83 黄燐ノ竜
遂に回想編終了!!
「これが全部、神子の竜血……?」
「そうだ。お前が守っていたガキに流れているやつと同じものだ」
「どうして……どうしてここにその血があるんだ?」
「言っただろ……殺したことにして、存在を隠蔽する予定だったと……」
ケテルネスのその言葉を改めて聞いたとき、あの時言った言葉の意味を理解してしまった。
その瞬間背筋が凍り、体中に鳥肌が立つ。今、まさに本当の恐怖というものを味わった瞬間だった。
「この竜血は先祖の神子の血……いわば、あのガキの親にあたる血だ」
「は……? だって、アミュラにはちゃんと家族がいて、アミュラの故郷で魔物に襲われて亡くなったって言って……」
ガクトの額から汗が垂れる。聞きたくない言葉が必ずやってくる。いやだ来ないでくれ。
嘘だと言ってくれ。もうそんな考えがガクトの頭の中でぐるぐると回っていた。
「それは神子を育てる為に神子を養子として育てた赤の他人だろう。本当の母親は神子が生まれてすぐにあーしが管理してたからな」
「管理……って?」
「何度も言っただろう、神子の竜血は特別だ。竜を滾らせ、少し加工すれば不死の薬すらも作ることができる危険物。
それを狙うものなんていないはずがないだろ? だから、管理しやすいように血を抜き取り、先祖とともに眠ってもらってたわけだ。すごいだろ、神子の血は少々匂うが腐らないんだ。やはり他の血とは全く違うもの、まさに選ばれし血液だ」
「……アミュラもここに入れる気か?」
「いや、入れない。だって、神子の竜血の本来の力を出すには成熟して大人にならなくてはならない。しかし、あのガキが子供のうちにエスデスのやろうが奪いに動き始めたのは誤算だった。だから、奪われるより先にあーしたちが手に入れてガキのお世話をしようって考えてたんだが……そこにお前らがやってきた」
ガクトの拳が震える。衝撃的なことが多すぎて精神的に肉体的に処理がぎりぎりでいる。
部屋に漂う酸っぱい血の匂いと受け入れたくない現実に吐き気が出そうだった。
「が……いずれは入れる予定だったというべきだな」
正常な判断がつかなくなりとうとう、ガクトはケテルネスの胸ぐらをつかむ。
「殺したことにするって……殺してるじゃないか!! 一瞬でもあんたを信じようとした俺が馬鹿だったよ……何が……何が殺さないだぁぁあああ!!!!! 」
ガクトは両手でつかんだケテルネスのドレスの胸元に力がこもり、ケテルネスのことをにらみ続ける。
しかし、ケテルネスは動じることはなくただただガクトにつかまれ、ガクトの顔を眺めているだけだった。
ただただまっすぐに視線を向けるだけ。
「……お前はこれを見てどうしたい?」
「どういう意味だ!!」
「お前たちが守ろうとするガキの親を含んだ先祖の血が今ここにある。お前のその怒り……一体何に対して怒りを感じ、あーしにどうして欲しいのか言ってみろ」
どうして欲しいのか……自分が怒りをここまで感じるのか……
考える、いや、考えなくても今俺の心が感じた思いをそのまま話せばよいのだ。
ただ、自分の主張がここまで怖いと思ったのは初めてかもしれない。
自分の正義を他人に押し付けるのはガクトにとってすることのない行動だった。しかし、言わなくては変わらない。
喉に詰まりかけた本当の想いを……
「俺は……俺は!! 俺はあいつらとアミュラを守るって決めた!! だから、お前がやってきた残虐なやり方で神子の血を管理させるわけにはいかない!! お前のやった、そして今後やることすべてを否定する!! アミュラにも本当の家族がいたんだ……他にやり方があったはずだ……それなのに……」
ガクトはケテルネスに視線を向けたまま、大粒の涙があふれ出ていた。
「だけど……もう……戻ってこない……だから……今度は俺たちが……別の方法でアミュラ……いや、神子の血縁を守ってやる……」
「……」
ガクトはケテルネスをつかんだまま顔を地に向け、泣いて訴えた。それに対してケテルネスはただ静かにそれを見ていた。そして、ゆっくりと口が開かれる。
「お前の思い、受け取った。そこまで言うならもう良い。あーしたちはガキをお前らに任せる。ただし、神子の血を守る責任をお前に課す。そして、お前に力を与える約束がある。今から力と責任を同時に与える最後の試練を始める」
「結局……試練があるじゃないか」
「最後の試練だ、それは……その壺の竜血を飲み干せ」
「これを全部飲むことが試練……」
この赤くグロテスクな血液を飲む。臭いで吐いてしまいそうなものをすべて飲み干すなど常人にはできない。
「お前の体の能力なら竜の力を引き出すことができるはずだ。お前もそんな心当たりがあるはずだ」
心当たり? そういえば初めてアミュラに触れたとき何か体に力が湧き上がってくるような感覚があった気がする。
「ただし、神子の竜血は飲んだものを仮死状態にさせる作用がある。まぁいわば猛毒だ。お前自身が弱ければそのまま目を覚まさず死ぬ。うまく生還すれば2日後には目が覚める。そして、お前は変われるはずだ。飲んでからはお前の体に先祖の竜血が流れ、お前も神子になる。そうすれば必然とお前が竜血を守る責任も課せられる。色々言ったが、お前が飲めるか飲めないかだけだ」
普通はここでかなり葛藤とか悩んだりするだろう。でも、ガクトにはもう覚悟が決まっていたのだ。
これまでにたくさん葛藤し悩み考えてきたガクトにとってもう行動にぶれることも躊躇もなかった。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
ガクトは壺を持ち上げ、口につけ、一気に口に含んでいく。
ごくごくと喉越しを鳴らすたびにドロドロとした触感、酸っぱさ、苦さ、生臭さが襲い掛かる。何度も嗚咽がでても吐き出すことはしなかった。
そして、すべてを飲み切った瞬間、体が熱く、皮膚が溶けるような感覚が襲い掛かってくる。
喉が焼けるように痛い。体が裂けるように痛い。
そう思いながら体を見ると、かすかに竜の鱗が浮き出たり、手が竜の爪になっては元の手になったりを繰り返す。
「ぐぉぉぉおおおおおおああああああああああ!!!!」
そして、大きな怒号を上げるとともにまるで自分の体に竜が乗り移ったかのような幻覚が見え、そのままガクトは地に倒れ伏せた。
部屋には空になり雑多に投げられた壺とその隣に倒れたガクトの姿。
ケテルネスは静寂に包まれたこの部屋で静かにガクトを抱きかかえ、この部屋を後にした。
そして2日後ーーーー
「うん……んぅ……」
目が覚める。ぼやけた視界から映し出されたのは前にガクトが休んでいた部屋だった。
隣には椅子に座ってうとうとしているメイド、マロンの姿があった。
まだ、寝ぼけかけた体を起き上がらせると布がすれる音でマロンが起きだす。
「はわわっ!? ガクト様!! お目覚めになられましたか!? もももも申し訳ございません!! 私は寝てなどいませんから!!!!」
目を丸くして、慌てた様子のマロンを見て自分がしっかり生きて目を覚ました事を改めて実感し、ほっとする。
「マロン、俺はどうやってここへ?」
「はい! ケテルネス様があなたを抱えてやってきたものですからびっくりして急いでベッドメイキングしたんですーー!! ケテルネス様、かなり深刻な顔をしていらっしゃいましたから訳など聞きませんでしたけど……」
「そうか……」
あの時、血を飲んだ後の感覚が体に残っている。
飲んでから今はもう体の中が変わったかのように力が漲っている。
これが竜血の力……
「あ、そうでした! 起きたらすぐにケテルネス様の元に連れてこいと言われてました!! けど……どうしましょうか?」
「マロン、俺は何日間寝ていた?」
「あ、えっと、2日は丸々ぐっすりしてました。そして、外を見ればお分かりになるのですが……もう一日が終わろうとしてます……」
ガクトは窓の外を見ると、空はもう夕暮れと夜の間程の景色となり、薄暗い空に沈みかけの太陽の黄金が必死に空を照らしている。
「急ごう! 案内してくれ」
「は、はい! かしこまりました!!」
ガクトはベッドから勢いよく起き上がり、マロンの案内でケテルネスのいる部屋へと向かう。
いつものケテルネスのいる空間へと向かう。
長いレッドカーペットの終端でケテルネスが玉座で待っていた。
「起きたか、死んだかと思ったぞ」
「おかげさまで生きてる」
「どうだ? あれから体に変わった様子は?」
「起きてから、体に力がこもった感じがする」
「どうやら、しっかり同調したようだな。それで、お前も竜の力が使えるはずだ……さて、話は変わるがお前の仲間達がどうやらマダンに無事にたどり着いているみたいだ。ただ、そこで魔族に襲われ、アナンタ村が襲われている」
「なんだって? 軍は向かわせたのか!?」
「いや、まだだ。たった今入った情報だから直ちに向かわせる。言っておくが私も行く」
「どうして?」
「あーしの一番の側近が悪さしたって言うんだ。だから、あーしももう行かねぇと何かまた言われんだろ。それと、お前のリーダーを城に呼びたいからついでにな。
あーーそうだ、あーしが来たことは神子を奪いに行くって体でってことにしといてくれ」
「ケルトにか?……ってそれだと、話が違うじゃないか!?」
「体だ体! どうせ今から向かっても間に合わん。しかしお前らの仲間がいるだろ? そいつらに殲滅は任せるしかない。その代わりあーしらの軍には後片付けをさせる。その間に城にどうすればお前らを城に呼べるか考えたんだ。それが……ケルトの性格を利用する。お前のところのリーダーは正義感が強いだろ? このアミュラについての言葉を強く言った方ががあーしらについて来るに決まってるだろぅ?」
ケテルネスはニヒルに笑いながらガクトの方を見る。
「そんなことしなくても来いって言ったらあいつは来るはずだ。どうしてそんなことを?」
「……だって、恥ずいじゃん」
「ああ……そうか……」
まさかの理由にガクトは少し呆れた表情を見せる。
しかし、ここで長々と立ち話をしているわけにはいかなかった。
システムを起動させ、サーティ地方のマップを確認する。
「みんなはアナンタ村にいるんだな?」
「ああ、そうだ。ここから徒歩ならかなりの時間がかかるがお前なら1,2時間ほどで到着するはずだ」
アナンタ村の位置をマップで確認し、場所を覚えた。
「行かなきゃ、みんなが戦ってる」
「待てっ」
この部屋から出ようと後ろを向いた時、ケテルネスに呼び止められる。
「振り向かなくていい、ここで竜になって見せろ」
竜になる……ガクトはなぜかその時、竜などに変身するやり方など分かるはずがないのだが、変身できると言う感覚があった。
ガクトは目を閉じ、両腕に力を込める。そして、目を一気に開き、声を上げた。
「はぁああああああ!!!!!!」
ガクトの体が光り、体中が黄色い竜鱗でコーティングされていく。手足は三本指となり、長く太い爪が生える。背中には大きな肉厚の羽が生まれ、顔が変形し爬虫類のような顔になった。
気が付くとガクトは二足歩行の人型の竜となっていたのだ。自分の手、足、胴を見て、改めて自身が竜へと変化しているのを認識する。
それと、人間の時にあった力が体にたまった状態が解放された感覚があり、明らかにパワーアップしていることが自覚できた。
しかし、この強力な力を使うには体に慣れが必要だ。それでも練習する時間など無い。
「できた……これが竜……」
「ふーーん、かっけぇじゃん」
きらきらと黄金色に輝く鱗をケテルネスはじっくりと見ている。
その口調はどこか嬉しそうだった。
「行ってくる」
ガクトは振り返らず、それだけ言うと大きな羽を羽ばたかせると体が宙に浮く。そして、羽を前へと意識させると勢いよく飛び出す。
いきなりの事でコントロールが効かず、壁に直撃してしまった。
「あーー、おーーい平気か?」
「だ……大丈夫だ」
ガクトはぶつけた顔をさすりながら改めて体を宙に浮かせ、今度は優しく意識させると緩やかに前へと動いた。そして、そのまま城の外へと出ると空に向かって勢いよく
飛び出していった。
「羽ばたいたか、黄燐ノ竜が……」
ケテルネスはそう呟きガクトが空を舞う様子を消えるまでずっと、眺めていた。
そして、一時間後----
「こいつの命が救えたらなあぁ!!!!」
「ノイ!?」
投げられたノイの速度は片手で投げられたというのに風を切るほど速い速度だった。投げられるのを予測していなかった俺は急いで助けに向かおうとするがスタートがかなり遅れたせいでぎりぎり届くか届かないかの距離を保つ。
このまま受け止められなければ、ノイの体はひとたまりもない。崩れた家の木片を踏みつけながら走り続ける。ノイの高度もどんどん下がっていく。
頼む、間に合ってくれ!!
しかし、スピードを出したとしても距離はやはり間に合わないもうすぐ墜落してしまう。ここまでか……
そう思った時だった。俺の目の前を何かが横切る。そのスピードは瞬間的には俺をも上回るスピードで音が遅れて生まれるほどの速度だった。それが横切ると目の前に落ちてくるはずのノイの姿がない……
俺は咄嗟に横を向く。そこにはまだ気絶しているノイを両手で優しく抱きかかえた二足の足で立つ黄色い竜がいたのだ。足先から爪の先、顔まですべてあの竜と同じ顔つきである。背中には体を宙に浮かせることができるほどの翼も生えている。
突然の登場に誰しもが驚いただろう。それはファフネリオンも一緒だった。
「き……貴様は誰だ!?」
「……俺だよ」
その竜は言葉を発した。しかも、俺たちが聞き覚えのある声だ。
「ああ、この顔じゃわかりずらいか」
すると、竜の顔が変化する。髪が生え、人間の形になる。それで初めて正体が分かった。
「よう、3日位ぶり」
「が……ガクト!!」
そう、竜の正体は俺たちを逃がすために別れたガクト本人だった。
≪新規メッセージ:2件≫
≪ガクト=シグムントが以下のスキルを獲得≫
name:【神子の竜血】
種別:EXスキル
効果:神子の竜血が体に流れている事を表すスキル。
能力の成長を著しく向上させ、自身の能力も強化される。
【竜化】が取得できるようになる。
【変異者】の成長性向上 E→B
name:【竜化】
種別:特殊スキル
効果:体を竜の姿に変え、能力を大幅に上昇させるスキル。
これまでのスキルに加え、竜族専用のスキルも使用可能になる。
name:【飛行:並】
種別:一般スキル
発動条件:【竜化】使用時
効果:自身が鳥のように空を飛ぶ事ができる事を表すスキル。並はある程度空を自由に動く事が可能であるレベル。
≪【変異者】のレベルが上がり、新たなスキルを獲得≫
level 2→3
name:【身体変異:竜】
種別:基本スキル
発動条件:【竜化】使用時
効果:竜の体であっても体の一部や全体の形状を変化させたりする事ができるようになる。他の身体変異と組み合わせることも可能である。
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