表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/11

別府温泉5

 数日前。

 マイコは依頼した結果を探偵から貰っていた。

 結果は黒だった。

 ノゾミはまたしても不倫していたのだ。


 マイコはショックだった。

 またしてもノゾミに裏切られたのだ。 

 オホーツク海に落とされ、文字通り頭を冷やしたと思ったのに・・・このありさま。


 落胆すると共に、マイコの心の中に火がついた。

 手間のかかかる子供ほどいとおしい。

 親友という間ながら、そんな感情が芽ばれているのかもしれない。


 マイコは妊婦で妊娠8ヶ月目。

 案静にしなければいけない時期である。

 だが、やらねらばならいことがあるのだ。


 このままノゾミの凶行を見逃せば、生まれてくる子供にも決して良くないと思ったのだ。

 きっとこの子も私と同じ光景を見ているはずだ。

 もし、このまま私が見過ごせば、生まれてくる子はノゾミみたいになってしまうかもしれないと思ったのだ。

 ノゾミの行動が正しいことだと思ってしまうと。

 

 何故かそう強く感じだ。

 だから妊娠中にもかかわらず、マイコは北九州、大分の別府温泉に飛んだのだった。



 そしてノゾミの居場所に向かった。

 探偵が突き詰めたノゾミと不倫相手の行動パターンから、今日ワニ園に向かえば出会える確率が高いと分かっていたのだ。

 

 そしたら案の定。

 マイコはノゾミと不倫相手の賢治を発見した。

 2人はワニを見つつも、仲の良いカップルの用にいちゃついていた。


 マイコはすぐさまノゾミに近づいた。

 そして呟いた。


「見つけた・・・・」っと。



 ノゾミは動揺している。

 傍にいる賢治はノゾミの変化を不思議がる。


「どうしたノゾミ?」

「え、うん。その・・・・」


 言葉を濁すノゾミ。


 そこにマイコが割り込んで話す。


「ノゾミ、久しぶりね。ここで会うなんてね」


 ニコッと笑うマイコ


「う、うん・・・・久しぶりだね」


 ノゾミもなんとか返す。


「ノゾミ、知り合いかい?」


 賢治がマイコを見て聞く。


「うん。そうなの・・・・友達」

「そうか。じゃあ、僕は近くでワニでも見てるよ」


「うん。分かった」

「それじゃ、ごゆっくり」


 離れていく賢治。

 ノゾミの目には、この光景は北海道での経験と重なる。

 賢治が離れていった雪男に重なるのだ。

 そのため悪い予感しかしなかった。


 マイコは賢治が離れたのを確認してから、ノゾミを見る。

 その顔から笑顔は消えていた。


「ノゾミ、私が来た意味、分かるわね」


 マイコはノゾミに察して欲しかった。

 自分の口からは言いたくなかったのだ。

 不倫をとがめたくなかった。

 ノゾミには自ら罪を認め、正しい行動をとって欲しかったのだ。


 だがノゾミは・・・・一縷の希望にすがってしまう。

 もしかしたら、『マイコはただ観光にきただけなのかもしれない』という希望に。

 だから声に出す。


「えっと、マイコ、温泉に入りに来たの?」


 おどけて話すノゾミ。

 軽く笑うノゾミ。

 だが、その言葉にマイコはピクッと怒る。


「ノゾミ、それ本気でいってるの?」

 

 ノゾミはしまったと思った。

 やはり、マイコが来た要件はあのこと、不倫をとがめにきたと思ったのだ。

 北海道と同じような状況で、同じやりとりだから。

 不倫のことでしかありえない。


 だが、自分の口からはいえなかった。

 不倫をやめるとはいえなかったのだ。

 だから口に出す。


「ううん。でもマイコ、どうしたの?何しにきたの?」

 

 ノゾミはせいいっぱい気づかない振りをする。

 その態度に・・・・・

 マイコは諦めつつも、来た目的を告げるのだった。


「ノゾミ、あなた・・・また不倫してるわよね」

「・・・・・」


 黙るノゾミ。


「あなた、オホーツク海に落ちても何も感じなかったの?あれだけ冷たい海に落とされたって言うのに」

「・・・・・・・・」


 マイコは息を荒くする。

 そして連続で話す。


「ノゾミ、分かってると思うけど、証拠はあるわ、じゃなきゃここまでこないから。意味、わかるわよね」

「う・・・うん」


 小さく頷くノゾミ。


「なら、何をやるべきか分かるわね。今すぐ別れなさい」

「・・・・・・・・・・・」


 ノゾミは黙る。

 なぜなら、今回の不倫はノゾミにとってこれまでとは違った意味があったからだ。

 不倫をしないと決意しても、実際にしてしまった不倫。

 それはこれまでとは違う経験。


 これまで不倫しないと決意したことなどなかった。

 だからその決意を破ったこともない。

 それはそれ程今回の相手、不倫相手の賢治に惹かれていたことでもあった。


「ノゾミ、別れてくれるわよね?」


 マイコが痺れを切らして聞くと・・・・


「いや・・・・絶対に別れれないっ!」


 ノゾミは強く宣言した。

 それほど今の不倫関係はノゾミにとって心地よかったのだ。

 今更別れるわけにはいかなかった。

 ノゾミにとってはなくてはならない関係になっていたのだ。


 賢治との日々がなくなるのは、ノゾミにとってはつらいことだったのだ。

 せっかくできた暖かい関係。

 これを失いたくなかったのだ。


「ノ、ノゾミ・・・あなたって人はっ!」


 マイコは語気を荒くする。

 オホーツク海に沈みながらも・・・・

 またノゾミが同じ過ちを繰り返すことが、信じられなかったのだ。


「ノゾミ、いったいつになったら不倫をやめるのっ!まだ足りないって言うのっ!」

「今回は違うの・・・・その、マイコには分からないからっ!」


 ノゾミは叫ぶ。

 だがマイコも負けない。


「ノゾミ・・・・・いいわ。なら、このことを賢治さんの奥さんに伝えるから。あなた、どうせ捨てられるわよ」

「・・・捨てられないかもしれない。私を選ぶかもっ!」


 ノゾミは強く言う。

 だが、その表情は揺れていた。


「じゃあ、確かめて見ましょうか」


 マイコは賢治の下へ向かうのだった。

 

「ちょっと・・・ダメっ!やめてっ!」


 ノゾミは叫ぶ。


 ノゾミは強く宣言したものの・・・・

 自分と賢治の関係が奥さんに伝えられ、決断をせまれると、彼が自分の方を選ばれないかもしれないと思っていたのだ。


 不倫相手と奥さん。 

 賢治がどちらを選ぶのか・・・・・


 そこを楽観視していなかった。


 ノゾミは賢治と付き合っていて感じたのだ。

 彼は奥さんと冷えている。

 だからといって、完璧に関係が終わっているわけでもない。

 ただの家族の一員になっているだけだと。


 だから、自分に乗り換えてくれるまでにはもう少し時間がかかると感じていた。

 もっと関係を深め、一緒に時間を過ごす。

 今すぐにでも自分のほうに振り向かせるには、それこそ妊娠して子供でも出来なければ。

 自分を選んでくれないのではないかと考えていた。


 つまり今の状況で、賢治が自分の方を選んでくれる自信がなかったのだ。


 

 だからノゾミは・・・・思いがけない行動に出た。


 自分と賢治の心地よい関係が終わる。

 それはノゾミにとっては絶望だ。

 せっかく出来た関係が壊れてしまうのだから。

 今のノゾミにとっては必要な関係がなくなってしまう。

 それが恐怖だった。


 だからこそパニックになったノゾミは、マイコから逃げるために走り出したのだった。

 賢治と一緒にマイコから離れようとしたのだ。

 マイコから離れれば、一時的にでも問題から逃れられると思ったのだ。

 

 マイコを追い抜いて賢治の元に駆け寄るノゾミ。

 賢治はちょうどワニ園の柵にもたれかかっていた。

 柵には「故障中:もたれかかり禁止」の紙がはってある。


「ど、どうした?ノゾミ」


 驚く賢治。

 

「賢治、いきましょっ!別の場所にっ!ここ以外の場所にっ!」


 ぐいぐい賢治の腕を引っ張るノゾミ。

 だが、賢治は動揺して動かない。

 ノゾミの状況が普通じゃないと感じたからだ。


「どうしたんだ?落ち着けよ、ノゾミ」

「いいから、ねぇ、ここから移動しましょっ!」


 ノゾミが賢治をひっぱているためか、賢治がもたれかかっている柵がきしむ。

 「故障中:もたれかかり禁止」の紙がはってある柵が揺れる。


 柵の下はワニ園だ。

 ワニ達は揺れる柵を眺めている。


 マイコがノゾミの後ろから近づいてくる。


「ノゾミっ!」


 叫ぶマイコ。

 その声と姿に驚くノゾミ。


「ひいいぃいいー!」


 反射的に脅え声を出すノゾミ。


「だから、どうしたんだよ?ノゾミ、大丈夫か?」


 混乱する賢治。


「逃げなきゃ、逃げなきゃっ!じゃないダメっ!」


 パニックになって賢治をつかんでゆするノゾミ。

 

 その時だった・・・・・


 ガタンッ

 賢治がもたれかかっていた柵が壊れる。

 故障中の柵、「故障中:もたれかかり禁止」の紙がはられた柵が崩れたのだ。


「うぎゃあああっーーー!」

「きゃああーーー!」


 賢治とノゾミは柵の下、ワニ園に落ちてしまった。

 何十匹ものワニがいる巣の中に落ちてしまったのだ。



 ―――まさに、絶体絶命のピンチだった


 ―――2人は絶望の淵に、自らの体重で落ちていったのだ


 ―――地球の重力に引かれて



 ―――もたれかかれ禁止のルールを破ったせいで


 ―――ルール違反者の2人が落ちていったのだった

短編投稿しました。

「ざまぁ」が書きたくなり、さらりと書いてしまいました。

冒険者系の「ざまぁ」になります。

宜しければご覧下さい。

『生産職の俺は彼女を寝取られたので、パーティーを抜けて自立することにした』

※ページ下部にリンク有り。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拍手ボタン設置中。一言感想を送ることができます。

 

短編投稿しました=冒険系ざまぁです。↓
生産職の俺は彼女を寝取られたので、パーティーを抜けて自立することにした

 

2章後半 (5話)から話の展開が異なります↓
妊娠した私を婚約破棄するって、気は確かですか?【ヒグマ格闘編(石狩鍋) 】

 

連載中=(数話で完結予定です)↓
3日後、婚約破棄されます。

 

同時連載中=↓
7人の聖女召喚~料理スキルLV80の俺は、おねえちゃんと世界最強になる

 

止まっていましたが、連載再開=↓
チートスキル「美容整形」持ちの俺は、目立ちたくないのにハーレムに
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ