瘴気
「学園での生活はどうだ??」
淡々と食事を進める息子に父である国王が話しかける。
「……つつがなく過ごしています」
リュークリオンの答えに周囲は静まり返る。
「つまらーん!!少しは面白い事を話せないのか?!」
「いや、そう言われましても」
皇太子たる者、いかなる時でも冷静に。
そんな教育を施したのはあなた達ではないか。
「まったく、こんなことではアンジーちゃんに愛想を尽かされてしまうわよ」
冗談交じりに言う王妃の言葉にドキッとする。
愛想はつかされていないと思うが……別に思い人が居ますとは口が裂けても言えない。
「そういえばこの前の学園祭!アンジー姉さまの侍女服姿にはびっくりしました!斬新な発想でしたね」
弟のショークリオンが口を開く。
2つ下のショークリオンは、幼い頃から体が弱く、武芸はあまり得意ではないが、賢く人当たりも良く、とても穏やかな性格だ。
正直、王宮内の者には近寄りがたいリュークリオンより、優しく朗らかなショークリオンの方が人気がある。
「そうだったな!アンジェリカ嬢が学園祭での出し物の指揮を執ったと聞く。評判だったようだな」
「ええ、アンジーの指揮の下、模擬店は大成功でしたよ。最優秀賞にも選ばれました。」
リュークリオンが自慢げに話す。
「はあ、よりによって公務が入るなんて。アンジーちゃんのメイド姿見たかったわ!さぞ愛らしかったことでしょうねえ」
「ええ、それはもちろん」
間髪容れず肯定する息子の返事に、相変わらずのアンジーへの溺愛っぷりを感じ、両親は安心する。
「何はともあれ、アンジェリカ嬢も未来の王妃としての自覚が出てきたようでなによりだ」
その言葉にリュークリオンは手を止める。
「そうね、アンジーはとても素直で可愛らしいお嬢様だけど、皇太子妃としてはまだまだ心配なところがありましたけど……。今回の件でやればできるのだという事がわかりましたわ」
「そうだな、立場が人をつくると言うし」
リュークリオンは焦る。
「そろそろ皇太子妃として正式に……」
「殿下!最近、隣国の使者が頻繁に来ているようですが、何かあったのでしょうか??」
王と王妃は目を合わせる。
「今日は久しぶりの家族での食事だからその話は後でと思っていたが……。実は隣国に瘴気だまりが発生したようなのだ。」
「――!!」
瘴気だまりとは魔のエネルギーの吹き溜まりのようなもので、放っておくとそこから瘴気が流れ出してしまう。
そうなると、植物は枯れ、人々も精神を病んでしまう。
一度精神をむしばまれてしまったら、元の瘴気だまりを根絶するまで、苦しみ続けることになる。
その前に、瘴気だまりを根絶しないといけない。
「瘴気だまりを封じるには、光魔法が必要だろう?隣国にももちろん光魔法を使える者はいるのだが、今回は今までにないくらい塊が大きいようなのだ」
「……それで我が国へ応援要請が?」
「知っての通り、隣国には借りがある。断ることは難しい。」
以前大国から責められたときに、隣国を含む連合軍が、我が国を助けてくれた過去がある。
「光属性の者はわが国でも希少ですからね……今いるのは10人程度ですわね」
「聖女でも現れれば一発なんだがな。」
王たちは頭を悩ませる。
瘴気だまりは、一度発生すれば各地にできる事が多いと聞く。
万が一に備えて、わが国にも光魔法士は残しておきたい。
「闇魔法でも瘴気だまりが消えると聞いたことがあります。闇属性の者を集めることはできないのですか?」
ショークリオンが提案するが、皆浮かない顔をする。
「……確かに闇魔法は瘴気を吸収することが可能だ。上手くいけば光魔法だけより効率よく瘴気だまりを根絶することができよう。しかし……」
言い淀む王に代わって、リュークリオンが口を開く。
「闇属性の者は周りの者を不幸にする」
「確かに、そんな言い伝えはありますが、そんなの迷信でしょう?」
「そうかもしれないが、しかし、人々は特に貴族はそういう家門にキズが付くかもしれないようなことをひどく嫌う傾向がある。闇属性は後天的な属性だ。隠し通すこともできるだろう。今更国の一大事だからと闇属性の者を募ってもどこまで出てくるか……」
リュークリオンの話を聞いて、ショークリオンもため息をつく。
闇属性は特殊で、花祭りでの最初の属性検査では出てこない。
他の属性から変化して後天的に闇属性が出てくるのだ。
しかしながら、使えることがわかっても、迷信の事があり、本人や家族が隠し通す事がほとんどだ。
なので、公式的には50年以上わが国には闇属性の者は現れていない事になっている。
何よりもメンツを大事にする貴族が隣国の危機だからと闇属性を明かして動員してくれるとは思えない。
「もちろん、そのようなものは迷信だと公言し、闇属性の者を募ろうとは思うが……」
「現実的には厳しいでしょうね。」
「ああ、だから場合によっては学園の光属性の者にも動員要請しなければならなくなるかも知れぬな」
「――!お待ちください!それはあまりにも危険すぎます!彼女たちはまだ知識も経験も浅すぎます!瘴気だまりにすぐにやられてしまいかねない!」
リュークリオンがすぐに反論する。
いつもとは違う焦った様子の息子に、王妃は少し違和感を覚える。
「もちろん、あくまでもその可能性があるという話だ。国内ではまだ瘴気だまりは発見されていない。だからこそ、早急に隣国の瘴気だまりを根絶する必要がある。我が国にとっても大事な事だ」
王はとりなすようにリュークリオンに説明する。
むろん、王とてすぐに学生を動員しようとは思っていないだろう。
最悪の事態を想定しただけだ。
「わかりました。以前に瘴気だまりが発生したのは50年以上前でしたよね?確かその時は聖女様が現れて各地を浄化して回ったと……」
「ああ、そうだ。我が国の文献にもそう記されている」
「ひとまず、わが国の光魔導士を5人ほど派遣しようと考えている。いずれも優秀な者達だ。他国にも要請しているようだから、今回で根絶できればそれに越したことはなかろう」
「そうですね」
「ただ、お前たちにはそのような事が今起きているという事実を把握しておいてほしい」
リュークリオンとショークリオンは、真剣な表情で頷くのだった。
食事会が終わり、リュークリオンは早速50年前の文献がある王室図書館に行こうとした。
学生の動員。
その言葉を聞いて、すぐに彼女を思い出した。
万が一にでも瘴気にさらされてしまえば、瘴気だまりが根絶されるまでずっと苦しむことになる。
そんなこと、絶対にあってはならない。
――ミナミの為に私ができることは何かないのか?!彼女が動員されずに済む方法は!!
そこまで考えて、リュークリオンはハッとする。
こんな私的な発想、皇太子として失格だな。
ミナミの事を考えると、自分が皇太子ではなくなってしまうかもしれない。
――だが、それでも……。
「リューク、ちょっといいかしら」
振り向くと、王妃が立っていた。
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