80 試練
最近、主人公の出番がないですね( ̄▽ ̄;)
ガクト編はまだ続きます。
ガクトはケテルネスに連れられて城内の長い廊下を歩いていた。何も会話を行う事もせずにただ黙々と目的地へ足を止めずに歩いていた。
どこに連れられていくのだろうか? 自分に何が待ち受けられているのだろうか? そんな不安な気持ちが心中で溢れ返りそうだった。
しかし、歩いている時は至って冷静だった。ケテルネスの後ろについて行くととどこか見たことのある場所に連れて行かれていた。
「地下牢……」
「久しぶりだろ? どうだったかな、牢屋に入れられた経験は?」
「最悪だったさ」
「それはよかった。こっちだ」
薄暗い、じめじめとした空間に入って行く。一度ここに入ってはいたが改めてくると酷いところだ。
臭いは動物か人か……腐って酸っぱい臭いがそこら中から漂ってくる。天井からぴちょぴちょと滴り落ちてくる水滴の一つの音が空間に広がり、不気味さを感じていた。
錆ついた牢が立ち並ぶ道を歩いてくとさらに地下につながる階段にたどり着く。
これより先はどうやらさらに暗さが増され、うまく歩けそうにない。
「足元に注意しろ」
ケテルネスは指を一鳴らしすると人指し指に小さな火がついた。その明かりをランプのように扱いながら地下へとつながる螺旋階段をゆっくりと歩き始める。
数分ほど歩みを進めてもまだ到着地点が見えなところ考えるとかなり深いところまでつながっているということだ。
少し不安なところはあるがケテルネスの明るい火の明かりが正気を保たせてくれている。人間にとって明かりは大事だと言うがまさにその通りだ。
そんなことを考えながら歩みを進めていてもまだ到着する感じはなかった。
「ケテルネス」
「様を忘れ……はぁ……もういいや、何だ?」
「試練をするって言ったがどこに向かっている?」
「あと少しで会場に着く。それと、試練の内容は会場に着いたら話す。なんだ? 怖気づいたか?」
「もう怖気づくには遅すぎる」
「そう来なくちゃな」
ケテルネスの口調からまるでこれから起こることに楽しみな様子を思わせる。
神が楽しんでいるときはいつも変なことが起こる。その予感がまた的中してほしくはないが……
「ついたぞ」
気が付くと階段を降り切っていた。目の前には鉄のように分厚い扉の前には魔方陣の紋章が刻まれている。
とても厳重な部屋だということが見て取れる。ケテルネスがその分厚い扉に手を触れ、ぶつぶつと何かをつぶやくとその言葉に共鳴したのか紋章が赤く光りだす。
光りだした扉はゆっくりと金属音を鳴らしながら開いた。その扉の先はかなり真っ暗な道が続いている。ガクトが歩もうとしたとき、ケテルネスがこちらを振り返る。
「ここから先はお前ひとりで行け。あーしは能力で遠隔で支持を送る。今から能力を分けてやろう」
そう言ってガクトの額に手をかざす。
しかし、首を傾げた。
「ん? お前もこの能力を持っていたのか?」
「なんの話だ?」
「能力を分け与えようと思ったがどうやら同じような能力があったのだろう。まあいいや、とりあえずテストするからあーしの支持が聞こえるかテストだ」
そう言ってケテルネスは目を閉じる。
するとガクトのシステムから通知が届いた。
≪新規メッセージ受信:1件≫
≪ケテルネス:どうだ感じるか?≫
なるほど、ケテルネス達にとっては本当に頭の中にメッセージが伝わるのかわからないけど俺たちはシステムが代わりに受信してくれて、それを視覚情報としてみることができるのか。
俺たちが自然にやっていたこともこっちの世界でもできているとは。
「どうだ?」
「ああ、届いてる」
「これが【思念伝達】だ。まさか、お前はもう持ってるとは……これなら遠くに居ても会話ができる。ただし、送受信できる範囲は限られている。あーしの力なら少しくらい離れても送受信ができる。さぁ行け」
ガクトはケテルネスの横を通り、部屋の奥へと歩いていく。狭い道を真っすぐと歩く。その道は相変わらず暗い。
けれど、足を止めようなどとは思わなかった。みんな、今頃頑張っている。だから、俺も少しでも早く戻るために、そして……もっと守れるようになるために歩まなくてはならない。
真っすぐに視線を向け歩いていくと急に開けた部屋にでた。かなり広い天井もあるようだが低くはない。なぜなら足音が広がっているからだ。
目が慣れてきた……そう思ったとき、部屋の周りを囲んでいた松明に火がつき始める。その火はいつもの色ではない。青色の火だ、青火が部屋を不気味に照らす。
部屋の中は壁がごつごつとした頑丈な岩で囲まれており天井もかなり高い。でも違和感があった。天井から太い鎖がつるされているのが目に入りそれを目で追う。
そして、その明かりで目の前に何かがあるのを黙認できた。身体は毛だらけ、しかし、一本一本にまだらに何かが付着している……血だ。長い毛から見える大きな黒い目はガクトを睨みつけ、その下にある大きな口からは牙をむき出しにしハァハァと息を漏らしている。
頭の上に大きな耳、犬のように四つん這いにになったガクトよりも二回りも大きい獣が目の前にいたのだ。四肢には大きな鎖がついておりじゃらじゃらと音を立てている。
「獣?」
≪メッセージ受信≫
≪ケテルネス:そいつは少し前にあーしが保護した魔物だ。名は『”氷狼”フェンリル』、サーティ地方にいるはずがないのにのうのうとこの地方の生態系を破壊してたから保護して番犬にでもしてやろうと思ってたんだがそうとう頭がわりぃみたいで使い物にならない。駆除に困ってたんだ。そういうわけで、お前の試練内容はこいつを倒すことだ。
しかし、こいつもただの魔物じゃない。あーしの力でなければここに運び込むことすらできないほど強力な魔物だ。なんせ、あーしの兵力の3分の1も奪っていたんだ。だから、どんな手段を使ってもいい。こいつを倒せ、以上だ≫
≪あーー忘れてた、失敗条件はお前が死ぬことだ……以上≫
国の兵力の3分の1も壊滅させた魔物……それを俺一人で倒すことが試練……
もしこれがゲームだったらどれほどよかったことか。
紛れもなくこれは現実、空間に漂う冷気、目の前にいる魔物、そして恐怖心、すべてが本物だ。
だからこそ、ゲームの知識など通用しない。通用するのは己の力とこっちの世界で培ってきた今までの短い経験だけ。
もちろん緊張はしている。しかし、これに勝たなくては神に届くことなど不可能……ケテルネスやリベアムール、他の神に立ち向かうなどできない。
覚悟を決めろ……
ガクトは背中の斧に手をかける。
≪発動:【身体硬化】≫
能力を発動し、強化した右腕で斧を掴む。能力を使用した様子を察知したフェンリルが部屋の中で雄叫びを上げると一気に部屋の温度が低下する。
周りの壁が凍り始めていた。冷気系の能力か!? この狭い空間で!?
「くそ……早めにけりをつけないとな!!」
こうしてガクトの試練の幕があがった。
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