おまけのロビン後編
夕暮れ時、各家に灯りが点りはじめるころ、ロビンとメヒテルトは街を歩いていた。
流行りの舞台を見に行くのである。
そしてその後は食事にいく。
男女でそんなことをしていれば立派な逢引だ。
ロビンはそのつもりだがメヒテルトは、男装である。
細身のズボンに、シャツ、ベストとシンプルな装いなのにあか抜けている。
それだけならまだいい。
「やだ!メヒテルトも来てたの?嬉しい!」
「ああクレア久しぶりだね。今日の服、君の髪色にはえるね。」
「でしょう。さすがメヒテルトわかってる。」
とか
「マリアちゃん、こないだは差し入れありがとう。美味しくてみんなで争って食べたよ。」
「そそんな、メヒテルトさまに喜んでもらえるならいくらでも作ります!」
「嬉しいね。こんな美味しいのいつでも食べられる君の未来の旦那様に嫉妬しそうだよ。」
とか
「メヒテルト今日、私の店来てくれる?」
「もちろん、こんなかわい子無視できないよ。必ずいくよ。」
「待ってるね。」
等々、上は美魔女、下は美少女ありとあらゆる女性から声をかけられ囲まれるメヒテルト。
そしてすべてに律儀に返していく。
元々女性はだいたいよくしゃべるし、その距離が近い。
女性同士なのだが優男風味のメヒテルトが女性と話しているとアラフシギ、軟派男の出来上がりである。
メヒテルトが女性と話が弾むとロビンが「開演時間が、」とそっと声をかけて話を切り上げていた。
後に現場を目撃した警備隊員はいう。
あれは逢引ではない、人気俳優とその付き人のお忍び町歩きだったと。
観劇後メヒテルトと飲みながらロビンはどうしてこうなったと考えていた。
情けない話であるが、同室でありながらロビンはメヒテルトが女性だと気がつかなかった。
むしろ憧れの同期であった。
聞いた瞬間ひっくり返ったのは、ただただ驚きからだった。
寮室に帰ってきたメヒテルトにおそるおそる
「お前女なの?」
と聞いたら、
「あれ、ひどいなみんな男と間違えてたの?」
とあっけらかんと言われ、本人は女性として警備隊に入隊したつもりとわかった。
なにか性別を偽らなければならない事情があるのではないかと勘ぐったが、そもそもメヒテルトは女性に多い名前である。
ロビンはやっと同室の同期が女性だと理解した。
15歳の女の子と寝起きをともにしている。
ロビンは赤くなった。
そして女の子に下ネタで盛りたがっていたり、ナニ比べているところを見られたのを思い出す。
ロビンは青くなって寮室を飛び出した。
そして教官に部屋代えをお願いした。
ロビンは目の前で女性を口説くメヒテルトを見る。
一見優男だが、顔は女性らしい優しい顔立ちで整っているし、体つきも鍛えていてもロビンよりよっぽど細い。
情けない話だが青春をほぼ鍛冶修行に費やし、女性に免疫がないロビンはあっさりメヒテルトを異性として意識してしまった。
今ロビンを放置し女性と話す様子さえかわいいと思うので重症である。
警備隊におけるメヒテルトの活躍は華々しい。
初勤務で引ったくりを捕縛するわ、最年少で副隊長になるわ、隊員を結婚させまくり離職率を下げ士気をあげたわ、メヒテルト様々である。
一方ロビンは悪くもないが目立つところがなく、階級も上がっていない。
せめてなにかメヒテルトに勝ってから告白したい。
もがいているといつの間にか数年経過。
しかし、メヒテルトが三番隊副隊長になって状況が変わった。
メヒテルトが三番隊隊長と同居しはじめたのである。ロビンは焦った。
焦ったロビンは幼馴染みに相談した。
アドバイスは「他に彼女でもつくれば?」だった。
幼馴染みいわくフリでもいいから女の影を匂わせ、意識させるらしい。
高等技術であった。
さっそく実施のためメヒテルトに女の子を紹介を頼むと、メヒテルトに片想いはいいのかと聞かれた。ロビンの頭は真っ白になった。
色々メヒテルトと話したが何を話したかよく覚えていなかった。
気がつけばお見合いになっていた。
ロビンが待ち合わせ場所の広場に到着ししばらく待つと女性二人組が近づいてきた。
一人は小柄で可愛らしく、一人はすらりと背が高い美人。
メヒテルトと紹介の女性だった。
ロビンは初めてメヒテルトの女装を見た。
いつも二人で出掛ける時は男装なのに。
あまりの脈のなさにロビンは泣きたくなった。
失礼な話だか紹介された女性との会話は上の空で、メヒテルトに「あとは若いお二人で〜」と言われるまで顔もろくに見ていなかった。
二人きりになると女性は言った。
「ヘタレさんいきましょ」
ロビンは泣いた。
数日後メヒテルトとエリアが婚約したのを聞いてさらに泣いた。
メヒテルトに紹介された女性、マリエは言う。
「ヘタレさん、かわいいですね」
ロビンは言う。
「マリエさんのほうがかわいいです」
「よくできました」
ロビンはマリエにかわいいと言われたら、かわいいと言って返せと教えこまれていた。
そのうち名前で呼んでもらえるだろうか。
マリエは見透かしたように言う。
「メヒテルトさんのことで泣かなくなったら、お名前で呼びますよ」
それはそう遠くない未来だった。
マリエの実家
『林檎の蜂』
人気のパン屋さん。
生地にはちみつを練り込んだパンが看板商品。
一緒にある惣菜も人気。