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ムーンライト・ラブ・ パラノイア 祭

京都で生まれて始めて迎えた朝、なんだか私たちの住んでいる街よりも空気が澄んでいるような感じがします。まだ日があけたばかりなので、外の空気は一段とひんやりしています。

けど普段より夜更かしをしたのに普段よりも頭が少し冴えているのはきっと、この気持ちのいい青色がどこまでも広がる秋空のおかげだけではないような気がします。




「本能寺!! 金閣寺!! 銀閣寺!! 嵐山!! いや……嵐山はなんかすげぇ遠そうっすね……。一番効率よく京都をお楽しみできるルートとは一体……!?」




その最たる理由を占めている祐亜くんは私のすぐ横で、小さな冊子とにらめっこをしながら一人でああでもないこうでもないって唸っています。

他のみんなが眠たい目をこすって気だるげにしている中で、一人だけ目をキラキラさせて元気いっぱいな祐亜くんはなんだか可笑しくて、それからなんだかとても可愛いです。




「うん? 寝癖ついてます?」




「あ! いやもうそんなの全然全然!! だ……だよ!! うん!!」




こっそり祐亜くんの横顔を盗み見ていたら偶然目があってしまって、私は慌ててかぶりを振って視線を前に戻します。一気に体温が上昇してしまいました、顔がとても熱いです……。




「いやーもうなんか旅行ってだけでワクワクしますね! やっぱ祐亜旅行好き! 将来政治家になって空出張と見せかけて毎回ガチ出張して日本中見て回りたいですね、国民の金で」




祐亜くんは慌てる私に深く追求することはなく、本当に幸せそうにニコニコしています。なんだかこっちまでニコニコしてしまいます。




「祐亜くんはその、どこに行ってみたいとかあるの? 特にココ! みたいな」




その場でつま先立ちを繰り返してローファの踵で地面を鳴らしてみたり、首に巻いたマフラーの先端を指でくりくりしたりと、自覚があるくらい私はだいぶ落ち付きのない様子です。けれど祐亜くんに話題を振ってみることに成功しました。

うわぁ……絶対変なやつって思われてるよぉ……!!




「うーん……しかしいざそう言われますとあれですね。基本寺ですからねぇ……まぁなんていうですか?寺の中の寺? ベストオブ寺ってやつを是非拝みたいですねぇーまぁそうなると、清水テンプルーが外せなくなっちゃうんじゃない!? おいてか祐一!! お前どこ行きたいのさ!!」




うーん、正直私より祐亜くんの方が変な子かも知れません。

でも完全に好きになってしまっているのでよくわからない言動程度ではマイナス要素には転じません。

むしろこれはこれでなんだかありな感じがしてきました。きっと沢木や上杉さんや柊さんも同じ心境ではないのかなーって思います。




「うん? あぁ……そうね……うーん、任すわ。完全に」




今は自由行動開始前で各グループことに整列しているのですが、ハイテンションの祐亜くんに話をふられたお友達の田中くんはなんだか歯切れの悪い様子です。それに祐亜くんも少し困惑しているようです。




「おいおいおいおいおいおいおいおいおい……どうしたんよ? 修学旅行っすよ? テンションあげていきましょうよ!!フーッ!フッー!セイ! フーフー!!」




田中くんがなんだか冷めているせいで余計に祐亜くんが空回りしているように見えます。けどきっと私の気のせいだと思います、多分。




「田中くんどうしたんだろうね?」



私の後ろにいたあきちゃんに声をかけると、あきちゃんは少しそわそわしている様子の田中くんを見てから全てを察したような表情を浮かべました。




「あぁー私に分かるよ。まぁーなんていうか? 徳永の言う通り修学旅行ってのは学生にとってのビックイベントですから。その……ほらね? あれよ、その?」




「? どういう事?」




「私と田中にあって、梨乃と徳永にないもの。なーんだ?」




あきちゃんのよくわからない問いかけを全く理解できず頭の上にクエスチョンマークをいくつか飛ばしていると、先生が私たちに座るよう促して簡単な注意事項の説明を行い始めました。




先生の話を右から左へと受け流しながら、あきちゃんの言葉について考えています。

あきちゃんと田中くんにあって、私と祐亜くんにないもの……なんだろう、死相とかかな?




そんなことを思っていると、先生の話が終わったみたいでみんな続々と京都の街へと繰り出していきます。私たちもこの流れに乗っていざ!と思ったら、




「あれ? 祐一がいない」




「あきちゃんどこ行ったの……」




先ほどなんだか奥歯に物が挟まったような物言いをしていた二人の姿が完全に消えていました。

祐亜くんと二人で辺りを見回したけど見つからなくて、急いで旅館の入り口の方まで戻ってみましたが当然のように二人の姿はありません。




そんな時私のスマホがチリンと、静かな通知音を鳴らしました。

画面にはただ一行、あきちゃんからのメッセージが。





『A.恋人(爆)』




なるほどと、私はそう思いました。




祐亜くんも田中くんから同様のメッセージを受け取ったようで、スマホの画面を覗き込みながら眉間に皺をこれでもか!っていう程に寄せています。




「なるほどね……これは諸行無常の響きありですわ。もしかしてそっちのあきちゃんも?」




「うん……抜け駆けっていうか……駆け落ちっていうか、自由行動を越えた、さらに自由行動って言いますか」




祐亜くんはそれから目を閉じて、天を仰ぎ大きく息を一つはきました。左手を頭にあてて、いかにも『苦悩』みたいなポーズをとっています。




「なるほど……存分に修学旅行を満喫するために恋人と行動をすることを選んだ訳ですか。なるほど、班員を無視し、自分たちの思い出と快楽を取った訳だ! よろしい!! 結構だ!! しかし沙羅双樹の花の色……」



「盛者必衰の理?」




祐亜は得意げな表情を浮かべて指をパチンと鳴らして、空に向けて大きく指を差しました。周りの人が注目し始めていて少し恥ずかしいです……。




「EXACTLY!! 学生というのは規律が全てだぁ……守らない奴は……罰を受けるぅ…」




そう言って祐亜くんはスマホを操作し始めました。

なんとなくですけど、多分お姉さんに密告しているのではないかなと思います。間違った行動ではないですけれど、昨日の生徒会長の雰囲気を考えてみますと田中くんの生死が心配になるというか……ただでさえ生徒会の人たちはこの旅行中先生たちにやたらこき使われてとてもピリピリしていますし。




「ククク……祐一くん、君とは良き友人であったが、君がリア充な感じを出してくるからいけないのだよ。君の友の器の小ささを呪うがいい!!」



ダークな笑みを浮かべながら操作をし終えた祐亜くんは、これで良しと! と言ってブレザーのポケットにスマホをしまって、それからなんだか申し訳なさそうな顔で私のことをじっと見つめてきました。




「病欠が一名に謀反が二名……残されたのは我々だけになってしまいました。けど俺が絶対梨乃ちゃんの思い出に残してもらえるような京都観光にしてみせます! イカよろしく!」




……。




…………。




っっっっっっっっっ!!!!!!





そうか!!!!そうですよねそうなりますよねそうなっちゃいますよね!!

なんてことだなんてこったいなんてことでしょうなんてことなんでしょうかなんて日なんでしょうか!!

冷静に考えてみれば二人ともいなくなっちゃったら私と祐亜くんの二人きりで行動しなきゃいけないっていうか……もうこれほとんどデデデデデ……。




「……デデデっっっ!?」




「? 大王?」




……ットじゃないですか!!これは!! 100人が100人見てもそう言うし専門家に聞いてもほぼ間違いくなくそうではないかってコメントをいただけると思います。あぁ……なんてことなんでしょうか、これは夢ですか?



ほわほわほわーん。



妄想祐亜『梨乃、なんか行きたいとこある?』


妄想梨乃『祐亜くんが行きたいとこならどこでも……』


妄想祐亜『ふーん、じゃあ、あそこに行こうか』


妄想梨乃『え……ここってあの……ホテ……え?』


妄想祐亜『梨乃』


妄想梨乃『はひぃっ!////』


妄想祐亜『ここで二人だけで気候変動枠組条約締約国会議を開催したい』


妄想梨乃『え……それって』


妄想祐亜『京都議定書、一緒に出そうか。俺の温室効果ガスがもう溢れちまいそうなんだ』


妄想梨乃『ゆう……あ……くん……(ポッ』




ボッ!!!!




「もしもーし! 梨乃さんやーい!?」




突然のことに思考がショートしてしまいました。顔は耳まで真っ赤、心臓は他の人にもばれてしまうのではないかという程に鼓動を打っています。

そんな私を見て、祐亜くんはまた申し訳なさそうな表情を浮かべてしまいました。




「せっかくの修学旅行なのに俺なんかと二人で行動なんて申し訳ないっす……いやこれに関しては俺じゃなくてあいつらが悪いんですけど」




「いやいやいやいやいやいやいや!! とんでもないですとんでもない!! 寧ろこちらの方が私みたいなちんちくりんなんかでごめんさいっていう感じです!! 全然!! 祐亜くんと一緒だったら祐亜くんがいたら……その絶対楽しいっていうか!! はい……うん!! その全然オッケーです!はい……うぅっ……」




祐亜くんに気を遣わせてしまっていたので必死で身振り手振りを交えながら否定したのですが、これはこれでなんだか必死すぎるというか……逆にこっちがひかれたっていうか……。




祐亜くんはしばらく目を点にしたあと軽く吹き出して、それから胸が苦しくなるぐらいの爽やかすぎる笑みを私に向けてくれました。




「なんか梨乃ちゃんって俺の思ってたイメージと結構違いますね! よしよし、今回の京都観光でもっと梨乃ちゃんのキャラひきだしてみせますわ!」




私は引っ込み思案で運動もできなくて鈍くさいし、華やかで可愛くもないけど、




「じゃあぼちぼち行きましょうか。とりあえず市バスに乗ってと! ほら、行きますよ!俺を一人にしないで!!」




それでも、祐亜くんが私のこと見てくれて、名前を呼んでくれてとても嬉しいから。




「ふ……ふつつかものですが……////」




「それはちっと大袈裟すぎますな」




小さな歩幅の私に合わせて、自分のペースを自然と緩めてくれる優しい祐亜くんがやっぱりとても好きです。




なんとなく、この気持ちは報われることはないだろうなってどこかで思っているけど。

けどそれでもやっぱり祐亜くんのそばにいれたら嬉しくて、話せたらドキドキして。




蕩けてしまいそうなほっぺたを、自然と緩んでしまう口元を見られてしまわないように、私は結んでいたマフラーを上までしっかりとあげました。

雲の上みたいに足元がふわふわして、その場でじっとしていたらなんだかいつもより広く感じるこの秋空に吸い込まれてしまいそうな感じです。




だから飲みこまれないように、置いて行かれないように、私は祐亜くんのすぐ隣を決して離れないように歩き始めたのでした。

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