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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第六話「コウジマチサトルとダンジョンの町のお仕事」
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7・コウジマチサトルのお仕事

 モンスターの死骸を前に貧血を起こしフラフラしていたサトルを、オリーブが抱え木陰に連れて行こうとすると、キンちゃんたちがなぜかとたんにフォンフォンと鳴いて、オリーブの周りを回って騒ぎ出した。


「どうしたのだろうか?」


「何か、まだ気になることがあるのかしら」


 妖精の姿は見えずとも、光りや音だけは認識できていたので、オリーブとアンジェリカが警戒するように草むらを見る。

 しかしルーはそれとは違う事に気が付く。


「あ!もしかしてモンスターを解体した方がいいのでしょうか?」


 ギンちゃんを見つけた時のように、モンスターを解体してキンちゃんの仲間を見つけ出さなくてはいけないのだろうかと、ルーは思い当たる。


「ぐ……勘弁してくれ、これを全部なのか?」


 サトルはたまらず呻く。

 グラスドッグは姿を見せず逃げ出した分も全て合わせると十匹以上。それらすべての解体となれば、サトルも手伝わないわけにはいかないだろう。

 しかし血を見ただけで真っ青になるサトルが、モンスターの解体などできるとはだれも思っていなかった。


「仕方ないさ、苦手なことは誰にだってある。君はやるべきことがあるのだから、ここは私たちがやろう」


 オリーブは頼もしくそう答えてくれるが、それはサトルの矜持が許さなかった。

 せめて何か手伝えることはと考え、キンちゃんたちを見る。

 そう言えばニコちゃんはどうやって助けたかサトルは思い出す。


「そうだ、キンちゃん、これらを全部ダンジョン石にできる?」


 フォーンと元気よく答えるキンちゃん。ニコちゃんも自分もできるとばかりにフォフォーンと鳴く。


「頼むよ」


 サトルに任されたと言う事もあり、二匹は良い所を見せてやるとばかりに、元気よくグラスドッグに飛び掛かる。

 粘菌が朽ち木を捕食するようなその様子からサトルは目を逸らす。


 ニコちゃんは一匹をダンジョン石に変えた後、何を思ったか草むらの中に飛び込んでいく。

 どうやら離れた場所で仕留めたグラスドッグを処理しに行ったらしい。


「これは……すごい」


「ええ、想像以上よ……こんなことが目の前で起こるなんて」


 オリーブとカレンデュラが茫然と呟く。


 モリーユが怯えたようにアンジェリカに縋りつく。


「大丈夫よ、これは恐ろしい事ではないわ。彼女たちはちゃんとサトルの指示のもとに動いている」


 キンちゃんたちがグラスドッグをダンジョン石に変えていく様は、サトル以外の者達には大きく広がった光の飲みこまれ、光の中で溶けるようにダンジョン石へと変わっているように見えていた。


「タチバナ先生の言っていた通りだ……」


 ワームウッドはその光景に誰を思っているのか、泣きそうに顔をしかめる。


「これを……ルーは研究するのか?」


「はい、これを研究するんです。それが、先生の最後の意思なんです」


 ワームウッドの問いに、ルーは強くはっきりと返事を返す。

 視線はダンジョン石へと変化していく死骸から離さずに、すべてを記憶しようとしているようだ。


「ぐう……」


 残り二匹と散った肉片の身となったところで、サトルは立っていられなくなり、地面に膝をつく。


「サトルさん!」


 気が付いたルーが悲鳴のように名前を呼び、サトルの肩を支える。


 体力をごっそりと持っていかれたような、ひどい倦怠感が体全体を覆っていた。

 サトルは肩で息をしながら額の汗をぬぐう。体温が上がっているのに、まるで凍えるような寒さを感じていた。


「サトル! どうしたんだよ、大丈夫なの? これっていったい何があったのさ?」


 震えるサトルの背にヒースが手を当て、温めるようにさするが、サトルの震えは止まらない。


「サトル殿、大丈夫か?」


「モーさんの時と同じね? 貴方、魔力を彼女たちに与えているのね?」


 明らかに尋常ではないサトルの様子に、オリーブもアンジェリカも膝をつき、サトルの様子をうかがう。

 アンジェリカはお兄ちゃん(仮)の事もあり、自分が似たような症状を起こすときのことを思って確かめる。


「キンちゃんの時は魔力ではなく、体力を使っているようなんです。以前もとても疲れると……でも、息は上がっても、こんな汗はかいていませんでした」


 ルーはサトルの体を支えながら、以前モンスターをダンジョン石にしてもらった時のことを語る。

 サトルもその時のことは覚えていた。

 あの時は体力を持っていかれる感覚だけで、こんなにも体に異常を感じることはなかった。

 今は息が上がり、汗が吹き出し、身体が寒さに震えている。


 モーさんの時のような、一気に意識を持っていかれる感覚とも違い、風邪をこじらせた時のようなだるさだ。

 しかしサトルはそれを隠すように虚勢を張る。


「ちょっと眩暈がしただけだ。やっぱりキンちゃんたちが力を使うと、俺が体力か魔力ってのを消費してるみたいだ」


 カレンデュラがオリーブを押しのけ、サトルの首へと手を伸ばす。


「呼吸が上がってる。体力は間違いないでしょうけどそれ以外もあるのかしらね。失礼……」


 脈と体温を確かめるようなその行動にどんな意味があったのか、次にカレンデュラの口にした言葉でそれが分かった。


「はっきりとはしないけど、体力と魔力、両方が随分消費されるみたい。辛いでしょうけどでも一時的なものね。大丈夫。熱が上がったようになっているから、少し寒気もするんじゃないかしら?」


 寒気と言われ、サトルは頷く。熱が上がっている時、外気温との差で寒気を感じたと言う事らしい。

 カレンデュラの見立てならと、オリーブたちはほっと息を吐く。


「全力疾走した後のようなものよ。どうも一度に十数匹分というのがまずかったのかしらね。時間をかけてゆっくり一体ずつ処理した方が良かったのかもしれないわ」


 カレンデュラの言う通りだろう。


「無茶をするつもりはなかったんだけどな」


 サトルとしても疲れるというのは分かっていた。それを忘れたわけではなかった。ただ大したことだと思っていなかったのだ。


「心配をかけてすまない」


「何で謝るんですか!」


 心配するのは当然だとルーは言う。それに対してカレンデュラも頷く。


「いいのよ、これは貴方も私たちも初めてのことだもの。これから加減を見極めていくのでしょう? ねえルー」


「はい! むしろ早目に分かってよかったですよ。ここでなら、すぐにサトルさんを休ませることが出来ますし」


 ルーの言葉を肯定するようにフォフォーン、フォフォーンと重複する声が聞こえた。

 どうやらキンちゃんたちがグラスドッグを処理し終わり、ニコちゃんも返ってきたらしい。


 サトルは顔をあげて、帰ってきたニコちゃんたちを迎えようとし、固まってしまう。


「あ……」


「どうしたの? サトル?」


 目を見開き固まるサトルを、ヒースが心配そうにのぞき込む。


「三人! 嘘だろ? 多すぎないか?」


 モンスターをダンジョン石にしたことで解放された妖精たちが、キンちゃんとニコちゃんに連れられて、サトルに挨拶でもするようにフォンフォンと鳴いていた。


 キンちゃんとニコちゃんに連れられて、サトルの前に現れた妖精は三匹。ギンちゃんとテカちゃんはモーさんにくっついているままだったので、数え間違いではない。


 思いもかけず倍に増えたキンちゃんたちに、サトルは嘘だろう! と叫んで頭を抱えた。


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