自分を「努力型」と評していたのも知っていた。

だけど、リディアが思っていた以上に、ルークは努力していたのだ。


リディアは正直、魔法の才能に恵まれている。だけど学園を見渡せば、そうでない人間も多い。そういう人たちが必死に勉強しても、あまり身につかない姿を見て、正直かわいそうに思っていた。

でもきっと、ルークもそうだったのだろう。

それが、学園の模範生になるまでに、一体、どれほどの努力をしたのだろうーー。


出会った頃は自分と同じ背丈で、線の細かった少年。

それが、今は自分を助けてくれる、頼れる存在になっている。

そこに至るまでのルークの道のりを考えると、リディアは目頭が熱くなるのを感じた。


(敵わない、なぁ……)


魔法使いとしてだけではない。人間としての器の大きさが、リディアとは全然違うと思った。


「私、ルークのこと尊敬する」

「……今の話にそんな要素ないだろ」

「そんなことない。今のルークがあるのは、ひたむきに、一途に、魔法に向き合ったからでしょう?魔法だけじゃない。あの頃は、弱々しい体つきだったのに……他にも、すごくすごく努力したってことじゃない!それは、親から才能をもらって、簡単に強くなった魔法使いより、よっぽど価値があることだよ!」


リディアが身を乗り出して力説すると、ルークは照れたように頬を染めた。


「本当に、そう思うのか?」

「当たり前じゃない!」

「俺が……天才と言われる魔法使いより弱くて、使える魔法が少なくても?」


その問いに、適当に返事をしてはいけない、と直感で悟った。

ルークの目も、さりげなさを装いつつ、探るようにリディアに向いている。


リディアの身近には才能ある魔法使いは3人いる。

再会したばかりのアレン。カトリーナーーそして、レオナルド。

3人のことを考え、次に司教との戦いを思い出した。


『なぜ、共鳴魔法で助けを求めたのがルークだったんだ』


アレンへの問いの答えは、やはり変わらない。たとえアレンたち3人と共鳴できたとしても、リディアはきっとあの時、ルークを選んだ。なぜかはわからない、それでもーー


「私が、何か困ったとき、助けを求めるならきっとルークだよ。ルークが、他の魔法使いより魔力が少なくても弱くても、きっと私はルークを頼る」


リディアのその真っ直ぐな答えに、ルークは面映そうにしている。


「だけど、頼るだけじゃ嫌だ。ルークにも、私を頼ってほしい。私は、ルークと対等でいたいよ」


それは、飾らないリディアの本音であり、だからこそ、ルークの心の奥に深く染み込んだ言葉だった。

ルークの頬が赤く染まる。


「それは、俺がお前にとって特別、って考えていいのか……?」

「うん」


リディアの裏表のない答えに、ルークはやりきれない、というふうにさらに顔を朱色に染め、空を見上げた。

2人の間を流れる空気が、甘くなる。


(え、何この空気……)


リディアが戸惑いながらもルークの顔を見上げると、なぜかその唇に目が向かった。アレンに聞かれた、ルークとキスできるか?という質問が頭をよぎる。


「違う!違うから!!」

「は?違うの?」

「いや、違くない。ルークは確かに特別なんだけど、そういう意味じゃないから!!」

「そういう意味って……?」

「だから、その、えーっと!!…なんでもない!!」


今度はリディアが顔を赤くして否定すると、さっきまで照れていたルークは一転、奇異なものを見るような目をリディアに向けた。

リディアはごまかすように、ルークに言葉をつづける。


「そういえば、イヤリングありがとう。すごく助かった……それと、共鳴魔法もありがとう。あれがなかったら、司教との戦い危なかったよ……共鳴魔法が頭をよぎった時なんでだろう。ルークの顔がすぐに浮かんだんだ」


ルークはリディアの言葉にしばらく黙っていたが、やがてふっと息を吐いて笑った。


「……なんか、お前がそう言ってくれると、色々報われるな」

「へ?何それ」

「何でもない……こっちこそ、ありがとな」


風がまた吹いた。竹の葉が優しい音をたて、ナイル国独特の土臭い匂いを運んでくる。


「……っていうかお前、病み上がりなのにこんなところまできて大丈夫なのか?」

「……そうだった!!カトリーナに門限言われてた!まずい、帰んなきゃ!」


リディアが勢いよく立ち上がる。だが、回復しきれてない身体は、ほんの少しだけ重心を崩した。


「あっ……」


その瞬間、すっと腕が伸びてくる。ルークが瞬時に立ち上がり、リディアの肩を力強く支えた。


「お前なぁ……まだ回復してないなら無理すんなよ」


耳元で低く、でもどこか優しい声が聞こえる。

リディアは顔を上げた。思ったより近くにあるルークの顔に、目があった瞬間、心臓が跳ねる。


「……ありがと」

「ほんと、リディアって目が離せないよな」


そう言いながらも、ルークの腕はリディアを離さない。少し照れ臭そうに笑うその表情がどうしようもなく眩しく、また、甘い雰囲気になってしまった。それを誤魔化すように、リディアが言い訳を並べる。


「だって、カトリーナ怒ったら絶対怖いよ」

「……まぁ、怖そうだよな。俺も一緒に謝ってやるよ」


ふふっと2人でそっと笑い合う。2人の距離が少し離れ、並んで歩き出した。

重ねた影が、竹の葉の間を通って揺れている。

風がまた静かに吹いた。どこかでお菓子でも作っているのだろうか、甘い香りを運んでいく。

それは、まだ名前のない思いをそっと包む、優しい風だった。

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