別府温泉4
休日。
ノゾミと賢治は今日も温泉めぐりをしていた。
今日来たのは、鬼山時宜具のワニ園。
『別府地獄めぐり』の一つ、「鬼山地獄」のすぐ近くにある場所。
園内では100頭近いワニが飼われている。
柵の向こうでは、飼育員のおじさんがワニにエサをあげる。
生肉にかじりつくワニたち。
体を回転させながら肉を食いちぎる。
デスロールをいわれるワニの必殺技だ。
ワニは顎の力が強く、尚且つ体を回転させてかみついた相手の肉をひきちぎる。
その技で、サバンナでは大きなバァファローやライオンを狩ったりする。
「見てみて、賢治。あのワニ凄いよ。他のワニを押しのけちゃった」
ノゾミがワニを指差す。
「そうだな。ワニの中でも序列ってのがあるんだよ。多分、あの顔に傷があるワニが一番強いんだろう」
賢治は「ふむふむ」と語る。
「怖いねー。あんなのにかじられたら死んじゃうかも」
「まぁ、ワニは分類上では絶滅した恐竜と同じ主竜類に属するし、恐竜よりも古い時代から生息していた動物だしね」
「へぇー、そうなんだ」
「あぁ、それにほとんどの場所ではその生活圏の最強種だよ。ピラミッドの頂点」
「よく知ってるね。賢治は」
「ここにはよくくるし、さっきパンフレットで読んだ」
賢治はパンフレットを掲げる。
「なんだ。パンフレットか。感心して損した~」
くすっと笑うノゾミ。
「いいだろ、パンフレットでも。それにここは安全だよ。。ここには丈夫な柵もあるし、飼育員さんも慣れているだろうから。
パンフレットにも安全って書いてある。柵にはもたれかかっちゃいけないみたいだけど」
「だね。でもすっごくワイルド。前にいったことがある動物園だと、こんなの見れなかったよ」
「この動物園は特別なんだよ。通常の動物園だと、そもそもワニが100匹もいないから。
ほらっ、あそこ、あのワニ、仲間を噛んでる」
賢治はワニを指差す。
「ほんとうだー」
「多分アレは甘噛みだよ」
「甘噛み?」
「つまりいちゃついてるんだ」
ノゾミは不思議そうな顔をする。
「賢治、ワニのメスとオスの違いが分かるの?どれも同じに見えるけど」
「ワニは一部の種族を除いて、外見でオスメスは分からないよ。でも、なんとなくアレはカップルにみえる。僕の勘だ」
賢治はキリっとした顔をする。
「なんだー。勘なんだ~」
ノゾミは落胆する。
メスとオスを区別できる方法があると思い、賢治が教えてくれると期待したと思ったのだ。
だがその予想が外れたからだ。
「勘でもいいだろ。多分あってるよ。ほらっ、他のワニが寄ってきてケンカになった。多分、メスの取り合いをしてるんだよ」
「ほんとだー。でも、ワニって強いんでしょ」
「うん。もしワニとの戦いになったら人が勝つのは難しいよ。でも勝つ方法がないってわけじゃないんだ」
ノゾミは興味がある顔で賢治を見る。
「ねぇ、どうするの?」
「棒か何かで目と鼻を狙うんだよ。そこしか弱点がないから。ウロコも皮膚も固いから」
「逃げちゃダメなの?」
「ダメ。ワニは凄く動きが早いよ。すぐ追うのを諦める習性があるけど、普通に追いつかれる」
「そうなんだー」と頷くノゾミ。
「じゃあ、噛まれたら?」
「そしたら口の中に手を突っ込んで、舌とか、その奥にある小さな舌みたいなものを思いっきり掴んで、吐き出させる」
「へぇー、物知りだね」
「ネットでググッったんだ。ガブッ」
賢治がふざけてノゾミに噛み付くマネをする。
「もう、やめてよ~」
「やだ、やめない」
笑うノゾミだが・・・・彼女の表情が固まる。
なぜなら、ノゾミの目の先にとある人物が映ったからだ。
その人物は・・・・・ノゾミのよく知る人物だった。
彼女の目の先に写ったのは・・・・お腹を大きくした妊婦。
ノゾミの親友、マイコの姿だった。
「な、なんでここに・・・・」
ノゾミは驚嘆して呟く。
ゾクリと背筋に冷や汗がたれたのだった。
悪寒が通り抜けた。
だが同時に。
驚くノゾミにマイコは近づき、同じように呟くのだった。
「見つけた・・・・・・」っと。
―――こうして又しても、2人が出会ったのだ
―――ワニが見守るその中で
―――お互いを見つめ合ったのだった