第88話『封印された真実』
――ホテルの“記憶”に閉じ込められた修達オカルト研究同好会の面々。
その空間は確かに見慣れた廃墟のはずだったが、どこか、違和感があった。
埃一つない床。
動いている自動ドア。
微かに流れるピアノのBGM。
「これは……営業していた頃の“ホテル活魚”?」
結が辺りを見回しながら言った。
「でも、今は……誰もいないはずなのに……」
愛菜の声が震えている。
そこへ――一人の女性がロビーを横切った。
制服姿のまま、何かに怯えるように辺りを見渡している。
「あの女性……先程の日記に出てきた名前……“新庄ひとみ”だ」
浜野先生が記憶を辿りながら呟いた。
「先生いつの間に読んだんですか!?」
驚愕の結。
「俺にはスキャン機能があるからな!どんな本も超速読出来る!」
「その機能羨ましいような、そうでもないような……」
結は呆れている。
彼女はフロント奥の部屋へと消えていく。
「追おう」
修の合図で一同は彼女の後を静かに追った。
ドアの向こうでは、数人の従業員達が声を潜めて会話していた。
「……またですか?」
「ええ。昨夜も。……厨房の冷蔵庫から、“あの声”がしたと……」
「見間違いじゃ……ないですよね……?」
その時、ノクスが耳をぴくりと動かし、身を固めた。
「にゃあ……(聞こえるにゃ、向こうの奥に)」
「また、あの“影”か?」
修が警戒を強める。
部屋の奥に、一本の廊下が続いていた。
先ほど地下で見た記号とよく似た模様が、廊下の壁に刻まれている。
「この模様……なんだか見覚えがある」
愛菜が日記の一節を思い出す。
『模様が完成する夜、扉が開くと先輩は言っていた。
でも、あの儀式は絶対にしてはいけない。私達は何かを呼び出してしまったのだ』
「つまり、“あの影”は……このホテルが呼び出してしまった存在……って事じゃない?」
結の声が静かに響いた。
その時――廊下の突き当たりから、不意に笑い声が響いた。
「ひとみ……、こっちへ……来て……」
まるで子供のような、だがどこか歪んだ声。
続いて、さっきの女性――新庄ひとみが、ふらふらと歩いてくる。
「いけない!」
愛菜が駆け出そうとするが、修が手で制した。
「待て、これは記憶だ。触れてはいけない」
ひとみは、ゆっくりと壁の奥――かつての“隠し扉”の中へと消えていった。
彼女が消えたその瞬間、景色が一気に揺らぎ――
また、廃墟のホテルへと引き戻された。
埃まみれの廊下。
錆びたランプ。
そして、沈黙。
「今のは……?」
「“記憶のフラッシュバック”だ。ホテルに染みついた霊的情報……いわば、残留思念だ」
修の声は冷静だった。
「という事は、彼女――新庄ひとみは、あの“影”に……?」
愛菜の表情が曇る。
ノクスが再び、奥の隠し扉の前に立った。
「にゃあ……(今度は、現実だにゃ)」
修が扉に手をかける。
誰かが、あるいは“何か”が、向こうで待っていると直感していた。
扉を開くと――見覚えのない“儀式部屋”が広がっていた。
「さっきの儀式部屋と同じ場所のはずなのに……」
「あぁ、邪悪な気が充満してる……」
中央には、崩れかけた石の祭壇。
その周囲には、黒く焼け焦げた跡と、蠟燭の台座。
そして、その中央にあったもの――
真っ赤な目を持つ、“影”の本体。
「やはり……このホテル自体が、“影”を封印していた……」
結の目が強く光る。
修が一歩踏み出すと、影の目がこちらを見据える。
「……キミたちが、ボクを起こした」
影が言葉を発した。
それは低く、しかしどこか哀しみに満ちていた。
「……なぜ、こんなものが……」
「人間が呼んだんだよ。“もっと客を呼びたい”“この土地に力を”――」
影の声が、まるで誰かの怨念の代弁者のように響いた。
「だが、代償は大きかった。ボクはここに縛られ、全てを壊した」
ノクスが前に出る。
「にゃあ……(それでも、お前はここにいてはいけない)」
「……解き放ってくれるのか? それとも――」
影の姿が再び揺らぎ、空間全体がざわめき始めた。
「――封印する!」
修の声が部屋に響いた。
次の瞬間、影が吠えた。
闇が部屋を覆い、彼らの視界を飲み込もうとする。
そして始まる、“最終の対決”。
次回予告
第89話『最終封印・ノクス激怒!』
目覚めた影が語る、人間の欲望と代償。
修達は儀式の場で、影との直接対決を迎える。
果たして彼らは、ホテルに宿る呪いを解くことができるのか――。
次回、愛菜に迫る魔の手!“ノクス”が怒る!
次回お楽しみに!
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