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高度な政治的判断だけでなく

 理由は分かったが、色々と納得はしたくねぇ。


『【弁解】邪悪なドラゴンから国を救って、その国のお姫様と結ばれるなんて言うのは、御伽話のテンプレートではないですかぁ』


 言われてみれば、そうだけんどもよ。少なくともその御伽話では、英雄は2歳児ではないと思うんじゃが?

 結ばれようが結婚しようが構わんが、大前提として、そう言った御伽話の主人公は凛々しい青年だと思うのよ。

 だから、姫さんと結ばれて『めでたしめでたし』に成るんじゃんね。


「悪いが俺は、王配に成るつもりは無いからな」


 俺の言葉に、エリスの目にみるみる涙が溜まって行く。だが、こればっかりはハッキリさせんとあかんと思うのよ。

 オファニムから外に出て、エリスの前に立つ。

 そこに居るのは赤い目の真っ白な子供な訳だ。


「エリスの好意は正直嬉しいと思うよ」

「なら」

「でもな、こう見えて俺も色々と事情がある訳さ。だから、表立って“俺自身”を公表する事は出来ねぇんよ」


 俺がそう言うと、ゴドウィン候が口を開いた。


「忌み子ですか」


 俺はコクリと頷く。おそらく自分が白子(アルビノ)の為に捨てられたんだと思った時から、それなりに調べてみたんだがね。

 そうすると色々と出て来た訳さ。忌み子にまつわる話がさ。

 単純に不吉だって物から、ある宗教において『白』ってのが神様を表す色なんで、そもそも“禁色”だったりとかね。

 それで、生まれつき白い子供が“神子”として扱われるならともかく、神を詐称するとして始末するなんて話も有ったりとかな。

 それに、そう言う宗教と敵対する宗教に於いては、そもそも“白”が敵だったりもする。


 例え敵対する宗教じゃなくても、宗教ってのは、一種の学問でもある訳で、その解釈次第で神にも悪魔にもされっちまう。

 前世で、土着神が悪魔にされたって話も幾らでもあるし、例えばウリの名前の参考にしたウリエルだって、堕天使とされていた事も有る。


 まぁ、俺の事情とは少し違うのかもしれんが、宗教ってのは、要は信心とか信仰心に依るからこそ、融通が利かない部分も多い。

 それ故に、解釈の違いってのは、傍から見てるよりずっと根深かったるするんだ。

 で、そんな『白』を神以外が纏う事を禁忌とまでする国とかある訳だよ。それも近隣に。

 そういう国では、白い悪魔とか呼ばれちゃうのかな? 呼ばれちゃうのかな?


 それはともかく。


 だからこそ、俺は表立って姿を現す事は控えたいんだよな。

 そういう意味では、王配なんて以ての外なんよね。

 ああ、いや、違うか。いや、それ等も間違いじゃないし、俺の心情を補強してはいるんだが……


 色々理論武装をしてみたが、そもそも俺が、結婚をする気がねぇって言う我侭が根本にある。

 最低な事を言ってる自覚はあるし、それについての責は、甘んじて受けるつもりだ。


「だから、エリスの気持ちは受け入れられない」


 自身の気持ちをぶっちゃけた俺の事をエリスがキョトンとして見る。

 幻滅したかね。結局の所、俺の我侭ってだけの話な訳だしな。


「なんじゃ、オヌシ様の我侭なのじゃな」

「そうだ」

「なんだ、そんな事なのかなのじゃ」

「は?」


 ちょっと予想外の言葉に、俺は片眉を上げる。


「ワシの事が見たくない程嫌いだとか、そう言う事じゃなく、ただ、結婚を考えて無いと言う我侭なのじゃろ?」


 真っ直ぐな瞳が俺を映す。困惑した真っ白な影が、俺を見返していた。


「奇遇じゃな、ワシも我侭なのじゃ!!」


 強がりと言う訳では無い、力強い言葉。


「お互いに我侭じゃと言うなら、後は意地の張り合いなのじゃ!! ならば、ワシは負けんのじゃ!!」


 腰に手を当て、宣言する様にエリスは言った。


「覚悟するが良いぞ!! 魔人族の女は、負けず嫌いな上に、しつこいのじゃ!!」


 うわぁ、ようじょつよい。


 ******


 その後、「実はお前の事なんて嫌いなんだぁ」とか、前言を翻してみたりしたんだがね、「心変わりをするのであれば、また嫌いじゃ無いと思う事もあるのじゃ!! 何せ、一回変わっておるのじゃからな!!」って論破されっちまったよ。

 まさか、一桁幼女に言い負かされるとは……


 なんか、藪をつついて蛇を出した気分だわ。


「実の事を言えば、トール卿と縁を結びたいのは、多分に政治的判断もある話でしてな」

「まぁ、分かるけどな」


 ゴドウィン候の言葉に、俺はそう答えた。

 まぁ、色々と理由はあるだろうが、俺と友誼を結んでおきたいってのが、もっともある事だな。エリスは弱小の派閥だっただけあって政治的地盤が低く後ろ盾がどうしても必要だ。現状エリスの後ろ盾としての筆頭はゴドウィン候だろうが、その上で軍に匹敵できる俺の武力と言うのは、特に良い政治的カードとなるだろう。


 だがそれは決して王家だけの話ではない。


 この国の貴族連中だって同じ事だ。俺と言う武力を後ろ盾にすれば、他の貴族に対し、有利に成るだろうしな。

 つまりは、エリスの結婚相手、いや、婚約者としておくだけでも、そう言った連中に対するけん制に成る。

 また、エリスに取り入ろうと言う貴族がいたとしても、既に俺という婚約者がいたなら、自分の息子や本人をエリスの結婚相手に送り込む事は難しくなるだろうしな。


 エリス側のメリットだけを出してみたが、俺がエリスの婚約者に成るって事は、実は、他の貴族から俺を守るって事でもある。

 現状俺は、隣国の冒険者って事でしかない。それは、貴族にとっては“おいしい鴨”って事だ。

 色で取り入るなり権力で押さえつけるなり、できるとか考える奴は絶対に出るだろうさね。


 だが、エリスが婚約者で有れば、そう言った連中に対するけん制に、逆に今度は成れる訳だ。


 こうやって見ればWIN-WINな関係にも思えるが、そこにお互いの心情と言う配慮は無い。当たり前だ。政治的判断なんだからな。


 第一、俺の方は、隣国をホームにしている冒険者でしかないんだから、実はいつでも逃げる事は出来る。

 だから、絶対的な選択肢と言う訳じゃないんだ。非情な事を言うとだけどな。


 まあ、ゴドウィン候(このおじいちゃん)が俺を王配にって望むのは、エリスがそう望んでるからなんだろうがね。

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