ここら辺はまだまだ可愛い修羅場になります
「こうして四人でご飯食べるなんて久々だねー」
俺の気なんて微塵も知ることなく葵はとても楽しそうにケラケラと笑っています。生徒たちで混雑しているお昼時の学食、本来なら授業から解放された解放感があるはずなのに冷や汗が止まらない次第です。
居る……います! 後ろの席……いる!!いるいるいるいる!(稲川淳二並感)
「それにしてもまた中途半端な時期の転校だったな」
祐一が日替わり定食を食いながら隣に座っている葵に話しかけています。お、海老フライ美味しそう……。
「まぁね。私のお父さん転勤族だから。でも今回は卒業するまでここにいることになったから」
真向かいに座った葵も同じ物を食べています。祐一の質問に答えているはずなのに俺にじっと視線を送ってくるのやめてもらえないでしょうか?
(おい、姉貴!)
(あん?)
(知ってたんだろ、葵のこと! なんで言わなかった!?)
(知ってたらどうにかできたか? このボケクソ)
隣に座っている姉貴に小声で話しかけるも軽くあしらわれてしまいました。確かにどうもできなかったでしょうが、そのね……心の準備的なものとか色々できる訳じゃないですか? 心のスタンバイがですね……。
「本当、祐亜見ない間にかっこよくなったよね」
葵は両手で頬杖つきながら、何の恥ずかしげもなくそんなことを言ってきやがります。
覗きこんでくるその綺麗で大きな瞳の視線に耐えられず、俺は思わずそっぽを向いてしまいました。
「ど、どどどうも……き、君はそんな性格だったかしらね? 」
葵は目を瞑って首を横にふるふると振りました。
「決めてたんだ、また祐亜に会えたら自分の気持ちに嘘ついたりごまかしたりするのをやめようって」
「だって私昔から祐亜のこと大好きだったから」
ありのままの姿見せすぎじゃないですかねぇ……。
俺の周りの空気だけ、葵を抜かして完璧に凍りついております。そして俺の後ろの席からは集熱地獄もかくやというような殺気と熱が伝わってきております。
「祐亜も昔は私のこと好きだったんでしょ? へへ、杏華から聞いちゃった?」
あねきゃぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!
「いやぁ、両想いだって知ってたら私ももっと早く行動してたんですけどね?」
頬杖をついて心底嬉しそうにしている葵。俺は横をキっと睨みつけると姉貴はそっぽを向いて口笛を吹いています。
「まぁ、あの様子を見て好きじゃないって思わないやつの方がどうかしてるっての……」
葵の横であきれ顔をした祐一がそんなことをボソっと言いました。
やめてよおぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 後ろの火災現場にガソリンスタンド直接ぶち込むようなそんな真似ぇぇぇ!!!!
「だよなだよな! ったく鈍感ってのは本当周りに迷惑かけるからやめた方がいいぜ?」
水を得た魚のように姉貴が祐一の言葉に便乗しました。
いいじゃない!鈍感!! こんなに危険な状態を生み出すくらいでしたら鈍感の方が!! パオパ王に鈍感の杖を振られまくってハメ殺される方がいい!! それは鈍足だよ!!
「ねぇ、祐亜?」
「ユウア? ナンノコトデスカ? シラナイ、コムギコカナニカダ」
最早自分の存在を消すことを試みようとした時でした。
「祐亜も、ファーストキスでしたか?」
はっちゃめっちゃあ!!!!!????
文字通り微笑みの爆弾を投下した葵ちゃん。うわっはぁああああああ!!!!!やめてぇぇぇぇ!!!!!!
完全に頭の中が真っ白になった俺が、言葉を出せずに死にかけていると後ろの椅子がガタっとずれる音がして亜弥さんと柳の声が聞こえてきました。
「ば、ばかめが!! ほっぺたは私の方が先だ!!」
「私は祐亜が寝てる時にした! 私の方が先!」
いくぞぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!! おえええええええええええええええ!!!!(嘔吐)
「がっほ!? ごっほ!! き、きかんにはいっ……ごほごほ!!」
横で水を飲んでいた姉貴が盛大にむせました。無理もない、がしかし今この場で水を飲むなどという選択肢をとった姉貴が間違っている……。そう思いますよ、俺はね。
いよいよ学食中の視線を集め始めましたね、無理もないですよ。ただでさえ何もしなくても目立つ人たちが目立つことをしているんです。
見ますわ、ええそれは見ますよ!! プーチンが学食の真ん中でコサックダンスしてたらそれは見るでしょうよ。
やめてぇぇぇえええええええええ!!!!! 私をみないでぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!(フリアエ並感)
というか柳のは初めて聞いたぞこのばかちんがぁ!? 私のファーストキス返してよ!!
「ふふ、はじめまして?」
葵は二人を見つめてニコニコしています。こんなに強い子じゃなかったぞ……葵は世話焼きで泣き虫でそれから……。
取りあえずこんな地獄の真ん中でニコニコしていられるような肝の座ったような子じゃなかったんですよ。何があったんだ、ひと夏の経験的な?
「お前……祐亜の一体なんなんだ?」
港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ的なことを聞く亜弥さんに葵はニコニコしたまま答えました。
「ただの幼馴染ですよ? 昔はお互い好きだったみたいだけど、今は私の片思いなのかな?」
私は貝になりたい……貝だから一切質問には答えられません。
「ところで祐亜が今好きな女の子は誰なんですか? 祐亜の後ろにいる女の子の誰かですか?」
手術でメスを使わずにチェンソーで患者の腹部をかっさばくようなそんなダイナミックさです、ここまで来ると。
でもほら、俺あれだから? 貝だから。質問とか答えられないから。
「あ、やべぇ。バイトの時間だ! 行かなきゃ!」
左腕のエア腕時計を見つめて、俺は江頭大先生のやり方に倣って学食の席を立ちあがり地獄からの脱出を試みようとしました。
が。
腕を目の前の葵に、両肩を恐らく後ろにいる沢木さんと柳に掴まれました。
なるほど、死んだんじゃねぇの?
アマイヨ……アマイ……ソンナソウビジャ……ニゲラレルワケナイジャナイ……
まるでヘルシングのアーカードとアンデルセンと大尉の三すくみの真ん中に立たされているようなそんな強烈なプレッシャーをあてられてもう私ダメですぅ……。穴掘って埋まってていいっすか?
「相変わらず肝心な所で逃げようとしますねー祐亜は?」
「逃げたっていいじゃない、へたれなんだもの……」
あはは……俺が間違ってたんだよ……ハーレムにおいて女の子のいい場面しか想像してなかったんです。
いい匂いがして、おっぱいがぼいんーってなってーぱーんーきゃあーゆうあくんのえっちーうふふ……みたいな。
ゆうあくんはわたしのだからーだめーわたしのーねー?ゆうあくんもわたしがすきだよねー? みたいな。女の子はかよわくてー可愛いくてーおしとよかでー可愛くてーおっぱいがぱーんでー……的な?
こいつら掴んでる手の力が半端じゃねぇっっっ!!
後ろから掴まれている両肩の骨がめきめきと軋み、悲鳴をあげており、葵が掴んでいる手首の方だって二人程の力じゃないですが痛い痛い痛い。お前ら体力測定の握力検査の判定SSS(smokin' sick style)だっただろう!
このままじゃ殺される、そう思った時でした。
「あ!! みんなあれ見て!」
葵たちのせいで静まり返っていた学食にそんな女の子のとても大きな声が響きました。
一瞬みんなその視線につられて、各々別の方向を見て、葵や亜弥さんや柳もその声につられて一瞬力を弱めて……。
その瞬間に、俺は空いている手を掴まれていました。
「ごめん!! 祐亜借りるから!」
一瞬の静寂の後、また一斉にどよめき始めた学食。その中を俺は結衣に手を引っ張られて無理やり走り抜けています。
前を走っていく結衣の表情は分からないけれど、掴まれたその手の強さからなんだか必死なものを感じる俺なのでした。
そして男子の視線と、この後のあの子たちの反応が怖いと冷静に考えながら、でも顔の熱さと胸の動悸が早くなっていく俺なのでした。




