表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/185

第86話『ホテル活魚の怪』

 曇り空の下、錆びついた看板がかろうじて文字を留めていた。


 「ホテル活魚」――海沿いの風に煽られ、軋むような音を立てている。


「ここが“活魚”か……ずいぶんと荒れてるな」


 修は車のドアを開けながら、低く呟いた。


 その後ろで、リュックの隙間からノクスが顔を出した。


「にゃあ……(また愛菜、びびってるにゃ)」


 助手席から降りた結が腕を組みながら、ホテルの外観を見上げる。


「このホテル、数年前までは営業していたらしいけど……閉館してから事件があって、噂が絶えないんだって」


「夜な夜な誰かの声がするとか、勝手に窓が開くとか、そういう話?」


 愛菜が後部座席から降りつつ、声を震わせて尋ねた。


「そう、典型的なポルターガイスト現象よ。信じるかどうかは別としてね」


 愛菜はノクスを抱き上げ、そっと背中を撫でて落ち着かせる。


「ノクス、ちゃんと見張っててよ……」


「にゃあ……(任せるにゃ)」


 浜野先生は車のトランクから撮影機材を取り出しながら、


「記録はしっかり残す。どんな現象が起きるか分からないからな」


 そう言って廃墟と化したホテルの正面に立った。


 玄関の自動ドアは半開きのまま止まり、風が吹き抜けていた。


 奥の闇が何かを吸い込もうとしているかのように見えた。


「行こう」


 修の合図で、一同は足を踏み入れた。


 


 ロビーは埃にまみれていて、古びた絨毯の模様がかろうじて見えた。


 壁にはかつてのリゾートホテルらしい海の絵が飾られていたが、色は褪せてぼやけている。


「うわぁ……本当に廃墟って感じ」


 愛菜が小声で呟いた。


 ノクスは修の肩に飛び乗り、周囲を警戒して目を光らせている。


「怪奇現象を記録するって、こういう事なんだな」


 浜野先生はカメラを回しながら慎重に歩いた。


 


 廊下は薄暗く、窓から差し込むわずかな光が埃を舞い上げている。


「何か気配はある?」


 結が修に尋ねる。


「今の所、何も見えない」


 修は警戒しながら答えた。


 愛菜は震える手でノクスを抱きしめている。


 


 突然、遠くから窓がバタンと音を立てて閉まった。


「っ!」


 全員が一瞬動きを止めた。


「誰かいるのか?」


 修が声を張り上げるが、返事はなかった。


「これは……ポルターガイストの仕業か?」


 結は眉をひそめた。


「しばらく様子を見るしかないな」


 


 更に奥へ進むと、階段の踊り場に古い靴が一足転がっていた。


「誰かがここにいたんだろうな……」


 愛菜が小声で呟いた。


 


 階段を上がると、二階の廊下に古びたランプが並んでいた。


 その内の一つがぽっと灯り、薄暗い廊下をぼんやりと照らした。


「わっ!」


 愛菜が思わず声を上げる。


「誰かがスイッチを触ったのか?」


 浜野先生が周囲を見回す。


「いや……ここに電気が通っているとは思えないけど」


 修は眉をひそめた。


 


 ノクスがじっと何かを見つめている。


「ノクス?」


 修が声をかけると、ノクスは廊下の奥をじっと見つめた。


「にゃあ……(何かいるぞ?)」


 ノクスが警戒心をあらわに鳴いた。


「ノクスが何かいるって言ってます」


 愛菜が緊張した声で伝えた。


 


 ノクスは廊下の突き当たりへ走り出した。


「待って、どこに行くの!?」


 愛菜が慌てて追いかける。


 廊下の奥は行き止まりだった。


 ノクスは壁の隙間に鼻を押しつけている。


「にゃあ……(ここ、何かあるにゃ)」


 


「何か匂うか?」


 修が壁を調べると、かすかに隠し扉の跡が見つかった。


「ここ、隠し部屋があるのか?」


 


 壁の一部がゆっくりと動き、隠し扉が開いた。


「うわっ……」


 結が思わず後ずさった。


 


 隠し扉の奥は狭い階段で、地下へと続いていた。


「にゃあ……(危険だけど行くにゃ)」


 ノクスが警告する。


「危険かも知れないけど、行くしかないな」


 修が決意を固めて言った。


 


 地下へ続く階段を慎重に降りていく。


 湿気が強く、壁には水滴の跡が点々と残っていた。


「ここは……かつての従業員通路かもしれない」


 浜野先生が推測した。


 


 薄暗い地下通路を進むと、古びた鉄扉が現れた。


「鍵はかかっていないようだ」


 修が扉を押し開ける。


 


 部屋は古い倉庫のようで、錆びた道具や壊れた家具が散乱している。


 しかし、片隅に積まれた段ボール箱が異様な存在感を放っていた。


「これは……」


 愛菜が恐る恐る近づいた。


 


 段ボール箱を開けると、古い日記と写真が出てきた。


「この日記、読むべきだと思う」


 結が言った。


 


 ページをめくると、ホテルの従業員が綴った恐怖の記録が記されていた。


「ここに、事件の真相が書かれているかも知れない」


 修は真剣な表情で言った。


 


 その時、部屋の温度が急に下がり、冷たい風が吹き抜けた。


「気をつけろ……」


 浜野先生が警戒を強めた。


 部屋の奥から、かすかな囁き声が聞こえた。


「……帰れ……ここから出ろ……」


 ノクスが毛を逆立て、にゃあ……(危険だにゃ)と低く唸った。


「誰かいるのか?」


 修が声を張り上げる。


 しかし返事はなく、空気はますます重く淀んでいった。


「このホテル……何かに取り憑かれている」


 結は覚悟を決めたように言った。


「でも、俺達が真実を見つけなきゃ何も変わらない」


 修は拳を握り締めた。


 ノクスが再びにゃあ……(先に進むにゃ)と鳴き、先を示すように歩き出した。


「よし、ついていこう」


 愛菜が緊張しながら言った。


 


 一行は更に深く、ホテルの闇へと進んでいった。


 次回予告


 第87話『深淵に潜む影』


 廃ホテルの地下で見つけた古い日記。

そのページが示す真実とは――。


 霧深き闇の中、誰も知らぬ影が蠢き始める。


 次回、恐怖はさらに深まる――。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

評価(★★★★★)やブックマークで応援していただけると嬉しいです。

続きの執筆の原動力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ