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10月:伝えたいのはこの気持ち

 くしゃり。

 女の子が降り立ったのは、もみじの絨毯の上でした。赤や黄に色づいた葉っぱがはらはらと落ちてきたので空を見上げて、女の子は思わず感嘆の声をもらしました。透き通るような青い空に、ありとあらゆる赤とありとあらゆる黄色を集めた木々がとてもとても綺麗です。

 女の子が見とれていると、ぱたぱたとした足音が聞こえてきました。

「もう、やめてよ!」

「へへー、虫だぞー! 虫なんか怖いのかー?」

 見ると、少女を少年が何かを持って追いかけ回しています。二人は女の子の横を駆け抜け、並木の通りから出……ようとしましたが、少年が急に倒れ込みました。何かに躓いたようです。少女は一瞬驚いたように立ち止まりましたが、少年がすぐに立ち上がりかけたのをみて、あっかんべー、と舌を出して見せてから慌てて駆け出しました。

「待てー! 弱虫ー!」

 少年はしばらく叫んでいましたが、少女はあっという間に見えなくなりました。少年はちょっと頭をかいて、立ち上がりながら膝をはたきました。すりむいてしまっています。

「あの、……大丈夫?」

 女の子が思わず声をかけると、少年は初めて女の子に気がついたようで目を大きく見開きました。

「うん、大丈夫だけど……見てたの?」

 女の子が頷くと、少年は小さくため息をつきました。

「俺って、やな奴だよなぁ……」

 女の子は少し首をかしげました。明らかにあの少女はいやがっていましたが、少年だってそれを知っていたようです。

「あの子が虫が嫌いなの知ってたの? ……何で、あんなことしたの?」

 それほどあの子が嫌いなのかしら? でも、少年はぶんぶんと首を横に振りました。

「嫌いなもんか! 逆だよ逆、大好きさ!」

 では、どうして? 女の子がそう聞くと、少年はきょろきょろと辺りを見回し、女の子の耳元で小さな声でしゃべりだしたました。

「……いい? 絶対あいつには内緒だからな?」




 なぁ、好きな子にいたずらしちゃうって、無い? ……よくわかんない? そっか。やっぱり俺がただのやな奴なのかなぁ……。

 ……好きな子がさ、いるんだ。さっきの子。幼なじみなんだけど、可愛いし、凄く頭も良くて、なんか最近近寄りがたいって言うか、一緒に居るとドキドキするって言うか。本当は俺も格好良くなって頭だって良くなって、あいつに好きだって言いたいんだけど、会ったら、さっきみたいなことしちゃうんだ……。

 幼なじみだからもちろん、あいつは虫が大の苦手だって知ってたよ。そんなことしてたら嫌われるだけだって、分かってるんだけどなぁ……。




「どうしてそんなことをしちゃうのか、俺にもわかんないんだよ」

 少年は悩ましげに眉間にしわを寄せました。開いたその手には、精巧に作られたバッタのおもちゃ。

 女の子は少年の背後に浮かぶ『商品』を眺めます。柔らかな黄色。先ほどの少女の『商品』も思い出そうとしましたが、あまり注意していなかったので思い出せません。ただ、もみじのような暖かな色だったことだけが確かです。『商品』が対になっていればどうやら二人の仲がうまくいくようなのですが。

 あ、と少年が声を上げました。

「そうだ、あいつからノート借りなきゃ」

 そう言うと、少年は女の子に手を振りながら走り去りました。

 なんとなく、あの二人がうまくいけばいいのにな、と思っていたら、一陣の風がびゅうっと吹き抜けました。降り積もったもみじ葉が一気に舞い上がり、女の子もそれと一緒に風に乗りました。

 次に出会う人がなんだか楽しみになってきました。  




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