雪国グルメ編 (タコしゃぶ カニ 塩ラーメン) 4
本話から、【ヒグマ格闘編(石狩鍋)】とは展開が異なります。
ノゾミは雪の中、崖の方向に逃げていった。
だが、それは悪手だった。
崖の方向に向かえば、逃げ場はないのだ。
ノゾミはそれぐらい動転していたのだ。
崖に追い詰められるノゾミ。
追い詰める雪男。
「はぁーはぁーはぁー、ノゾミ・・・もう逃げ場ないぞ」
走って興奮しているためか、息が荒い雪男。
ギラギラとした目でノゾミを見る。
「ちょ、ちょっと、こっち、こないで」
「いいから、話を・・・」
雪男がノゾミに触れようとすると。
「きゃっーー!」
ノゾミが雪男の手を跳ね除けた瞬間。
雪かきで鍛えた雪男の力は、思ったより強かったのか、吹き飛ぶノゾミ。
彼女はそのまま崖から落ちた。
極寒のオホーツク海に沈んだのだった。
バシャン
下から水しぶきの男が聞こえてくる。
「ノ、ノゾミーーーー!!!!」
吠える雪男。
まさか落ちると思わなかったのか、動揺している。
崖の下を見入っている。
ノゾミの姿が浮上しないか探っているのだ。
だが、暫くたっても姿は見えない。
同じ時。
マイコも動揺していた。
彼女は目撃したのだ。
雪男がノゾミを海に突き落とす瞬間を。
まさか雪男がノゾミを殺すなんて、マイコは思ってもいなかった。
(ど、どうしようっ!)
マイコがただただ焦っていると。
ノゾミを発見できないと諦めたのか・・・雪男は辺りを見回す。
そしてマイコを発見して睨む。
マイコにノゾミを突き落とす瞬間を見られたのだ。
つまり殺人現場を見られた。
そして幸いなことに、ここにはマイコと雪男の二人だけ。
マイコを消せば、雪男の犯罪は消えるかもしれないのだ。
雪男はマイコめがけて走ってきた。
(や、やばい・・・)
マイコはお腹をきづかいながらも、全速力で逃げる。
だが、雪の大地。
思うように走れない。
足が雪にうもれるのだ。
それに妊婦、お腹の子が気になってしょうがない。
マイコの白い息が弾む。
後ろからは、雪男が叫びながらおってくる。
「まてっ!、違うんだ。まってくれ。話を聞いてくれっ!!!」
呼び止めようとする雪男。
だが、マイコは決して止まらない。
止まったら、多分殺されるからだ。
お腹の子供まで死んでしまう。
(にげなきゃ、人がいる場所までっ!絶対にっ!この子のためにもっ!)
マイコは全速力で逃げた。
(はぁーはぁーはぁー)
マイコは逃げ続ける。
(はぁーはぁーはぁー)
マイコは走り続ける。
(はぁーはぁーはぁー)
マイコは駆け続ける。
すると、目に入ってくるのが、スノーモービルに乗った警察官。
スノーパトロールだ。
「な、なにやっとるん?」
マイコを見て驚く警察官。
「お、お回りさーん。殺人鬼です!!!アノ人殺人鬼ですっ!!」
私は雪男を指差して大声で叫ぶ。
「な、なんだと!」
驚く警察官。
「あの人が、崖に女の人を突き落としたんです。私、見ましたっ!」
雪男が警察官をみてぎょっとする。
すぐさま方向を変え、走って逃げ出すが・・・・・
即座にスノーモービルに追いつかれる。
それでも雪男は懸命に逃げる。
そして崖際まで逃げるが・・・・そこで御用となった。
ここは海岸線、逃げ場はないのだ。
雪男はノゾミの様に海に落ちることはなかった。
その後。
雪男は殺人未遂で捕まった。
雪男の奥さんは関東から警察署に来た。
警察官から事情 (不倫したあげくに、崖から不倫相手を突き落とした)を聞き、
逮捕された夫と面会した際には、泣きながら平手打ちを食らわしたのだった。
警察は、突き落とされたノゾミを捜すために海外線を捜索すると・・・
なんと奇跡に見つかった。
近くを通りかかった漁船がノゾミを回収したのだ。
すぐさまノゾミは病院に運び込まれて、大事にはいたらなかった。
落ちる時に崖にぶつからなかったことも幸いし、外傷もない。
一週間程入院すれば全快するとのことだった。
マイコはノゾミによる不倫関係を防いだが・・・なんとも後味の悪いものになってしまった。
この結末は・・・
決してマイコが望んだものではなかったのだ。
その後。
マイコは念のため病院によった。
激しく走ったため、お腹の子供が心配だったのだ。
しかし検査の結果は問題なし。
何事もなく無事でよかった。
安心したついでに、警察署でおすすめされた「タコしゃぶ」を食べるのであった。
因みにマイコはゴマタレではなく、ポン酢が好きだった。
~余談
1ヵ月後。
全快したノゾミは会社に復活していた。
彼女は昇進&昇給したのだった。
理由は簡単だ。
職場の責任者、上司である所長に殺されかけたこともあり、不倫したとはいえノゾミは被害者。
本来守るはずの上司が部下に凶行に及んだのだ。
その補填の意味が一つ。
もう一つの理由は、会社がこの事件を表沙汰にすることをさけたがっていたからだ。
つい数ヶ月前に同じ会社の社員が横領事件をおこしたばかりなのだ。
短い期間に連続して事件を報道されれば、会社の評判が傷ついてしまう。
だからこそ、会社はノゾミに口をつぐんでもらう代わりに昇進&昇給を提案した。
ノゾミはそれを受け入れた。
こうしてノゾミは、雪国の地から本州に復活した。
そして彼女の正式な転勤先が決まる前に。
一時的な地として、会社からの慰労の意味も込めて選ばれたノゾミの赴任先は・・・・
――― 日本有数の温泉地、「別府温泉」で有名な大分県別府市だった
―――恋の舞台は、北の雪国から、温泉沸き立つ「別府温泉」へと移るのだった。