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30 2年生秋 悪役令嬢と一緒4

自由とは何か。

考えてもよくわからなかったので、とりあえず、お忍びで下町に出てみることにした。

形から入るのも大事だ。

親に内緒で禁止されていることをするというのは、子供が思う自由っぽい気がする。

そういう体験を積み重ねてみるのもよいのではないか。

だって、エミリアに聞いたら、護衛無しでどこかに行ったことが無いって言うし。

昔の星祭りで、フィリップ達と待ち合わせて、迷子になって会えなかったのが、最初で最後の体験だとか。

その時、怪しい人達に囲まれて怖かったと言うが、助けたじゃない、他でもない私が。

その辺はするっと忘れているらしい。

ちょっと声かけただけだし、すぐクリス様が来たから「お兄様が助けてくれた」で間違ってはいない。

まあ、初めての下町があまりいい思い出にならなかったようなので、楽しい体験で上書きしてみよう。

決行は今週末。

クラスの子から服も借りたし、準備はバッチリだよ。


昼休みにアルから呼び出しがあったので、いつもの魔法図書館に行く。

クリス様も来ていた。

生徒会選挙が近いせいか、最近のクリス様は忙しいみたいで、夏休みにガーデンパーティーであった時以来だ。

「おひさしぶりですね」

にこやかに挨拶したら、親の仇でも見るような眼で睨まれた。

「週末、エミーと約束があるそうだね」

「え?」

なんでクリス様が知ってるの。

アルを見上げたけど、そっと目をそらされた。

「僕は何も言ってない。そもそも僕にも内緒だったじゃないか」

それはそうだけど、じゃあなんで知ってるの。もう一度クリス様に向き直る。

「トーマスが教えてくれた。君がクラスの子から服を借りていったと」

そりゃあ、教室で受け渡しをしたから、隣の席にいたけど。

なんでトーマスが。

「彼は生徒会活動に関心があるらしくて。よく手伝ってくれているよ」

そうなのか。

それは初耳だった、けども。

「体型が違うから君が着るのではなさそうだ。多分エミーじゃないかと思うので気を付けてと」

トーマスの裏切り者め。

「僕はトーマスが正しいと思う。彼女は君が思うよりもずっと箱入りなんだよ」

アルは黙ってて。

「箱に入れ過ぎなのはよくないんじゃないですかね」

「貴族の女性とはそういうものだ」

クリス様は引かない。この世界ではそういうものだ。

現代日本から、そこの価値観を持ち込むのは間違っているのだろう。

だが、この世界の女性達が不満に思っていないと誰が言った?

だから、私だって引かない。


「2人とも落ち着いて」

アルが仲裁してくる。

「目的はエミリア嬢に自由な雰囲気を味合わせたいということなのだろう」

「そうですけど」

「なら、そうすればいい」

間を取れとアルは言う。

アルの提案は2つだった。

エドワードを連れていくことと、エミリアに内緒で隠れた護衛をつけることだ。

「護衛はいいですけど、エドワードはどうですかね」

エドワードはとても精進して強くなった。背も伸びて男らしくもなった。

でも、私がいたら必要ない気がする。

アルはその見た目が大事だという。

「いくら君が強くても、知らない人にはわからないからね。女の子2人だと無駄に絡まれるよ」

「絡まれても撃退すればいいんじゃないですか」

「心配なのはやりすぎのほう。君は人間相手の経験が少ないだろう」

魔物と同じ調子で撃退していたら、人間は死ぬと言われた。

さすがに殺すまではしないと思ったけど、誰かを守りながら手加減するとなったらどうだろう。

確かに、経験がない。

「仲良しのエドワードなら、お忍び感を損なわないよ」

駄目押し。アルは私を説得するのが上手い。

「クリスもそれでいいよね。護衛は公爵家のほうで選ばせてあげるから」

「わかった」

クリス様は全然わかってない態度で、ものすごく嫌々ながらに頷いた。


エミリアはエドワードが一緒なのを喜んだ。

「子供の頃、お兄様やフィリップ殿下も一緒によくお出かけしたの」

平民風の装いも珍しかったようだ。

貧しい感じだとどうしても浮くので、そこそこ金持ちの商人のお嬢さん風だ。

寒くなってきたので、帽子とマントで厚着をさせたら、高級感も少し薄れた。

エドワードも下町の青年のような服装だが、マントの下から剣がチラ見えするような装いだ。

私はお嬢さん風でありながら、いざという時は戦えるようにズボンをはいている。

防寒の為の厚着に見えてちょうどいい。

エミリアが中央公園に行きたいというので連れだって行った。

日曜なので、屋台が出ていて、大道芸も行われている。

私たちはもちもちしたパンにクリームを挟んだ食べ物を買った。

エミリアは生まれて初めての買い食いだという。

「すごく熱いわ」

ふはふはしながら物を食べるのも初めてらしい。

公爵家で出されるものは、サーブされる途中でどうしても冷めてしまうのだ。

熱いスープを持ってきて、公爵様、クリス様、と順々に注いでいくので、エミリアの番になるといい具合に冷めているらしい。

面白いけど、結構酷い話だ。

「兄弟が多いと末っ子は大変ね」

エドワードの家は下に弟妹が4人いるそうだ。

「じゃあ、下の弟さんのスープは冷めてるかもねえ」

パンの包み紙を捨てようとゴミ箱を目で探すと、遠目に金色の頭が見えた。

あきれた。

クリス様は自分でついてきたらしい。どれだけ過保護なの。

撒いてやろうか。

小さい店が立ち並ぶあたりは見通しが悪い。

アクセサリーショップのあるあたりを歩く。

ガラスを磨いて宝石に見立てた髪飾りは安物だが、デザインは最新流行だ。

「いいな」

エミリアには珍しかったようだ。ずっと見ている。

「買ってやろうか」

なに、エドワードったら。何をいいところを見せようとしているの。

エミリアはフィリップの婚約者(仮)なのよ。

こんなところで、幼馴染、泥沼の三角関係!になっても困るのよ。

と、心の中で言いながらわくわくする私。

エドワードの行動は素早く、さっとお金を払って、エミリアの髪に飾るところまでやった。

これだと私がデートするカップルについてきたみたいじゃない。

グリーンの葉っぱを模した飾りが陽の光にきらめく。

エミリアが表面をそっと撫でた。

「つけたら怒られるかも」

「誰に?」

聞いたことはなかったが、ご父上は厳しいのだろうか。

女の子は魔法を使えなくてもいいとか言うお父上なのだから、いろいろうるさいのだろうか。

「こっそり学校でだけつけたらいいじゃない」

親の目を盗むのもいい経験だと煽ったら、エミリアは心底不思議そうにした。

「変ね。誰が怒るのかしら」

考えもしなかったというように。

「みんな、わたくしにはとても甘いのに」

普段の生活で安いアクセサリーを付けたくらいで怒られたりはしない。

「わたくしは自由じゃないと思っていたけど、わたくしを縛っていたのは、わたくし自身なのかもしれないわ」


その後も、店を転々としたが、クリス様は頑張ってついてくるようだった。

私の目線を追ったようで、エミリアとエドワードも気が付いた。

「朝、たまたまお兄様がいらっしゃったのよ。こっそり出たと思ったのに、撒きそこねたのかしら」

「公爵家の護衛は優秀なのねえ」

笑ってごまかす。

「でも、安心しました」

曖昧な笑み。

「エドがいてくれるけど、やっぱりちょっと怖かったの。お兄様がいたら安心したわ」

安心したという割に表情が暗い。

「わたくしは弱くて、いつもいつも、お兄様に頼ってしまうの」

エミリアは情けなさそうに微笑んだ。

「そういうの、何とかしたいと思っているのですけど」

「女の子なんだから、それでいいんじゃないのか。いい男に守らせるのもいい女の能力だ」

エドワードが口を挟む。

おまえもか。おまえもこの世界の平均的な男なのだな。

騎士道精神があるのはご立派だけど、女は男に護ってもらえと言うその思想。

言っておくけど。

世界の救世主は女だからね。

来年びっくりするがよい。

「私はそうは思わないけど」

割って入る。

「私は自分のことは自分でするし、好きな人は守りたいもの」

「リリーナは強いからそう言うことが言えるんだよ。エミーは剣も魔法も使えないじゃないか」

エミリアがびくっと身体を震わせた。

「エミリアだって出来るよ」

私は言った。

「今は出来なくても練習したら出来るよ。エドワードだって、毎日鍛錬するじゃない。毎日練習すればエミリアにだって出来る」

「出来るかしら」

エミリアが顔をあげた。

「出来るよ。その気になれば絶対出来る」

きゅっと手を握る。

「私は信じる」

エミリアが手を握り返してきた。

外はこんなに寒いのに、エミリアの手が温かくなった。

魔力が流れる感触がした。暖かく、力強い。これがエミリアの魔力、自分を信じる力だ。

「あのさ」

言い訳のようにエドワードが言う。

「クリス様も、エミーを信用してないとかではないと思うんだ」

「当たりまえじゃない」

「でも心配なの。妹を持つ兄というのはそういうもの。妹がどうこうじゃないの」

「そう」

エミリアがふんわりと笑った。

「せっかくだから、お兄様も誘って、お茶に行きましょうか」

こういうところはいいなと思う。

私はいつも主張しすぎてしまうから。

エミリアは違う考えもいったん受け入れる度量の広さみたいなものを備えている。

「お兄様も、実は箱入りで、下町のカフェとか行ったことないんですよ」

こっそり教えてくれる。

今日はあらかじめ、人気スポットに予約を入れているのだ。

下町の女の子に大人気というカフェで、南国のフルーツを出すらしい。

クリス様がいるなら、アルも来ているかしら。

探していたから、対応が遅れた。


馬のいななきが周囲に響く。

馬車が暴走している。

止めなくては。

その時、アルに言われたことがわかった。

私は広いところで、壊していいものに魔法を振るっていた。

王都の町はずれで建物を壊したりはしたけど、建物は建物だ。生きてるわけじゃない。

こんな狭くて人がひしめき合っていて、誰にも傷をつけないような戦い方はしたことなかった。

留め具が外れたのか、馬だけが走り出したので、とりあえず馬だけ止める。

別の魔法が倒れかけた馬車のほうを止めた。

「お兄様」

エミリアが悲鳴をあげる。馬車にぶつかった屋台が倒れかけているのだ。クリス様を下敷きに。

瞬間、クリス様だけが金色の光に包まれた。

光る丸い球体の中にクリス様がいて、屋台がその外側を崩れていく。

それがどのくらい続いただろう。

屋台が全部崩れ落ちてから、ゆっくりとゆっくりと光が薄れていく。

結界魔法だ。

私でも使ったことが無い。

王立魔術院の限られた魔術師だけが使えるというこの美しい魔法はエミリアの生まれ持っての魔法だ。

どこからかアルが出てきて、やはりどこからか出てきた公爵家の護衛の人たちを指揮して後始末を始める。

クリス様は妹に抱き着いて離れなくて、あまり役になってなかった。

いつもは有能な人なのに。

エミリアは抱き着かれたままニコニコしていた。

「お兄様がご無事でよかった」

まったくだ。


その後、エミリアの魔法は飛躍的に向上した。

これはいいと、やんちゃな遊びにも誘ったが、そっちは丁重に断られた。

「私は自分で身を護れるという自信がついたと思います。でも」

「危ないことや淑女にふさわしくない振る舞いを避けるのは、わたくしの意志なのです」

そりゃあ良かったよ。

そして、エドワードに、エミリアに気があるのかどうかを聞いてみた。

「エミーが好きなのはフィリップ殿下ですよ」

おまえが好きかどうかを聞いているんだ!と、思ったけど、そこは触れないことにした。



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