自分で自分の気持ちがわからないなんてのは良くあることなのですよ
結衣に引っ張られて、人気のない体育館の裏側まで連れてこられてしまいました。校庭でキャッキャ騒いでる生徒の声や、放送部が流しているほぼ雑音のどうでもいい放送がどこか遠くで聞こえてきます。
結衣は俺の手を掴んだままこちらを見ようともしないで、膝に手をついて肩で息をしています。ここにくる途中俺が何度話しかけても全然応えてくれようともしなくて、すごく必至な感じしました。
「あの結衣さんや……」
俺が恐る恐る話しかけようとしたその時でした。
神村がぁぁぁあ……
近づいてぇぇぇえええ……
「ちょ……ゆ、ゆゆ結衣!!??」
神村がぁぁぁぁぁ校舎端ぃぃ…………
「祐亜……ダメだから!」
神村がぁぁぁあぁああバースト読んでぇぇぇぇえええ!!!!まだ入るぅぅぅぅうぅぅぅ!!!!!
神村が決めたぁあああああああああああああああああああああ!!!!
だ…………抱きつかれております!!
結衣が急に俺の胸に飛び込んできて俺の首に両手を回してきました。突然の結衣さんの甘い香りと、柔らかな感触に思考回路がショート寸前でございます。
「ダメ! ダメだから!!」
結衣はただそれだけ言うと、俺の体に自分の体を痛いぐらいに密着させてきました。
なんなのだこれは……一体どうすればいいのだ(アンヘル並感)
「ダダダダメとは……な、なな何がでしょうか?」
もう半分くらい脳が溶けてるのではないかと思うようなクラクラする頭で結衣に尋ねてみます。あ、あかん……なんじゃこりゃぁ……。
「あの子は……なんかダメ!! えっと……とにかく……ダメったらダメ!!」
俺の胸の中、俺を見上げる結衣の顔も多分俺と同じぐらい真っ赤で、自分でも何がなんだかわからない、そういった表情をしています。
「葵……のことでしょうか?」
自分でも分かり切ってる答えをあほみたいに正直に口にすると、ジブリだったら全身の髪がファサーってなりそうな驚いた表情をして急に俺を突き飛ばてきました。
そして俺はその衝撃で体育館の壁に後頭部を激突。
「あうち!?」
これが今流行りの壁ドンですかぁぁああ!!??
「だ、だいたいす、好きって言ってきたのは……ゆ、祐亜の方だからね!?」
俺が後頭部をさすっていると、結衣が顔を真っ赤にして俺に指をさしてそんなことを恥ずかしそうに言っています。
えっぇええええ!!!!なんだってぃ!!??(聴覚良好)
ま、まさか……ここまで結衣の好感度があがっていたとは……いけるか……いけるのか!?
いや、しかし……急いては事を仕損じる……まだだ! 様子を見る。
そうだ昔の俺は相手の様子も窺わずにいきなり全開フルスロットルで攻撃をしかけてしまった。
が、今の俺は違う……補助技を重ねて重ねて幾重にも重ねて最後に大技をぶっぱなす!! いいか……マンダは初手りゅうまいや!!
「それに私の相方なんだから他の事に現を抜かしてちゃダメ!! 来週は素人漫才コンテストなんだから気合いれてよ!! とにかく葵ちゃん禁止!!」
結衣はそれだけ言って、俺をその場に残して走り去ってしまいました。
残された俺はその場にへたれこんで自分の真っ赤になった顔を掌で押さえながら、まだ激しく胸打つ心臓の鼓動を治めようとするのに必死になっていました。
「ほうほう、あの子が祐亜の本命ですか?ちょっと予想以上に可愛いですねぇ……」
結衣がいなくなった後、物陰からひょっこりと葵が現れて俺の横に座ってきました。
「あのなぁ……葵、お前初っ端から飛ばし過ぎっていうかなんていうか……」
俺が頭を掻きながらそんな事を言うと、横の葵はわざとらしく頬を膨らませました。
「宣戦布告ですよーだ! 私はずっと祐亜のことが好きだったのに他の女の子のこと好きになりやがってこのうわきもの!」
そう言うと、葵は俺の頭に軽くチョップしてきました。あぁ、良かった……これは俺の知ってる葵だ。何から何まで変わってしまったのかと思いましたよ。
「浮気ってお前……始まってねぇーし!」
「まぁ、別にいいですけどね」
葵はそう言うと俺の顔をじっくりと覗きこんできました。
間近でマジマジと見る葵の顔は、女の子から女の人になったと言いますか、俺の記憶よりもはるかに美人になっていて不覚にも一瞬胸がときめいてしまいました。
「大事なのは祐亜が……じゃなくて私が、好きってことですから」
おっと……この葵さんは知らない子ですね……。
「はぁ……」
その日の放課後の帰り道、横を歩く俺と姉貴のため息がシンクロいたしました。
「なんで姉貴までそんな疲れてんすか……しんどいのは俺の方だっての」
「ぼけかすが……これからてめぇがラブコメ繰り広げるたびに割食ったりフォローするのは誰だと思ってやがる」
「そりゃ確かに……」
夕方のまだ日没前の明るい時間帯、姉貴は俺にジト目を向けながら歩いています。
「お前は結衣が好きなんだよな?」
「や、藪からスティックになんでございますか!?ま、まぁ……あえて言おう、イエスでありますと」
「ほぉ……? 今後何があっても絶対にぶれないか?」
「な、なんでございますか急に!?」
「葵の事が好きだったって気持ちはもう一切ないのか?」
そ、そんな傷口をつまようじでグリグリするような台詞言うのやめてよぉ!?
「あ……!? えぇ!?」
突然の台詞に困惑している俺の方を見ると姉貴はまた小さくため息をひとつついて、
「そういうちっちゃな綻びが……後々面倒くさいことになる訳ですわな」
くっそ彼氏いない歴年齢のくせになんでこんな恋愛しったかぶってやがるこの姉貴野郎は。どうせ少女漫画で仕入れた知識なんでしょうが!?
「まぁ、人の気持ちは風見鶏だからよ。別にお前が最終的に誰とくっつくかなんて所はどうでもいいんだが……お姉ちゃん的には幸せになって欲しい訳」
「は?」
「ちゃんと幸せになってくれたら、いよいよ踏ん切りついてあきらめつく奴もいるってことさ」
来夢のことでしょうか……。
「まぁ、元々どうかなるなんて思ってなかったけどな……」
姉貴はなにか寂しそうな笑みを浮かべて小さく何かを呟きました。
「ん?」
俺が訝しんでいると姉貴は急にヘッドロックをかましてきやがりました。
「いだっ!?」
「今日の飯はなんだ、馬鹿野郎?」
「馬鹿野郎は姉貴だっての!?」
いつしか街並みはオレンジ色に包まれて、そんな街の中で俺の悲鳴と姉貴の楽しそうな笑い声がやけに響くのでした。




