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7 田舎暮らしだけどのどかじゃない

ゲーム開始までは毎日更新します。

ものすごいスピードで辺境の地へ旅立ったウィレット家。

そして、ものすごいスピードで後悔している。

ものすごい田舎だよ。

7歳まで王都の下町で育った私は、とてもびっくりしている。

一応、御領主さまの屋敷の付近に村があって、村を囲むように畑があるけど、その向こうはもう森森森で国境の山だ。

山を越えて、隣国が襲って来たら怖いなと思ったんだけど、隣国の軍隊が踏破するのも困難な山らしい。

「軍隊だって、こっちに来るまでに魔物にやられちゃうんだよ」

困ったように父が言う。

魔物対策が一番の問題なのだ。

10年に一度、魔導士が張る結界のおかげで、大きい魔物は人の住む世界には入ってこれない。

しかし、山や森の人が立ち入れないところから、小さいほころびが生まれて、小さい魔物がやってくるのだ。

魔力を持つ人が住んでいるだけで、結界の魔力が強化されるらしく、人がいなければいないほどほころびが発生する。

魔物をやっつけると、結界が更に強化されるらしい。

この国で一番大きい山に接しているこの領地は、国を守る防衛線なのだ。

大事な場所だとは思うものの、観劇のような娯楽はもちろん、美味しいお菓子や華やかな装飾品を売るお店もない。

ああ、そんなところに来たくなかった。

ただ、父はそれでも騎士だし、母もそれをよく理解していたようだ。

偉い人だと思う。


母は王都の商人の次女で、ほとんど王都から出たことが無かった。

この世界では、女性はあまり移動しない。貴族だと、領地と王都を行ったり来たりする生活をするし、

女性だと結婚して、故郷と遠く離れた夫の領地に暮らすこともあるが、

平民だと、生まれた土地で結婚してそのままそこに住み続ける人が多い。旅行もあまりしない。

貧乏だと出稼ぎに出て行くことがあるようなので、母のような平民で、そこそこいいお家のお嬢さんが一番移動しないのだろう。

だから、ここにきてとても戸惑っていたようだが、ニコニコ笑って頑張っている。

偉いなあ。

不貞腐れているのは私だけだ。

しょうがないじゃん、7歳なんだから。プラス40歳なのは置いておいて。


子供が友達が誰もいないところに来るのって、とてもつらいことなんだよ。

田舎で住んでる人がいないから、まず子供自体がそんなに多くないし、7歳くらいだとまだ村から出てこない。

もうちょっと年齢が上がったら、屋敷の仕事の手伝いに来たりするらしいんだけど。

なので、今、私と一番年齢の近い子供は厩番の手伝いをしている10歳のボブだ。

厩舎長の長男で、雑用係をしている。

3歳上の男の子で馬にしか興味がなく、話も全く合わないが、馬が大好きで馬に乗せてくれる。

そう、私は最近、馬に乗る練習をしているのだ。

このド田舎では、馬に乗れない人は何処に行くことも出来ない。

伯爵令嬢なので、馬車を出してもらうことは可能だが、そんないちいち馬車を出してもらうのも大変だし

1台しかないので、母が使っていると、私は使うことが出来ない。

伯爵家なのに1台しかないって、って思ったけど、ここでは私と母以外はみんな馬に乗れるのだ。

もちろん、私よりも小さい子供はまだ駄目だけど、歩くのがおぼつかなさそうな老女が馬のほうが楽だと乗っていたりする。

うひゃあ。

なので、私も特訓中だ。


最近はボブと2人だけでも、村のはずれくらいまでなら出かけることが出来る。

「お嬢さま、お出かけですか?」

大きい箱を運んでいた執事見習いが声をかけて来る。

「川まで行こうかと思って」

「じゃあ、結界石を持って行かれますか」

箱からずっしり重たそうな袋を取り出す。王都から結界石が届いたばかりらしい。

結界石は、防護魔法をかけられた石で、小さい魔物なら動きを止めることが出来る。その間に逃げるための道具だ。

優れた魔導士が作ったものは軽くて持ち運びやすいけど非常にお値段が張る。

今、運んでいるくらいの中ぐらいで重たいものが、辺境での必需品で

巡回の際は、付き従う村人の分までもっていくのが習わしだ。

必要ないと断ろうとした時に、ふと何かの記憶がよぎった。

ゲームの中のリリーナは常に結界石を持っていた、ような気がする。

「いつも結界石を持ち歩いているの?重たいのに」と驚いたのは誰だっただろう。

会話を交わしたということは、攻略対象の誰かだったはずだが。

「そんなのうちの田舎なら常識だわ」

ゲームのリリーナは確かにそう言っていた。

と、言うことは、持ち歩くべき?

「持ってく」

重たいけど、どうせ馬だし。ボブに持たせてもいいし。

私は+40歳のせいで、ゲームのリリーナよりも更に慎重派なのだ。


厩舎に行くと、ボブは既に鞍を付け終わっていた。

私の馬は小さめのポニー。大人しいおばあさん馬だ。お父様みたいに早い馬に乗りたいけど、それはまだ当分先だ。

「ちょっと早掛けしてみますか?」

やはり小さめの馬に乗ったボブが合図の仕方を覚える。

「お嬢様は上達が早いですね。馬の精霊に愛されているのかも」

こちらの人は良くそういう言い回しを使う。

ここはファンタジーな魔法の世界で魔物が沸いてくるような場所だけど、

精霊は架空の生き物だと思われている。神様は神様で信仰されてるけど、それもまた実在はしないと思われている。

来世とか別の時空とかのお話だ。

人前に出てきたりはしない。

女神リリーナもそのようなことを言っていたような気はする。

でも、ここで信仰されている神様は、私をここに寄越したリリーナとはまた違う気もするし。

まあ、現代日本でも国が違えば神様も違ったし、目に見えないんだからしょうがない。

なのに、魔物はいるけど。

魔力を使うだけで、存在はするし駆除も出来るしで、ヒグマみたいな位置づけなのかもしれないな。


畑を抜けると森だ。

子供だけで森に近づくのは禁止されているので、手前の川がゴール。

橋の下に水汲み場があって、暑い時期はここらか水浴びも出来る。

「ちょっと顔を洗っていこうよ」

ポニーの手綱を預けて、橋へ降りようとした時だった。

いきなりポニーがいなないた。

振り返ったら、空中に大きい蝙蝠みたいなものが浮いていた。

蝙蝠みたいな形状だけど、大きさは猪より大きい。

大きい。大きいよ。

赤い目がギラギラと光る。

魔物だ。

逃げなきゃ、と思ったのに、足がすくんで動かない。

気を取り直したのは、私よりボブのほうが早かった。

ポニーを魔物にけしかけ、私をボブが乗ってきたほうの馬に乗せる。

「ボブも乗って」

「2人だと追いつかれます」

ボブが馬の尻を蹴った。馬が勢いよく走りだす。

振り返ったらボブが逆方向に走り出すところだった。

駄目じゃん。これは駄目。まだ10歳なんだよ、ボブは。10歳の子に守ってもらって逃げてどうするよ。

世界を救うヒロインなのに。

私にはチートがあるはず。はずはずはず。

すごく怖いけど。

戻らなきゃ。

でも、身体が動かない。

どうしたらいいかもわからないが、わからないまま馬の向きを変える。

蹴られたことで苛立っていた馬はそのまま走り続けたが、途中でぴたりと足を止めた。

さっきの魔物がこっちを見ている。

怖い。

身体が固まる。馬も同じだ。馬も怖くて動けないのだ。

ぎゅっとスカートを掴むと、手に、固い石が触れた。

結界石だ。

その瞬間、必死に結界石を投げた。

バリバリバリってすごい音がする。

ピッタリ真ん中に当たるのはチートなのかな。

もう一つ、もう一つ。いくつか投げているうちに魔物の動きが鈍くなる。

この隙に逃げようと、馬を叩いた瞬間、ガツンと殴られたような衝撃が走った。

背中が痛い。

え?私、死ぬの?

世界を救わず死ぬの?

そうして目の前が真っ暗になった。


目が覚めたら生きてた。

普通に自分の部屋だ。

ベッドの中で体を伸ばしたら背中に激痛が走った。

そのまま固まる。痛い。

「起きたのね。あまり動かないほうが良いわ」

びっくりしたことに部屋の中に母親がいた。

「どうしたかわかる?」

「魔物に襲われて死にそうになった」

簡単にまとめたら、ほっとしたのか母親が笑った。

「ボブはどうなったの?」

死んだのだろうか。

「大怪我だったけど大丈夫。ちゃんと回復魔法もかけてもらったから」

回復魔法。ものすごい田舎だと思っていたけど、魔術師がいたのか。

「あの魔物は森でお父様たちが追ってた魔物だったのよ。

それで、森の中を探してたら、結界石の音がして、かけつけたらあなたたちが襲われていたの」

タイミングが良かったのだという。

巡回中だったから魔術師も一緒にいて、処置も早かった。

もう少し遅ければボブも私も死んでいたかもしれなかったのだ。

結界石を持っていたのを褒められた。

ふと二次元の美麗なスチルが浮かぶ。

「子供の頃、私をかばって幼馴染の厩番が死んでしまったの。その日の朝、王都から取り寄せた結界石が届いていたのに

私は面倒がって持って行かなかったのよ。だから、いつでも持っているの」

寂しそうに微笑むストロベリーブロンドの少女は私だ。

なるほどだね。

あの時、ゲームの中では結界石を持って行かなかったのか。

そして、ボブは死んだのか。

死ななくて良かった。本当に良かった。

っていうか、これ、私も死ぬ可能性もあったんじゃないの??

だってRPGのゲームって、プレイヤーがやられたらゲームオーバーだよね?

前にもちらっと思ったことだったけど。

セーブポイントとかないよね。

どうなの、それ。怖すぎ。


この経験は私を変えた。


それから。

私は頑張って頑張ってレベルを上げた。

自分が死なない為に。

言ったらなんだが、うっかりボブを助けようと戻ってしまったけど、あのままボブの厚意に甘えて馬を走らせていたら、

おそらくリリーナは逃げ切っていた。

ゲームのリリーナはそうして生き残ったはずなので。

結果としては大成功であったが、私も、その判断をするべきではなかったのか。

冷静に考えたら、私、リリーナが最優先だよ。

救世の乙女が死んだら、世界だって滅んでしまうのだから。

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