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リトライ  作者: 相原由紀
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再転移

[120501] 再転移


 先月早苗ちゃんは短大を卒業した。そして就職は地元島内の企業に決まり、ここを去っていった。沖田君も同じだ。二人して仲良く新たな道を進みだしたのだった。

 俺と由紀は、ちょっびり寂しい感じはあったが、日々の生活が打ち消してくれていた。

 俺は、この年、独立することにした。若干の資金も貯まったこともあり、前世と同じく小さな会社のスタートを切った。勤めていた会社は円満退職できたし、その下請け業務を継続してやらせてもらうこともできた。

 時代はバブル全盛期で世の中が高景気だったことも追い風となった。仕事は他にも多くあり、企業として基礎を固めるには最適だった。

 由紀は、家庭菜園に留まらず、以前勤めていた田舎の会社向けに畑を栽培園として使い植物の苗を出荷していた。最近は近くの園芸店にも少しづつではあるが、草花の株を出せるまでに至っていた。

 しかし、もう間もなくバブルは崩壊する。過剰な投資や規模の大展開は極力避け、堅実に物事を進めた。質や技術を高め、くる時に備えた。

 また、二人には大きなできごとがあった。

「智史、もしかしたら、出来たかもしれない」

「それって、植物のことじゃないよなー」

「あはは、苺じゃないし。あたし達の子供よ」

「・・・ありかどう由紀。なんだか、信じられないような感じだけど」

「うん。あたしも不思議なくらい。でも判るの」

 男には実感できないが、女としての体で判るのだろう。早々検査をすると、間違い無いとのことであった。

 始めはそんなに変化が無かったが、だんだん由紀のお腹は、大きくなっていった。

 里帰りを勧めたが、植物の世話もあるし、由紀は出産の直前まで気を付けながらも普段の生活を続けた。

 出産は近くの病院だったので、誕生する時には俺も駆けつけることができた。生まれた子供は女の子だった。

 よく生まれたばっかりの子供はおサルみたいだとか聞いていたが、全然違っていた。丸々として、シワ等は無く、髪の毛も沢山あり、目もパッチリ開いて、こっちを見ていた。

 由紀に似て、絶対美人になると確信した。そして名前は『育美』と名付けた。

 最初は色々な戸惑いもあったが、そんな苦労も苦にならない幸せを味わいながら日々育っていく育美を確認することが新たな楽しみとなっていた。

 しばらくして世の中は花博を最後にバブルは崩壊した。株や土地に手を出していたところは惨憺たる状況だった。同業でも多くの会社が倒産等で消滅したり、規模を縮小したりしたことろが多くあった。

 世の中は暗いニュースが多かったが、俺は育美と由紀が居てるので毎日が楽しすぎるくらいだった。


 その日は、体調がすぐれなかった。いやこの一週間風邪をこじらせ一向に回復しないまま更に悪化していたのだった。

 バブルの崩壊後は世の中の仕事事態が減少すると共に、単価も低下した。これを補う為、数をこなすことによって売り上げや利益の確保を行なう必要があった。

 幸いにも、備えていたこともあり、仕事数は確保できている。後は効率良く処理を行なえば良いのだが限界もあり、自然と過労ぎみになっていった。

 子供や由紀のことを思うと何がなんでもこの時期を乗り越える必要があり、多少のムリも精神力でカバーしていた。

 そんな生活が祟ったのだろう。また、まだ若いと言うこともあって、体の限界が判らなかったのである。ついにその日は会社で倒れるまでに至ってしまった。

 それでも、少々休んでいれば回復の余地もあったであろうが、気がついた時には四十度近い高熱で意識が朦朧としてきていた。

 そうだった。前世でも同じようにムリを重ね肺炎を発症してしまったのだった。これも変えることのない出来事だったのか。

 俺は病院へ搬送された。たぶん・・・何分意識が無い。いや、この思考事態は肉体としての思考では無い。精神世界の中で自らの考えだけが漂っているようだ。そうだ。この時代へ転移してくる時と同じだ。

 そんな時間、いやその感覚事態無い永遠とも一瞬ともわからない時が過ぎて行く。まさか、これで俺は終わってしまうのか。前回と違い今度はイヤだ。守るものが存在するし、由紀を悲しませることだけは、あってはならない。俺は、必死にあえいだ。願った。懇願した。

 しかし、前世と同じならば、俺はすぐ回復するはずだ。だが、今回は様子が違う。心の中で思った。

『由紀、ごめん。今度ばかりは、様子が違うようだ』

『ずっとずっと昔から、大好きだったよ。いや最初に会ったときから。こんな今になってからでごめんな。愛してる。由紀・・・』

 俺は暗闇の中を落ちていった。果てしなく。

(これで満足か・・・)

 闇の中から低く反響するような声が聞こえる。

『満足って、いや、俺自身はどうなってもいいが、由紀が・・・悲しむ』

(喜びも悲しみも、選ぶことはできない。それが運命と言うものだ)

『しかし、俺の為に悲しむことは、だれにもさせたくはない。俺だけの悲しみや苦しみは増やしてもいい。だから、お願いだ』

(少し異例になるが、それでいいんだな)

『ああ、由紀が悲しまないのなら、それでいい』

(わかった)

 そう言って、その声は遠くへ消えていった。

 それが確かな声であったのかも定かでない。意識だけの世界で、なんとなく心の中で響いてきただけで、明確な言語だったかもわからない。

 ただ、意思だけは感じられた。そう。それが神の言葉なのかもしれない。


 感覚が戻りだしたのは、どのくらい時間が経ってからのことか、まったく判らない。少しづつ五感が蘇ってくるのがわかった。

 やがて目を少し開けることができた。明るい。どこかの部屋であることは判る。痛みは無いが、思考が不安定だ。酔っているようだ。

 部屋の天井がぐるぐる回っている。模様も一緒に渦を作ったり、元に戻ったりを繰り返している。

 手を見ると、色々なセンサーのコードや点滴のチューブが伸びている。周辺の音も聞こえてきた。やけに色々な機器の音が聞こえる。頻繁にアラームが鳴り響く。その都度看護士が行き来しているのも判る。俺だけではないようだ。他にも多くの患者が居るのだろう。

 ただ、カーテンが個別にあり、全体を把握できない。たぶんICUなのだろう。

 しばらくして横を見ると、早苗ちゃんが俺を眺めている。

「あ、早苗ちゃん。来てくれたの?ありがとう」

 そうすると、早苗ちゃんは、少し不思議な顔をして、どこかへ行った。そして声が聞こえる。

「パパがねぇ、あたしを見て早苗ちゃんて言うんだよ」

 だれかと話しをしているようだ。少しすると、もう一人の女性と共に戻ってきた。

「あなた気がついた?よかった。よかったね」

 俺は、その女性を見て驚いた。間違い無く由紀だった。しかし、以前の由紀ではない。かなり歳の行った由紀だった。

「由紀、由紀だよなー」

「そうよ智史。あたしよ。判る?」

「少し混乱してるみたいだ。気分も悪いし」

「ムリしちゃダメよ。麻酔から醒めたとこだから」

「麻酔って何がどうなってる?」

「あなた会社で急に倒れたのよ。手術もかなり時間が、かかったから。でももう安心だって」

「手術って肺炎じゃないのか?」

「いいえ、肺炎は一度なってるけど何十年も前よ。今度は・・・」

 由紀の説明によると、血栓によって動脈乖離、左足動脈破裂によるバイパス。腎臓も片方機能停止。更に血栓が脳に達して脳血栓、カテーテルによって除去したが、一時的に脳梗塞になったと言うことらしい。

 肺炎ではないし、何かおかしい。

「由紀、今何年?」

「今年は二千十年よ、智史もあたしも四十八よ」

 そう言うことか。

 まだ朦朧とする思考で考えたが、始めの転移した時に戻ったのか?しかし由紀がいてるから同じ時間軸で、時間だけ飛び越したのかもしれない。

「由紀、俺、肺炎になった時から、今までの記憶がない。思い出せないんだ」

「ええ、先生もそう言ってた。脳梗塞の影響で記憶障害が出るかもって。でも少しずつ思い出せばいいのよ。ゆっくりね」

(そうか、神様の言うことは、こうなるってことだったのか)

 由紀は思い出すって言うが、それはたぶん無いだろう。俺は人生のリトライを終えたのだ。これからは、新しい始まりってわけか・・・と思った。

「由紀、俺は、一生懸命やれたんだろうか?」

「うん、とってもがんばったわよ。だから、育美もこんなに大きくなったしね」

「会社は、どおなってる?」

「あなたが居なくても、優秀な社員さんが何人もいてるから、大丈夫だって言ってたから安心して」

「由紀の植物は?」

「それも、繁盛してるから、ネットのお店も盛況よ」

「そうだ。村田や由香は?」

「村田君は設計部長になったんだって。由香はちょっと有名な写真家さん」

「西本先輩は?」

「育美と同じ大学に通う子供さんがいてるよ」

「そうか、結婚したんだったよな。福留君と、はつみちゃんとこは?」

「もうお子さんが三人よ。あたしたちの兄弟だから」

「そっか、じゃぁ早苗ちゃんも上手くいったんだ」

 俺は安心した。みんないい人生を歩んでいるようだ。そして、もしかしてと思って聞いた。

「珠子と長尾は?市野沢先輩は?」

「あたし達の心の中でずっと、幸せにいてるよ」

「そうだったな・・・」

 たしかに、同じ時間軸のままだと言うことだ。

「なんだか、疲れたみたいだ。眠くなってきた」

「そうね、あまり一度に質問するからよ。ゆっくり休んで。あたしは、ずっと側にいてるからね」

「ああ、そうする。育美、元気になったらパパに教えて。今までのこと」

「うん。パパとあたしの秘密もいっぱい教えるからね」

 俺は手を伸ばした。由紀と育美も手を包みこんでくれている。温もりが伝わってくる。

「もう一つだけ。由紀、今まで幸せだった?」

「うん。とっても幸せだったよ」

「そっか。よかった。今さらだけど愛してるから・・・」

 そのときの由紀の顔は、あの金メダルの笑顔だった。俺は夢の中へ落ちていった。闇の世界では無い。次目覚めるときが楽しみだ。この十何年かの、いろんな楽しい話を聞こう。


 俺のリトライは終わりを告げた。由紀と育美との二十年弱の時間が少し惜しい気もするが、これで良かったのかもしれない。

 俺の存在が幸、不幸を問わず周りの人々に影響を与えてしまう。存在しないと言うことは、由紀の悲しみに繋がる。

 そのどちらも否定したのだから、こういうことになるのが唯一の解決手段なのかもしれない。

 正しく神は俺の希望通りにしてくれたのだ。リトライと言う再挑戦の期間を与えてくれたし、これで元の位置に戻れたと言うことだ。

新たな人生で多くの出会った人々。ありがとう。

 これからはリスタートだ。


999999後書き


 皆様長い間、お付き合い頂きまして、ありがとうございます。私ども二人の初作品でありますので、読み辛い箇所等多々あったことと思います。

 もし、よろしければ、何らかの評価やコメントを頂ければ幸いと思います。何分自分で作成した作品は自ら評価することができません。これからの進歩の為、厳しいご指摘でも結構ですので、ぜひ、一言お願い申し上げます。

 本作制作のきっかけは、母校の廃校が始まりでした。だれも居ない地獄坂を登って行くと、アスファルトに残るセンターやサイドラインは薄く消えそうなのと対照的に両脇から迫る満開の桜は、当時と何一つ変わらず壮大に静かに咲き誇っていました。

 しかし、校門から見る校舎は人影も一切無く、ロータリーには雑草が長く伸び、月日の経過を示しています。

 自然と涙が出てきたものでした。ワビサビの如く感覚と感情が溢れ、楽しかった日々を思いだし、そしてまた、ポロポロと涙が・・・

 本作は、時期は違えど二人の記憶にあった多くの想い出が元になっています。よって作品の中の出来事は事実のものも多くあり、名称や登場人物も当時友人のものを組み合わせたりしています。

 今、母校は大学のキャンパスに生まれ変わり、新たな歴史を刻み始めました。これからまた、色々な想い出の舞台となることに安堵します。

 三年間、格別の楽しい日々を頂いた多くの人々、ありがとう。またいつか、会いましょう満開の桜の下で。

                              相原由紀



 皆さん、ありがとうございます。

 親子ほど世代が違う私ども、共通点は同じ学び舎の同窓生と言うことで、話を繰り返す内に共通点も多くあり、物語の組立てに関しては、同じ時間を共有していたようにすら感じたものでした。

 私の場合一番のきっかけは、作品中に登場します長尾の死を、ごく最近知るに至ったことでした。

 もう何十年も前、既に二人は共に旅立ったことを知る由もなかった。この事実は衝撃的で、彼らを最後に見かけたのも作品の通りでした。

 今でも二人が睦まじく歩く後ろ姿が鮮明に脳裏に焼きついています。偶然長尾の最後の様子は一見関係が無い立場の友人が詳しく知っており、その状況を聞くに至り何らかの足跡を示してやることが、せめてもの供養と言うか、親友への餞であろうと感じた次第であります。

 何分遥か過去の記憶ですので、薄くなっている部分も多く、取材にご協力頂きました多くの方に感謝すると共に。この作品をお送りしたく思います。

 ありがとうごさいました。

                             海砂松水


二千十三年、早春


※よりイメージを感じて頂く為、付録を作成しました。よろしければ参照下さい。

https://yahoo.jp/box/id4eQi


※付録も含め、本作品には全てフィクションであり、物語及び登場する名称等全て架空のものです。何卒ご容赦のほど御願い致します。


石川県立志賀高等学校、香川県立高瀬高等学校とは、何ら関係ありません。


※[小説と現実]

読まれた方で特に母校出身の方々より問い合わせと言うか、確認がありましたので、ここで差しさわりの無い程度で現実との対比を公開致します


1)志賀高   〇知高

2)市原高   三〇高

3)福町    〇良

4)丸町    〇山

5)市原    〇村

6)市原川   〇原川

7)白渕先生  〇瀬先生と溝〇先生と矢〇田先生の合成

8)村田くん  〇村くんがモデル

9)長尾くん  三浦くん(故人)

10)たま子   藪さん(故人)

11)松田さん  〇下さん

12)西本先輩  岡〇さん(故人)がモデル

13)どばんの店 寺田町の宇田パン店

14)安田さん  芦屋の〇田さん

15)墨汁事件  ほぼ事実

16)沈没事件  事実

17)久保事件  事件は事実で加害者は退学、志賀高での出来事等は無い


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