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純潔のミレニアム  作者: K.K.
エピソード6ー魔族討伐の依頼ー
48/48

全国ツアー開催決定ー

魔族討伐の功績により、ミリィは自らの屋敷と領地を与えられた。


運営や管理はアナと、事務や調整に長けた剣聖の盾の面々に任せることになり、ミリィ自身はほとんど干渉することなく日々を過ごしていた。


その日も、ミリィは屋敷の庭に敷かれた草の上で、静かに日向ぼっこをしている。


柔らかな陽射しの中で、白金の髪がわずかに揺れた。


「……こんな立派な領地やお屋敷もらって……本当にいいのかなぁ?」


庭のテラスの椅子に腰掛けたオセが、足をぶらつかせながら気楽に言った。


「いいんじゃないっすか?剣聖なんだし、本来、これくらい当たり前っすよ」


庭の芝生に座ったまま、ミリィは少し困ったように視線を落とす。


「でも……わたしって、そんなに大きな功績ないし……ドラゴンと魔族くらい」


オセは即座に身を乗り出した。


「いいじゃないっすか!それでも認めてもらえるなら、そんだけすげぇってことっすよ!」


ミリィは小さく瞬きをして、指先を合わせる。


「……そうかなぁ……」


「そうっすよ!」


間髪入れない返事に、ミリィはようやく少しだけ肩の力を抜いた。


「それなら……いいんだけど」


オセはテラスの手すりに肘を乗せながら、軽い調子で続けた。


「小さいけど領地貰えたから、剣聖の盾の居住区も確保できたしー、まだまだこれから増えるっすよ!」


芝生の上で日向に座っていたミリィが、少し顔を上げる。


「……なんかまた、増えたんでしょ?」


オセは悪びれもせず即答した。


「すでに800人!もう小さな国の騎士団越えたっす!」


その数字に、ミリィはわずかに目を瞬かせる。


「お父様の時は2000人だったらしいけど……どうしよう。越えちゃいそう」


オセはきょとんとした顔になる。


「なんかまずいっすか?父上怒ってるとか?」


ミリィは首を横に振った。


「ううん……お父様はノリノリで、もっとイケる!って……」


「ならいいじゃないっすか?」


即答するオセに、ミリィは少しだけ困ったように笑う。


「なんか……あまり増えると、怖くって」


オセは肩をすくめながら、少し真面目な調子に切り替えた。


「それもわかんなくはないっすけど……今までが異常だったんすよ」


芝生の上のミリィが顔を上げる。


「どういうこと?」


オセは指を折りながら続ける。


「剣聖なのに、護衛もなく街中ふらついてカフェでお茶したり。普通やんねぇっすよ?」


「それはみんなにも言われた……お父様にも言われたけど……お父様はそれでいいって」


オセは呆れたように笑う。


「だってミリィさま、普通にナンパされたり絡まれるじゃないっすか」


「……うっ、それは……」


言葉に詰まるミリィに、オセはさらに肩をすくめた。


「これからは領地の中なら安心っすからね」


一拍置いて、軽く言い切る。


「誰も入れねぇし、危ない目にも遭わないっす」


ミリィが少しほっとしたように息を吐いた、その直後。


オセは何気なく付け足した。


「ノーブラで歩いても危なくないっす」


「ノ……!?そんな格好で出歩きません!」


即座にミリィの声が庭に響いた。


オセはテラスの椅子にもたれながら、空を見上げるように言った。


「そんな風に芝生でごろ寝してても、誰も文句言わねぇっすよ」


ミリィは少し間を置いてから、ぽつりと答える。


「それは……本当に嬉しいかも」


そのやり取りの途中で、アナが静かにテラスへとやってきた。


オセの向かいの席に腰を下ろし、姿勢を整える。


「そこは……私としては苦言を呈したいところですけどね」


落ち着いた声だが、視線だけはしっかりとミリィに向いている。


芝生に寝転んだままのミリィは、少し気持ちよさそうに目を細めたまま答えた。


「アナ……多めに見て、すっごい……気持ちいいんだもの…わたし、もうダメになりそう」


アナは一拍置いて、静かに息を吐く。


「そういう物言いも、人前では控えてくださいね?」


その言葉に、ミリィはきょとんとした顔で振り返った。


「え……なんで!?」


アナはふと視線を巡らせると、庭の外れを歩いていた青年に目を留めた。


「もし!そこの方!」


呼びかけに、青年は足を止めてこちらを振り返る。そのまま落ち着いた足取りでテラスへと近づき、アナの前で恭しく頭を下げた。


「何かご用ですか?アナ様」


アナは軽く頷く。


「特に用はないのだけれど」


「……はい?」


青年が戸惑う間もなく、アナはミリィへ視線を向けた。


「さっきの、もう一度言ってごらんなさい」


芝生に寝そべったままのミリィは、意味が分からないまま首をかしげつつも、温かい日差しに高揚した顔と声で言う。


「……すっごい……気持ちよくて……わたしもうダメかも……?」


その瞬間だった。


目の前の青年の顔が一気に赤くなる。


明らかに動揺し、視線を泳がせたまま一歩下がった。


「は……はぁ、も、申し訳ございません。ご用がないなら、私はこれにて」


そう言い残すと、足早にその場を去っていく。


静かになる庭。


ミリィはまだ寝そべったまま、きょとんとしていた。


「……なに?」


隣でオセが、遠い目をしながら呟く。


「なんでしょーねー……」


完全に諦めたような顔だった。


アナは先ほどの軽い空気を切り替えるように、姿勢を正した。


「ミリィ様は今後どうなされたいですか?」


芝生に寝転んでいたミリィが、ゆっくりと上半身を起こす。


「何……いきなり?」


アナはまっすぐに見返したまま続けた。


「領地を持ち、軍を持ち、ミリィ様はもはや政治的にも大国とも渡り合える存在となりました」


その言葉に、ミリィの呼吸がわずかに止まる。


「そんな中、ミリィ様はどこを目指すのですか?」


静かな問いだった。


庭の空気が少しだけ重くなる。


オセも、いつもの軽口を挟まずに黙っている。


ミリィはしばらく言葉を探すように視線を落とし、それから小さく息を吐いた。


「……どこを、目指す……」


そのまま空を見上げる。


広い庭、その先のさらに広い世界。


少しだけ困ったように、しかし逃げるでもなく、ぽつりと続ける。


「わたし……そんなこと、考えたことなかったかも」


庭に風が通り抜ける音だけが残った。


ミリィはそっと目を閉じ、言葉を選ぶようにゆっくりと続けた。


「わたし……奴隷だった時があるの……」


その一言で、テラスの空気がわずかに変わる。


アナの瞳が小さく揺れた。


ミリィは続ける。


「オセも……似たような環境にいて……」


オセは一瞬だけ視線をそらしたが、何も言わないまま黙っている。


ミリィは目を開け、静かに前を見た。


「わたし……身寄りのない子供や、辛い環境にいる子供達を……保護して、教育と生活を支援できる……そんなことがしたいな」


言い終えると、少しだけ不安そうにアナを見る。


アナはしばらく黙ったまま、その言葉を受け止めていた。


やがて、静かに息を吐く。


「……それは」


一拍置いて、まっすぐにミリィを見返す。


「とても、あなたらしい願いですわね」


アナは少しだけ考えるように視線を上げ、それから静かに言った。


「学校と宿舎を、作るのはいかがでしょう?」


ミリィはぱっと顔を上げる。


「うん!……すごくいいと思う!」


即答に、アナは小さく頷いた。


「ですが、そのためには……資金が必要です」


ミリィは一瞬固まる。


「……お金、ないの?」


アナは首を横に振った。


「十分にあります。我々と剣聖の盾を運営するだけならば」


隣でオセが腕を組みながら現実的に補足する。


「学校とか生活支援まで入ると……まぁ、普通に金かかるっすね」


「そ……そうだよね」


ミリィが少し肩を落とすと、アナはすぐに顔を上げた。


「ですので、全国ツアーをやりましょう!」


「全国……ツアー?」


ミリィが目を丸くする。


アナは迷いなく続けた。


「各国各都市で闘技会を行い、そこで活躍し、スポンサーや剣聖の盾の参加者を募るのです」


「それで……うまくいくの?」


「いきます!いかせます!」


即答だった。


ミリィは少しだけ不安そうにしながらも、小さく頷く。


「じゃ……じゃあ、やろっかな」


その瞬間、アナはきっぱりと言い切った。


「そう言うと思って、すでに告知はしてあります!」


「さすが!仕事早いっす!」


オセが素直に感心する。


ミリィは固まったまま振り返る。


「え……いつから!?」


アナはすでに歩き出しながら答えた。


「明日から!さぁ参りましょう!」


そのままミリィの手を取って、半ば引っ張るように進み始める。


「え……えええええー!?」


ミリィの声が庭に響いたまま、こうして全国ツアーは幕を開けた。


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