第二章 第十七話 見ることも叶わぬ
前回の投稿からだいぶ時間が空いてしまいました。
殆どエタったも同然の拙作をそれでも待っていてくださった皆様、ありがとうございます。
正直、短いうえに全然作品としてまとまっていませんが、それでも物書きのリハビリと思っていてください。
そのうち、全編を通しての改稿を行いますので、その際には多少は見れたものにはなると思います。
「さあ、来い!小僧!テメエには、俺の限界の先にある力ってもんを見せてヤルよ!」
ジジイの声が聞こえたのと同時に、俺は自分の勝利を確信した。
それが何故かは知らないが、ただ、俺の頭の中では何かぼんやりとした映像が浮かび、その映像は何となく俺がジジイに勝っている映像であるように見えた。
その映像に従うように動けば、俺はそれだけで目の前のジジイを切ることができるだろう。
ただ、何となくそういう予感だけはあった。
恐らく負けはない。
俺がジジイに負けることは無い。
だが。
(……なんで体は、一歩も動かねえ…………)
俺の身体は、俺の予感と確信とは裏腹に、指先一つ動くことなくその場で凍り付いたように動かなかった。
俺は勝てる。負けるわけはない。絶対に、俺は目の前のジジイに勝てる。
そう思えば思うほど、何故か俺の身体は芯から冷えたように熱を失い、体は硬直していく。
なんでだ?なんでだ?わからない。
だが、自問自答を繰り返せば繰り返すほど、ますます俺の身体は俺の意志に反するように、その場に凝り固まってしまう。
すると。
「……どうした?小僧?まるで、生まれたばかりの子馬の様じゃないか。そんなに震えて、寒いのか?」
その時初めて、俺は自分が震えていることに気づき、同時に、理解した。
今、俺が見えているものは、ジジイが俺に見せている幻だ。
詳しい仕組みはわからねえ。ただ、実際には俺はジジイに勝てるわけもねえのに、勝てると思えるように幻を見せられているに過ぎない。
だが、同時に俺の脳裏には希望が閃く。
幻を見せるという事は、幻を見せなければ勝てない相手と思っている事だ。
それはつまり、俺は本当にあのジジイに勝てる可能性があるという事。
瞬間、俺の中で全ての覚悟が決まった。
「ぐるああああ!!ああああああああああいい!!!」
俺はまるでその映像をなぞるように体を動かし、そして。
「……ははは。キチンと言葉を話せよ。何言っているのか全然わからねえ」
その言葉と同時に胴体から真っ二つにされた。
腰から下の感覚がなくなる中で、異様に知覚が引き延ばされる。
視界がゆっくりと回転し、音が間延びして聞こえる。
明らかに死は避けられない状況。そんな中でも意識ははっきりしていて、それなのにどういう理屈か、痛みは感じなかった。
やがて地面に叩きつけられた俺の上半身は地面に叩きつけられ、体から血の気と力が消えていくのを感じた。
そんな中、今更ながらにこんな状況でも木刀だけは握りしめて離さない自分に気づき、なんとなく木刀の方を見た。
その時だ。
「ふ。たまげたな。この状況でも笑っていられるのか」
休庵のジジイにそう言われて初めて、俺は自分の口元が緩んでいるのに気づいた。
多分これが最期なのだろうと、なんとなく口を開けるが、言葉が出てこない。
そんな俺の傍にジジイはしゃがみ込み、今までの休庵のジジイの姿からは想像でもできないほど穏やかな笑みで俺の頭を撫でた。
「しばらく寝てろ、小僧。大丈夫だ。お前は死なねえよ。この程度で死ぬような、甘っちょろいもんじゃねえさ。闘気ってのは」
そんな休庵のジジイの言葉を聞きながら意識を失っていった。




