幕間011 世界首脳会議(密談)
<斎宮内親王サイド>
議事堂から追い出された首脳達が、この特別室に着座している。ここは世界政府の首脳陣が密談を繰り広げるための専用室である。
「ふふふ、偉そうにふんぞり返っていたが・・・これが今生の別れ。この後に神々に抹殺されると思えば我慢出来ますな」と、アメリカ大統領のオバム・ディームが話し出す。大衆の面前でズラを剥がれたことを今だに根に持っているため、伊月排斥の筆頭だ。
「オバム大統領、あなたの言には概ね賛同するが、あの未来視の話は気になりませんか?」と返すのは、イギリス国王のジョルジュ・ラムダッシュ・アーサー・ペンタクルだ。伊月とは直接の関係はないが、日本国内での隠密組織を尽く壊滅されて、伊月に対して相当ご立腹だ。ただ、その手際には称賛している。今は中立派だろう。
「なに、神になりたての小娘の言葉など意に返す必要もないだろうさ。まあ、事実だとしても我がアメリカ軍の精鋭が対応する。闇の勢力に対抗しうる氣を纏う精鋭部隊を即時千名は派遣可能だ」
二人の話に割って入るのは、この私。日本国の斎宮内親王だ。「氣を纏う部隊ですか?我が国でも皇居に配備中(皇宮部隊が伊月に鍛えられた・・・暇つぶしで)ですが・・・もしや【朱姫氣道場】の門下の方々でしょうか?」
「そうだ。創立してまだ5〜6年程だが、かの道場の氣力、特に身体強化は素晴らしいからな。いずれはアメリカ軍すべてに習得させたいと思っている」「それは我がイギリスでも同様ですな、まだ数百名程しか配備出来ていませんが」
【朱姫氣道場】とは、6年程前に開かれた道場で『「氣」を開花させ、自在にコントロールすることで超人への高みに登り、恒久世界平和に貢献する』を標榜している。筆頭補佐の如月トメ殿と5名の高弟達【月下の五高弟】の一般人とは思えない圧倒的な能力に、またたく間に全世界に広まった。会員は全世界に1000万以上いると言われているが、道場に入会するには厳しい審査を通過する必要がある。
筆頭は不明で、筆頭補佐の如月トメ氏が実質のトップとなっている。なお、能力を開花したものは、あらゆるスポーツへの参加を禁止される。規律は厳しく、能力開花時の約束を破るとその力が封印されるらしい。
「我がロシアでも広まっているが・・・軍に在籍していながら、軍事侵攻には参加拒否をする困った思想の道場だよ」とはロシア大統領イワンコ・ビロシェヴィチ。こちらは伊月擁護派だが、その力を権力維持に利用したいと思っている、お花畑な脳内の持ち主だ。
「やつらは、『世界の平和』以外の戦闘行為には参加しないそうでな、ウクライナ侵攻の際には、参加拒否の上、妨害工作をした後にウラル山脈の向こう側に逃げられてしまった」先に説明したが、あの道場はそういう思想だからね。
「あの道場の力は不思議もので、能力開花時の約束通り、道場の思想に反すると能力が消失する。金を積んだり、美人局したりと、籠絡したのがすべて無駄になったぞ」とは、大中国皇帝の小熊維尼の言。伊月に対しての認識はロシア大統領と同じだが、その規模が世界征服にまで妄想が進んでいる。
「「「なに!?」」」「やはり事実でしたか・・・」これは独裁傾向の指導者に取っては大問題だろう。【朱姫氣道場】が国の法律に従わない反乱分子になる可能性があるのだから。
「現在はウイグルとチベット地区に逃げ込まれてな、ついでとばかりに民族解放運動をしておる。計10万の軍隊で包囲しているが・・・銃程度では効果もなくお手上げ状態だ。伊月に引っ掻き回されたウイグルの傷にたっぷりと塩を塗り込められた状況だよ」と極秘情報を開示する皇帝。
「やつらは国のためには動かん」と実感のある言だ。
「それともう一つ、お主らの核兵器は無事か?こちらはバカな部下共が核兵器でウイグルの殲滅を計画してな・・・それを察知したのか、以前六神の小娘が報告していた『放射性物質を処理するスライム』がキレイに無力化していったよ。同盟国配備分、原潜搭載分、地下深くの隠蔽分も何もかも・・・使用済み核燃料すらもな。
その言葉に各国首脳が慌てて部屋を飛び出していった。もちろん日本国には核兵器は存在しないが、使用済み核燃料の確認は必要だ。
「まあ、廃棄が面倒なので助かったがな、核兵器など自慰の展示物のようなもので、恥ずかしいだけだ」との正論をつぶやく大中国皇帝。たしかに今では使い道がないからね。
15分程で、確認を終えた各国首脳が順次戻ってきたが、みな青白い精気のない顔をしているので状況は一目瞭然だ。うちの父だけがホクホク顔をしている。
「伊月殿にしてやられましたな。ただ、すべての国の核兵器が一斉に使用不能になっているので助かったよ」とはイギリス国王。
日本の状況は、防犯カメラでスライムが各地の原子力発電所の廃棄物置き場に潜んでいる事が確認された。福島の原子力施設跡地にも確認されたそうなので、無害化する日も近そうだ・・・父が喜ぶわけだ。
「落ち着いたら、すべての国参加で永続的な核廃棄条約を締結しましょう・・・どうせ作った側から食べられるだろうから、せめて美談で片付けないとな」オバム大統領、そういう政治的なことは今はどうでもいい。
ようやく落ち着いたところで、父が話し出す「話が逸れてしまったが、私は数日前に筆頭補佐の如月トメ殿と話したのだが・・・『条件付けでの力の発現』と言っていたな。その際に私と斎宮内親王の加入をお願いしたのだが『そちらは筆頭が対応します』と言われて、楽しみにしていたのだ」と日本の恩和天皇の発言に、一同驚嘆する。
「なんと!本当に筆頭は存在するのですな!ならば是非私も!!!」イギリス国王のジョルジュ・ラムダッシュ・アーサー・ペンタクルが吠える。隠密部隊の調査では、イギリス国王はこの道場の熱烈な隠れファンなのだ。推しは五高弟のそろばんの狂戦士こと、二俣撫子殿だ。
すると、ドアが勢いよく開かれ「筆頭の説明は私がします」と現れたのは、漆黒の特攻服を着た15歳程の黒髪のスレンダーな美人女性だ・・・漆黒の特攻服は【朱姫氣道場】の免許皆伝者の正装なのだが?
「何者だ!?」と恩和天皇が戦闘態勢を取り、慌てて私も戦闘態勢を取る。
「あらあら、数日前にお会いしたばかりなのに、もうお忘れですか?恩和天皇陛下、齋宮内親王」と知り合いを装っているが、天皇陛下共々このような少女と面会したことはない。
「あなたのような、幼い娘さんとはお会いし・・・えっ!?後ろの方々は『お玉の暗殺者【朝日奈結衣】』殿!?それに、『ダンボールの結界師【山田花子】』殿か!?」
陛下が驚くこのお二人は、如月トメ殿の高弟【月下の五高弟】のうちのお二方だ。たしか道場の立ち上げ当時に筆頭が集めた初期メンバーで、主婦の『お玉の暗殺者【朝日奈結衣】』、元ホームレスの『ダンボールの結界師【山田花子】』、会計士の『そろばんの狂戦士【二俣撫子】』、元ボクサーの『ワセリンのヒーラー【伊集院日向子】』、清掃員の『雑巾ヌンチャク【田中律子】』の五名だ。
【朱姫氣道場】の人気の理由のひとつが、この高弟達の存在だ。一般人だった者が、筆頭に見出されてから超人に至るまでのサクセスストーリーが心を熱くさせるそうだ。
「なら、私のことも分かるはずなのですが・・・そうだわ!ついに私も伊月ちゃんの眷属になったので容姿が若返ったのですね!伊月ちゃーーーん!LOVE!」すっかり忘れてました〜と陽気に話すこの方は?・・・えっ!?なぜここで伊月が出てくるの?
「も、もしや!?あなたは!!!如月トメ殿なのですか〜!!!私!ファンなのです!!!是非サインをーーーー!!!」とイギリス国王のジョルジュ・ラムダッシュ・アーサー・ペンタクルがにじり寄るが「はい?伊月ちゃんを嫌うあなたにはサインなどしませんよ」とにっこり拒否する如月トメ氏?やはり本物なの?・・・ああっ!?国王様のしおれ具合がひどい!
がっくりと崩れ落ちるイギリス国王をよそに、恩和天皇が「本当に如月トメ殿なのですか?先日お会いした際は・・・失礼ながら30台ほどに(本当は91歳!)見えましたが・・・今は10代にしか見えません」
「そうなの!ついに伊月ちゃんの眷属になったので、一気に若返ったのよ〜」とのんきに話しているが・・・別れの際に伊月が言ってた「友達のトメさん」って、もしや如月トメさんのことなの〜!?あの子の人脈おかしいよ〜 内親王の私も友達だもんね。
「あ、あの?伊月とはどういう関係なのですか?伊月は『友達のトメさんが挨拶に行く』と言ってましたけど」と言うと「「「「な!?」」」」と首脳達から驚かれたが・・・「なら、伊月ちゃんとの馴れ初めから話しましょうかね〜」と如月トメ氏の昔語りが始まった。
<如月トメサイド>
私こと如月トメ75歳。主人に先立たれ、息子達も独立して、元資産家だった先祖のだだっ広い住居を持て余しながら、趣味の駄菓子店を切り盛りしていた。
かわいい子供達の喜ぶ顔を見たくて始めた駄菓子店だが、中には罵詈雑言を吐く生意気な子供や万引きを働く悪い子供達も居る。気をつけているのだが御年70超えの体には辛く、放置気味となっていた。
そんな駄菓子店に救世主が現れた!それはわずか2歳の幼女。よちよち歩きの幼女がお金を持って居る訳もなく、冷やかし程度(2歳で冷やかしって、どうなのだろうか?)に訪れていたようだが、万引きを働く8歳男児の金的を的確にぶん殴ったのには驚いた。「あくは、ごみ〜」と自慢げに勝ち誇っていた姿に好感を持ち、お礼に駄菓子をいっぱい贈呈した。
で、その甘味に味を占めたのか?その後は用心棒のように駄菓子店に常駐。駄菓子を報酬として、訪れる悪をぶん殴り続けて、いつの頃からか我が駄菓子店の守護神になったのだ。ちなみに女の子からは【妖精姫】と可愛がられながらも恐れられ、男の子からは蛇蝎のごとく嫌われていた、こんなに可愛い子なのに不思議だわ。
しかし、その【妖精姫】が3歳になると、髪や瞳が突然銀髪・銀瞳に変化したのだ。今でさえ奇異や嫌悪の感情を向けられていたのに、更なる変化に親を含めた周囲から、常軌を逸した憎悪の感情を向けられるようになった。なぜ?この善意の塊のかわいい子供が嫌悪されないといけないのだろうか?と義憤に駆られた私は、周囲とは真逆に伊月ちゃんを溺愛するようになる。
その後、伊月ちゃんの来店は週一ほどに減り、訪れる度にやつれていくその姿に我慢出来ず、何度も両親に抗議に行くが相手にもされず。児童相談所に行くべきか?なら自分の養子に・・・と思案している時に崩壊は突然訪れたのだ。
「母さん、これだけの土地、もったいないからマンション建てようよ!母さんはそのお金で終の住処、老人ホームでのんびり出来るよ」と息子たちが言ってきたのだ。
しかし、私がこの土地を離れてしまえば・・・駄菓子店がなくなれば・・・伊月ちゃんはどうなるの?私にはこの思考しかなかったので、色々と抵抗したのだが・・・ついに金に目が眩んだバカ息子達に無理やり実家を追い出されたのだ。
「・・・伊月ちゃんを守れなかった」と暗鬱な気持ちで公園でホームレスをする私を「ばあちゃん!ゴミ、捨てた!いっしょ!住もう!」と、私を探し出した4歳になった伊月ちゃんに誘われ、涙を流しながら同棲を開始したのだった・・・ちなみにゴミとは両親のことらしい、ちょっとスッキリだわ!
その後「トメばあちゃん!氣の力すごい!鍛える!」と伊月ちゃんと修業に励み(覚醒のための初撃は・・・地獄!あの時は伊月ちゃんを恨んだわ〜)、その後に生まれたアリスちゃんとタツキちゃんと交流を深めながら、氣力が成長して、かつ徐々に若返っていった私。
そして、伊月ちゃんが中学生になる頃に「トメちゃん!あなたの土地で道場開いて氣力の弟子を育てよう!正義の戦士を増やすのだ!」と言ってくれたのだ。何故か?息子たちに取られたと思っていたお金と更地の土地が残っており、伊月ちゃんが集めた高弟5名を預けられて【朱姫氣道場】を開いたのだった。
「「「「「・・・・・」」」」」
「では、山本伊月殿が【朱姫氣道場】の開祖で筆頭なのですね」と、イギリス国王のジョルジュ・ラムダッシュ・アーサー・ペンタクル。道場の隠れファンは思わぬ真実に高揚している。
「はい、『朱』は長女アリス(有朱)さん、姫は次女タツキ(竜姫)さんの、それぞれ1字をもらっています。月下の五高弟の『月』は伊月ちゃんから取りました」この話で、この世界を慮る存在が誰であるのか?が確定したのだ。
「ならば、我がイギリス・・・グレートブリテン及び北アイルランド連合王国は、現時点から、神・伊月様の配下となることを誓います」との衝撃発言をしたのだ。
その他の面々は「神との闘争の内容を見て決める」ということで、取り敢えずの方針が決したのだった。
<斎宮内親王サイド>
「トメ殿!伊月の友人である斎宮として聞きますが、『女神ガイア』が存在していない、というのは真実なのでしょうか?」と爆弾を落とす。
「「「「「なんだと!?」」」」」「斎宮!?伊月がそんなことをいったのか?いつ?・・・いや、先の別れ際か?」
「伊月ちゃんの話だと、『存在しているけど、永〜い時を経て世界に同化してしまい、世界の困難に対して力を振るう気はない、ただ行く末を眺めるだけの存在』だそうです。伊月ちゃんの虎虎はその残滓らしいですよ。私見ですが、きっと伊月ちゃんを後継者だと思っていたんでしょう」とさらなる爆弾を落とした。
「なら!伊月討伐の!あの神託はなんだったのだ!?」オバム大統領の疑問も納得だ。各種宗教の指導者にも神託が送られているようだし。
「あら?伊月ちゃんは言いませんでした?『現在、ガイアの女神は不在。そのスキを狙い、眷属神を思考誘導している・・・どこぞの首脳達も同様に』って。
「「「「・・・・・」」」」」返す言葉もない。
「最後に、伊月ちゃんからの伝言です『コロコロ変わる未来視だけど、今の所、私は神と相打つらしい、神は消えるかも?でも、邪神モドキは残る。種は蒔いたので後は人力で頑張ってね〜』だそうです」
「「「「・・・・・」」」」」返す言葉もない。各首脳もこの段階になり、ようやく自分達の失態に気づいたようだが、本物の神からの神託である、ある意味仕方がないことだろう。
しかし、私は伊月に『私は日の本を守る天皇陛下になる身だ!あくまで女神ガイアの眷属なんだ!』なんて言ったんだ!その言葉を曲げる訳にはいかない!!!
「トメ殿!伊月を拒否した私ですが・・・私を弟子にして頂けないでしょうか!?日本国の守護神になりたいのです!」と、思考がぐっちゃぐちゃだな〜と思いながらも迫る。
「私はこれから世界戦争の準備に勤しむので拒否します。あなたの後ろに控える神獣様にお願いしたらいかがでしょうか?」とトメ殿に否定されたが・・・えっ!?神獣?
「光輝参上!」と、そこには両手をサムズアップした一頭のパンダが背中を見せて佇んでいた・・・旧玄武だ。
「伊月から、自称現人神とのたまう皇室の無能どもをイチから鍛え直す様に指示された・・・神の血筋は永遠なるもの!いざ神威を取り戻すぞ!元を含めた皇族をすべて招集せよ!地獄の特訓が始まるので覚悟せよ!時間もなし、拒否は認めん!」
ああっ!伊月が光輝を遣わしてくれたのだ!まだまだ終わってない!・・・私が現人神と成り日本を照らすのだ!!!公約は絶対守るぞ伊月!
・・・だから元気な姿で戻ってきてくれよ!