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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第三話「コウジマチサトルは竜とは戦えない」
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8・キンちゃんとギンちゃんとニコちゃんと先生

「便利ですよね、妖精って……」


 すっかり軽くなっただけでなく、気が付けば汗のべたつきも、汚れてきつくなった体臭も取れていると分かり、ルーはしみじみとキンちゃんたちの凄さを実感していた。


「これお金取れるレベルですよ」


「さすがに商売にはしたくないですよ」


 ルーの口から時々ぽろっと出てくるお金への執着。その理由も気持ちも分かるが、サトルはキンちゃんたちを庇うように三匹を腕に抱き入れる。

 三匹もルーの様子に不安そうにフォンフォンキュムキュムと鳴き交わす。


「しませんって、友達でお金儲けは、流石に気まずいですよ」


 冗談ですからと取り繕うルー。本当に大丈夫かとサトルが疑うと、ルーは拗ねたように頬を膨らませた。


 冗談なのにと繰り返すルーの瞳孔が、急にかっと開いた。

 何かあったのかとサトルが首をかしげると、ルーは空中を指さし、困惑した様子で答える。


「あれ? 光増えていません?」


「え?」


 ルーの指先を視線で追っていくと、そこにはふわふわと宙に浮く妖精の姿。


「あ……」


 見た目は完全にキンちゃんと同じだが、キンちゃんはサトルの腕の中にいる。


「どちら様でしょう?」


「その訊ね方でいいんですか?」


 ルーはあきれるが、妖精はサトルの言葉に、電子音のような声で答える。


「オ願イシマス、異世界ノ勇者ヨ、バラバラニサレテシマッタ私ヲ集メ、助テクダサイ」


「こっちもか!」


 見た目だけでなく完全にキンちゃんと一致だった。

 確かにバラバラにされたと言っていた。元は同一個体だったという事だ。

 サトルとしても、バラバラになっているというキンちゃんたちの見た目が、ほとんど同じになる可能性を考えないわけでもなかったが、ギンちゃんがわずかに見た目や性能が違ったことから、少しずつマイナーチェンジをしているのだろうと思っていた。

 しかし実際はこうである。


「……俺がキンちゃんと名付けた方、挙手!」


 もしかしたら取り間違えているかもしれないと思い、サトルはキンちゃんを確認する。

 サトルの腕の中で、キンちゃんがフォーンと元気良く手をあげた。


「よかった、こっちがキンちゃんだった」


そうなると、目の前にいるキンちゃんとそっくりな妖精は、別個体として認識しなくてはいけない。

 個別の識別名称を用意するべきだろう。

 サトルは目をつぶって考える。


「よし、新しいキンちゃんと同じ色の子、君にニコちゃんという名前を付けたい、いい?」


 二番目なのでニコちゃん。その安易さはどう自動翻訳に現れたのか、やはりルーが「センスが……」と呟く。


 しかし当のニコちゃんは、サトルから付けてもらった名前を気に入ったらしく、フォフォーンと元気良く返事を返した。


「よしよし、それじゃあ宜しく、ニコちゃん」


 ニコちゃんはもう一度フォーンと鳴いた。それにつられるように、サトルの腕の中でも、キュムキュムフォーンと声が上がる。


「これは……目印必要ですかね」


 ただでさえはっきりと見えていない上に、鳴き声まで区別のしようが無いため、ルーにはサトル以上に妖精たちの見分けがつかない。

 サトルも今は呼びかけたり行動で認識しているに過ぎない。


「確かに、うっかりしてるとどっちがどっちだか」


 サトルの答えにルーは少し考え、自分のバックパックへと取りついた。


「じゃあこれをどうぞ、キンちゃんとギンちゃんに」


 そう言ってルーが大きなバックパックの底から、掌に握りこめるほど小さな木の箱を取り出す。


「これは?」


「先生から以前いただいた髪飾です。私にはその、子供っぽすぎるので」


 ルーが開いて見せた箱の中には、布製の花が付いたリボンが二本。

 確かにルーの年頃で使うような髪飾ではないように見えたが、それでも大切に箱にしまい持ち歩いている物だ、ただの髪飾と思っていいはずがない。


「思い出の詰まった物なんだろ?」


 亡くなった師をルーが大切に思っていることは、その言動からはっきりしていた。それなのに、その師から貰った物をキンちゃんとギンちゃんに送ると言う。


「もう使わないですし……それに、キンちゃんは、私の事好きだって言ってくれたので」


 使わないから使ってほしい、それも自分を好きだと言ってくれた相手にと、ルーは少し寂しそうに笑う。

 ルーが箱をサトルの方に差し出すと、サトルの腕の中の金ちゃんとギンちゃんがフォーンと鳴いた。


「俺も君のそういう所、好きだけど……いいの?」


 サトルのとこ場に、ルーの目元にさっと朱が浮かぶ。


「そ、そういうのは、恋愛感情の相手に言った方が効果的ですよ」


 しかしサトルはそのことに気が付かない様子で、きょとんと首をかしげる。


「好きってこと? でも社長は男でも女でも言うけど」


「社長さん好きなんですか?」


 たびたび話に出てくる社長に、たまらずルーの声に悋気が混じる。


「嫌いだったら、こんなに話さないよ。好きな人だから、誰かに聞いてほしいんだ。あ、言っておくけど、社長は同性だよ。変な意味はないから」


 さすがにルーの目が座っていることには気が付いてか、慌ててサトルは説明をする。

 恩義もあるし認めてもらいたい相手ではあるが、あくまでも同性。恋愛感情ではないと。


 しかしその言葉を聞いても、ルーの表情は晴れない。むしろ悪化したような、暗い顔でうつむいてしまった。


「ええ、ルー、俺は君に何か悪いことを言ってしまった?」


 あわてるサトルに、ルーは涙の滲む声でそうではないと答える。


「違います……好きだから、話すんですよね……私も……」


 ルーは首を振って、もう一度箱をサトルへと突き出す。


「先生の事……忘れたくないんです。だから、キンちゃんたちに、この髪飾を使ってほしくて」


 キンちゃんたちのためではなく、自分の自己満足のためだとルーは言う。

 それは半分は本当で、半分は嘘だろう。

 サトルはルーの手からリボンの入った箱を受け取る。


「分かった、じゃあこれは、有難く使わせてもらう。キンちゃんとギンちゃん、二人とも喜んでくれると思う」


 先生が最後まで調べていた、ダンジョンの異変の原因、それを探るのに重要な存在、キンちゃんたちに使ってもらうなら、ルーにとっては何よりも喜ばしいことなのだろう。


 サトルが夢の中で見たキンちゃんとギンちゃんは、幼い女の子の姿をしていた。それこそこの髪飾がよく似合いそうな、愛らしい姿だった。

 キンちゃんたちは、髪飾に興味を示していることから、気に入っているのだと分かる。


「つけていいかな? キンちゃん、ギンちゃん」


 サトルの問いかけに、二匹は嬉しそうにフォーンと鳴いた。

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