第1話 PMC異世界へ
新作始めました。
ご愛読いただければ幸いです。
抜けるような青空の中、陽光がさんさんと降り注ぎ、見渡す限り緑の草原が広がっている。
その草原に、鉄パイプだけで組み上げられたような軍用バギーが一台止まっている。
バギーの周りには四人の兵士たちが周囲を警戒している。
兵士たちは何故か緑の草原の中で、砂漠迷彩の軍装を身に纏っていた。
四人の兵士は皆女性で、一番年下に見える兵士が、バギーの後部に積まれた通信機と格闘していた。
「こちら、コリン偵察班、応答願います。 こちらコリン偵察班、応答願います」
ザッ、ザザーッ
幾ら呼び掛けても、返ってくるのはノイズだけだった。
「コリン班長、やっぱり感なしですっ!!」
一番年下のユーリが班長のコリンに報告する。
コリンは黒革の手帳を見ながら、ユーリに指示する。
「周波数を変えて、もう一度トライしろ。一五○○までだ」
「イエス、マム」
ユーリが再び通信機に向かって呼びかけを始める。
すると一番ベテランそうに見えるヴァスケス先任軍曹がコリンに近づく。
「もうこんな事して二週間だぜ……オレ達が此処に飛ばされてから」
そう言ってヴァスケスはコリンの顔を覗き込む。
「我が社の規定では、作戦行動は連絡不能になっても三十日継続される。まだ十四日だ」
「……班長様は、本当に杓子定規だな……」
ヴァスケスが呆れたように両手を広げる。
「お前が緩すぎるんだ。ヴァスケス」
「へい、へい。わかりましたよ」
ヴァスケスはそう言って再び草原の中に姿を消す。
◆
彼女たちは民間軍事会社『ブラッドフィールド』の社員たちだ。
つい二週間ほど前まで、アフガニスタンの難民支援プログラムで支援物資の護衛任務を請け負っていた。
彼女たちが砂漠迷彩を身に纏っているのもそのせいだ。
しかし、突然の砂嵐に巻き込まれ、気づいたらこの草原に放り出されていたのだった。
コリンが手帳を見ながら思案していると、腕時計のアラームが小さく鳴った。
「……時間か……ユーリ、今日は此処までだ。撤収準備にかかれ」
「イエス、マム」
コリンはヴァスケスが消えて行った方向に向かって大声でヴァスケスの名を呼ぶ。
「ヴァスケスッ!! 戻ってこいっ!!」
すると、四人目の人物であるアグネスが必死の形相でバギーに向かって駆けこんできた。
「でっ、出ましたっ!! 超でかいですっ!!」
そう言って、アグネスは持っていた銃を構える。
コリンもアグネスの只ならない様子に緊張を高める。
「ユーリ、ヴァスケス、警戒しろっ!! 何か来るっ!!」
その声と同時に、地面から振動が伝わってきて、なにか巨大なものが近づいてくる音が聞こえ始めた。
ドドドドドドドッ
次第に大きくなる音に、思わずユーリが振り返る。
バサアアッ!!
と、目の前の草むらから巨大なイノシシが現れた。
「ひええええええっ!!」
ユーリがとっさに身をかわすと、今ユーリがいた場所を巨大なイノシシが駆け抜けていく。
「な、何ですかあれっ!!」
ユーリも慌てて銃を構える。
再び地面が振動し始める。
ドドドドドドドッ
奴が近づいてくる音が次第に大きくなる。
「うわあああああっ!!」
ユーリがまだ見えないイノシシに向かって銃を発砲する。
パパパパパパパパッ
「止めろユーリ、そんな小口径じゃ止められないぞっ!!」
コリンがバギーの上から叫ぶが、恐怖に駆られたユーリは引き金を引き続ける。
パパパパパパパパッ
そして再び草むらからイノシシが飛び出してきた。
パパパパパパパパッ
ユーリの銃弾が命中しているにも拘らず、イノシシは止まらない。
それどころか、イノシシはユーリに向かって駆けだしてきた。
「ひえっ!!」
「馬鹿野郎っ!!」
突然背後に現れたヴァスケスが、ユーリの襟首を掴むと、強引に引きずる。
再びイノシシがその場を走り抜けていく。
「アグネスッ!! ショットガンにスラッグ弾を込めろっ!!」
「イエス、マム」
アグネスがバギーに駆け寄り、荷台のショットガンを引っ張り出す。
そして素早く弾薬ケースの中のスラッグ弾を込めていく。
「奴の頭蓋骨は固いぞっ、通り過ぎる瞬間に首を狙えっ!!」
弾の装填が終わったアグネスが周囲に耳を澄ませる。
バギーの上から警戒していたコリンが、二時方向に草むらが揺れるのを見つけた。
「二時方向からくるぞっ!!」
ヴァスケスもバギーから口径の大きな銃を引っ張り出す。
「大口径ライフル弾なら止められるか……おい、アグネスッ」
アグネスがヴァスケスを見る。
「オレが正面から牽制する。その間に奴を撃ち抜けっ!!」
「イエス、マム」
ヴァスケスが腰を落として銃を構える。
再び奴が近づいてくる音が響き始める。
ドバアッ
草むらから巨大な塊が飛び出してきた。
バンバンバンバンッ
ガツッガツッガツッ
巨大なイノシシが正面からの銃撃を嫌がり、速度を落とす。
「今だっ、やれっ!!」
ドバンッ、ドバンッ
至近距離からスラッグ弾を撃ち込まれた巨大イノシシは、大きくその巨体を震わせた。
「畳みかけろっ!!」
ドバンッ、ドバンッ、ドバンッ
アグネスが装填した弾を全弾撃ち尽くす。
すぐにヴァスケスがその間に入り、牽制射撃を行う。
バンバンバンバンッ
巨大イノシシはその場に蹲るように動かなくなった。
「アグネスッ、今のうちに装弾しとけっ」
「イ、 イエス、マム」
「ユーリ、何でも良いから棒を持ってこい、それで突いてみろ」
「え、あたしがですか?」
「復唱しろ、ばか」
「ユーリ、棒を持ってきて、対象物を突きます」
ユーリが慌てて、棒状のものを探しに行く。
コリンがバギーの上からイノシシを観察する。
「……呼吸による上下動は確認できないな……そうだな、暫く様子を見よう」
装弾を終えたアグネスとヴァスケスが銃を構えなおす。
其処にユーリが長い枯れ枝を持って現れた。
「目を突くんだ。生きてたらすぐに反応する」
「は、はい」
ユーリは言われた通りイノシシの目を棒で突く。
しかし、イノシシは反応しない。
「チッ、もっと強くやれ」
「は、はいっ」
今度はゴツゴツと激しく目を突くが、やはりイノシシは動かない。
ヴァスケスが銃を構えたままイノシシに近づき、爪先で鼻の頭を蹴飛ばす。
「……大丈夫そうだな……クリア」
その声で、ユーリとアグネスが緊張を解く。
コリンはヴァスケスに尋ねる。
「三百キロくらいありそうだな」
「ええ、下手したらもっと重いかもしれませんね」
「ユーリ、アグネス。此処に穴を掘れ。血と内臓を抜くぞ」
「「ええっ?」」
「何言ってんだ。お前がその方が高くギルドに売れるって言ったんだろ」
「それは言いましたけど」
「やれっ」
コリンが口角を上げながら命令する。
「ひぃー、下っ端は辛いよー」
ユーリの叫び声は、誰にも届かなかった。




