6 転生生活2日目の朝
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転生生活2日目の朝。
ハンナと朝ご飯を食べていると、両親が戻ってきた。
お土産は何だろうかと浮き浮き出迎えたのだけれども、二人とも憔悴しきってて、どうにもそんな感じじゃなかった。
二人がご飯を食べていると兄たちも戻ってきた。
これは一大事だ。
2人の兄は、それぞれ騎士学校と幼年騎士学校に通っている。
厳しさでは国内一で、簡単に戻ってこれるような学校ではない。
この国の成人は18歳だが、平民のほとんどは15歳くらいで仕事に就く。
日本でも、昔は義務教育の中学校を卒業したら一人前で、ほとんどが就職していたらしいので
時代としてそんな感じなのだろう。
仕事と言っても、職業ギルドに入って親方の見習いから始めるので、
一人前になるのが18歳くらいで、ちょうど成人年齢と合っている形だ。
もちろん、もっと前から見習いで腕を磨いている子供も多いが、社会的責任等と重ねて独り立ちは18歳くらいだ。
それとは別に、職業訓練校に通って、そこから職に就く子供もいる。
官吏や騎士、魔法使い、というややエリート職に多い。
訓練校に入るには難しい試験があるので、それまでに学問を納める必要がある。
そうなると、どうしても貴族や騎士、平民でもお金のある家の子供になる。
この世界は厳しい階級社会なのだ。
一番のエリート校は魔力のある人しか行けない王立魔法学園。
ゲームの中で主人公が通う学校だが、ここはもうものすごく身分が高いか、ものすごく何かに秀でているかでないと入れない。
リリーナの2人の兄達も入れなかった。
しかし、平民なのに騎士学校に入れているというだけで、たいしたものだ。
魔物と戦わないといけない世界なので、日本とはかなり教育の内容が違うようにも思う。
戦士っぽい人が多い割に、他国と戦争しているという話はない。
単純にその余裕がないのだ。
魔物に人が襲われる世界で、人間同士で争っていたら、あっという間に全滅してしまう。
騎士学校は騎士になりたい15歳以上の若者が通う。
幼年騎士学校は騎士学校に入る前に、通常の勉学と騎士学校に入る為の学問を納める。
12歳から15歳くらいの年齢の子供で、身分に関係なく広く門戸が開かれている。
幼年騎士学校に通う子供は多いが、そこから騎士学校に上がれる子供はそこまで多くはない。
騎士学校にいけなかった子供は、そのまま軍に入って騎士ではなく兵士になったりする。
軍に入らず、別の仕事に就く子供もいるが、そこでの訓練は何をしていても役に立つという。
ただ、うちは祖父も父も騎士だ。
2人の兄も順調にその道を進んでいて、上の兄は去年めでたく騎士学校に入った。
まあ、私にはあまり関係ない。
女でも騎士になれなくはないけど、やっぱり力が弱いから。
全員が揃うと母が切り出した。
「大事な話があるのよ」
みんなでテーブルを囲む。
父が話を始めた。
「おじいちゃんのお兄さんが辺境に居るのは知ってるね」
なんと、祖父の兄は伯爵様なのだ。
次男の祖父は跡を継げないから平民になったけど、騎士として武勲を建てた立派な人だった。
だったというのは私が生まれる前に亡くなっているからで、会ったことはない。
繋がりの祖父が亡くなっているので、その祖父の兄という伯爵様にも、私は会ったことはなかった。
上の兄は、まだ祖父が存命中に祖父も交えて会ったことがあるらしい。
「辺境に大きな魔物が出て、その退治の為に、お父さんは辺境に行ったんだ」
なんと。呼ばれていったのは知っていたけど、魔物退治の為だったとは。
それで、みんなで戦って魔物は撃退したけど、御領主さまのご子息がお亡くなりになったらしい。
御領主さまのご子息、簡単に言えば、父の従弟ということになる。
うちは祖父も父もかなり早婚だったので、従弟の人は父よりもかなり年下だった。
「僕の兄でもおかしくないような年齢だったよね」
長兄が言った。
30歳より前で亡くなるなんて、前世日本人としては、とても若いと思う。
「奥方がいらしたのだが、まだ子供がいなかったので、実家に戻られるそうだ」
新婚の奥さんがいたのか。それはまた厳しい話だ。
それにしても。
私は中身は大人なので、この話の着地点が見えていた。
っていうか、下町生まれのゲームのヒロインが、何故か王立魔法学園に通うために田舎から王都に出てきて、何故か伯爵令嬢になっていた。
「それで、父さんが伯爵さまの後を継ぐことになった」
ほらね。
そこから大慌てで引っ越し準備になった。
父は仕事を辞めざるをえないので、引継ぎで忙しい。兄たちは寄宿学校に行っているので、話を聞くだけ聞いて帰って行った。
そもそも戦力外だ。
もっとも、母からしたら、7歳の私も戦力外だろうけど。
この世界の引っ越しでは大きい家具は持って行かない。荷馬車に載せる分しか持っていけないのだから当然だ。
家は家具付きで売買される。
兄が名前を彫って激怒された思い出の箪笥も母の鏡台もさよならだ。
そうして、ウィレット家はその名字と共に、ものすごいスピードで辺境の地へ旅立ったのだ。