79 破壊神の傷心
「まぁ……とは言ってもそんなにべらべらとは喋らねえ。お前に言えることは一回までしか言わないからな? いいな?」
「分かりました、お願いします」
「……じゃあ話すか。まぁ大分前の話だったけどあーしが今より若かったときの話さ。自分が結構やんちゃしてたって言うか、あーしは神と国民の仕切りなんて何も考えてなくて友達みたいに話したり、ここの兵士は今みたいに厳しい事なんて何もさせてなくてな。神の威厳も力も無くて……今思えば本当いい加減な事しかしてなかった」
(今でもやんちゃはしてると思うが……)
「意外と神って孤独なんだぞ。どんなに優しく声かけたりしたってみんな身分ってもん気にしてさ、あーしなんかに全く心開くやつなんていなかったのさ……恐れたり、猫被ったりしてるのすぐわかるんだが、そんなことよりも1人でいる孤独感に耐えられなかったんだ……はは、あーしも我ながら神のくせに甘えたがりだったのかもな」
話の区切りで部屋のドアが開くとメイドのマロンがワゴンを押して入ってくる。ワゴンの上にはティーポットと2つのカップが置かれており、ティーポットの中の紅茶をカップに注ぐ。
そして、そのカップをケテルネスとガクトそれぞれの前に置いてくれた。
「頂く」
「ありがとう」
ズズッとお互いが紅茶を一杯飲んで、気を落ち着かせる。
「ぷはぁ……美味い。マロン、お前もここにいろ」
「ええ!? ですが……お話は……?」
「あーしがいて欲しいと言ってんだ。それに……茶のおかわりにお前が必要だろ?」
「……かしこまりました!」
マロンは驚いた様子ではあったものの、ケテルネスの言葉に少し嬉しそうな顔をしていた。
「ふぅ……だけど……そんなあーしに時々喝を入れてくれた奴がいるんだ。そいつ、あーしに会っては説教して、時には笑い話もして、度々うんざりする時もあっけど話してると安心する、まるで人間の母親ってやつみたいだったさ。でも、それでいてそいつはあーしよりも情熱があった。民のために働き、同じ神には優しくし、そして自分の目標を見失う事がない、まさにみんなから愛される『神様』って感じだったよ」
またケテルネスは紅茶を一口飲む。
「それで? その神に何が?」
「まぁ待て……それを今から言うつもりだったんだよ。お前、マロンから戦争の話聞いただろ? この世界に起こった今までに無い大戦争……『神々の対立戦争』が起こったんだ。その時、初めてこの世界の危機が迫ったときだった。1体の邪神に対してあーしら含めた他の神7人の大戦争。それは死闘だった……」
「そんなに敵が強かったのか?」
「ああ……今までの邪神とは桁が違った。あーしらは力不足で押さえつけるのすら出来なかった。だけど……唯一1人だけその邪神と対等に戦ってた奴がいた。そいつはさっき言った皆に愛された神の事だ……あいつは必死に戦ってよ……あーしは結局何もすることが出来なくて……最後にその神は、消えたのさ……私たちの目の前で……邪神と共に」
ケテルネスは唇を噛みしめながらあの時の事を思い出しているように見えた。噛みしめた唇から少し赤い血が流れている。彼女の悔しさは相当な物だったに違いない。
「あの時……あーしが神である事の強さに、自分の能力に慢心していたからこういうことになったんだって……それで、あーしは考え方を変えた。あーしはもう民から好かれなくて良い、どこから襲われても無敵でいるもっと強い国を目指そう……そのためには誰からも恐れられる『破壊神』になろうってな。だから、あーしは民にも兵士共にも厳しい規律や訓練をさせて神の威厳を取り返し……同時に恐れられるようになったのさ。だけど……マロン達は別だ……」
「え?……ケ……ケテルネス様、それはどういう意味で仰ったんですか?」
「……特別だって事だ」
ケテルネスはカップに入った紅茶を一気に飲み干す
慌ててマロンは空になったカップに追加の紅茶を注ぐ。そんなマロンの様子を見ていたケテルネスはマロンの頭をわしゃわしゃと撫でる。撫でているケテルネスは優しく笑い、撫でられているマロンも照れながらも撫でられ続けている。
全体的に話を聞いていて、ケテルネスの口調が今までよりも穏やかでどこか哀愁を帯びていた。
最初は暴君で気難しい性格かと思っていたが今は人間らしさのある悲しみを背負った神なのだと直接話を聞く事で実感した。マロンが言っていた通り、彼女の深層心理は他者に対しての思いが強い。それ故に過去の事件を背負ってここまで来てしまった。だからこそ、身寄りのメイドには人間に対して自分の残った寂しさを発散しているのだろう。
「ケテルネス様、は……はずかしいですぅ……!」
「いいじゃねぇかよぉ~~」
「か……髪がボサボサになっちゃいます~~!!」
さっきまで殺伐としていたのにこんな風景を見せられては、警戒なんて解かないわけにはいかなかった。
「一応これがお前に話せるあーしの過去だ。何か質問はあるか?」
「……2つだけある。一つは話の内容の中での疑問ともう一つは別のことだ」
「ふぅん……言ってみろ」
「邪神の名とあんたの大切な人の名は何だ?」
「……やっぱり、それを聞くと思ってたよ」
ケテルネスは立ち上がると俺の横へと歩いてくると耳に赤い口を近づかせ、ウィスパーボイスで囁いた。
「それはお前のリーダーが知ってるはずだ」
っと一言だけ言う。ガクトは更に質問をしようとするも指で口を塞がれる。ケテルネスはガクトを見て鼻で笑いながらガクトの正面へと戻る。
「で? 次の質問は?」
もしかして、ケルトについて何を悟ったのではと言う疑問があるがここで言及しても返される言葉がないと見える。これに関しては素直にケルトに聞いて見ることにしよう。ケルトの方がグループの中で一番神と話している。きっと何かを知っているに違いない。今は質問をするだけだ。
「……最後だ、アミュラのことだ。本当に殺すつもりだったのか?」
「……」
この質問に対してケテルネスは静かに目を閉じる。また少しの間が訪れる。
そしてケテルネスは真剣な表情になって口を開く。
「あーしは民を殺す気など無い」
「……じゃあどうして磔を!?」
ガクトは勢いよく立ち上がり、声を上げる。勢いで目の前のカップが倒れ紅茶がこぼれる。
「殺したことにして、存在を隠蔽する予定だった」
「アミュラを外に出させないって事か……そんなこと……」
「いやか?」
「……嫌だ……!」
あんな健気で小さな少女が日を浴びずに外にも出ず居なかったことにされるなんて……胸糞悪い。
あの子は何も悪くない。ただ少し特殊な血だけだというのに大人に振り回されて辛い経験をさせるなんてガクトの正義が許せないと囁いていた。
「……そうか……お前は、あのガキを守りたいか?」
「守れるなら守ってやりたいさ」
「……力が欲しいか?」
「え?」
「お前も力を持っているのは分かっている。しかし、成長が遅いと言ったところか。あーしは一つお前に提案したいことがある。まぁ簡単に言うとあーしはあーしに刃向かったお前の力を見てみたいんだよ」
「……なにが言いたいんだ?」
ケテルネスはニヒルに笑う。
「お前に試練を与える」
「試練?」
「もし、この試練を乗り越えることができたらお前の力を加速する手立てを与えてやる。ただし、生ぬるい試練ではない。お前に命をかける覚悟があるのなら挑戦権をくれてやる。どうだ? 特例だぞ?」
試練……一体どんなことをするのか考えがつかない。俺のスペシャルスペック【変異者】は強力な能力がある分、成長が遅い。もし、ここで力が加速できるのなら力を得たい。しかし……命をかける覚悟というのは人生の中でする事は無いと思っていた。
命をかける覚悟……それが何を意味するのか恐怖で身体が震える。しかし、ガクトの脳内にアミュラの顔が浮かんでくる。その幼気な少女の笑顔が一生消えると考える方がガクトにとって今、命をかけることの方が軽く感じた。
やるんだ……俺の力を信じろ……
「わかった、やるよ」
「……はっ! よーーし! 決まりだ、じゃああーしに付いてこい」
そう言うとケテルネスは立ち上がり、部屋を出て、ガクトに廊下に出るように促す。
ケテルネスの後ろに黙ってガクトはついて行く。
それを後ろから不安そうに見ているマロンの姿があった。
「ガクト様!!」
「え?」
「お……お気を付けて……!」
マロンは深々と一礼をする。
「……ありがとう」
ガクトは一言感謝を伝え、ケテルネスに連れられてまた城内の長い廊下を歩き始めた。
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