32 2年生冬 生徒会選挙2
困った時に私が相談するのは、アルかトーマスだ。知性があって考え方が柔軟だ。
今回は先にアルに相談することにした。
トーマスは立候補するので、客観的な立場ではない。
場所はいつもの魔法図書館だ。
本当にいつ来ても誰もいない。
「何かまた面倒なことに巻き込まれているのかい?」
「まだ巻き込まれてないよ」
「じゃあ、これからだ」
アルが笑った。
巻き込まれないという選択肢はないのか。ないな。
「エミリアから、一緒に生徒会選挙に出ないかと誘われているの」
「いいんじゃないかな」
即答だった。
「エミリアは大人しいけど思慮深い。リリーナは行動力があるから適任だよ」
適任かどうかでいえば、適任な気はしていた。
図々しいかもしれないが。
政治というのは基本的に、ご身分が良くていい扱いを受けている人はあまり気にならないものではなかろうか。
エミリアみたいに自分が統治者側の人やトーマスみたいに平民の地位を上げたい人はともかく
現状に満足ならば、それを踏襲していくだけでいい。
そして、私は、どっちかというと、平民や女子生徒の権益を守りたいほうなのだ。
おまえはそんなことをしている暇はあるのか、その間に魔物のひとつでも斬ってレベルアップするのが大事ではないのか、
という気持ちもあるが、守りたい世界は、私が好ましいと思う世界なので。
ただ、懸念がないではない。
「出るのも役員になるのもいいと思うけど、票が割れたりしないかしら」
支持層を考えたら、私は2人と被る。
エミリアとは女子生徒の票を分け合うし、平民の友達も私に入れてくれるかもしれない。
私は落選しても構わないが、票を分け合った挙句にエミリアやトーマスが落ちたら申し訳ない。
アルは考え込んでいる。
「むしろ、3人とも受かるように考えてみてはどうかな」
「それが出来たら困らないよ」
そんな都合よくいくわけがない。
「実は、今回の選挙の件で、クリスが困っているんだよね」
「クリス様が?」
「エミリアはクリスと何か話していないのかな」
「そういう話は聞いてないですが」
でも、兄妹なんだし、クリス様は生徒会長なんだし、真っ先に相談してておかしくない。
「クリスがエミリアに出るように頼んだんじゃないかと思ったんだけど、クリスが妹に無理をさせるのが考えづらくて」
「本人の意思っぽかったけどな」
フィリップを支えるとかナントカカントカ。
アルが更に考え込んでいる。
いつも判断の早いタイプだと思っていたので、こんなに悩んでいるっぽいのは少し興味深い。
「君のクラスに、ダリル侯爵の御嫡男がいるんだけど、話したりするかな」
「しないですね」
ダリル侯爵の息子は、多分、うちの学校によくいるタイプだ。
貴族の家柄で、高い教育を受け、学業にも社交にも熱心な優等生。
フィリップ殿下に過剰におもねることはないが、平民とも距離を置いている。
「彼は、去年1年生で生徒会役員になったんだよ」
「ああ、そういえば」
選挙の時に挨拶しているのを見た。
生徒会選挙は次の年に最上級生になる2年生の立候補がほとんどだが、1年生でも立候補する生徒はいる。
たいていはかなりいい家の出で、翌年、生徒会長になった時に、その経験を活かす。
あれ?
「フィリップは去年、役員にならなかったんだ」
気にしてもいなかったが、普通はフィリップが1年生ながらに役員になって、今年、満を持して、生徒会長になるものではないだろうか。
私の疑問をアルは汲み取ったようだった。
「クリスは去年、声をかけたけど、断られた」
「なんで?」
面倒だからかしら。
ありうるな。今のフィリップは己の責務を果たすより、お取り巻きと遊んでいるほうが楽しそうだし。
「クリスが生徒会長で自分が副会長なのはよくないと」
「え?だって、クリス様は上級生じゃない」
「そうは思わなかったようだよ」
馬鹿馬鹿しいなあ。
「それで、次点でダリル侯爵令息になったんだ」
同じ学年には侯爵家の生徒が3人いる。エドワードはフィリップの取り巻きだから外されて、もう1人は女生徒だから、
ダリル侯爵令息に回ってきたのだろう。
「ええ、じゃあ、彼が会長になったりしないのかしら」
普通は経験を積んでいるほうが評価される。
もっとも、王太子というのは他のなにをも覆すパワーをもっているけど。
「彼は選挙に出ないよ」
「ええ?」
「本人は役員になってフィリップを支えるつもりでいたらしいんだが、フィリップはそう思わなかった」
自分のライバルとして疎んじたということらしい。
王太子が一貴族の子息と争っててどうするんだか。
「彼は年明けから隣国に留学するらしい。フィリップに睨まれたまま在籍していてもいいことはないからね」
「それはなんというか。判断が早いですね」
「賢明だね。どのみち見聞を広める必要はあるだろうし、戻ってきてから生徒会長になってもいい」
「生徒会長に、って」
「この学園の生徒会長になったということは、重要なことだよ。正式な記録にも残るし」
のちのちとても役に立つことなのだそうだ。
それでも、フィリップの為に、生徒会長の座を諦めて、役員として彼を支えるつもりだったというのは驚きだ。
そして、その気持ちをフィリップが無碍にしたというのも。
「フィリップって馬鹿なのかしら」
「そうでもないと思うんだけどね」
ええー。何か考えがあってやっているとも思わないんだけど。
「それで、リリーナはどう思う?」
「どうって」
なにをどう考えろというのか。
納得は出来ないけど。
ダリル侯爵令息が自分の利益を考えてそういう判断をしたのなら、私がどうこう言う筋合いでもないし。
「それで、クリス様は困ってるんですか?フィリップを支える人がいなくて」
「まあそういうことかな。トーマスがいれば十分だけど、フィリップがそれを良しとしないかもしれないということで」
トーマスのことも邪魔しようとするなら、それこそフィリップは馬鹿だ。
フィリップは大馬鹿だったようだ。
トーマスに状況を確認しようと思ったら、とんでもない話が出てきた。
2年にあがっても、1組の平民の男子生徒のたまり場は化学準備室だ。
今回は特別にエミリアを連れて行った。
ハンスやロブが目に見えてそわそわしている。現金な奴らめ。
エミリアとついでに私が立候補したいという意向を伝える。
「歓迎するよ。しっかりした人に生徒会に入ってほしいとは思っていたんだ」
自分も生徒会に入るつもりのトーマスは実に正直な感想を述べた。
しかし、私達が落ちることは考えてないのか、トーマス。
「私は正直、どっちでもいいんだよね。2人の足を引っ張るなら止めるし」
「まあね。普通は女生徒2人は難しいんだけど。今年は本当にどうなるかわからないんだよね」
そこで、衝撃の事実が判明したのだ。
なんと。
フィリップは自分以外に、取り巻きを4人、立候補させる予定なのだという。
呆然として、声も出ない。
「殿下とそのお取り巻きだと、来年の生徒会運営に支障があるかもしれないからなあ」
トーマスは半分はちゃんとした人がいいという。
トーマス、エミリア、私。
さりげなくフィリップもちゃんとしてない方に分類したのには目をつぶる。
しかし、なかなか厳しいメンツみたいな気もする。
「私の代わりにエドワードを出してみたらどうかしら」
最近の真面目なエドワードはフィリップのお取り巻き以外からは評判がいい。
しかも身分の高い男子生徒だ。
貴族の男子が一番多いということを考えたら適任ではないだろうか。
「いい考えだな」
トーマスが頷いた。
エドワードは平民の剣術の練習に参加したりもしていてトーマスとも交流を深めているようだ。
「ただ、エドワードは殿下に遠慮したりしないかな」
そうなのだ。あの男は意外に陰気で遠慮しいなのだ。
しかし、それを置いてもやるという根拠はある。
「生徒会長の殿下を支えるべきだという方向で説得したらやると思う」
フィリップが無能な取り巻きと苦労するのはエドワードの本意ではないだろう。
早速エドワードを呼び出した。
本人が立候補するのだから、のんびりしている暇はない。
もっとも、彼が聞かされた時には、私たちの間では立候補が確定になっていて、なんだか微妙な顔をされてはしまったが。
やりたい意欲がある人がやったほうが良いというのが彼の言い分だった。
しかし、私はお前にやらせたいのだよ、エドワード。
フィリップ、エドワード、トーマス、魔術師の代わりにエミリア、となったらゲームのメンツに近い。
私はあまりにもゲームからかけ離れた現実を、多少は補正したいと思いながら生きているのだ。
最終的にエドワードは立候補を承諾した。そして、にぎやかしの私も立候補することになった。
こちら側から誰かは落選しなければ、フィリップの面子が立たない。
が、やるからには受かりたいという気持ちもある。
フィリップの取り巻きには口先で持ち上げるだけのあまりよくない生徒たちも混じっている。
そういう人物を生徒会役員にしていいんか、という問題だ。
王太子なのだから、きちんと人を見て取り巻きなども選ばねばならぬ。
が、現状、出来ていない。
取り巻き以外の貴族の子弟だと、フィリップのそういう部分をよく思っていない生徒もいるだろう。
ダリル侯爵の息子やその派閥の生徒たちとか。
王太子はきちんとした人物を周囲に置いたほうが、国の為になるという考えだ。
そこを突いていけば、取り巻き連中を落選させることも可能ではないのか。




