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14 1年生初夏 テストの結果が出ました

一応攻略対象にイケメンを取りそろえたのですが、あまり絡んでいない気がします。

本当にフィリップ王子は何をしているのでしょうね。

この世界では学校は芽の月の始まりだ。季節的には春の始めで日本で言えば3月頃。

カリキュラムは前期と後期に別れていて、前期試験が終わって結果が出たら、いわゆる夏休みだ。

この8月の夏休みと、2月の学年の切れ目がまとまった休みとなる。

この世界には祝日が少なくて、そこだけが大きなお休みだ。

7月の終わり。

前期の試験で、私は一番を取った。

念願のというか、ゲームの流れをきちんと踏襲した順位だ。

ゲーム的には、ここで、それまでつかず離れずで好感度を上げていたフィリップ殿下が

明るい天然キャラだと思っていた私が実は賢いことにも気づいて、一目置いてぐぐっと進展する予定だ。

他のクラスメイト達が帰省していく中、王都に残った私は、夏休みの間に、殿下と一緒に勉強をするようになる。予定。

あくまで予定。

本当にそんなに上手く行くものだろうか。

何故なら。

ちょっとずつ上がるはずの好感度が全然上がってないような気がするからだ。

ここまでの半年近く、全然、乙女ゲーム的な進展がない。

席は遠いし、声をかける機会もなく。

ゲームだとフィリップが1人の時に遭遇していたんだけどなあ。

でも、よくよく考えたら、王子様が一人でフラフラ歩いていたりはしないものなのだよね。

常に護衛も兼ねた取り巻きたちに囲まれている。

身分の低い人間が近づく余地もない。

一番、攻略しやすいはずなのに、どうなってるんだ、フィリップ王子。

王子の次に騎士が攻略しやすいはずなのに、エドワードも右に同じくだ。


文句を言っていてもしょうがないので、とりあえず、成績順が貼られた掲示板の前で声かけられ待ちをしてみる。

場所はばっちり。大きな木の下で。

見つめ合う2人を縁取るように、緑が美しい影を作る。はず。

フィリップ殿下から、内心はどうあれ、悔しさをうかがわせない涼しげな表情で、

「なかなかやるね」

と、言われるはずなんだけども。

向こうから声をかけてくれないと、身分の低い私からは近づくこともできないのだ。

進展しない一番の理由はここなんだが。

ゲームだと、もっと向こうから声をかけてきてくれてたはずなんだけどなあ。

しかも、待ってるのになかなか来ないし。

もたもたしてると日が陰ってしまうよ。

キラキラの木漏れ日が美しいのに。

ふと気づく。

ゲームでフィリップの順位は2位だった。

だからこその「なかなかやるね」

しかし、今、掲示板に張り出されている順位の2位はトーマスだ。フィリップじゃない。

私は慌てて文字を辿った。

なんてこった、王子は上位20人にも入っていない。

「また君が一位だね」

いつの間にかトーマスが横に並んでいた。

「また?」

「入学試験も一位だっただろう」

それは知らなかった。

私は王都まで発表を見に来たわけではなかったし、地元に届いた合格通知には順位は書いていなかったから。

「見てたらわかるじゃん。教室の席は成績順だよ」

そうなのか。

クラス分けが成績順なのは知っていたけど、席順までもか。

さすが中世ヨーロッパ風の謎世界。

現代日本の人権感覚では行われないようなことが起きるな。

いや、むしろ、ガチの成績順って、ガチの学習塾みたいなものなのか。

一番前列の一番左側。

そこが私の席だった。

「僕の左側は、いい家のお貴族様で、ご立派な教育を受けた人なのだろうと思っていたんだよね」

トーマスが呟くように言った。

「自分が2位だと知った時に、うちは平民だし、どんなに頑張っても、得られる教育には限界もあるだろうとか、そういうことも考えた」

「そうなんだ」

「同じ学年にフィリップ殿下がいると聞いていたからね」

ああ。それは。そうだね。

私も自分が前期試験で1位を取るのをゲームで見ていたからこそ、不可能ではないと思って頑張ったけど、平民の生徒が王子様にはかなわないと思うのはとても普通だ。

そして、それはトーマスの攻略ポイントであった。


ゲーム『ホシミチ』にはイケメンの攻略対象たちが出てくる。

そして、ゲームならではの設定なのだが、全員が、なんらかの鬱屈した思いを抱えている。

全員かよ!1人くらいのんびり育った健やかな男はいないのか、と思ってもしょうがない。

フィクションの世界で何もない男はキャラ立ってないとか言われちゃうので。

まず、本命のフィリップ殿下は、出来の良かった兄を病で亡くしている。

フィリップは真面目な努力家で王太子として研鑽を積んでいるが、折に触れて天才肌だった兄と比べられ、性格の奥には死んだ人に勝つことは出来ないという諦観がある。

しかも、さすがメインヒーロー。実の母親が権力争いで人を殺しており、それを知って心を悩ませているという、別次元に重い設定があったはず。

ちなみに、この陰湿な設定が何のためにあるかというと、別の攻略対象を選んでも、主人公が王妃になるためだ。

主人公がクリス様かエドワード、魔術師を選んだ場合に、フィリップが母の犯罪を明かして、その血を引く自分が王位につくわけにはいかない、と辞退するコースがあるのだ。

つまり、メインどころの攻略対象は、誰を選んでも、主人公が王妃になることが可能なのだ。

それでこそ、私のご褒美なわけではあるが。

騎士団長の息子エドワードは、フィリップに剣の腕でかなわないのが悩みだ。

フィリップとは兄弟のように仲良く育ったが、騎士の家系なのに剣術で負ける自分が許せない。

宰相の息子クリス様は好きな女性がいたのだけれど、身分の差があって諦めてしまった。

意志を通すことができず、周囲の期待通りにふるまってしまう自分に苛立ちを感じている。

ここにはいないが、魔術師のハーヴィルは、幼いころに母親を水の事故で亡くしている。

子供のころから魔力の強かった彼は、魔法で母を救えなかったのが強いトラウマだ。

さらに、ここにはいないが、学園の教師は、父親が不正をしているのに気が付いていながら、それを糺すことができない自分に疑問を感じている。

そして。

平民のトーマスは飄々とした振る舞いの奥に、身分に対する強いコンプレックスを隠している。

何もかもが出来るフィリップに対して、不敬だと思いながらも、いい家に生まれただけだという嫉みを感じている。

それは、フィリップが自分よりも先にヒロインリリーナと仲良くなったことも一因である。


あれ?


「フィリップって成績良くないよね」

良くないのだ。席が成績順だというなら、1組の後列にいるフィリップは、100人いる生徒の中で、40位くらい。

「そうだね。一番は予備校もないような田舎から来た女の子だった」

それはそれは。

自分が2番だったと知ったトーマスはてっきりフィリップ王子が1位だと思っていたのだな。

ぽっと出の田舎娘でごめんなさい、だよ。

でも、私だって勉強はした。

そうじゃないと、この学校に入れないから。

いくら現代日本の教育を受けてるからと言っても、理科や社会では全く役に立たないわけだし。

ちょっと数学が出来るだけ?

と、言いつつ。私には転生チートがあった。

ぶっちゃけ日本お受験戦争を潜り抜けてきたので、試験テクが他の生徒の比ではない。

勉強の方法とかそういうものも技術なので、かなり高めの下駄は履かせてもらった。

でも、頑張ったことは頑張ったのだ。

良心が痛むが、いずれ世界を救うためなので許してほしい。

「最高峰の教育を受けているはずの人が一位じゃないというのは励みでもあるよね」

「そうね」

「努力が環境を覆すということだからね」

お互い頑張ろうとトーマスは手を差し出してきた。スポーツの試合のごとくに握手する。

やる気に満ち満ちていて素晴らしいことだな。

この爽やかなライバル心の発露は、本来フィリップの役目ではなかったか。

そして、フィリップの成績が悪いということは、トーマスはそれほどコンプレックスに苛まれていないのではないだろうか。

私はトーマスの心を救って好感度をを稼がないといけないんだけども。

それもこれも、フィリップのせい。

本当に何をしているんだ、あの王子は。

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